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ジェチーン〜ポトゥーチキ 目次


目次 (1) ジェチーン Děčín
ジェチーン〜モスト Děčín - Most
モスト〜カルロヴィ・ヴァリ Most - Karlovy Vary
(2) カルロヴィ・ヴァリ〜ポトゥーチキ Karlovy Vary - Potůčky
ポトゥーチキ Potůčky
カルロヴィ・ヴァリ Karlovy Vary

ジェチーン Děčín


 訳あって、ドイツ国境に近いチェコは北ボヘミアの町ジェチーン(Děčín)に連泊することになった。ジェチーン自体には何の用事もない。そこで間の1日を使って汽車に乗りに行く。

 今回はほとんど下調べをしていなかったので、まず幹線をある程度の距離を乗って、行ったことのない街へ行き、ローカル線にも乗ってみよう、という感じの、割と適当なプランである。だが、休暇を使った自由気ままな汽車旅というのは、こういうのが本来ではないかとも思う。それが、旅行記を書き始めてから、次第に事前の予習を詳しくするようになってしまった。無論、プラスの面もあるが、なまじ調べてしまうと、これも見よう、あれも確認しようと、欲が出てきて疲れる。今日は少し初心に戻り、のんびり汽車に乗ってみようと思う。とは言っても全く無計画で気まぐれな旅というわけでもなく、ざっとは調べてきたし、前晩もホテルでインターネットにつないで情報収集はした。そうでないと、やはり効率が悪いし、退屈な乗換駅で長時間待たされることにもなりかねない。

 日の短いこの時期に、ある程度は列車にも乗って移動をし、ローカル線を堪能し、町歩きも、という風になれば、候補は絞られてくる。それでもチェコはローカル線の密度が濃いから、選択肢はなかなか豊富で、最初は目移りした。

 トーマス・クックの鉄道地図を見ていると、温泉で名高いカルロヴィ・ヴァリ(Karlovy Vary)から出ている支線が2本ある。まずは私がまだ行ったことのない方面なので、目が行った。そのどちらも景勝路線を示す黄緑色が塗られている。だから、どちらかには乗れるだろう。というわけで、カルロヴィ・ヴァリ方面へ向かうことにした。

 前の日の夕方、ドイツから国境を越えて、ジェチーンに着いた。宿に荷物を預けた後、夕方の町を歩いてみる。だが晩秋の東欧の日没は早い。16時を過ぎれば薄暗くなり、17時はもう真っ暗だ。同じ欧州時間でも、スペインのマラガあたりだと、日没が1時間40分も遅い。こういう所に来ると、あちらが冬の保養地として人気があることを、体感的にも納得してしまう。

 ジェチーン駅付近の通り  ラベ川の東西を結ぶ橋の一つ(後日撮影)

 この街はエルベ川(但しチェコではラベ川と言う)で分断されていて、市街地が2つに分かれている。左岸にある方が本当の市街地で、大きくて賑やかなのだが、こちらの町中には駅がない。はずれに小駅があるだけだ。本駅があるのは右岸で、駅周辺に二回りぐらい小さな市街地が広がっている。両者は橋を介して歩いて20〜30分程度で、バスが頻繁に走っているが、トラムはない。

 ジェチーン駅付近(後日撮影)  ジェチーン駅舎

 滞在中、街をブラブラと歩いてみたが、それなりに味はあるものの、強い特徴のある街でもない。城などの旧跡もあるが、どちらかというと、動物園や大型プールなどの地元住民向け娯楽施設が売りの街みたいである。それでも、ラベ川が悠々と街を流れていて、それはそれで一枚の絵になる。本駅は、ドイツから国境を越えてきた国際列車が最初に停車するチェコの駅なので、古くからの鉄道の要衝である。駅に併設して小さな鉄道博物館もある。人口は5万をちょっと超える程度。


ジェチーン〜モスト Děčín - Most


 ジェチーンからカルロヴィ・ヴァリは、路線図では概ね真っ直ぐに見えるが、乗り換え無しの列車はない。途中にウースチー・ナド・ラベン(Ústí nad Labem)という、ジェチーンより大きな商工業都市があり、そこがプラハ方面への分岐点なので、プラハが中心という運転ダイヤだから、そうなってしまうのである。普通列車はジェチーンからウースチー・ナド・ラベンを超えて先へ行くが、それもカルロヴィ・ヴァリまでは行かない。

