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サルデーニャ北部の狭軌鉄道 目次


目次 (1) サルデーニャの鉄道 Railways in Sardegna
サッサリ~ソルソ Sassari - Sorso
ソルソ Sorso
マコメル Macomer
(2) マコメル~ヌオロ Macomer - Nuoro
サッサリ~アルゲーロ Sassari - Alghero
アルゲーロ Alghero

サルデーニャの鉄道 Railways in Sardegna


 サルデーニャ島(Sardegna、英語ではSardinia、サルディーニャ、サルディニアなどとも書かれる)は、シチリア島と並ぶイタリアの二大離島である。面積は23,949平方キロで、シチリア島の93%と、一回り小さい。日本の島と比べると、どちらの島も、九州より小さく、四国より大きい。ヨーロッパで鉄道がある島としては、グレート・ブリテン島、アイルランド島に次いで、シチリア島が3位、サルデーニャ島が4位の大きさになる。

 シチリア島は、イタリア半島との間に橋がかかってもおかしくない至近距離にあり、フェリーを介して鉄道が直通しているので、本土との一体感も強い。列車ごとフェリーに積まれて移動という旅を、私も2015年に、ミラノ~シラクーザの長距離列車で実行した。対するサルデーニャ島は、イタリア本土からフェリーで最短5時間半と遠く、離島感たっぷりであり、島との一般的な往来は断然飛行機である。イタリア本土よりずっと近いのは、フランスのコルシカ島で、一番接近した所だとフェリーで50分だが、両岸とも鉄道の通じていない小さな町であり、太い交流があるとは言えない。

 サルデーニャはヨーロッパの旅行先としてもマイナーだろうし、この島の鉄道に注目する人は珍しいだろう。ヨーロッパに数回程度行ったことがある一般の日本人に、サルデーニャを知っているかと聞けば、ああ、イタリアの地中海の島でしょ、と即答できる人の方が少ないのではないかと思う。そして、そこまで知っている人に、サルデーニャに鉄道がありますか、と聞いて、答えられる人が何割いるだろうか。行ったことのある人や一部の鉄道マニアを別とすれば、さあ、どうなんですかねえ、という人も多いに違いない。

 現実のサルデーニャは、鉄道がそこそこしっかりと根付いている。イタリア国鉄FSが運営する標準軌路線が、主要都市間の長距離列車と、最大都市カリアリ(Cagliari)の都市圏鉄道を走らせている。加えてサルデーニャ州の地方公営交通ARSTによるサルデーニャ鉄道が、軌間950ミリの狭軌路線を運営している。この狭軌路線はかつては島の隅々までと言って過言でないぐらいに路線が張り巡らされていた。しかしだいぶ廃線が進み、一部は観光鉄道として残存しているものの、現在は3地域4路線が地域ローカルの足として走っている。

 イタリア国鉄も、カリアリ近郊を除けば運転本数も少なく、ローカル線の趣たっぷりであるが、限られた日数の訪問なので、今回は狭軌路線をテーマにして、国鉄の方はその合間に乗れる所を乗る程度にした。そう思って計画を立て始めたのだが、南部のカリアリ近郊の狭軌路線は、現在一部が工事運休で、情勢が流動的なので、除外することにした。島の北半分という意味でタイトルをつけたが、実際はこの島は、大雑把に分けた場合、北部・中部・南部の3つにした方がしっくりくるし、北サルデーニャと言えば、もっぱら北海岸かそれに近い地方を指して呼ばれることが多いようである。一番長くて面白かったマコメル(Macomer)~ヌオロ(Nuoro)の路線は、行政的にも中部サルデーニャではあるが、島を半分にすれば北側にはなるので、ここはご容赦願いたい。

