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シラクーザ〜ジェーラ 目次


目次 (1) シラクーザ Siracusa
シラクーザ〜ポッツァーロ Siracusa - Pozzallo
ポッツァーロ〜ラグーザ Pozzallo - Ragusa
(2) ラグーザ〜ジェーラ Ragusa - Gela
ジェーラ Gela

シラクーザ Siracusa


 イタリア半島に南接する地中海最大の島、シチリア島。面積は25,703平方キロ。日本の島で言うと、36,750平方キロの九州と、18,301平方キロの四国の中間ぐらいと言えば、大きさのイメージが沸くと思う。人口や人口密度は、行政上は周辺の島の人口も入ってくるため、正確な比較は難しいものの、人口密度で言うと、九州が300人/平方キロをちょっと超えているのに対して、山がちの四国は200人/平方キロ余りと、九州の3分の2程度らしい。シチリア島はその四国よりやや少ない、195人/平方キロ程度だそうだ。四国ほど険しい山はないが、起伏は結構多い。農業主体の都市化が遅れたイメージを持つ人も少なくないだろう。そして、シチリアと聞くだけでまずマフィアを思い浮かべる人も多い。その先入観で、シチリア島全体が危ない所なのではと思い、旅行先として選ぶのを避けてしまう人すらいる。


Thomas Cook Rail Map Europe 18th Edition より引用

 もうかなり昔の話だが、私は20年ほど前の正月をシチリア島最大の都市パレルモ(Palermo)で迎えたことがある。その時の印象は、最大の都市ですら、温暖で長閑で平和な田舎町であった。当時、ミラノやローマの街を歩く方がずっと危なく、スリルすら感じたものである。そこから南下してシチリアまで来ると、同じ国とは思えない、別天地であった。それは無論、シチリアの全てを知らない人間のコメントではあろうが、汽車に乗って町を歩く程度の旅をする限り、シチリア島はかなり安全な場所なのは確かであった。

 シラクーザ駅舎と駅前広場  シラクーザ駅付近の街並み

 さて今回は、そのシチリア島の南側を走るローカル線に乗ってみることにした。出発地はシラクーザ(Siracusa)。人口12万あまり、シチリア島では、パレルモ、カターニア(Catania)、メッシーナ(Messina)に次ぐ第四の都市になる。シチリア島を9つに分ける県の一つ、シラクーザ県(Provincia di Siracusa)の県都でもある。


Thomas Cook European Rail Timetable Summer 2013 Edition より引用

 メッシーナからカターニアを経てシラクーザまでは複線電化路線である。ローマ方面からフェリーを介した直通列車がメッシーナ海峡を渡って来ている、その南の終着駅である。運転本数も、頻繁とは言えないまでも、それなりにあって、幹線らしい格が感じられる。しかしシラクーザより先は、非電化単線のローカル線となり、本数も日に数本、そしてもっぱら単行気動車での運行である。


 改めて時刻表を調べてみて、とにかく運転本数の少なさと、速度の遅さに驚いてしまう。ただ、シチリア島など小さな島ではないかと甘く見ていたのも事実である。結局、一日でぐるりと島を一周などとんでもないことがわかり、シラクーザ発の路線の終着であるジェーラ(Gela)という所まで行くことにした。平日の運転本数は、区間にもよるが、一番多いシラクーザ〜ポッツァーロ(Pozzallo)間が5往復、残り区間は3〜4往復で、他に一部をバスが補完しており、鉄道の乗車券で乗れる。単に本数が少ないだけでなく、運転間隔に妙なバラツキがある。

 風格あるシラクーザ駅構内  一番線に停車中のローマ直通始発列車

 大雑把な地図を見れば、シチリア島の南側を海岸に沿って走るような印象があるが、詳しい地図を見ると、実際に海際を走る所はなく、遠くに地中海が望める区間も僅かしかない。発想が単純ではあるが、はるばるこの季節にここまで来たのだから、青い地中海をたっぷり眺められる旅を期待したいところだ。しかし現実の鉄道路線がそうではないので仕方ない。海沿いでないからか、トーマス・クックのレールマップでも、景勝路線を示す緑色が全くついていない。そういえば土讃線も四国の南側を太平洋を見ながら走るのではと期待したくなるが、そういう区間は非常に少ない。

 東側は行き止まりの終着駅  単行気動車が並ぶホーム

 シラクーザは行き止まり式の駅で、メッシーナから南下してきた幹線が、左へぐるりとカーヴを描き、東へ向いた所に設けられている。まっすぐ行くと海で、市街地は駅の北側になる。こちらのローカル線は、一旦、メッシーナ方面の幹線に沿って出発するが、すぐに左へカーヴ描いて分岐し、南西へと向かう。

