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ブリュッセル~デ・パンヌ 目次


目次 ブリュッセル~アールスト Brussels - Aalst
アールスト~デ・パンヌ Aalst - De Panne
クストトラム Kusttram

ブリュッセル~アールスト Brussels - Aalst


 ベルギーは全土に渡りそこそこの人口があり、鉄道網も良く発達している。この国に本当の意味でのローカル線があるかと言えば微妙だが、本サイトでも過去に2度ほど取り上げた。

 今日は首都ブリュッセルから、フランス国境に近い北西端の終着駅、デ・パンヌ(De Panne)という所まで乗ってみる。デ・パンヌまでは1時間に1本のインターシティー(IC)が走っているので、そう聞くとローカル線らしくないのだが、ベルギーでは、ICという列車種別を、日本でいう特急や急行と解してはいけない。全駅停車のローカル区間でも、ICと名乗る列車が多く、ICしか走っていない路線もある。

 そしてデ・パンヌからは、世界最長のトラム路線に乗ってみる。これは流石にどう見てもローカル線ではないので、最後にオマケ的に紹介したい。


 鉄道路線図によれば、ブリュッセルからデ・パンヌへは、まずオーステンデ(Oostende)方面への線に乗ってへント(Gent)へ行き、そこから南西に分岐することになる。ブリュッセルとへントの間52キロは、7年半前に本サイトのオーステンデ~オイペンで乗車して紹介したが、戦前にできた高速新線の元祖のようなもので、途中駅が一つもない。ここを通っても日本の新幹線のような追加料金があるわけでもないので、ブリュッセルからヘントやそれ以遠の各方面に行くなら、この高速線経由でヘントまで行くのが当たり前になっている。だが首都からいきなり52キロも駅がないので、当然、並行在来線もある。高速線は7年半前に乗ったので、今回はこの区間を、これを通らずに在来線でたどってみることにした。


European Raiway Atlas France & Benelux (M G Ball) を加工して引用・日本語加筆

 そうして調べていくうちに色々なことがわかってきた。ブリュッセルからデ・パンヌへ、休日は直通列車があるが、高速線で一気にへントへ行くわけではない。途中駅の利便性も考慮されている。日曜の朝、手ごろな時間の列車は、最初、高速線を走るが、途中で下へ降りて、リーデケルケ(Liedekerke)という駅に停まり、以後は高速線に戻らずにいくつかの駅に停まりながらヘントへと向かう。それでもヘントまでの3分の1ほどが高速線なので、それも避けるなら、ブリュッセル南駅始発のアールスト(Aalst)行きというのに乗ればいいことがわかった。このアールスト行きは、純然たる各駅停車で、最初は高速線と反対の北方向へ向かい、段々接近していき、やがて高速線をくぐってリーデケルケへ向かう。リーデケルケからアールストの間はどちらの列車も同じ線路を走る。これで高速線を全く通らずにヘントまで乗るルートが決まった。

 ブリュッセルからデ・パンヌへの直通列車は、ブリュッセル南駅が10時48分発で、最初の一部は高速線を通り、下へ下りてからアールストを通る。そのアールストまで、ずっと下を行く各駅停車だと、ブリュッセル南駅9時57分発。51分も早起きしないといけないが、アールストでの待ち時間が25分あるので、差し引き26分が、電車に余計に乗っている時間である。

 アールスト行きは南駅10番線から発車  隣ホームにはドイツのICE特急が停車中

 そして、10時48分発に乗り遅れても、ヘントまで全区間高速線経由でノンストップの11時03分発オーステンデ行きに乗れば、ヘントに16分も先着し、22分待ちでデ・パンヌ行きに乗り継げる。どのルートでも運賃は一緒なので、ブリュッセル中心部からヘントやそれ以遠の各方面に、今日の私のルートで行く人は、ほぼいない筈である。