 そこで、主テーマから外したイタリア国鉄の標準軌路線について、簡単に説明しておく。島の南端にある最大都市カリアリが起点で、島を横断してオルビア(Olbia)を通って北東の港町、ゴルフォ・アランチ(Gorfo Aranci)まで行く線と、その途中で分岐してサッサリ(Sassari)を通ってポルト・トレス(Porto Torres)まで行く線が、二大幹線である。これらに乗ればほぼ制覇で、あとはカリアリ西部に、近郊区間という感じの郊外路線が2本ある。地図の青線で示したのがその全てで、数字は平日(月~金)ダイヤにおける、カリアリ発、つまりいわゆる「下り」の運転本数である。カリアリ~サン・ガヴィノ(San Gavino)間が複線区間であり、うち最大本数のカリアリとデチモマンヌ(Decimomannu)の間は、日中毎時4本程度の高頻度運転区間である。南西部のイグレジアス(Igresias)とカルボーニャ・セルバリウ(Carbonia Serbariu)へ行く線は、一部が分岐するヴィラマッサルジャ・ドムズノヴァス(Villamassargia-Domusnovas)との間で区間折り返し運転になっているが、あとはカリアリ直通であり、デチモマンヌでの折り返し列車はない。

 対する北半分はすっかりローカル線の本数となり、長距離列車が基本で、市内近郊輸送はごく少ない。北部では第二の都市サッサリと、第四の都市オルビアに求心性があるので、サッサリとオルビアを直通する列車もあり、分岐点であるオツィエリ・キリヴァーニ(Ozieri-Chilivani)で概ね三方向に相互接続するダイヤが組まれている。例えばサッサリからオルビアへ行く場合、直通列車で行ける場合と、カリアリ行きに乗って、オツィエリ・キリヴァーニでカリアリ発オルビア行きに乗り換えになる場合とがある。オルビア~ゴルフォ・アランチと、サッサリ~ポルト・トレスは、もともと一本の線の末端であり、オルビアもサッサリも途中駅ではあるが、今はこの区間は、ポルト・トレスの一部を除いて直通列車はなく、実質的には盲腸ローカル線も同然となっている。


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 上記はカリアリを起点に、カリアリから直通列車がある区間の全線全駅を含めた時刻表の一部である。イタリア国鉄の路線で入っていないのは、北部末端の、オルビア~ゴルフォ・アランチと、サッサリ~ポルト・トレスだけである。カリアリが唯一の大きな都市であり、鉄道網もカリアリ中心であること、カリアリ近郊で都市圏内近郊輸送が栄えていることなどが読み取れる。

 地図の赤線が、狭軌鉄道である。ごく短いサッサリ~ソルソ(Sorso)を除くと、途中折り返しもあるので、これら運転本数は、各本文で触れていく。ここに示した赤線は、あくまで日々一般客を運んでいる営業路線であり、それ以外に観光路線として季節営業している路線がかなりある。それらもかつては通常営業していたが、廃線となり、観光鉄道として残存しているものである。実態も様々だが、ひとまず今回は対象から除き、上の地図にも含めなかった。

 その他、カリアリとサッサリにはトラムがある。この地図に示したカリアリ近郊の路線は、現在、一部が工事運休でバス代行となっているようで、実態が良くわからないが、工事が終わるとトラムと直通運転になるようである。この旅行中、カリアリにも足を延ばし、国鉄駅から徒歩20分ほど離れたトラムの起点駅である、ピアッツァ・レプブリカ(Piazza Repubbulica)に行ってみたのだが、線路が掘り返されており、バス代行になっていた。ここは工事が終わって落ち着いたら再度訪問してみたいと思う。と言っても、果たしてそのチャンスが訪れるかは、自分自身の優先順位やタイミングの問題ではあるが、微妙かなとは思っている。

