欧州ローカル列車の旅 > 2012年 > ドイツ > デューレン〜ハイムバッハ
目次 | ルールタルバーン Rurtalbahn |
デューレン Düren | |
デューレン〜ハイムバッハ Düren - Heimbach | |
ハイムバッハ Heimbach |
オランダ・ベルギーとの三国国境に近いドイツの街アーヘン(Aachen)と、著名な大聖堂のある大都市ケルン(Köln)の中間あたりに、デューレン(Düren)という街がある。特急も頻繁に通過する幹線だし、観光でもビジネスでも日本人とも縁の深い地域だから、通ったことのある人は多いだろう。私も何度か通った記憶があり、デューレンという名前は割と昔から知っていたが、降りるのは今回が初めてではないかと思う。
降りるに当たって調べてみると、戦前のデューレンはドイツでも有数の豊かな産業都市だったようだ。しかしそれゆえ、第二次大戦で壊滅的な被害を受け、今の街のほとんどは、戦後に再建されたそうだ。だから史跡も少ない。城が一つ残っているらしいが、その程度で、普通の人が観光で行くような街ではないらしい。今の人口は9万人程度で、ケルン方面へ通勤する人も少なくないという。
そのデューレン駅から南と北へ、盲腸線が出ている。トーマスクックの時刻表には全く載っていないので、初めての私にとっては謎のローカル線だが、場所が場所だけに、そこまで寂れていないと思われる。
REGIONALVERKEHR NORDRHEIN-WESTFALEN 2007 より引用
北への線は、リンニッヒ(Linnich)という所まで25.5キロ、途中駅10駅、所要34〜35分。平均表定速度は44km/h 程度。
他方の南側は、ハイムバッハ(Heimbach)という所まで30.0キロ、途中駅15駅、所要46〜48分。平均表定速度は38km/h 程度。
この両線は、ルールタルバーン(Rurtalbahn)という私鉄による経営である。それでもRB21という路線番号がついていて、この地方の鉄道ネットワークとして一体化している。日本のように、JRを太線で、私鉄を細線で書くようなことをしないから、こういったことも、ちゃんと調べずにいると、来てみるまでわからない。私鉄だからDBと別に会社のウェブサイト www.rurtalbahn.de があるが、今の所、ドイツ語だけである。それでも勘でクリックして、PDF時刻表のダウンロードに成功した。但し乗り終わって帰ってからであるが。なお、時刻の検索などはDBのサイトでもできる。
ルールタルバーンのルール(Rur)は、ルール川から来ている。少し東に行くと、社会科の授業でも習った、ドイツきっての産業地帯として名を馳せたルール(Ruhr)地方があり、ルール(Ruhr)川がある。スペルがちょっと違うだけで発音はほぼ一緒のようだから、非常に紛らわしいが、全く別の川である。今回テーマのルール川は南から北へと流れ、オランダに入るとスペルが"Roer"に変わる。そしてマース川に合流する。その場所に、ルールモント(Roermond)という都市がある。
ルールタルバーンは北線より南線の方が、距離が長く、駅間距離が短く、表定速度が遅い。遅いのは駅間距離のせいだけではなく、こちらの方が川の上流でカーヴなどが多いためと思われる。北線は地図で見る限り、概ね平野で直線が多そうである。
いずれにしても、半日を潰せば両方の線に乗って戻って来ることができる。しかしこの日の私は午前中にオランダでゆっくりし過ぎたため、両方に乗る時間がなくなってしまった。そこで北線は諦め、南線に乗って終点のハイムバッハという所まで行ってみることにした。乗るのはデューレン15時20分発のハイムバッハ行きRTB89666列車である。終点までは所要46分。
アーヘンから、快速にあたるRE列車で26分、デューレンに着いた。デューレンは乗降客の多い駅だ。距離的・時間的に、アーヘン〜デューレン31キロと、デューレン〜ケルン39キロは、いずれも日常的な移動の多い区間と思われる。列車も双方向とも1時間に3本ほどあって便利だ。しかしドイツの誇る特急列車ICEは1本も停まらない。ICEの他、今はパリからのタリスがケルンまで乗り入れるようになったので、それも通るが、もちろん停まらない。デューレンの市長がICE停車の働きかけをしたが失敗した、ということを何かで読んだことがある。人口9万の中核都市だし、日本で似たような条件だったら、一部の特急が停車しているのではと思う。