 そんなルートをたどる旅ではあるが、車窓風景には最初からあまり期待していない。単調で人家も多い平野部で、旅行記を書くにも困るだろうというレベルである。それより、何度となく通っているブリュッセル市内の2つのちょっと面白い駅が、今回は気になっている。何はともあれ、南駅の自動券売機でデ・パンヌまでの片道乗車券を購入し、10番線ホームに向かった。

 9時57分発ブリュッセル南駅始発のアールスト行きは、時刻表検索では、Rで始まるリージョナル列車の列車番号で出てくるが、現地ではS10という都市近郊列車のルート番号で示されている。SはドイツなどでおなじみのSバーンのことと思われる。

 列車は定刻に発車した。3輌編成の綺麗な新車で、静かである。乗客は少なく、1輌に数名。ブリュッセルは百万都市であり、そこから出る都市近郊列車だが、日本の百万都市と比べても、運転本数も連結輌数も少ない。それでいてガラガラ。季節外れの日曜朝で、特に観光地もない郊外のベッドタウンや衛星都市へ向かう列車だからだが、鉄道網が良く発達していて利用者も多いと言われるベルギーであっても、日本の都市ほどは鉄道が利用されていないように感じる。

 ブリュッセル南駅は、鉄道交通の要衝で、ユーロスターもここから出るし、ここ始発・終着の列車も多い。しかし街はさほど賑やかでなく、ブリュッセルの中心街と言えば間違いなく、ブリュッセル中央駅周辺である。南駅を出ると、そんな感じが伝わるような車窓風景を高架から見下ろしながら進む。そして間もなく列車はブリュッセル・チャペル(Bruxelles Chapelle)駅を通過する。これは完全な普通列車であるし、駅自体、かなり繁華な所にあるにもかかわらず、この駅はほとんどの列車が通過する。土日は全く列車が停まらず、平日に1時間に1本だけ停まる列車がある。利用者も少なく、ベルギー国鉄としては廃止したいらしいのだが、合意に至っていないらしい。

 チャペル駅を過ぎると地下に入り、中央駅に着く。パラパラと客が乗って来る。次に地下のブリュッセル・コングレ(Bruxelles Congres)という駅があり、やはり通過する。ここもチャペルと同様の扱いで、土日は全く停車しないが、平日の停車本数はチャペルよりは多い。チャペルもコングレも、繁華な場所であり、頻繁に列車を停めればそれなりに利用者も見込めるであろう。多分、3複線とはいえベルギー中から列車が集まってきて貫通するこの区間はダイヤが過密だし、各駅での停車時間もそれなりに必要だから、この両駅は多くの列車をスムーズに通すための障害なのであろう。私もこの2つの駅は乗降したことがないし、乗った列車が停車した記憶もないが、これまでは、あまり気に留めずに通っていた。こういう事を知ると、これらの駅で乗降してみたくなってくる。

 南駅を出てすぐの再開発中の風景  車内にある最新式の案内表示

 場末感の濃いもう一つのターミナル駅、ブリュッセル北駅は、乗降とも結構ある。北駅を出ると沢山の線路をかき分けつつ左カーヴを描き、特急などが走る空港やリエージュ方面の線路を右手に分かつ。運河を渡り、右手にラーケン王宮の森をちらりと見るが、左手はもう高層ビルもない落ち着いた住宅街である。ボックスタル(Bockstael)、ジェット(Jette)と、街中の駅に停まるたびに、ぱらぱらと乗降客がある。短距離利用が多いようである。車内には最新式の案内表示があり、5駅先までの停車駅と時刻がオランダ語とフランス語の交互で出てくるほか、乗換駅では乗り換え列車の時刻やホームも案内されるなど、なかなかの高機能である。車内自動放送も二ヶ国語である。両国語のスペルや発音がかなり異なる駅もあり、どちらも正式だけに、旅行記などを書く立場からは扱いにくい所ではある。