 イタリア国鉄カリアリ駅  工事運休中のカリアリのトラム起点

 ちなみに、イタリア国鉄だけの乗り潰しであれば、路線数も少なく、スピードもそこそこで、本数が極端に少ない区間もないので、日の短い季節でも2日で昼間の完乗ができる。狭軌路線とトラムを含めても、上手に組めば3日でできるのではないか。ただ曲者が日曜で、狭軌路線の大半は、日曜は全く運転されない。カリアリの工事運休が終わってみないとわからないが、日曜を含まない連続3日間の滞在で、何とかできそうに思われる。これはあくまでひたすら乗り潰すだけならの話で、せっかくサルデーニャまで行ってそれだけで終わるのはあまりに勿体ないとは思うが。


サッサリ~ソルソ Sassari - Sorso


 今回は、サルデーニャ島第二の都市、サッサリからスタートする。サッサリはカリアリよりはだいぶ小さいものの、北部の中心都市としてしっかり機能している街である。都市人口は約12万、周辺を入れた都市圏人口は26万ほどである。もともと人口の少ないサルデーニャ島の中では、歴史もあり、大学も産業もある主要都市と言っていいだろう。

 サッサリ駅舎  サッサリ市街

 サッサリ駅は、ローカル線なりに、イタリア国鉄の主要駅としての貫禄もあるし、そこに狭軌のサルデーニャ鉄道も乗り入れており、1番ホームはサルデーニャで唯一の三線軌条が見られる。2015年までは狭軌鉄道がもう1本あったが、今は観光鉄道となり、通年運転はしていない。

 駅前に発着するトラム  三線軌条の一番ホーム

 駅前も市街地ではないが、寂しい所でもなく、ちょっと歩くと活気のある中心部である。その駅前に、2006年に開業したトラムも発着する。この人口の都市として、トラムはやや過分と思われるし、実際、路線も短く、単線で、運転間隔も20~30分と、大きな街のトラムとはだいぶ異質ではある。今回の滞在中、何度となく見かけたが、いつもガラガラであった。

 サッサリの国鉄駅は、本屋前の1番線と、地下道をくぐって西側の島式ホームの2・4番線がある。島式ホームの北側に切り欠きの3番線もあるが、使われておらず、既に線路も剝がされている。本屋前の1番線が三線軌条なのだが、1番線から国鉄標準軌列車の発着はなく、標準軌用の一本のレールは錆びていた。つまり国鉄は2・4番線だけでまかなっており、1番線は、狭軌鉄道のうち、アルゲーロ(Alghero)へ行く線が専ら使っている。

 サルデーニャ狭軌鉄道の旅、その最初は、ソルソというサッサリ郊外の町まで、10キロの短い路線である。この線は日中ほぼ1時間に1本と、それなりに本数があるし、終点まで15分と短いので、他の2線に比べても乗りやすい。ソルソは特に見どころもなさそうな町だが、それでも私の鉄道旅行の常として、すぐ折り返さず、どんな所か、少しぐらい歩き回ってみたい。それと他のスケジュールとの兼ね合いから、土曜の昼にサッサリから往復することになった。狭軌路線の一部は日曜に全く運行されないが、この線は平日15往復、日曜9往復と、日曜にも乗れる線である。だが、そのためにサッサリに日曜に滞在するよりは、まず土曜にさっと乗ってしまった方が全体のスケジュールがうまく行くので、そのようにした。

 ソルソ行きは、1番ホームの北側、日本でいう0番ホームのような位置に、駅舎を背にした2本の線路があり、そこから発着する。番線の数字はないが、つけるならば11・12番線か、0A・0B番線といった感じになるだろうか。通常はソルソ行き専用だが、かつてはパラウ(Palau)という所まで、58キロにも及ぶもう一つの長い狭軌鉄道も通じていた。今は通常営業はしていないものの、線路は健在で、年に数日、観光列車が走るそうだ。

 駅舎内の切符売場や自動券売機は国鉄専用で、狭軌鉄道ARSTの切符は、駅舎の北西端、一番ホーム側から入る小さな待合室のような所に切符売場の窓口があり、外側に専用の自動券売機が1台だけある。英語も選択できるので、その券売機でソルソまでの切符をクレジットカードで購入し、その横にある機械で打刻する。切符を上から入れると、吸い込まれて打刻の音がして、飛び出すように戻ってくる。裏を見れば、日時などが打刻されている。運賃は1.90ユーロ(285円)。円安が進んだこともあるが、10キロという距離からすれば、JRの地方交通線より高い。

