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リベレツ〜リブニシュチェ 目次


目次 (1) チェコ・ドイツ・ポーランド 三国国境の旅
リベレツ Liberec
リベレツ〜ツィッタウ Liberec - Zittau
ツィッタウ〜リブニシュチェ Zittau - Rybniště
(2) リブニシュチェ Rybniště
ツィッタウ Zittau
クシェヴィナ・ズゴゼレカ Krzewina Zgorzelecka
訪問を終えて

チェコ・ドイツ・ポーランド 三国国境の旅


ドイツとチェコ、ポーランドの三国国境あたりの地図や時刻表を調べているうちに、リベレツ(Liberec)からリブニシュチェ(Rybniště)という所まで、56キロの路線を見つけた。 リベレツはチェコ北部の工業都市で、リブニシュチェも同じくチェコの村であり、列車もチェコ国鉄による運行である。しかしこの列車は、途中でドイツに入り、旧東ドイツ、ザクセン州の小都市、ツィッタウ(Zittau)を通る。

さらに詳しい地図を見ると、面白い発見があった。チェコからドイツへ入る手前で、線路は少しだけポーランドを走るのである。ポーランド領内には駅はない。


Thomas Cook Rail Map Europe 18th Edition より引用

トーマス・クックの鉄道路線図を見ると、この付近、特にチェコ側は、かなりの路線が入り乱れている。それなりの人口の集積がある地域なのだろうか。しかも、国境をたどっていくと、国境をちょっとだけまたぐ路線がいくつかあって、興味をそそられる。


Thomas Cook European Rail Timetable Winter 2011/12 edition より引用

2007年にチェコとポーランドもシェンゲン協定に加盟し、今は国境審査は完全に廃止されている。しかし少し前まではそうではなかった。そんな頃に来てみたかったが、今さら仕方ない。

正月明けの週末の土曜日、まずはこのチェコ国鉄による、56キロの「国際ローカル列車」に乗ってみた。そして、ツィッタウに戻ってから、今度はドイツの「国内線」を北上し、完全なドイツ国鉄の駅でありながら、ポーランド領内にある不思議な駅、クシェヴィナ・ズゴゼレカ(Krzewina Zgorzelecka)駅も訪問してみた。

リベレツ Liberec


リベレツ(Liberec)は、チェコ最北部に位置するリベレツ州の州都で、ドイツ、ポーランドとの国境が近い。人口は10万ちょっとで、チェコ第6の都市である。歴史的にドイツに属した時期もあり、今もドイツ系住民が多いらしい。ドイツ語名ではライヒェンベルク(Reichenberg)と言う。

街を流れるのはナイセ川で、ここから北上し、ドイツとポーランドの国境をしばらく流れ、オーデル川に合流し、最後はバルト海に注ぐ。周辺は山岳地帯で、冬は豪雪地帯でもある。スキー場が多く、スキーの国際大会などで名前が出てくるようだ。

首都プラハからの鉄道距離は130キロで、列車で2時間30分かかる。チェコも主要幹線は順次、列車の高速化が進んでいるようだが、ここはまだその恩恵を受けておらず、特急にあたるEC列車なども運転されていない。プラハとほぼ等距離にある著名な主要都市は、ドイツのドレスデンで、鉄道距離は132キロだが、所要時間は2時間10分で、ドイツ内のスピードが速いため、プラハよりやや短くなっている。

チェコの人にとっては主要都市の一つであろうが、観光ガイドブックにはあまり出てこない、地味な商工業都市だ。古くは繊維工業が盛んであったという。歴史的な見どころもあるだろうし、産業遺産も色々ありそうだが、外国人観光客が押し寄せるような街ではなさそうである。こういう街は、実際に来てみないと、どんな所かイメージが湧きにくい。


 街の中心ではないが、大きなビルも多い駅前  駅前風景の第一印象は、やはり工業都市か

駅は街の中心とは離れており、特に繁華な所ではない。しかし路面電車(トラム)が通っており、旧式のトラムが坂を上がってくる風情は味わい深いものがあった。残念ながら、街をゆっくり見物する時間がないので、駅を見てみる。

 リベレツ駅舎  駅前に発着するトラム

ホームなどは古びた印象の駅だが、駅舎内など、部分的には綺麗に改装されている。ドレスデン行きの国際列車などもあり、大きな荷物を持った人もいるが、身軽な近郊の利用者がはるかに多い。長距離旅客もバスに流れているのかもしれない。国境駅としての役割もあるせいか、広い構内を持った重厚な駅である。もっとも欧州でこういう駅は珍しくない。