 都会の駅っぽいジェット  オランダ語圏最初の駅グロート・ビルガルデン

 グロート・ビルガルデン(Groote Bijgaarden)到着前から、モニター表示も自動放送も、オランダ語のみになった。ブリュッセル首都圏を抜けたのである。昔の列車と比べれば立派で表示スペースも多い最新モニターなのだから、二ヶ国語表示ぐらい、やろうと思えば簡単だろう。しかし、そういう技術的な問題ではない。ベルギーは言語圏が明確に分かれており、オランダ語圏でのフランス語使用も、その逆も、嫌われることすらあるという。

 そのグロート・ビルガルデンから、中学生ぐらいの20名ほどの団体が乗ってきて、賑やかになった。逆に風景はそのあたりから空き地が目立ちはじめ、やがて牛すら見るようになった。

 寂しげなシント・マルテンス・ボーデゲム駅  明るい中学生の団体

 若い車掌が検札に来た。デ・パンヌまでの切符を出すと、オランダ語でちょこっと何か言ってから、私の顔を見て、英語がいいか、と尋ねるので、イエスと言うと、この列車はデ・パンヌに行かないよ、と流暢な英語で説明する。誤乗と思ったのだろう。わかっていて乗っているんだけど、アールストで乗り換えてデ・パンヌまで行くつもりだけれど、この切符で駄目ですか、と聞くと、あ、それなら問題ないよ、と言って切符を返す。とはいえブリュッセル市内でも、ジェットあたりからなら、このルートもことさら不自然ではない。切符もブリュッセル市内ゾーンから、となっていて、南駅発限定ではないのだが、もしかすると、私が南駅から乗っているのを知っていたのかもしれない。

 駅前が栄えていたテルナット  運河を渡ってデンデルレーウへ

 エッセネ・ロンベーク(Essene Lombeek)という寂しい小駅を過ぎると間もなく、上を通る高速線と立体交差する。そして、高速線からこちらの線へ移るための渡り線もあり、それが合流してくると、リーデケルケに着く。繁華な所ではないが、立派な高架駅である。ブリュッセル南駅から高速線経由でここまでノンストップという列車もあるので、利便性は優れている。

 乗換駅が近づくと乗換列車案内が表示される  乗換客も多そうなデンデルレーウ

 その次のデンデルレーウ(Denderleeuw)が大きな町で、この列車も10時39分着、45分発と6分も停車する。隣ホームには10時35分着、42分発というIC列車ヘント行きが停まっている。3分あるので乗り換えも可能で、アールストへも乗り換えた方が早く着く。当列車がアールストまで、その後を追って走るわけである。しかも面白いことに、当列車はあのIC列車と、ブリュッセル北駅付近ですれ違っているのである。IC列車の正体は、ローケレン(Lokeren)という所が始発で、ジェットの手前でこちらの列車が走ってきた線路に合流し、ジェット発がこの列車より15分も早い9時59発、続いてブリュッセル北駅発10時06分、中央駅発10時10分という順に停まり、南駅からは途中まで高速線を使ってこの列車に先行し、南駅の次にリーデケルケに、この列車より5分前に停車している。車窓風景が単調な分、列車ダイヤの組み方にはまり出すと、その方が面白そうなこのあたりの運転形態である。


アールスト~デ・パンヌ Aalst - De Panne


 アールストが近づくと、左手に煙を吐いている工場が見える。淀んだ川を渡り、高架駅の終着アールストに定刻ピッタリに着いた。中学生グループもここまでの乗車であった。駅は閑散としていた。

 アールストに到着  風格あるアールスト駅舎

 ホームで写真を撮ってから駅を出る。赤煉瓦の個性的な駅舎はいい感じだが、どんより雲っており、駅前もどことなく中途半端な栄え方である。さきほど車窓に見えた川の方へ歩いていく道筋の雰囲気は悪くなかったが、観光客が訪れるような町ではなさそうである。

 アールスト駅前通りの一つ  デンデル川を渡る列車

 少し離れた公園にさきほどの中学生グループがいるのが見える。野外学習なのだろう。遠くから写真を撮っている私に気づいて手を振る子たちがいる。明るく純朴そうな生徒たちである。