 狭軌鉄道専用の券売機と打刻機  ソルソ行きは頭端式ホーム

 乗るのは12時40分発ソルソ行きで、駅舎を背にした一番東側の線路に綺麗な4輌編成の列車が入線していた。2輌ユニットを2編成つないでおり、2輌目と3輌目の車内通り抜けはできない。ホーム東側は、柵がしてあるが、トラムの単線の線路が通っている。柵を外してホームを削って低くすれば、路面電車の乗降場としても使えそうだが、トラムの停留所は駅前広場にある。写真を撮っている時にちょうど、南行き路面電車が駅前に向かって横を走り去っていった。

 ソルソ行きホーム横をトラムが通過する  発車時刻が近づくと乗客がパラパラとやってくる

 乗客はパラパラと乗っている。若い人が多い。発車間際まで少しずつ客が増え、定刻12時40分に発車。駅舎に近い後ろの方は、かなりの客がいたようだが、私の乗った先頭車は空いていて、ボックス1名が問題なく確保できた。

 今でこそこういうモダンな車輌になっているし、それでこそ狭軌鉄道も将来に渡り存続できるのであろうが、私は30年も前に一度来た時に、サッサリ駅に停まっていた1輌の芋虫のような車輌を見たのが印象に残っている。それはごく最近まで使われていたようで、その廃車群が、発車後、線路右手に留置されているのが見られる。あれに乗りたかった、もっと早く来れば良かった、とつい思ってしまう瞬間である。

 明るく綺麗な車内  廃車された旧型車輌(後刻撮影)

 線路はそのあたりから、右へパラオへの狭軌路線が、続いて左へは標準軌のポルト・トレスへの国鉄線が、緩やかに分岐していく。そして単線になるのだが、右手はトラムの単線が並列しているので、一見複線区間のようである。そのあたりで市街地は終わり、早くも両側は農地が見られる。

 と思っていると、トラムがこの列車に追い付いてきた。こちらがサッサリ発12時40分だが、サッサリ駅前発12時41分というトラムがあるので、それであろう。このトラムは全長4.3キロのうち、ここサッサリ駅前とサッサリ・サンタ・マリア・ディ・ピサ(Sassari Santa Maria di Pisa)の間1.9キロは、このソルソ線にずっと並行しているだけでなく、トラムの方にも途中の停留所は一つもない。対してサッサリ駅前から反対の終点、エミチクロ・ガリバルディ(Emiciclo Garibaldi)までは2.4キロで、その間に停留所が5つもあるので、その区間は平均400メートルごとに停留所があるし、そちらはずっと市街地を走っている。

 サッサリ・サンタ・マリア・ディ・ピサ駅

 こちらの最初の途中駅であり、トラムの終点である、サンタ・マリア・ディ・ピサは、新開地らしく中層マンションなども見られるものの、特に繁華な場所ではない。トラムの終点はソルソ線の駅の手前、互い違いホームのような感じで接している。ソルソ方面からトラムへ乗り換えて市街地へ行く人も、ここよりはサッサリ駅で乗り換えるのではないか。こうしてみると、トラムの1駅間は無駄なようだが、これはあくまで過渡期であり、トラムはここから先への延伸計画がある。そして将来的にはソルソへの路線全部もトラム化する計画もあるそうだ。軌間は同じ950ミリなので、違いは電化かどうかである。つまり、ソルソ線を電化さえすれば、そのままトラムの乗り入れが可能となる。

 サンタ・マリア・ディ・ピサから先も、線路は元複線だが、今は1本しか使われていない。錆びたもう1本の線が、線路に並行している。かつてはサンタ・マリア・ディ・ピサまでも同様な状態だったのを、そちらはトラム路線に転用したらしい。風景の方は、都市郊外らしさすらなくなり、緑の農地や荒れ地で、たまに住宅が点在している。