 本日乗車する列車は、シラクーザ発10時10分の、ジェーラ行き。1輌の気動車の乗客は15人ぐらいである。朝10時にして、シラクーザまで来る、日本で言う上り列車は、1日5本のうち既に3本が到着しているのだが、シラクーザ発は、何とこれが本日の始発列車である。少し古い時刻表を見ると、もう1本、朝5時台の始発があるのだが、きっと乗客があまりに少なくて廃止になったのだろう。そして、この列車は終着ジェーラまで183キロを3時間18分かけて走るのだが、この間、一度も列車交換がないという見事な閑散ダイヤにも驚かされる。



シラクーザ〜ポッツァーロ Siracusa - Pozzallo


 列車はシラクーザを3分ほど遅れて発車した。もっともイタリア人は誰もこの程度を遅れとは思っていないだろう。本線と分かれるとほどなく単線となり、風景も田舎の景色になり、すぐにローカル線らしくなった。

 最初の駅、アヴォラ(Avola)まで、いきなり22分もかかるのだが、かつてはその間にいくつかの駅があったようである。それらは順次廃止されたらしく、今は通過する。シラクーザの市街地に近いこのあたりでは、バスの方が便利なのか、本数の少ないローカル線は短距離利用の地元住民に見放されてしまったらしい。

 フォンターネ・ビアンケ(Fontane Bianche)という駅は、単線のホームだけの停留所だが、住宅地の中にあり、綺麗なホームと新しい駅名標があった。朝夕ぐらいは停車する列車があるのかと思って帰ってから調べてみたが、今は全く停車しない。続いてカッシビレ(Cassibile)という、駅らしい駅があり、ここは古いホームも大きな駅舎も残っていた。いつでも復活できそうだが、同名の集落から離れた人家もまばらな所にあるので、恐らく二度と復活することはないだろう。

 カッシビレ廃駅を通過  最初の駅アヴォラ

 アヴォラに着く。一人下車する。構内は広く、立派な駅舎があり、列車交換もできる。そこそこ大きな町で、駅と市街地も近いのに、鉄道がすっかり見放されている感じがする。

 次のノート(Noto)は、アヴォラ以上に風格のある立派な駅で、構内も広い。ここは数名の乗降客がある。閉鎖はされているが、一等と二等に分かれた待合室がある。かつてはそれだけの需要があり、ファーストクラスで旅行するような富裕層がこういう鉄道を利用していたわけだ。

 手前が一等、右側が二等という待合室が残るノート駅

 ノートは、ヴァル・ディ・ノート(Val di Note)と呼ばれるシチリア島南東部エリアを代表する地名として、広く知られている。この地域の8つの町が、後期バロック様式の建築が良く保存されているため、2002年にユネスコの世界遺産に指定された。ノートがその一つの町で、このルート上にあと3つの町がある。残り4つのうち2つは、この列車の終着ジェーラからカターニアへ向かう別のローカル線沿線にあり、あとの2つは鉄道が通っていない町である。

 ノート駅は構内も広い  車窓に広がるオリーヴ畑

 駅間は人家の少ない寂しい畑や荒れ地を通る。サボテンやオリーヴ畑が多いのが南国らしい。オリーヴは今なおシチリア島の重要な産品の一つである。そんな昔ながらの農村地帯だが、片側二車線の立派な高速道路をくぐり、ここも車社会が浸透した現代であることを痛切に感じる。他方の鉄道は、決して寒村ではない中規模の町々を結んでいるのに、この通りの閑散ぶりだ。

 ロゾリーニ駅舎  大きな荷物を持って降りた乗客

 次はロゾリーニ(Rosolini)に停まる。この町もそれなりに大きく、駅前も寂しい所ではなく、ビルも散見できる。鉄道はそういった点在する町をきちんと結んでいるのに、利用者は微々たるものだ。それでも3名ほど下車し、列車はますます空いてきた。実際の発車は11時02分で、時刻表より8分遅い。普通にきちんと走っているのに、遅れが段々増幅しているのが少し気になる。

 ロゾリーニ駅から見える町並みはそこそこ賑やか  立派な給水塔が残るイスピカ駅

 このあたりはシチリア島の南端への半島の付け根を通るため、海は見えない。内陸部の似たような農村風景の中、シラクーザ県からラグーザ県(Provincia di Ragusa)へ入る。といっても何も変わったことはなく、やや小さな町、イスピカ(Ispica)に停まる。どの駅も古いが大きい駅舎があり、交換設備がある。今のダイヤでは、全く列車交換のない駅も多いだろうが、どの駅も反対の線路も錆びてはいない。上下線ともきちんと使い分けて、ポイントを動かすようにしているようだ。イスピカは乗降客もいなかった。

 空いている車内はのんびりムード  港町の玄関ポッツァーロ駅

 さらに南西へ進むと、左手やや遠くに青い地中海が見えてきた。次がポッツァーロである。ここは港町で、マルタのヴァレッタへフェリーが出ており、2時間弱で到達できる。実際、シチリア島とマルタ島の間が一番近づくのがこのあたりである。だが鉄道で旅行するだけでは、遠くにちょこっと海が見えるだけで、ここがそんな港町であることも、知っていなければわからない。駅は内陸の町外れにあって、ここも2名下車しただけであった。ホームには子供を連れて列車を見に来ているお父さんがいた。

