欧州ローカル列車の旅 > 2025年 > スペイン > タラゴナ~サラゴサ (2)
| 目次 | (1) | スペインの高速新線 High Speed Lines in Spain |
| タラゴナ~レウス Tarragona - Reus | ||
| レウス~モラ・ラ・ノヴァ Reus - Mora la Nova | ||
| (2) | モラ・ラ・ノヴァ~カスペ Mora la Nova - Caspe | |
| カスペ~サラゴサ Caspe - Zaragoza | ||
| サラゴサ Zaragoza |
レウスからモラ・ラ・ノヴァは、内陸をほぼ西へ進んできて、間で低い峠を越えてきた。ここで線路は北へ向きを変え、以後は終点サラゴサまで、ほぼエブレ川(El riu Ebre)に沿って北上する。
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| 大河エブレ(エブロ)川を渡る |
発車2分後、そのエブレ川を鉄橋で渡る。エブレ川は現地のカタルーニャ語の呼び方で、スペイン語ではエブロ川(El río Ebro)。英語や日本語も含め、海外ではエブロで知られているようだ。スペイン国内で完結する川としては、長さ最大の大河である。ちなみにモラ・ラ・ノヴァより下流は沿う鉄道路線はなく、トルトサ(Tortosa)という町を経て最後は東へ湾曲しつつ、タラゴナの南西80キロほどの地点で地中海へ注いでいる。
車窓右手に時にエブレ川を見ながら10分、次のアスコ(Asco)に停まる。ごく普通の交換設備のある駅で、駅舎は古いが大きい。2名下車し、乗車も1名あった。アスコは人口1600人の小さな町だが、スペインに5ヶ所ある稼働中の原子力発電所の一つがあることで知られる。駅を出てほどなく車窓左手に、木々の間から原子炉が見える。
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| アスコ駅 | フリシュが近づき駅裏の工場も見える |
次がフリシュ(Flix)で、人口3千強の町。エブレ川沿いの風光明媚な町のようだが、駅の裏側、エブレ川との間には化学工場が林立している。ここも2名が下車した。
フリシュの先は、右手のエブロ川の川幅が広くなり、ゆったりと流れている。長閑な風景の中を西へ向かう。次がリバ・ロジャ・デ・エブレ(Riba-roja d'Ebre)で、ここもエブロ川に面した長閑な駅である。3名下車。少しずつだが客を降ろしつつ、のんびり進むローカル線であり、かつて二大都市を結ぶ大幹線だった面影はない。その先、右手前方にエブロ川本流にかかる立派なダムが見えてきた。近づいたら写真を撮ろうと待ち構えていたが、長いトンネルに入ってしまった。
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| 数名が降りたフリシュ駅 | リバ・ロジャ・デ・エブレ駅付近の眺め |
トンネルを出れば間もなく次のファイオ・ラ・ポブラ・デ・マサルーカ(Faio-La Pobla de Massaluca)に止まる。やはり右手が川に沿った駅だが、この川はエブロ川ではなく、その支流であるマタラニャ川(El río Matarraña)で、この駅の少し手前で本流と分かれている。この駅はカタルーニャ州最後の駅で、目の前の対岸はアラゴン州(Aragón)になる。長い駅名の最初のファイオは、対岸のアラゴン州の村の名前で、ファイオはカタルーニャ語。村自体はカタルーニャ語圏ではなくスペイン語圏で、スペイン語での村の名前は、ファヨン(Fayon)という。なかなかややこしい。
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| ファイオ・ラ・ポブラ・デ・マサルーカ付近 | 村を遠望しながらノナスぺに近づく |
カタルーニャ州は、欧州の地理歴史政治などを多少でもかじった人なら、名前も知らない人はいないだろう。バルセロナを州都とする力のある大きな州で、しばしばスペインからの独立運動で世間を騒がせている。州全体の面積は、3万2千平米程度で、北海道の4割程度、日本の都道府県で面積第二位の岩手県の倍ぐらいである。
列車はアラゴン州へ入る。マタラニャ川は地図で見ても蛇行の激しい川で、線路はしばし川と離れ、アラゴン州最初の駅であるノナスぺ(Nonaspe)の手前でマタラニャ川を渡る。川向こうの左手、少し高くなった丘の上に教会の塔が見える、中規模な村であった。1名下車。車で迎えに来ている人がいた。ここからスペイン語圏に入ったわけだが、カタルーニャ語圏でも駅名標などに二か国語表示はなかった。ただ、それだけに地図や時刻表など、カタルーニャ語圏では表記が入り混じっているから、ちょっと注意が必要である。
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| ノナスぺ駅 | マタラニャ川を渡る |
