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オンゲ~トロンハイム 目次


目次 (1) スウェーデン・ノルウェー中部の鉄道 Railways in Central Sweden and Norway
オンゲ Ånge
オンゲ~エステルスンド Ånge - Östersund
エステルスンド~ドゥヴェド Östersund - Duved
(2) ドゥヴェド~ストゥーリェン Duved - Storlien
ストゥーリェン~ヘル Storlien - Hell
ヘル~トロンハイム Hell - Trondheim

スウェーデン・ノルウェー中部の鉄道
Railways in Central Sweden and Norway


 私が初めてノルウェーを訪れた12年前には、トロンハイム(Trondheim)から北へ向かう長距離列車を取り上げた。オスロ(Oslo)から夜行列車で着いた朝のトロンハイムは、はるばる来たなという最果て感たっぷりであった。大都市から地方小都市へ夜行で着いた時の気分は、その昔、札幌から夜行で釧路や網走に着いた時と相通じるものがあった。しかしノルウェーは大きい、というより、細長い。ここから北の路線が、まだまだ長いのである。

 そのトロンハイムは、最果て感があるとはいえ、思ったよりは都会で、鉄道も一応の都市圏輸送が行われており、トロンハイムから数キロは小まめに駅があった。その都市圏が果てるあたりに、ヘル(Hell)という分岐駅があり、右手に線路がスウェーデン国境に向けて寂しく分かれていくのを見た。本線の方はこれ以降、終着ボードー(Bodø)まで約700キロもあるのに、分岐路線は全くない。かつてはあったようだが、廃止されている。

 その、ヘルで分かれる路線は、1日2往復しか走っていない。しかも朝の光の中でみるヘル駅あたりの寂しさも、情緒抜群で、この線には一度乗りたい、と思った。それが今回、実現の運びとなった。スウェーデン側から出発し、スウェーデン最後の国境駅ストゥーリェン(Storlien)でノルウェーの列車に乗り換えて、トロンハイムが最終目的地、という長大ローカル線の旅である。

 それが実現した理由は二つある。一つは2ヶ月中任意の10日間有効のインターレールパスが数日分残っていて使用期限が迫っていたことである。インターレールを使う時は、鉄道運賃が安い東欧などでは元が取れないので、普通に切符を買えばそれなりに高い国々に行っておこうと考える。それだけなら広い欧州の中で、なかなかここへは行きつかない。しかし、どこへ行こうかと考えるほどに、このところの報道で欧州各地の猛暑の話を読み、暑い所は避けようという気持ちが強くなってきた。そうなれば北欧に目が向く。加えて前後を含め、いいスケジュールができあがったので、実行することに決めた。


 だが、いいスケジュールとはいえ、すんなりとは決まらなかった。乗りたいメインの区間は、国境越えを含む、一日2往復だけの閑散区間である。それは、ドゥヴェド(Duved)という所から、ストゥーリェンを経てヘルまでである。その区間は2往復の全てが国境駅ストゥーリェンで、スウェーデンとノルウェーの列車が相互接続するダイヤになっている。しかし、そのドゥヴェドへ行きつくまでが遠い。ドゥヴェドは、知名度は高くないものの、ストックホルム(Stockholm)から直通の特急が毎日数本、ここまで走っているので、恐らくストックホルムの鉄道利用者にも、列車の行先として馴染みがある地名と思われる。私自身も、2019年にスカンジナヴィア最北駅のナルヴィク(Narvik)までの旅をした時に乗ったストックホルム発ルーレオ(Luleå)行き夜行列車が、途中まで、ドゥヴェド行き併結だったので、その時にドゥヴェドという地名を知った。ストックホルムからの直通夜行の終着駅なのだから、大きな町なのだろうか、と思ったものであった。

 いずれにせよ、今回のタイトルは、ドゥヴェド~ヘル、ないしドゥヴェド~トロンハイムになるのかな、と思って、ドゥヴェドまでの列車を調べていくと、1日2本のストゥーリェン行きのうち夕方の列車は、ドゥヴェドが始発ではなく、はるか東海岸のスンツヴァル(Sundsvall)から直通なのであった。スンツヴァルからドゥヴェドまでは、309キロもある。その区間も、特急が何本か走ってはいるものの、十分ローカル線だから、これはもうスンツヴァル~トロンハイムのスカンジナヴィア半島大横断全区間を対象にしようと考えた。

 ところが、訪問予定の週末は、スンツヴァルからオンゲ(Ånge)という所までが、工事か何かで完全運休で、代行バスが1日2本、走るだけであった。しかもストゥーリェン行きに接続する時間のバスは走らない。

