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コブレンツ~トラベン・トラーバッハ 目次


目次 モーゼル川と鉄道 Railways on Mosel
コブレンツ~ブライ Koblenz - Bullay
ブライ~トラベン・トラーバッハ Bullay - Traben-Trarbach
ブライ~トリアー Bullay - Trier

モーゼル川と鉄道 Railways on Mosel


 ライン川の支流、モーゼル川は、モーゼルワインなどでその名を広く知られている。私にとって比較的縁が深い川で、何度となく沿岸各地を訪れ、川に沿う鉄道にも乗った。当サイトでも、上流部をナンシー~ルミルモンで、中流部をメッス~トリアーで、取り上げている。そこで今回は、下流部を鉄道で、コブレンツ(Koblenz)側から遡ってみることにした。

 コブレンツ自体はライン川沿いの都市としての方が有名だろう。モーゼル川がライン川に流れ込む地点にあり、合流点は観光名所にもなっている。当サイトでも、フルダ~コブレンツで、最後にコブレンツ中央駅から歩いてライン川を見に行っている。という風に本サイトで各地を取り上げているが、モーゼル川下流部の鉄道を語らずして、モーゼル川の鉄道を総括することはできない。今回はその部分を各駅停車でたどることにする。

 雑学的だが、コブレンツからモーゼル川を遡ると、沿岸にどんな鉄道があるか、見方を変えれば鉄道の車窓からモーゼル川を眺められる所はどこか、順に記したい。最初が今回テーマにした、コブレンツからブライ(Bullay)を経てトラベン・トラーバッハ(Traben-Trarbach)までで、両岸ともドイツである。ゆったり湾曲して流れるモーゼル川に忠実に沿って線路が敷かれ、眺めも良い。コブレンツ郊外で鉄橋を渡った後は、コッヘム(Cochem)の先まで、ずっと左岸を行く。その先で2つめの鉄橋を渡り、線路は右岸に移る。右岸の町ブライの先で3つ目の鉄橋を渡り、再度左岸に渡った後、線路は本線と支線に分岐し、支線は左岸にピッタリ沿って終着トラベン・トラーバッハへと至る。

 ブライからトリアー(Trier)への本線は、しばしモーゼルから離れ、トリアーの街外れで4度目の橋を渡り、モーゼル右岸に市街地が開ける古都トリアーに着く。その先、トリアー郊外のコンツ(Konz)までは、市街地に近いが車窓からモーゼルが何度か見える。コンツの先で、ルクセンブルク(Luxembourg)へ向かう本線が5度目の鉄橋でモーゼルを渡り、その先、ドイツからルクセンブルクへ入って少しの間まで、モーゼルが眺められる。他方、ここでモーゼルを渡らず直進する路線は、ドイツとフランスの国境駅ペルル(Perl)まで、ずっと右岸を行く。この区間も川の眺めが素晴らしい。対岸は最初はドイツで、途中からルクセンブルクになる。このドイツ・ルクセンブルク国境の前後、僅か2~3キロ程度だが、モーゼルの両岸を鉄道が通っている唯一の区間で、このあたりで河畔に立てば、川の両岸を別の鉄道が通るのを両方眺められる。ライン川にはそういう場所が沢山あるが、モーゼル川ではこのあたりの僅かな区間がそういう唯一の場所となる。

 ペルルを出ると間もなく、線路はドイツからフランスに入る。フランス側は、旅客列車は週末に2往復しか走らず、平日は全てバスになってしまった区間で、ルクセンブルクから南下してきた幹線と合流するティオンヴィル(Thionville)へ至る。そこからメッス(Metz)、ナンシー(Nancy)、エピナル(Épinal)などを経てルミルモン(Remiremont)までのフランス側区間は、モーゼル上流部と言っていいが、風光明媚なドイツ側と比べると工業も発達しており、沿岸にブドウ畑もあまり見られなくなり、風景の魅力は薄れる。ルミルモンが、鉄道が通じているモーゼル最上流の街である。フランス国内では、車窓から何度となくモーゼル川が見えるものの、線路がモーゼル川にピッタリ沿っている所はほとんどなく、車窓から川の眺めはほとんど楽しめない。