 ロッダ・クアッダ駅  フンタナ・ニエッダ付近

 次のロッダ・クアッダ(Rodda Quadda)という駅は、寂しい所で、乗降客はほとんどいない。使われていない片面ホームと錆びた線路が見える。元複線もここまでで、この先は単線となる。あと2つ、これもほとんど何もない寂しい所にある駅に停まる。最後の一駅は遠く海が見える所があったが、その程度で、緩やかな起伏はあるものの、平凡な景色が続いた。


ソルソ Sorso


 右手に少しまとまった住宅が、左手にスーパーマーケットなどが見えてくると、スピードを落とし、ほどなく終着ソルソに着いた。都市と郊外を結ぶ距離10キロ、所要15分、途中駅4駅という線とあれば、もっと家並みが続く風景を想像していたが、全く違った。乗客もほとんどが全区間乗り通しで、途中駅の利用者は非常に少ない路線であった。

 終着ソルソに到着  小さなソルソ駅舎

 ソルソでは特に後ろの方の車輌から、かなりの乗客が降りてきた。列車は5分で折り返すので、折り返し列車に乗る客もいて、さほど広くないホームが一瞬賑わう。小さな駅舎は、その半分がカフェになっており、列車に乗るとは思えない客でそこそこ賑わっている。


 駅の先で折り返し列車の発車を見届けてから、ソルソの町を一回りしてみた。サッサリとの間も完全な農村なので、恐らくその昔から、サッサリの続きではなく、別途独立した自治体なのであろう。今はサッサリのベッドタウンの機能が強いと思われ、ソルソならではの求心力は強くないと見受けられた。それでも一応の商店街があり、飲食店や小売店も一通りあって、立派な教会もあった。

 ソルソの中心商店街  広場と銅像と教会

 少し横道に入れば豪邸が並んだ住宅地もある。遠く海が見えている。海までは4キロほどあり、バスもあるらしい。完全な内陸都市のサッサリと比べれば、海が近い住宅地としての魅力もあるだろう。旅行者にはサッサリの街並みの方が魅力だが、実際に住むなら総合的にはこちらが上かもしれない。

 遠く海を望む住宅地  車止めの手前に転車台があった

 とは言っても観光名所もこれといった見どころもないので、1時間はやや長すぎたが、カフェはいくつかあったので、その一つに入り、軽い昼食にした。駅へ戻る時は、終点の先の車止の前の道を通ってみた。そこには何と小さな転車台が残っていた。使われなくなってどのぐらいになるのかわからないが、その昔はここで小さな蒸気機関車の向きを変えていたのだろう。

 駅へ戻る。半分がカフェの狭い駅舎内にはサッサリと同じ自動券売機が一台あるが、故障しており、貼り紙がしてある。切符売場の窓口はあるが、閉鎖されて久しいと思われる。他に切符を買う手段もない。乗ってきた1時間後の列車は少し遅れてやってきた。さきほど以上に多くの乗客が降りてくる。やはり若い人が多い。折り返しの乗客は少ないので、好きな席を選んで座り、来た道を戻る。

 13時55分着の列車が到着  乗客は若者が多い

 車掌が回ってきたので、「サッサリ」と言って切符を買おうとすると、あまり流暢ではないものの、わかりやすい英語で「車内で買うととても高い」と言う。つまり駅でちゃんと買いなさいということなのだろうが、駅のマシンは故障していて買えなかったと伝える。今故障したばかりでもないだろうし、車掌だって知っているに違いない。それでも規則なら、高くても仕方ないから、切符を車掌から買いたい意思を伝えたつもりだけれど、まあいいよ、という感じで行ってしまった。結果、車掌公認の無札乗車でサッサリへと戻ってきた。