  駅舎内にある発車案内掲示

乗るのは5番線から発車する11時02分発のリブニシュチェ行きである。この全区間を通して走る列車は、1日5本、逆方向は8本で、あとは途中で乗り換えになる。

 リベレツは典型的な古い重厚な駅  10時55分にリブニシュチェ行き列車が入線

やってきた列車は、新型気動車の2輌編成。少しずつスタイルは異なるものの、最近欧州のあちこちで増えている軽快タイプで、旧型を急速に駆逐しつつある。昔ながらの客車列車か古い気動車を期待していたので、ちょっと残念だ。

リベレツ〜ツィッタウ Liberec - Zittau


さらりと乗客を乗せて11時02分、リベレツを定刻に発車。出るとすぐ体格の良い女性の車掌が検札に来た。乗り放題の切符を提示すると「ツィッタウまで行くのか」と聞く。チェコ語がわかるわけではないが、そういう質問をしていることは想像がつく。いや、もしかするとドイツ語だったのかもしれない。このあたりはチェコではあるが、歴史的にドイツとの国境紛争が絶えなかった所で、今もドイツ系住民が多く、ドイツ語も日常的に使われているという。


車内に掲出されていた地図

列車はリベレツの町をあっさり抜けると長閑な田舎の風景になる。単線非電化である。最初の駅までは結構距離があるが、そこから先はちょこちょこと小さい駅がある。といっても、全ての駅に停車しない。このあたりの大半の、単線にホームだけの停留所は「リクエスト・ストップ」で、乗降客がいなければ通過する。都市部を除くとチェコあたりでも列車の利用者は減っており、ローカル線の維持は大変なのであろう。わざわさ停まっても一人乗降するかしないか、といった駅が沢山ある。この新型車輌には、バス同様に降車を知らせる押しボタンもついている。降りる客はこれを押し、乗る客は列車に向かって合図をするらしい。乗降ともいない駅は、徐行で通過する。

 リクエスト・ストップの無人駅  交換設備のある少し大きな駅

というわけで、時に小駅を通過し、時にボタンを押した客が下車しながら、全体としては少しずつ客を降ろして空いてくる。リベレツから7駅23分の、フラデツ・ナド・ニソウ(Hradec nad Nisou)まで来た。リベレツ以来、沿線の風景に特段の変化はないが、ナイセ川に沿って下ってきたせいか、リベレツでは地面にパラパラと見られた雪が、ここまで来ると消えている。

ここがチェコ最後の駅である。ここはまた、チェコ、ポーランド、ドイツの三国国境の地点に最も近い駅で、その地点までの直線距離が2.3キロぐらいしかない。時間があれば歩いて行ってみたい気がする。

列車はここで7分も停車し、反対列車と行き違う。ここで降りる人が結構いたが、乗ってくる人もいて、ガラガラにはならない。それにしても7分停車は少し長い気がするが、これは、ここで出国審査があった頃のダイヤの名残りかもしれない。チェコとポーランドがシェンゲン協定に加盟してから、まだ4年ちょっとである。それ以前はここでチェコの出国審査が行われていたのだろう。小さな田舎の駅の割に駅舎が大きいのも、駅舎内に出入国管理事務所があったためと思われる。

 フラデツ・ナド・ニソウで行き違う反対列車  フラデツ・ナド・ニソウの立派な駅舎

フラデツ・ナド・ニソウの次が、ドイツのツィッタウで、この間は1駅6キロと、この線の中では破格の長さだ。そこを列車は11分もかけて走るから、この一駅間だけを見るとかなりの鈍足である。実際、線路の保守状態が悪くなるようで、草ぼうぼうの中を走るようになる。これは何故だろう。チェコの国鉄の線路でありながら、他国の土地を走るから、国内と違って気軽に整備できないのだろうか。草むしり一つするにも立入許可の手続きが面倒なのかもしれない。

 フラデツ・ナド・ニソウ発車前の車内  チェコとポーランドの国境あたりの前方の眺め

地図で測ってみると、この駅間約6キロのうち、チェコが約1.5キロ、ポーランドが約2.7キロ、そしてドイツが約2.2キロ、といったところであろうか。通過するポーランドの区間は、ポラユフ(Porajow)という人口2500人ぐらいの村だそうだ。ここも戦前はドイツ領だったらしい。チェコとポーランドの国境は車窓風景からは判然としないが、時計を見ながら、もうポーランドに入った頃だろうと思い、左右の車窓をキョロキョロと見ていると、踏切があった。右側に車が3台、踏切が開くのを待っているが、3台ともポーランドのナンバーであった。ゆえにここはポーランドに違いない。列車のスピードが遅いから、車のナンバープレートの"PL"の文字が確認できたのである。ポーランド領内の大半は、閑散とした畑と荒れ地であったが、小さな集落もあり、それなりの数の家が固まっていた。駅を作れば多少は利用者がいるだろう。