ポッツァーロ〜ラグーザ Pozzallo - Ragusa


 イタリア最南端駅サンピエリ (後刻撮影)

 シラクーザからポッツァーロまでは、南西ないし西南西に少しずつ下がってきたが、ここからはほぼ西へと進路を取る。次に停まったのがサンピエリ(Sampieri)。これまでの途中駅は、どこも人口2〜3万程度の町だったが、周囲に民家もほとんど見当たらない、閑散とした所にある駅が初めて現れた。乗降客もない。

 サンピエリというのは、駅から南へ行った海辺の村の名前だが、駅からは1キロ以上離れている。昔はともかく、今はサンピエリの人がここまで歩いて鉄道に乗ることはあまりないだろう。そんな寂しい駅だが、実はここはイタリア共和国最南端の駅なのである。それを示す看板も碑も何もないし、そんな事は誰も意識すらしていないのではと思われる。後で調べると、サンピエリは綺麗なビーチがあり、ホテルもあるローカルなリゾート地でもあるそうだ。離れていると言っても1キロちょっと。畑の中の最南の駅に降りて、海まで歩くなんて旅も、悪くなさそうだが、世界遺産の町など、見所の多いシチリアまで来て、わざわざそんな事をする物好きな人もいないのだろう。

 シクリ駅構内  シクリ駅付近

 サンピエリからしばらく西へ行くと、線路はやおら右へカーヴする。ほぼ90度、向きを変えて、海に背を向け、今度は内陸へ向けて北上する。丘陵地に分け入るような、これまでと違った雰囲気になる。そして間もなく到着するのが、シクリ(Scicli)で、すっかり内陸の町らしい風情の所である。

 シクリという地名は、何となくユニークな名前だ。イタリア語のシチリア(Sicilia)、ないしその英語読みであるシシリー(Sicily)にも似ているので、もしやシチリア島の起源と関係あるのかと思ったが、そういうわけではないらしい。ただ、地名の語源はまだはっきりと解明されていないらしい。シクリも、ヴァル・ディ・ノートの世界遺産に指定された町の一つで、後期バロック様式の教会などがいくつも見られるという。

 シクリを出ると、本格的な山岳路線になる。そして、シラクーザを出てから、南西→西→北へと進んできた路線は、今度はカーヴを繰り返しながらも、北北東へと進路を取るのである。そしてシクリから15分、にわかに谷が開け、見上げるように高い道路橋の下をくぐると、山間の主要駅の風情が色濃いモディカ(Modica)に到着する。シクリが標高96メートルで、ここモディカは298メートルなので、一駅で200メートルあまり上がってきたことになる。

 モディカは広い構内と重厚な駅舎があり、少ない乗客も半分ぐらいが入れ替わった。シラクーザからの最終列車はここが終着、朝の始発もここからという、鉄道輸送上も一つの区切りとなる駅だ。モディカはまた、1893年、この路線が全通した際、最後につながった地点でもある。シラクーザ側からここまでが先に開通し、次にジェーラの側からコミゾ(Comiso)までが開通し、そして最後にコミゾからここまで延伸され、全通している。ここモディカと次のラグーザ(Ragusa)の間が、一番の難工事だったそうだ。

 モディカもヴァル・ディ・ノートの世界遺産にリストアップされた町の一つで、この路線で3つ目になる。人口も5万を超える、農業と観光の町だ。列車ではこのようにして、シラクーザから1時間40分を、回りくどいルートでやってきたわけだが、道路をまっすぐ走れば1時間ぐらいだろう。特に、ここから4つ手前のイスピカ駅へは、道路ならあっという間に着きそうである。イスピカからモディカまで、鉄道は四角形の三辺をぐるりと回ってきたような線形となっており、地図を見ると、残り一辺を割とまっすぐに走れる主要道がある。

 モディカの手前で高い自動車道が圧倒する  重厚なモディカ駅

 モディカから次のラグーザ(Ragusa)までは、20キロ24分。今度は北北西へと向かうが、山の中なのでまっすぐではなく、カーヴの多い区間である。ただ、起伏は多く、トンネルもいくつもあるが、本格的な山岳路線という景観は少なく、時に広々とした丘陵地の風景が広がる所もある。その程度でも、鉄道は勾配が苦手だから、気動車はあまりスピードが出せない区間である。

 モディカ〜ラグーザ間の光景  夕刻の神秘的なラグーザの町 (後刻撮影)

 そうしてラグーザが近づく。駅の手前右側で、高い所から、斜面にびっしりと古い家が立ち並ぶ街を一望できる絶景が見られる。乗客は地元のローカル客ばかりかと思っていたが、ここへ来て何名もが立ち上がって眺めたり、カメラを向けたりしていた。



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