 右の時刻表にあるように、カルロヴィ・ヴァリに12時46分に着く、プラハからの急行列車がある。これがローカル線への接続も良いので、これに余裕で間に合うようにと思って、朝9時過ぎにジェチーン駅へやってきた。この急行にウースチー・ナド・ラベンで乗り継ぐなら、ジェチーンを10時16分に乗ればよい。それより前、9時28分に、モスト(Most)行きの普通列車があるので、まずこれに乗ることにする。ウースチー・ナド・ラベンとモストの間の急行停車駅なら、どこで乗り換えてもいいので、車窓風景を見ながら適当に降りてみようと思う。

 まず駅の切符売場で、チェコ全線を1日乗り放題の切符を買う。550コルナ(約2,860円)。日本や西欧の感覚からすれば安いが、それ以上に普通運賃も安いので、実は速度の遅い鈍行に乗るばかりでは、簡単には元が取れない切符である。

 ジェチーンに停車中のモスト行き

 ジェチーン始発のモスト行きは、3輌編成の新しい電車であった。朝の通勤時間も過ぎたので、空いてはいるが、ガラガラではなく、パラパラと人が乗っている。地元のローカル客ばかりのようだが、中高年ばかりでなく、若い人も結構いる。田舎の過疎地ではなく、それなりの都市圏であることが、この時間帯の混み具合と客層でも感じられる。

 ジェチーンからウースチー・ナド・ラベンまでは、23キロ。ラベ川の滔々たる流れに概ね沿っていく景色のいい区間だが、同時に都市間でもあり、開発も進んでいるようである。またここはドイツのベルリン、ドレスデン方面からジェチーンを経由してプラハへとつながる国際幹線ルートでもある。だから複線電化の立派な幹線である。

 小駅でジェチーン行きを待つ客  古い工場が目の前にあるポヴルリ駅

 我が各駅停車はそんな所を小さい駅にちょこちょこと停まりながら進む。駅間距離は短い。各駅で地元の客が数名、乗り降りする。川の対岸に線路が見える区間もある。大河に沿って両岸に鉄道路線が敷かれている所といえば、ドイツのライン川中流域が真っ先に思い浮かぶが、ここもそうだし、欧州大陸では他にもいくつかある。考えてみれば、日本では見られない鉄道風景である。その対岸の路線を貨物列車が走っているのが一度見えた。

 ラベ川に沿って快走する列車から  ウースチー・ナド・ラベン本駅

 そうしてウースチー・ナド・ラベンが近づくと、人家やビルが増える。ジェチーンよりはるかに多い、人口9万弱を誇る主要都市だが、正直、今回まで、ジェチーンがこの辺の最大都市なんだろうというぐらいの認識で、この街のことはほとんど何も知らなかった。工業都市で、観光ガイドブックに紹介されないから、一般的には海外での知名度も低いようである。

 主要駅の一つテプリチェ駅  構内踏切も多く残る途中の小駅

 ウースチー・ナド・ラベン・フラヴニ(本駅)で、ラベ川に沿って南下するプラハ方面の幹線と分岐する。どちらかと言うとあちらが主要幹線だが、右へゆっくり分かれていくこちらも北ボヘミアを貫通する主要路線だ。

 この先、こちらは、ラベ川の流れと分かれ、内陸の取りとめのない所を行く。適度に田舎で適度に開けた地域で、密集した都市はないが、人口密度は低くなさそうである。工場が現れたりもする。こういう所は旅の車窓としては中途半端で、それほど面白くない。新型電車は自動放送もあり、加減速も順調である。にもかかわらず、少しずつ時刻表より遅れているのが気になる。

 結局、車窓から見た限り、特に降りてみたい駅もなく、終点モストまで来てしまった。時刻表より10分近く遅れている。そのモストも、車内から見る限り、特に降りたいような駅ではなかったが、ジェチーンからの鈍行は全てここまでである。