 ここに、スンツヴァルより南へ200キロ余り、ストックホルムとの中間あたりに、イェヴレ(Gävle)という駅がある。そのイェヴレからオンゲへ短絡する路線がある。特急の半分は遠回りでも主要都市スンツヴァルを経由するが、この短絡線経由の特急も2往復走っている。イェヴレからオンゲまでは、スンツヴァル経由で314キロ、短絡線なら268キロで、短絡線の方が46キロも短いが、こちらは途中に大きな街がない。この日は、本来スンツヴァル経由のストックホルム発ドゥヴェド行き特急は、一部は運休で、一部はイェヴレからローカル短絡線を経由してオンゲへ向かう変則ダイヤになっていた。そして、普段はスンツヴァル始発の夕方の普通列車ストゥーリェン行きも、この日はオンゲが始発である。


 スウェーデンのこのあたりまで来ると、そもそも通常ダイヤというのがあるのだろうか、と思えてくる。最近工事運休が多いらしいので、そう見えるだけなのだろう。前後の日ならこういう列車があるのだが、この日は無い、というあたりをずっと書き出して、上のような時刻表が一応出来上がった。あくまでこの日の乗車のための参考であり、この日に運転されない列車も前後の日のダイヤから取り出して掲載してみた。しかし、ここにある全部の列車が運転される日はないと思われる。

 このような諸事情により、今回のローカル列車の旅の対象区間は、オンゲからトロンハイムまでに決まった。

オンゲ Ånge


 そういう次第で、オンゲという、全く知らなかった所へやってきた。オンゲは人口3千人弱で、鉄道ジャンクションとして開けてきた小さな町である。ローカルには複数のロックバンド出身地として知られているらしいが、この小さな町でコンサートがあるわけでもなく、遠方から観光客が訪れるほどの見どころもない。人口は長期に渡り微減が続いているとのことである。

 雰囲気のいい駅名標がかかる2・3番ホーム  駅構内は広く、機関車が何台も止まっている

 旅客駅としては大きな駅ではない。2面3線のホームがあり、構内踏切がある。その先はヤードで、機関車や貨車が沢山停まっており、かなり広い。分岐駅でもあるし、貨物を中心とした鉄道ジャンクションとして機能してきているらしいことがわかる。

 オンゲ駅前広場  駅向かいの広場を囲む商店群

 いかにも駅舎といった昔風の駅舎はなく、公民館か何かとの合築であろうか、新しいビルが駅舎も兼ねているらしいが、表からは鍵がかかっており、一部エリアは入れなかった。日曜だからかもしれない。もちろん列車に乗るのにこのビルを通る必要はなく、広場から直接ホームに入れる。

 広場の裏に広がるアパート群  一戸建ての瀟洒な住宅が並ぶ通り

 オンゲは町というより村であろうが、駅を中心にコンパクトに色々なものがまとまっている。駅前の道路を渡った所に広場があり、それを囲んで上層階が住居の商店と中規模のスーパーマーケットがあり、その奥にホテルが一つある。日曜だから休みの店もあるが、スーパーが開いているので、常に人は見かける。広場で見ていると、車で来る人だけでなく、徒歩で出入りする人もいるし、天気がいいからか、屋外で数名での談笑風景も見られた。

 オンゲ駅入口と構内踏切

 ホテルの裏へ行くと、先にはアパート群がある。さらに緩い坂を上がっていけば、今度は瀟洒な一戸建て住宅が並ぶ静かな通りへ出た。それら全て、徒歩10分圏内に固まっており、普段の日常生活はそこで完結できそうである。歩き回った範囲では、家々は綺麗に手入れされており、廃墟もなく、若い女性が犬の散歩をしていたりもした。あえて似た印象の所としては、12年前に訪れたノルウェーのモー・イ・ラーナ(Mo i Rana)が頭に浮かんだ。町の規模はこちらが一回り小さい。

 そんなコンパクトな町を歩いて一回りした。刺激は少なかったし、これはという見るべきものはなかったが、暑くも寒くもない穏やかな好天の日だったので、気持ちの良い散歩であった。15時24分発の列車に乗るべく、早めに駅へ戻ってくる。


 1番線と2番線に同じような列車が停まっているが、ストゥーリェン行きは構内踏切を渡った2番線の列車であった。代行バスの連絡もないので、この列車に乗る人は、オンゲからの人ばかりであろう。既にドアは開いているが、車内にはほとんど誰も乗っていない。夏の爽やかな日差しのホームは、北欧の人にとって車内より気持ちがいいのだろう。ホームのベンチに車掌らしき人を含め、数名が座っている。車輌は綺麗な4輌編成でファーストクラスは無い。