デューレンの本線ホーム | 左の23番線と右の1番線に挟まれた駅舎 |
1841年開駅の古い歴史を持つ駅だが、かなりリニューアルされたのか、そこまで古く重厚な印象ではない。駅も側線が沢山ある大規模な駅とは違い、どちらかと言うとコンパクトにまとまっている。駅舎はなかなかいい感じの建物だ。駅前はタクシーや送迎の車が出入りしているが、それ以外には何もなく、街へ出るには線路に沿って坂を下りていかないといけないようだ。しかし後でわかったのだが、もう一つ、地下道を行くと別の新しい出口があり、そこを出るともう一つの広い駅前広場があり、そこがバスターミナルになっていた。鉄道とバスとの連携は悪くなさそうである。
地下道からそのまま出ればバスターミナルがある | デューレン駅前はごく普通の街 |
ルールタルバーンの時刻表を見ると、土曜日はどちらの線も、終日1時間に1本の運転である。北線は平日日中も同様だが、南線の方は平日は途中までの列車が間に入って、デューレン側は30分間隔になる。なかなかの高頻度運転で、ローカル線とは呼べないかもしれない。
1番線に面して駅舎があるのだが、その反対側に、23番線という変な数字のホームがある。そこはかさ上げ工事も行われておらず、線路は廃線のように錆びていてぼうぼうに草が茂っているが、その先にもう1つホームがあり、そこに列車が発着するようである。これがルールタルバーン北線のホームなのであった。ここだけは近代化から取り残された別世界であった。次の列車までまだ時間があるが、天気もいいので若い人達が日光浴をしながらのんびりと列車を待っている。他方の南線は、本線と同じ普通のホームである4番線から発車するという。
別空間のように長閑な23番線 | リンニッヒからの列車が23番線に到着 |
しばらく駅前などを見ているうちに、23番線に北線のリンニッヒからの列車がやってきた。ドイツ国鉄とは明らかに違う白い車体で、下の方が青く塗装された、個性的な車輌である。思いのほか大勢の人が降りてきた。代わってホームで待っていた人が乗り込むが、土曜の午後という時間からして、デューレン発の方が混みそうなのに、それほどではない。これは15時21分発である。
4番線から発車するハイムバッハ行き |
次に地下道を通って4番線に行くと、南線の列車も入っていた。やはり白い車体だが、北線よりこちらの方がモダンというか、普通にありそうな車輌である。発着するホームも普通のホームだから、デューレンで発着場所と車輌を比べる限りでは、北線の方が面白そうに見える。乗客はあまり多くない。短い2輌編成の車内は、席がパラパラと埋まっている程度であった。
デューレンは、定刻15時20分より3分ほど遅れて発車した。最初は本線に沿ってアーヘン方向へ進むが、すぐに左へカーヴをして本線と分かれる。ローカル線に入るんだという気分が盛り上がるひとときである。
単線で、最初は町の中を走る。デューレン寄りでは貨物輸送もあるのだろうか、工場への引込み線もあり、貨車が停まっている。それでももっと工業都市なのかと思っていたが、さほどではなく、普通の住宅地が広がる。あまり特徴のない風景であるが、小さな駅がちょこちょことあり、乗り降りもある。多くの駅がリクエスト・ストップになっているものの、ほとんどの駅に停車している。市内交通の延長としてそこそこ利用されているようだ。駅舎の残っている駅は少ない。ほとんどの駅は、ガラス張りの開放的な待合所があるだけで、ホームから直接道路へと下りられるようになっている。駅名標がドイツ国鉄とは明らかに違う独特の、私鉄を感じさせるデザインである。別に奇抜でも何でもないが、駅名標の個性が薄いヨーロッパの中ではこれも新鮮に感じる。
そんな単調な風景も、クロイツァウ(Kreuzau)を過ぎるあたりから少しずつ変わってきた。それまで車窓には見えなかったルール川が右手に迫ってきて、同時にカーヴが多くなる。川の流れに忠実に沿って線路が敷かれているのだろう。
クロイツァウの駅名標 | ウディンゲンの駅前風景 |
オーバーマウバッハ(Obermaubach)という駅は、駅前がルール川のダム湖になっていた。ここで遠足帰りなのか、中学生ぐらいの団体がどっと乗ってくる。しかしこの時間なら町へ帰るのではないかと思っていると、2駅目で下車した。まだ活動中のようだ。オーバーマウバッハからしばらくの車窓は、ダム湖に沿ったいい景色で、やっと自然の中を走るようになった。最後まで住宅地ばかりの路線だったらつまらないなと思っていたが、それは杞憂であった。