 モストに到着  ガランとしたモスト駅舎内

 モストは、チェコ有数の、イメージが悪い街らしい。駅は古びていて、だいぶあちこち痛んでいる印象だが、ホームの一つは使用停止中で、大規模な改修工事をやっていた。駅舎も共産主義時代の雰囲気そのもので、中は広くてガランとしていた。

 工事中のモスト駅前  ほぼ駅前を走る立派な高速道路

 駅前も工事中であった。駅前広場を整備しているのか、その一帯は工事の柵があって入れない。柵に沿った歩行者用仮設通路を行き、下を走る立派な高速道路を見て、歩くこと3分、左にトラムの駅が現れた。そう、モストにはトラムがあるのだ。

 モストの典型的な風景  モスト駅前電停

 トラムがあるほど大きな街、と言い切れるものでもないかもしれないが、モータリゼーションが進めば、あまりに小さな町でのトラム運営は厳しいだろう。ここは今後どうなのだろう。トラムの停留所は近代化改修工事が終わったばかりなのか、新しくて綺麗であった。路線は専用軌道のようで、駅の先が折り返し点なのか、そこに小型路面電車が1輌、ポツンとたたずんでいて、いい雰囲気を出している。

 時刻表を見ると、15分に1本。乗るとどこへ連れていかれるのかわからないが、時間があれば一度乗ってみたい。トラムの線路に平行して大きな道路が走っており、それを渡れば画一的なアパートがいくつもある。

 モストの駅舎内にある列車発車案内板  真ん中のホームが工事中のモスト駅

 しばらく待っていると、折り返し点の脇の小屋から現れた運転手がトラムに乗り込む。そして静かに発車し、こちらへやってきた。停留所で待っていた客が10人ぐらい乗り込む。私も乗ってみたいが、今日は次のヘブ(Cheb)行き急行でカルロヴィ・ヴァリへ行くと決めているので、乗るわけにはいかない。それにしても、こうしてトラムが走っているというだけで、モストの印象が断然良くなる。これは鉄道好きな私だからで、普通の旅行者なら関係ないだろうか、などと考える。

モスト〜カルロヴィ・ヴァリ Most - Karlovy Vary


 駅舎へ戻ると、モスト11時33分発のヘブ行きR610列車は、10分遅れということである。どうしてわかったかというと、放送がチェコ語に続いて英語でもそれを告げていたからである。一昔前なら二ヶ国語放送をやるとしても、チェコ語とドイツ語だったろう。チェコも変わってきた。英語ぐらいしかろくにできない私には便利なことだが、味気なくなってくるなとも思う。

 今さら行く所とてないので、早めにホームに上がって、見るともなく、隣ホームの工事の様子などを眺めていた。放送通り、列車は約10分遅れてやってきた。電気機関車に続き、客車が4輌つながっていた。コンパートメント車ばかりのようで、編成こそ短いが、昔ながらの欧州の汽車である。

 モストでそこそこの乗降はあったが、列車は混んではいない。空きのコンパートメントもあったので、そこに座る。独占空間かなと思ったら、後から老夫婦が入ってきた。それでもその程度の混み具合で、窓側の席で、ゆったり足も伸ばしながらのんびり景色を見ていられる。日本的感覚で言うと、こんな汽車に安い普通乗車券だけで乗れるのだから、チェコの人が羨ましい。いかにも長距離向けという雰囲気の汽車だが、単距離利用の客が多いようで、老夫婦も20分ほど先のホムトフ・メスト(Chomutov město)という所で降りてしまい、その先はまた一人になった。

 ホムトフ・メスト駅  立派で綺麗なオストロフ・ナト・オフジー駅

 モストでの10分遅れをそのまま引きずって、カルロヴィ・ヴァリにも10分遅れの12時56分に着いた。さて、12時58分発のマリアーンスケー・ラーズニェ(Mariánské Lázně)行きというのに間に合うだろうか。

 カルロヴィ・ヴァリに到着

 心配するまでもなく、ホームの反対側に、マリアーンスケー・ラーズニェという行先を表示した新型の綺麗な列車が停車しており、乗客をパラパラと乗せて発車を待っていた。急ぎ乗り込む。