オンゲ~エステルスンド Ånge - Östersund


 この線は、スウェーデン語でミットバナン(Mittbanan)、ドイツ語に近いが、英語では、セントラル・ラインと訳されている。つまり中央線である。区間はスンツヴァルからスゥトーリェンまでで、文字通り、縦長のスウェーデンの真ん中あたりを横断している。

 この列車は本来はその全線を踏破する貴重な1本なのだが、本日はオンゲ始発。最初は国境付近の閑散区間に乗れればいいと思って計画を立ててやってきたが、こういったことを知ると、やはり全線乗りたかったなと思ってしまった。

 本日限定でオンゲ始発のストゥーリェン行き普通列車は、15時24分、ピッタリ定刻に静かに発車した。4輌編成の客は10名程度であろうか。私の乗った最後尾の4輌目には、客は誰もいなかった。前寄りが構内踏切なので、他の客は前の方の車輌に落ち着いたのだろう。

 綺麗でガラガラの車内

 オンゲは小さい町なので、発車して2分もすれば両側は森林が多い単調な景色になる。時々というか、しばしば湖が現れ、しばらく湖沿いに走る区間もある。その間にはたまに農地もあるが、家畜などは見かけない。男性車掌が回ってきて検札。インターレールパスを見せたら行先を聞かれた。

 15分以上快走し、最初の停車駅はベレッケ(Bräcke)。長距離特急も停まる駅で、駅前にも店など建物が見られる。片側は湖で、湖畔の小リゾート地のようでもある。しかし乗降客はなかった。

 こんな湖が頻繁に現れる  湖や森林に比べると農地を見ることは少ない

 この列車の3輌目には小さな売店があり、温かいコーヒーも買える。その横が車掌室で、お客があれば車掌が販売する。ガラガラの鈍行列車ではあるが、駅間距離も長いので、余計な人員なくサービスができるのはわかるし、素晴らしいサービスだと思う。ただ、サンドイッチなど賞味期限の短いものもちゃんと売っていて、この乗客数と売上では、廃棄される食品がさぞ多いのではと心配してしまう。

 ベレッケ駅前  列車には売店がついている

 渓流と崩れた橋が現れ、続いて現れた湖にはお堂のようなものがあった。そしてスピードを緩めると、2つ目の停車駅、スターヴレ(Stavre)。木の板の片面ホームだけの単線の停留所である。ここも乗降客はいない。

 湖に浮かぶお堂のような建物  ホームが板のスターヴレ駅

 片側は積んだ木材の山で、反対ホーム側は綺麗な湖という、ジャラー(Gällö)に停まる。おじさんと若い女の子が乗ってきた。手ぶらに近い近距離の地元客と思われる。

 一つしかなければ観光名所になりそうな湖も、似たようなのが次から次へと現れるので、感覚も麻痺してくるし、正直、どれも同じに見えてくる。間を針葉樹に遮られる所も多い。人家は少ないものの、湖畔の別荘風のおしゃれな家が時々見られる。

 片側は湖の眺めがいいジャラー駅  意味ありげな駅名のピルグリムスタド

 次のピルグリムスタド(Pilgrimstad)という意味ありげな名前の駅の手前には木材工場が稼働していた。ここも駅の片側は湖に面している。駅前に若干の人家が見えるだけの所だが、ここで地元の若者など数名が乗ってきた。

 出口はあるが駅と駅前と道路は段差無し  客がほとんど入れ替わる主要駅エステルスンド

 エステルスンド(Östersund)が近づくと、工場など雑多なものが目に入る。構内が広がり、列車はエステルスンド・セントラル(Östersund Central)に到着。乗っていた客のほとんどがここで降りたが、ジャラーで乗ってきた女の子は降りない。代わってここからこれまでの倍以上の客が乗ってきた。若い人や移民風の黒人などが多く、賑やかになった。

 エステルスンドの立派な駅舎  駅上を歩道橋が跨ぎ反対側は湖

 エステルスンドは人口4万。この地域では中核都市で、本日対象の全区間でトロンハイムの次に人口が多い。ちなみにバス代行がなければこの列車の始発だったスンツヴァルは人口5万で、ここよりやや大きい。エステルスンドで乗ってきた客も、大半は身軽な地元客で、時間的にも帰宅の時刻である。ただ、キャリーケースなどを転がした長距離客っぽい人も多少乗ってきた。