 車窓からも見えた工場とデンデル川  アールストに入線するデ・パンヌ行き

 この川はほとんど流れがないし、停泊する船の雰囲気からも、運河かと思っていたが、北へ流れるデンデル川で、デンデルレーウやデンデルモンデ(Dendermonde)といった地名は、いずれもこの川沿いの町である。雰囲気は悪くなかったが、どんよりした天候とも相まって、大いに写欲が湧く風景ではなかった。ここ一ヶ所だけで断定はできないが、概してオランダの方がどこの町に行っても水辺が絵になるような気がする。

 いずれにしても限られた時間なので、退屈する間もなく、ごく一部ながら、アールストを一回りして駅へ戻る。

 次に乗るデ・パンヌ行きIC列車が、ほぼ定刻に入線してきた。こちらは6輌編成の電車で、車内も特急列車風の座席であった。ここまで乗ってきたアールスト行きよりも、ブリュッセル南駅を49分、北駅を30分、遅く出た列車である。車内はパラパラと席が埋まっていたが、アールストで降りる人も結構いて、空いたボックスも若干はあり、そこに座ることができた。

 この列車はブリュッセルが始発ではなく、ブリュッセル貫通列車で、始発はランデン(Landen)という所である。学園都市ルーヴェン(Leuven)を通り、そこからはまっすぐブリュッセルへ行く線を通らず、空港駅を迂回している。時刻表でもわかるように、ICと名乗りながらも、通過駅はさほど多くない。

 今回、私がこのルートを選んだのは、戦前からの高速線を全く通らずに下の路線を行くことであった。それ以外に特に目的はなかったので、そうであれば、乗換駅はアールストである必要もなく、リーデケルケからアールストまでの4駅のどこでも良かったわけだ。まあ、どこで降りた所でアールストよりずっと面白そうな所は無さそうだが。

 農地の中の寂しい駅セルスカンプ

 アールストから先も格別の風景ではなく、閑散とした農地の中にある駅もあれば、駅前に商店が並んだ駅もあった。どこも古びた感じで、最近開けたような風景はほとんどない。そして高速新線と並行する区間になり、こちらもいくつかの駅を通過する。段々とヘントが近づいて、都会らしい風景になってきた。これまでも凄い田舎を走ってきたわけではないが、やはりヘントは都市であり、デンデルレーウやアールストは町である。

 ヘントが近づくと都市型風景になる  ヘントは利用者も多い主要駅

 ヘントの駅は、正式にはヘント・シント・ピーテルズ(Gent Sint Pieters)と言う。英語ならゲント・セント・ピーターズになる。まぎれもない中央駅であり、単にヘント駅と言っても通じる。ベルギー第三の都市だし、ブリュッセルとの往来も多いだろうが、高速新線経由なら一駅なので、そちらを利用する人が多いのだろう。この列車での乗降客はさほど多くなかった。

 ブリュッセルからヘント、ブルッヘ(Brugge)を経てオーステンデまで、ほぼ一直線の路線を本線とするならば、こちらはここヘントでほぼ90度、南へ曲がり、支線に入る。しかし支線というのは不適切であろう。こちらも複線電化の幹線だし、この後も各方面へ分岐して色々な行先の列車が走る。次の駅、デ・ピンテ(De Pinte)では南に垂れ下がっている盲腸線を分かつ。続くデインゼ(Deinze)では、どちらかと言うとまっすぐコルトレイク(Kortrijk)方面へ行く方が本線で、こちらがここから右カーヴでさらに支線に入っていくことになる。そのデインゼは、高架駅で、街も意外と大きい。当たり前だが、まだまだ知らない都市が沢山あるな、と改めて思う。