 3キロ弱に渡りポーランド領内を通過する  ナイセ川を渡り、ポーランド(左)からドイツ(右)へ入る

ポーランドとドイツの国境は、ナイセ川である。これが間違いなくそうであろう、という鉄橋を渡る。渡るとドイツで、そこはもうツィッタウの町はずれである。徐々に家が増えて、ビルなども現れ、構内が広くなり、列車は定刻にツィッタウに滑り込んだ。

ツィッタウ〜リブニシュチェ Zittau - Rybniště


検札の車掌が私に「ツィッタウまでか」と聞いたぐらいだし、ここはドイツ国鉄の一応の主要駅で、乗り換え駅でもある。だから乗客の殆どが入れ替わるのかと思ったが、乗降とも意外と少なく、リベレツから乗り通していてまだ降りない人もいる。停車時間も2分と短く、あっさりと発車した。チェコの列車だから、ドイツではゆっくりしたくない、早くチェコに戻りたい、と言っているかのようである。

ツィッタウからの一駅は、ドレスデンへの幹線を走るため、複線で、スピードも出るが、やはり非電化である。分岐駅のミッテルハヴィヒスドルフ(Mittelherwigsdorf)も、リクエスト・ストップで、この列車は乗降客がおらず、通過する。ドレスデンへの本線がまっすぐ進み、こちらは左へ大きくカーヴする。ホームの手前で分岐を終えている駅で、日本のJRで言えば、北山形とか鶴見線の浅野のような構造である。そして再び単線のローカル線らしくなり、次の駅も通過した。

 グロスシェーナウ手前の平凡な風景  ドイツの駅らしいグロスシェーナウ

ツィッタウから3駅目が、ドイツ最後の国境駅、グロスシェーナウ(Großschönau)である。ここも小さな寒村の風情だが、国境駅のせいか、駅舎は大きい。チェコの時刻表では、ドイツ語独特の文字エスツェット(ダブル・エス)である"ß"が使われておらず、"s"が3つも並んでいたが、れっきとしたドイツ国鉄の駅なので、駅名標はしっかり"ß"で書かれていた。停車時間はわずかで、すぐに発車する。出入国審査があった頃はどうだったのだろうか。

 ドイツのような名前のチェコの駅ヴァルンスドルフ

次が再びチェコに入った所にある、ヴァルンスドルフ(Varnsdolf)で、チェコなのにドイツ語のような地名である。この区間はとりとめもない郊外で、どこが国境かも定かではなかった。しかしヴァルンスドルフは割と大きな町らしく、リベレツから乗り通していた人が何人も下車した。1時間ほどの国内移動なのに、2つもよその国を通過してきたのだから凄いと思ってしまうが、地元の人にとっては何ということもないのであろう。それでも西欧同士なら、そういった歴史も長いが、ここはまだパスポート審査が廃止されて4年しか経っていない。それだけに、それ以前はどうだったのだろうと考えてしまう。地元の人にとっては、4年という年月は、慣れて自然になるに十分な長さではあろうが。

ところで、このヴァルンスドルフからは、1駅だけの盲腸支線が出ている。これがまた面白いことに、その終点はドイツなのである。この支線は限られた地元の人しか乗らない線なのだろう。そのため、トーマスクックの時刻表にも掲載されていない。だから今回の訪問にあたって下調べした時にも気付かなかった。わかっていれば、この区間にも乗ってみるようなスケジュールにできたかもしれないので、ちょっと残念である。

さて、ヴァルンスドルフを出ると、この56キロのミニトリップも最終区間になる。残り11キロで、途中はリクエスト・ストップの駅が3駅。あとはもう似たような感じの風景が続くのだろうと思っていた。ところが、地形の関係か、2駅目のイジェティーン(Jiřetín)まで来ると、雪がうっすら積もっている。

 リクエストストップに似合わない巨大な駅舎  雪も積もっているイジェティーン

雪が舞い始め、進むに連れてどんどんと雪深くなっていく。特に山に入っていくわけではないのに不思議である。そして、すっかり雪国の風情の終点リュブニシュチェへと列車は静かに滑り込んだ。



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