エステルスンド~ドゥヴェド Östersund - Duved


 エステルスンドの街の中心は、駅を発車してしばらくしたあたりの右側である。左手はやはり湖で、市民が湖畔を散歩している。そんな町中をちょこっと走るとすぐ、エステルスンド・ヴェストラ(Östersund Västra)に停車する。日本語ならエステルスンド西駅である。市街地に近い駅なので、ここで乗る人が数名いた。ジャラーからの女の子はここで下車した。中央駅に近いので、当然単線で、右手にホームがあり、駅前は住宅やオフィスビルなどが見られる。左側は湖で、湖畔が市民の憩いの場になっているようであった。

 エステルスンド西は町中の単線ホームの駅  湖畔の住宅が段々と減って田舎になっていく

 エステルスンドには中央駅と西駅の2つがあり、間は1キロしかないが、それを除くと駅間距離は長い。西駅からしばらくは、住宅の多い所もあり、駅を増やせば利用者がいそうな所もあるが、昔から鉄道は中距離輸送と割り切っていて、駅を増やそうという感じはなさそうである。

 クロコム駅前の古い木造の建物  クロコムなどあちこちで貯木場を見かける

 西駅の次は20キロも離れたクロコム(Krokom)。20キロと言えば、鉄道での通勤通学なら十分な距離だし、ここで身軽な客がそこそこ降りるかと思ったら、僅かしか降りなかった。駅前には目を見張るような古い木造のビルがあり、駅を出ると大きな貯木場がある。

 広々とした駅前のネルデン  若い地元客の下車が多かったモルシル

 身軽な地元客が多く降りたのは、その次のネルデン(Nälden)から3駅であった。といってもネルデンと次のモルシル(Mörsil)の間はかなりの距離があり、途中に信号場があってストックホルム行き特急と行き違った。それと別に廃駅も見かけた。駅名標が残っている所もあった。進んで標高が上がるに連れ、雲が厚くなっていく。8月の17時台はまだ十分昼間だが、雲が厚くなると夕方の雰囲気も出て寂しさも漂う。そんな所を都会風の若い人が降りて家路に着く風情は味わい深い。

 モルシルの先で見えた湖を渡る橋  ジャルペンは地元客の下車が多い

 エステルスンド西駅から4駅78キロ50分のジャルペン(Järpen)で、また身軽な地元客が降りると、車内はだいぶ寂しくなった。今日は日曜だから、通勤通学列車というわけではなく、ちょっとした用事などで最寄りの街へ出かけて帰る人なのだろう。平日の通勤通学客がどのぐらいいるのかは興味があるが、どちらにしても、採算という面から言えば大赤字だろうと思う。

 ジャルペンを過ぎると川が狭くなる  やや寂しい駅前のウンダーショーケー

 ジャルペンを出ると左手が湖から川に変わり、川に沿って勾配を上っているのが乗っていてもわかる。やや山峡に入った感じのウンダーショーケー(Undersåker)は、特急停車駅なのだが、寂しい所で、下車も2名だけであった。ここも大規模な製材所があった。その先は人家もほとんどなくなり、山奥に入っていく感じも出てくる。

 オーレが近づくと風景がリゾート地になる  オーレの山はスキー場なのがわかる

 いよいよ奥地へ入って山越えか、といった雰囲気の車窓風景だったが、オーレ(Åre)が近づくと変わる。ロッジとかペンションとでも言うべき建物がぽつぽつと線路際に増えてくる。右手の山は一部がスキー場になっているのがわかる。

 オーレは立派な駅

 オーレは大きく立派な駅で、駅舎がスキーロッジのような建物であった。オーレ止まりの列車もあるが、線路は2面2線の途中駅風である。

 オーレはスウェーデンでトップクラスのスキーリゾートの中心地だそうだ。夏のリゾート地としても栄えているのか、これまでの手ぶらの地元客とは違い、キャリーケースを転がした客も下車していった。駅前と周辺に立派なホテルやマンション風の建物が目立つ。駅周辺にも人の気配があり、明るい感じもする。しいて言うと白馬駅が近いかもしれない。

 しかし天候の方は、段々雲が厚くなり、やや肌寒い。さすがにここまで来ると、今夏の欧州の夏の猛暑とは無縁だ。


 オーレは下車が多かったが、ここから乗ってくる人もいて、ガラガラにはならない。乗降が済めばすぐ発車で、しばらくは自然豊かなリゾート地といった所を走る。線路右手の山にはいくつものスキー場があり、左手はすっかり細くなった川が見え隠れする。川沿いに、あるいは右手の道路沿いに、別荘かなと思われる綺麗な住宅が、点々とある。そんな所を8キロ8分で走り、次がドゥヴェドである。


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