 デインゼは意外に大きな街  路線が十字に交わるリヒテルフェルデ

 デインゼで分かれたこちらも、まだ複線である。まだ盲腸区間ではなく、20分余り長閑な所を走って着くリヒテルフェルデ(Lichtervelde)で、別の路線と十字に交わる。向かいホームの列車と相互接続していたようだが、この列車からは降りる人ばかりで、乗り換えてくる人は少なく、リヒテルフェルデを出るとガラガラになってしまった。あと5駅、やっと最終の盲腸区間に入った。

 最終区間はガラガラ  最後の途中駅コクスアイデ

 依然として線路は複線である。1時間に1本なら、単線でも十分やりくりできそうだが、昔に複線化された所はそのまま活かしているのだろう。と思っていると、ディクスムイデ(Diksmuide)という駅からついに単線になった。あと3駅である。

 最後の途中駅はコクスアイデ(Koksijde)。コクスアイデというのは海岸沿いの町であるが、駅は見事に外れた寂しい所で、海までは直線距離で5キロもある。コクスアイデの市街地に行くなら、ここで降りるより、終点デ・パンヌまで乗ってトラムに乗り換える方がいい、そんな場所である。線路はコクスアイデからまた複線に戻り、最後の一駅も閑散とした内陸を通り、終着デ・パンヌには2分ほどの遅れで到着した。


クストトラム Kusttram


 デ・パンヌは立派な駅舎を持つ、風格ある終着駅であった。見た目は終着らしくなく、線路は先へも続いている。休止というより完全に廃線で、一部は線路も剝がされているが、廃線跡としてはしっかり残っているらしい。たどれば4キロほどでフランス国境で、1958年までは、フランスのダンケルク(Dunkerque)まで列車が走っていたそうだ。今も復活運動があるが、見込みは薄いらしい。

 デ・パンヌの駅も内陸の町外れにある。コクスアイデよりはいくらか海に近いが、それでも直線距離で3キロちょっとある。市街地は海沿いのエリアで、歩くには遠い。鉄道駅に接して、トラムの電停がある。乗り換えも便利で、国鉄のホームから段差無しでトラムに乗れる。国鉄でここまで来てデ・パンヌの中心部に行く人の多くは、ここでトラムに乗り換えるのであろう。

 終着デ・パンヌに到着  駅舎は風格ある堂々たる構え

 ところで、本稿では日本語表記をデ・パンヌにしたが、実際の発音はデパンネ、デパン、デパネなど色々に聞こえるし、「デ」も「ドゥ」に近く読む人も多い。さらにフランス語だと、ラ・パン(La Panne)なのである。ここはベルギーのオランダ語圏ではあるが、フランス国境が近いこともあり、フランス語流の発音が混じりやすいのかもしれない。どれが絶対正解とは言えない点はご了承願いたい。


 さて、ローカル列車の旅はこれで終わりだが、私もここでトラムに乗り換えて、まずはデ・パンヌの市街地に立ち寄ってみる。その後はトラムをさらに先へ、オランダ国境の町クノッケ(Knokke)まで、全線制覇してみた。全線67キロで、乗り通せば所要2時間20分前後、停留所数は68、という世界最長のトラム路線である。基本的に日中は15分間隔の運転だが、夏は増便されるという。全区間がベルギーのオランダ語圏を走り、ほぼ海沿いである。ベルギーの海岸線のほとんどをカバーしていると言っていい。

 車窓に派手なリゾートホテルも見える  デ・パンヌの中心部

 切符も1時間券から1日券まで色々あって、途中下車も自由である。だから本当はもっと時間を取ってゆっくりしたかったのだが、日の短い季節である上、夜はブリュッセルで用事を入れてしまったので、ほとんど乗り通すだけで終わったのは残念であった。

 デ・パンヌの海岸は高層マンションが林立  市街地は併用軌道区間も多い

 寂しい鉄道駅から5つ目の、デ・パンヌ・セントルム(De Panne Centrum)で降りてみる。名前通り、デ・パンヌの中心地で、市街地は建物で埋まり、海側は高層マンションが林立していた。ただ、その割に人通りが少なく、活気に満ちているとは言えない。セカンドハウスが多く、見た目の建物の多さほどは人が常時住んでいないのかもしれない。