マコメル Macomer


 サッサリからは、アルゲーロへの狭軌路線もあるが、スケジュール全体を調整した結果、こちらは今日ではなく、明後日の月曜に乗ることにしてある。今日は先に、サルデーニャ島中部のマコメルから出ている路線に乗る。サッサリでは連絡良く、24分の待ち合わせでサッサリ始発のカリアリ行き列車がある。これでマコメルまで1時間26分、マコメルで最終のヌオロ行きとその折り返しでヌオロを往復するというわけである。

 サッサリ始発のカリアリ行き列車  サッサリ発車前の車内

 列車は新車の3輌編成で、2番線から発車する。土曜の昼下がりの列車は空いていて、快適な移動ができた。途中のオツィエリ・キリヴァーニで7分停車して、カリアリ発オルビア行き、オルビア発サッサリ行きと3列車の相互接続がある。この列車にもオルビア方面からと思われる客がそれなりに乗り継いできた。オツィエリ・キリヴァーニ自体は小さな町で、乗り換えが主な機能で、乗降客は少ないようである。きっと鉄道の要衝とは言え、昔から乗り換えが便利なダイヤになっているので、ここでやむなく乗り継ぎの待ち時間が生じるケースは少ないのだろう。だから検索しても、ホテルなども出てこない。

 三列車接続のオツィエリ・キリヴァーニ  マコメルへは4分も早着

 列車は新緑もまばゆい田舎を快走し、マコメルには定刻より4分も早い16時ちょうどに着いた。幹線上かつ全列車停車の主要駅ではあるが、サルデーニャ国鉄全線でも本数の一番少ない区間であり、マコメル自体も大きな街ではないので、乗降客は少ない。本来1分停車のところ、5分も停車時間があるが、こちらも時間があるので、発車までホームにいて列車を見送った。

 標準軌イタリア国鉄のマコメル駅  ほぼ同じ場所で振り返った狭軌鉄道マコメル駅

 三線軌条まであり狭軌鉄道の駅と一体化したサッサリとは違い、マコメルは、狭軌鉄道ARSTの駅は少し離れている。国鉄のマコメルの1番ホームに接した駅舎を出て、駅前の道路を100メートルほど北へ行くと、T字路になっている。その向かいが狭軌鉄道のマコメル駅である。雨に濡れずに乗り換えはできないが、双方の駅舎間はバリアフリーである。

 乗車予定のヌオロ行きは17時10分発なので、ちょうど1時間ある。よって駅は見事に閑散としているが、とりあえず駅舎を抜けてホームに行ってみる。そこにはソルソと同じ形式の2輌編成の新型車輌が停まっており、駅員と運転士なのか、職員が雑談をしていた。

 ホームに自動券売機があったので、とりあえず先にヌオロまでの切符を買っておく。ヌオロまでは58キロあり、片道4.90ユーロ(736円)。さきほどのサッサリ~ソルソと比べると、キロ当たりなら半額以下である。同じ距離のJR本州3社幹線が990円だから、今度はこちらの方が安い。

 ホームの先へ行くと、留置線には旧型車が何輌も並んでいた。サッサリ付近で車窓から見かけたのと違い、落書きはひどいもののそこまで朽ちておらず、まだ走行できる車輌もあるかもしれない、と思った。


 駅構内の写真を一通り写したら、駅を出てみる。駅付近は閑散としており、人もあまり歩いていないし、車もさほど通らない。市街地は国鉄の駅の南側で、そちらへ行くには長いガードをくぐらないといけない。しかも市街地といってもマコメルは小さな町で、まとまった商店街などもないらしい。市内にはこれといった観光名所も何もなく、宿泊施設も少ない。そこでまず、狭軌鉄道ARSTの終点の車止めがある脇の狭い路地に入ってみる。