ノナスぺの次の停車駅は、レウス~サラゴサ間で最大の町、カスペで、その間36キロは、2度ほど蛇行するマタラニャ川を渡るが、あとは山の中の寂しい所が多かった。途中に2つ駅があるが、この列車は停まらない。元本線だからどちらも交換設備はあり、それなりの規模感はあるが、いかにも寂れた感じの駅であった。
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| 寂しい通過駅ヴァル・デ・ピラス | カスペの町が現れる |
カスペが近づくと、右手やや下方に蛇行するエブロ川が見えてくる。丘の上に密集した建物が見えてくると、12時47分、時刻表より18分遅れでカスペに到着した。これまでより大きな駅ではあるが、屋根も短く開放的な駅であった。カスペは人口約1万。レウス~サラゴサ間では最大の町である。内陸の降水量が少ないエリアで、オリーブを始めとする農業と食品加工業が盛んな町だそうだ。

ホームに結構多くの人がいたが、この列車に乗ってきたのは10人程度。それでもアラゴン州に入ったことで、サラゴサへ向けての客の流れが出てきた。ここまでは途中からの乗車は僅かで下車がほとんどであった。やはり州内完結の人の流れはあるようだ。ホームに残っている人は、12時53分発バルセロナ行きを待つ客であろう。
列車が遅れていることもあり、主要駅カスペも、乗降が済むとすぐ発車した。ここからサラゴサまでは、1日3往復になる。カスペはアラゴン州だから、州都サラゴサとの交流の方が強いのではと思うが、それ以上にバルセロナの吸引力が強いのだろうか。
カスペの町を出はずれてからは、これまでより緑の少ない赤茶けた風景が広がる。カスペの次はサンペール(Samper)で、この駅間は31キロもあり、今回乗車区間で最長駅間距離である。中間にはチプラナ(Chiprana)という信号場があり、そこで本列車の姉妹列車、サラゴサ発バルセロナ行きと行き違う。
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| カスペの先は赤茶けた大地が続く | 駅のようなチプラナ信号場 |
チプラナは停車した。信号場で、周囲も閑散とした所だが、大きな駅舎があり、綺麗な駅名標もある。こちらの列車が18分遅れているので、反対列車を待たせていて、こちらは通過するのかと思って見ていたが、反対列車がそれ以上遅れているらしく、4分ほど停まり、反対列車が中速で走り去った。
チプラナを出ると、太陽光パネルが目立つようになる。日本では農地や森林を切り拓いての設置が多く、近年は批判が強いが、このあたりは草木も生えぬ赤茶けた大地が続いている。こういう所こそ適地かもしれない。見事なパネルの列を見るともなく見ているうちに、次のサンペールに着く。31キロも走ってやっと着いた次駅だが、広い構内は草ぼうぼうで、周囲も閑散としていた。それでも2名、乗ってきた。
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| 太陽光パネルが目立つようになる | 大きいが閑散としたサンペール駅 |
カスペ以南の、森林や川など、変化に富んだ車窓に比べると、こちらは文字通り、不毛な台地が続き、やや退屈な景色が多い。途中の駅も小さな集落で、見るべきものもなさそうである。ごく時たま牛舎らしき建物を見るが、放牧されている家畜は一度も見かけなかった。他は、ラ・サイダ・サスタゴ(La Zaida-Sastago)の駅横にある大きな化学工場が異様な雰囲気を出していたのが目立ったぐらいである。
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| 赤茶けた単調な風景が続く | 異彩を放っていた化学工場 |
ラ・サイダ・サスタゴを出てほどなく、前から若い男性車掌が検札に来た。タラゴナで乗って以来、車掌が車内に回ってきたのもこれが初めてだと思う。恐らく前半は乗っていなかったのではないか。さきほどチプラナ信号場で行き違ったバルセロナ行きに乗っていて、サンペールあたりで降りてこちらに乗り換えてきたのかもしれない。全列車全区間に車掌を乗せず、こうして部分的に検札をしているようである。
サラゴサにやや近づいたキント(Quinto)という駅も、駅自体は閑散としていたが、近くの集落は、昔ながらの古い民家が並び、丘の上に教会があり、一枚の絵になっていた。
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| キント駅近くの集落と教会 | 高速新線の下をくぐる |
そして、この線をローカル線に追いやった高速新線の高架が見えてきて、その下をくぐる。その先にフエンテス・デ・エブロ(Fuentes De Ebro)という駅があるが、この列車は通過。1日3往復しかないこの区間にあって、停車列車は1往復だけという駅である。
その先、やっと都市近郊らしく人家などが現れ出したのは、サラゴサ・ミラフロレス(Zaragoza-Miraflores)到着の7分前ぐらいである。そして線路が分岐したり合流したりして、列車がスピードを落とすと、降りる支度をする人もいて、やっとサラゴサという感じになるのだが、そこで列車はトンネルに入ってしまった。