オーバーマウバッハ駅付近 | オーバーマウバッハを過ぎるとダム湖に沿う |
余談ではあるが、帰ってからこのあたりの情報を色々と検索してみると、ドイツ在住日本人のブログなどがいくつもヒットした。ここから遠くないところには、日本企業の一大集積地、デュッセルドルフ(Düsseldolf)がある。デュッセルドルフあたりに住んでいる人にとって、このあたりは週末の日帰りレジャーの手軽な行先の一つのようである。どの国でもそうだが、海外からの観光客が来るような著名観光地と別に、観光ガイドブックには載らない、地元向けのこういう場所が色々とある。ルール川のレジャーでは、カヤック(カヌー)が人気があるようで、実際、オーバーマウバッハの駅前にも、カヤックを持った若者がいた。
オーベルマウバッハからは駅間距離がにわかに長くなる。市内電車から山間部を走る路線へと移り変わったのを感じる。ニデッゲン・ブリュック(Nideggen-Brück)を過ぎると左にかなり高い岩山があり、その上に城の廃墟らしきものがあった。右手はずっとルール川がほぼピッタリと線路に沿っている。
立派な駅舎のあったニデッゲン・ブリュック | 車内にある券売機 |
改めて車内を見ると、空いてきたものの、終点までの客も結構いる。面白いのは車内に券売機があることで、無人駅から乗った客は、これで切符を購入する。車掌はおらず、検札もなかったが、たまに抜き打ちでやるのだろう。
終着のハイムバッハは、側線はあるものの、使われているホームは片面1面だけの駅であった。低いホームとは段差もなく駅前広場につながり、そこからバスが発着する。改札のないヨーロッパならではの便利な乗り継ぎシステムがここでもしっかり機能している。
けれども、バスの時刻を見て愕然とした。ゲミュント(Gemünd)行きのバスは、平日も日曜も夜まであるのに、土曜日だけは16時00分が最終なのである。この列車の到着が16時06分。せっかくこんなに便利な構造の乗り継ぎ施設がありながら、接続がさっぱり考慮されていない。これは少々残念である。もちろんちゃんと調べて来なかったのが悪いのだが、実は私はここからバスで、ゲミュントという村へ行き、そこでまたバスを乗り換えて、カル(Kall)という所まで行ければと思っていた。カルは、ケルンからトリアー(Trier)までの長大な路線の途中駅である。この後トリアー方面へ向かうつもりでいたからである。他に何か方法はないのかと思っていると、違う回送バスが到着して、運転手が降りてきた。念の為と思って聞いてみると、親切に教えてくれたのだが、やはりバスでは行けないので、列車でデューレン、ケルンを回らないと駄目だということであった。
ハイムバッハ駅に着いた列車 | 駅前にあるビアガーデン |
ハイムバッハ。山と渓谷に挟まれた長閑な終着駅である。町は先にあるのかもしれないが、駅前には集落はない。駅前道路の向かいにビアガーデンがあり、その下をルール川が流れている。せっかくなので散歩をしてみたいが、ケルン回りでトリアーへ行くとなれば、着くのもかなり遅くなりそうなので、この列車の折り返しに乗ることにした。16時17分発。 折り返し上り列車のお客は、いかにも土曜日を自然と共に健康的に過ごしてきましたという雰囲気の家族連れや中高年夫婦などが数組だった。
今来たばかりの道を引き返す。これはこれで悪くない。片道一回では見落としているものも色々と目に入る。帰りも途中まではレジャー客の利用が主で、デューレン寄りは市内利用という感じの人がパラパラと乗降していた。
デューレンに戻り、駅前のバスターミナルへ行ってみた。トリアー方面への短絡ルートとしてもう一つ、かつて鉄道のあった、ここからオイスキルヘン(Euskirchen)までのバスが利用できないかと考えたからである。それはこの鉄道+バスでのカルへのルートより、少しだけ北側を通っており、急行バスが走っているということだった。しかしバスは2時間に1本で、少し前に出たばかりだったので、仕方なく列車でケルンを回って行くことにした。気ままな旅も良いとは思うが、事前の下調べをしてこないとどうしても無駄が多くなる。