 閑散としたマコメル駅前通り  ARST駅の裏手は産業地帯

 建物の隙間から駅施設がちらっと見えるものの、ソルソのような小ざっぱりした終着駅と違い、車止めなどは見えなかった。さらに先へ行くと産業地帯で、古びた工場やその廃墟が並び、土曜の午後ということもあり、人の姿もなくひっそりしている。その廃墟の一つに草むした狭い歩道がある。私有地ではあろうが、行ってみれば、すぐ崖の上に出た。

 左手マコメル方向  右手ヌオロ方向

 そこには驚くようなパノラマ風景が開けていた。はるか下方に単線の細い線路が通っている。これは紛れもなく、これから乗るヌオロへの路線であろう。始発ターミナル駅から徒歩3分の場所だが、素晴らしい撮影地であり、ここで列車の写真を撮りたい。念の為、時刻表を調べるが、さきほどホームに停車していたのがそうであろう、ヌオロ発の列車は15時49分にマコメルに着いており、これから私が乗る予定の17時10分発まで、残念ながら通る営業列車はない。

 旅行前に調べている頃から何となく気になっていたが、マコメル付近は、険しいというほどではないが、起伏が結構あり、線路の敷き方も複雑である。簡単に言えば、マコメルの駅と町は丘の上にあり、東のヌオロ方向へ行くには、一旦西へ行ってからぐるりと回って谷へ下りないといけない。そのため、マコメルを出るとヌオロと反対の西へ向かい、方向を変えてヌオロへ向かうのである。

 ぐるりと回る手前から、もう1本の狭軌路線で西海岸にあるボーザ(Bosa)という町までの線路が分かれている。かつては通年営業だったが、今は通常営業しておらず、たまに観光列車が走るだけである。それでも46キロもの距離があり、今も軌道が維持整備されているのだから、大したものである。この線路もかなり複雑なカーヴを繰り返しながら北西へと進み、マコメルの北西で国鉄標準軌の線路をくぐっている。国鉄に乗って車窓に注意していれば、下を走るこの線路が見える。この時、マコメルまで乗ってきた私は見損なったが、翌々日、サッサリへ戻る時にしっかり確認できた。

 国鉄車内から見るボーザへの線路(後日撮影)

 その後はマコメルを少し歩いてみた。国鉄のガードをくぐる道は車が結構通るものの、歩行者もパラパラあり、歩いている間、何度か人とすれ違った。時間も元気も足りず、市街地は限られた所しか歩けなかった。特に面白い所ではなかったが、落ち着いた静かな町であった。

 マコメルは人口1万、行政的にはヌオロ県に属する。ヌオロ県の西端部、突き出したような所にあり、ヌオロ県がマコメルを無理やり含めたような形をしている。ヌオロから見れば外れの小さな町だし、カリアリ~サッサリの鉄道沿線でも、主要駅ながら目立たない小さな町である。それでもマコメルからヌオロまでのこの狭軌鉄道は全区間がヌオロ県に属することで、つながりがあるのかもしれないし、それがこの路線が行き残っている理由の一つかもしれない。

 国鉄の線路をくぐるガードの南側  真新しい住宅が並んでいた

 これから行くヌオロは、そのヌオロ県の県庁かつ最大都市である。サルデーニャ島中部の内陸都市で、人口3.6万はサルデーニャ島第6位という、それなりの中核都市である。そこへ至る唯一の鉄道路線が、この狭軌鉄道なので、土曜の夕方とはいえ、それなりに人が乗るかもしれない。なので少し早めに駅へ戻る。ところが駅はさきほどと変わらず、ガランとしていた。既に列車のドアが開いていて乗車もできたが、2輌の車内を歩き回ってみると、お客は中年女性1名だけである。

 駅の東側に構内踏切があった  ポイント梃子の前で談笑する駅員と車掌

 ホームでは中年男性の職員2名が談笑している。後でわかったのは、その一人が車掌、もう一人は駅員であった。今もポイントが手動で、ホームの自動券売機のすぐそばに梃子があり、駅員がその一つを下げると、車掌が乗り込み、定刻に発車。駆け込みの乗客も現れなかった。


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