サラゴサ・ミラフロレスは、サラゴサ市内最初の駅で、地下駅であった。若干の下車客がある。
サラゴサ・ミラフロレスから、終点のサラゴサ・デリシアスまでは地下区間で、5キロの途中に2つの駅がある。サラゴサ・ミラフロレスで折り返す近郊列車がある程度走っており、それはサラゴサ・デリシアスを越えて先へ行く。そんな風に僅か5キロ区間だけは、都市内輸送が行われている。
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| 地下のサラゴサ・ミラフロレス駅に到着 | 終着サラゴサ・デリシアス駅に到着 |
サラゴサ・ゴヤ(Zaragoza-Goya)は、シティーセンターの商業地域に一番近い駅らしく、かなりの客が下車。最後の途中駅、サラゴサ・ポルティーヨ(Zaragoza-Portillo)は、僅かしか降りなかった。

終点のサラゴサ・デリシアスには14時18分、時刻表より12分遅れで着いた。気が付けば途中である程度は遅れが回復されていたことになる。ここは高速列車も停車する主要ターミナル駅で、屋根に覆われた、近代的な半地下駅である。この場所には古くは旅客駅があったが、近年は貨物ターミナルになっていた。そこに、高速新線と合わせて新たに整備・設置された。だから昔からある古びた駅を改造したわけでもなく、実質は2003年に高速新線開通とともに新規開業した新しい駅と言っていい。旅の情緒を味わうには物足りない終着駅である。
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| 入れ違いにミラフロレス行き近郊列車が発車 | 上から見た駅構内で手前は高速列車AVE |
この駅ができる前の時刻表を見ると、長距離列車のサラゴサの駅は、サラゴサ・エル・ポルティーヨ(Zaragoza El Portillo)になっている。サラゴサのターミナル駅は、2003年5月にエル・ポルティーヨからデリシアスに移り、エル・ポルティーヨは一旦廃止された。その同じ場所に2008年に、今通ってきた地下の新駅、「エル」を外したサラゴサ・ポルティーヨ駅が開業したというのが、経緯である。
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| 広々として無機質なコンコース | まだ出来たばかりのような駅舎 |
デリシアスのターミナル駅開業から既に22年、しかし駅の外へ出てみると、新興開発地の雰囲気で、駅前商店の一つもなく、まだ開発途上の風景であった。日本でも新横浜のような新幹線新駅が20年ぐらいはあまり発展しなかったので、似たようなものかもしれない。この日は時間があまりなく、デリシアス駅周辺だけを歩き回り、正直あまり面白くなかったのだが、下車客の多かったゴヤ駅周辺に行けば、この都市の活気も感じられるのでは、と、その時は思った。しかし、かつてのターミナル跡にできたポルティーヨ駅の下車客が少なかったのも、それはそれで気になる。今どうなっているのか、次にこの街に来る機会があれば、そちらの方へ行ってみたいと思う。
サラゴサは、人口ではマドリード、バルセロナ、バレンシアに次ぐスペインで第4位のほぼ70万人の大都市である。農産物の集散地としても機能しているが、自動車、鉄道車輌、家電などの工業も盛んで、人口も右肩上がりで増えている。デリシアス駅周辺は、そういった発展する産業都市の新たな核として、これからも近代的に発展していくように思われる。他方で観光その他でのこの街の魅力を感じるなら、このターミナル駅周辺だけで終わらせてはいけない。やはりそれなりの都市を歩いて理解するには、事前の情報収集や計画も必要だなと思った。
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| 駅周辺はまだ開発途上 | 徒歩5分余りで古くからの町に入る |
ただ、今回の旅は、サラゴサの街はどうでも良かった、とは言い過ぎだが、特に期待はしていなかった。この旅の主眼はそれより、落ちぶれた旧主要幹線のローカル旅そのものにあった。
本章は「かつての二大都市を結ぶ大幹線が高速鉄道の開業によってローカル線に格落ちした姿」の紹介である。しかしこれにも色々なパターンがあるだろう。スペインの二大都市だからと言って、東京・大阪間に例えても全くピンとこないというか、的外れと言える。そもそも高速新線開業以前から単線だったわけで、そう考えるとイメージ的に近いのは、例えば熊本~鹿児島とか、あるいはこれからだが、函館~札幌ぐらいが、いくらか条件が似ているかもしれない。
とはいえ、並行在来線であろうとなかろうと関係なく、この在来線は、汽車旅としては素晴らしかった。同じ区間の高速新線にも一度乗ったことはあるが、快適ではあっても車窓はつまらなかった。在来線、特にレウスからカスペは、鄙びた良い景色が続く。スペインに旅行したら、二大都市の両方を訪れる人も多いだろう。その際、当たり前のように両都市間を2時間半で結ぶノンストップの高速鉄道で移動するのではなく、本章を読んで、一部区間でも、この在来線を取り入れて下さる方がいらっしゃれば望外の喜びである。