 だが、これが下調べ不十分な今回の旅の失敗第一弾であった。この列車は確かにマリアーンスケー・ラーズニェ行きである。しかし、目標としていたローカル線経由ではなく、本線のヘブ回りなのである。幸いにも新型車輌であり、車内のモニターに停車駅案内などが流れていたので、気づいて降りた。確かに発車時刻も13時08分とあり、調べて来た12時58分とは違う。ちなみにカルロヴィ・ヴァリからマリアーンスケー・ラーズニェまでは、本線だと三角形の2辺を回るので距離が85キロ、それに対して真っ直ぐ南下するローカル線だと56キロで、ローカル線の方が距離も短い。その上、まさか本線経由で同じ行き先の列車があるとは思っていなかったので、ついそうかと思って乗ってしまった。

 しからば12時58分は、そうこうしているうちに別のホームから出てしまったのかというと、そうではなかった。12時58分発のマリアーンスケー・ラーズニェ行きは、ここカルロヴィ・ヴァリ駅が始発ではなく、カルロヴィ・ヴァリ・ドルニ(Karlovy Vary Dolní)が始発なのである。駅が違うので、2分の接続ではもとより、モストから乗った急行が定刻に着いたとしても、乗り継ぐことなどできないのであった。

 実は下調べの時点で、駅名が違いそうなことに薄々は気づいていた。しかし、行けば何とかなるだろうと、十分にチェックせず出てきてしまったので、こうなってしまった。それにしても、変わった運転系統である。稠密で複雑な鉄道網のある日本でも、こんな例は思い当たらない。つまりは五能線が東能代ではなくて能代始発で、八戸線が八戸ではなく本八戸始発で発車しているような感じである。だから、その街の中心に近い所からは乗れるが、本線から乗り換えができない。乗り換えができないというわけではなく、その間を走る列車もある。だが、うまく接続しているわけではない。変な例えで恐縮だが、強いて説明するなら、横浜線が桜木町行きで、根岸線が桜木町始発で大船へ向かう、とでも思ってもらえばいい。だから東海道本線で横浜まで来た人が根岸線沿線へ向かおうと思っても、本数の少ない横浜線で桜木町まで1駅移動しなければならず、その桜木町でも双方の接続が図られているわけではない、といった感じである。もちろん運転本数は各線とも、横浜あたりよりずっと少ない。

 この例えで横浜線に相当するのが、北上してヨハンジョルゲンシュタット(Johanngeorgenstadt)まで行く、もう一つのローカル線である。こちらも景勝マークがついていて、今日のローカル線訪問の第二候補であった。日の長い季節なら両方に乗れそうだったのだが、今の時期だと、この時間から明るいうちに両方は乗れない。だから、どちらに乗るか、実ははっきり決めていなかった。そのもう1本のローカル線が、13時06分発で、それは間違いなくこの本線のカルロヴィ・ヴァリ駅の発車時刻で、駅舎内のパタパタ式の発車時刻表にも出ている。その列車は、桜木町に当たる、ドルニ駅が始発で、そこから来るのである。

 古びて小さいカルロヴィ・ヴァリ駅舎  カルロヴィ・ヴァリ駅の入口

 本線経由のマリアーンスケー・ラーズニェ行き鈍行だって、乗ったことのない区間を行くわけだから、そちらにする考えも頭をよぎったが、ここは咄嗟の判断で、13時06分発、ヨハンジョルゲンシュタット行きに乗ることに決めた。その列車が来るまで数分あるので、急いで駅前へ出てみた。駅は高台にあって、駅前に建物一つとない。木々の隙間から下の街が遠くに見えている。

 駅舎から駅前を見る  2本のローカル列車が並ぶ

 カルロヴィ・ヴァリと言えば、観光ガイドブックにも出て来る著名な温泉保養地であり、都市としてもそれなりの規模だと思っていた。それだけに、この駅の小ささと駅前の寂しさには驚きであった。まず、駅舎が小さくてぼろい。むしろ利用者も僅かの田舎に、古くて大きな駅舎が痛みながらも残っている所が多いのに、それらと比べても、この主要駅の駅舎は小さい。しかも痛んでいる。今乗ってきた急行列車の一つ手前の停車駅、オストロフ・ナト・オフジー(Ostrov nad Ohří)の方が、ずっと立派で綺麗な駅舎だった。


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