 トラムを含めればここがベルギー最西端駅  専用軌道区間では踏切がある

 線路に沿って停留所一つ歩いて戻ると、デ・パンヌ・エスプラナーデ(De Panne Esplanade)で、トラムの停留所も含めれば、ここがベルギー最西端の駅になる。普通鉄道だけだと、デ・パンヌが最西駅である。トラム路線はデ・パンヌの鉄道駅から北北西に向かい、円弧を描くようにしてこのあたりで北北東に進路を変える。その円弧の先のこの停留所が最西端で、ここから先は終点クノッケまで、海岸線に並行して概ね東北東へ進む。

 マンションが多くて海の眺めは今一つ  しばし海岸沿いを快走する区間

 デ・パンヌの市街地は併用軌道で、トラムの線路に車も走っていた。その後は専用軌道になったが、線路と海の間はマンションが立ち並んでいて、海の眺めはあまり良くない。また次の町で併用軌道になったり、専用軌道になったりを繰り返し、ミデルケルケ(Middelkerke)という町の外れから、ようやく海岸沿いを走る。そこからオーステンデの手前まで約5キロは、線路と海の間にさえぎるものがほとんどなく、海を見ながら快走した。

 オーステンデで乗り換えになる  何となくオランダ風の地名と町並み

 オーステンデはトラム沿線で一番人口が多い都市である。ここからベルギーを横断してオイペンまで乗ったのが7年半前になる。その時はオーステンデの駅も開放的な感じで、トラムの停留所とは少し離れていたが、その後大きく改修され、すっかり様変わりしていた。デ・パンヌからずっと、クノッケ行きという表示は出ていたが、実際は多くの電車はここで乗り換えになる。

 オーステンデからしばらくは乗客が結構多かった。観光客っぽい人は少なく、オーステンデに買い物などに来た地元住民の利用が多いようであった。20~30分ぐらい乗る人も結構いる。オーステンデの先は、手前のように海岸沿いを走る所はないが、海は常に見え隠れし、時にそこそこ賑やかな町も抜けていく。

 ブランケンベルへも国鉄の終着駅  トラムの東の終着駅クノッケ

 混んだり空いたりの繰り返しではあったが、概ね悪くない乗車率であった。しかし、最後のクノッケ鉄道駅まで乗った人は少なかった。クノッケはデ・パンヌと違い、電停と鉄道駅が300メートル程度離れている。しかし寂しいデ・パンヌ鉄道駅と違い、そのあたりに店も建物もパラパラとあった。

 一日乗車券などで自由気ままに乗り降りしながら沿線を見て歩けば、乗り通すだけよりずっと楽しいであろう。またいつの日か再訪できればと思いつつ、国鉄駅から、ブルッヘ行き短距離のIC列車でクノッケを後にした。ブルッヘで乗り換えは要するものの、ブリュッセルまでの距離は、デ・パンヌより近い。途中もオーステンデ、ブランケンベルヘ(Blankenberge)、ゼーブルッヘ(Zeebrugge)といった所に国鉄線が来ており、トラムはそれら国鉄の盲腸終着駅相互間を結ぶ役割も持っている。

 7年半前のオーステンデ~オイペンでは、オーステンデはつまらない所、みたいな書き方をしてしまったし、確かにあの駅付近だけだったら、さして魅力はないかもしれない。しかし、こうして67キロものトラムに乗り通して沿線風景を眺めてみれば、一口に海浜リゾートといっても様々で、次回はあちこちで途中下車しながら色々な所をゆっくり見てみたいと思った。ブリュッセルとこれら海浜都市を結ぶ内陸の国鉄駅あちこちで途中下車するよりは、面白いこと間違いないだろう。



欧州ローカル列車の旅:ブリュッセル~デ・パンヌ *完* 訪問日:2022年11月20日(日)


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