 コブレンツ中央駅駅舎

 コブレンツ中央駅は、このあたりの主要駅には違いないが、その割にはそこまで大きくない駅舎がいい感じで周囲のモダンな風景に溶け込んでいる。クリスマスの日、フルダからローカル列車で日没間際のここに着いて、急ぎ歩いてライン川を見に行ったのが、もう10年も前とは、時の流れの速さを実感せざるを得ないが、ともかくこうして再びやってくることができた。あの時とは違い、夏のさなか。最近は欧州も猛暑がひどいが、今日はそこまで暑くなく、晴れたり薄曇りになったりの過ごしやすい天候である。

 コブレンツからトリアーまでの列車ダイヤだが、ローカル線というほどではなく、日中は片道2本が運転されている。途中に大きな街はないものの、コブレンツとトリアーという主要都市を結ぶ幹線なので、通しの利用者もそれなりにいるようだ。加えて沿岸の小さな町や村も、駅と川に沿って開けた集落が多く、鉄道もそこそこ利用されているようである。


 1時間に2本のうち、1本が主要駅停車の快速で、多くはトリアーを経てザールブリュッケン(Saarbrücken)やさらにその先へ、またルクセンブルクへ直通している。他の1本が各駅停車で、これは大体トリアー行きである。だいぶ昔に快速で乗り通して景色の良さに感動したことがあり、次は鈍行でゆっくり乗ってみたいと思ったので、今日は各駅停車を選んだ。コブレンツ11時25分発トリアー行きである。


コブレンツ~ブライ Koblenz - Bullay


 先発の快速を見に9番ホームへ行ってみる。8輌の列車が停車していた。乗車率は2割ぐらいか、空いていて快適そうで、これに乗ってもいいな、と思ったが、やはり予定通り、次の普通列車を待つことにする。

 先発の快速の後ろ3輌はルクセンブルク行き  トリアー行き普通列車

 この快速は11時06分発で、前5輌がトリアーからザールブリュッケン経由でぐるっと回ってマンハイム(Mannheim)まで行く。後ろ3輌はルクセンブルク国鉄の2階建て電車で、トリアーで分割してルクセンブルクまで行く。コブレンツからマンハイムへ行くなら、ライン川沿いにマインツ(Mainz)やフランクフルト(Frankfurt)経由で行くのが断然近くて速いから、この列車は四角形の三辺を通る迂回列車であり、ここからマンハイムまで乗り通す人は皆無であろう。列車はほぼ定刻に発車していった。

 一旦駅前へ行き、発車案内を見ると、乗る予定の普通トリアー行きも、同じ9番ホームだとわかる。快速でも空いていたから、ギリギリに行っても楽に座れるだろうとは思ったが、行く所とてないので、ホームへ戻った。列車は入線していた。コブレンツ始発、トリアー行き、赤い4輌編成の綺麗な電車である。

 ドイツの鉄道が時刻表通りに動いたのは一昔前の話で、最近はかなり変わっているようだ。このコブレンツ始発の普通列車も、早々とホームに入っているのに、案内表示に発車が15分遅れると出た。こちらも乗車率は2割ぐらいで、空いている。それにしても、遅れの他路線との接続を取るわけでもなさそうなのに、入線している始発列車が何故遅れるのだろう。ドイツ鉄道も一昔前に比べ、様々な問題を抱えているらしいのだが、多少でも昔を知っているだけに、ドイツらしくなくなったなと残念な気持ちになる。

 結局21分の遅れで発車。ケルン方面へ向かう線路から左へカーヴで分岐すると、しばらくはコブレンツの市街地外れを沢山の線路をかき分けながら進む。やがて複線になると、まだ市内の駅という感じの駅に停まり、その先でモーゼル川を渡る。歩行者用の橋が並行している。

 3つ目のヴィニンゲン(Winningen)の手前から、左手にピッタリとモーゼル川が沿うようになる。ここからコッヘムまでの約35キロは、モーゼル川が緩やかな曲線を描いているが、極度な蛇行はないので、線路も川に沿ってカーヴを繰り返す、眺めの素晴らしい区間である。時々川を渡る道路橋がある。これがライン川だと、コブレンツからヴィスバーデン(Wiesbaden)まで、90キロ近くも橋がない所があるが、こちらは適度な間隔で橋が架けられているようだ。

 モーゼル川を渡る  ヴィニンゲン付近のモーゼル川と対岸

 ヴィニンゲンの先で、高い道路橋をくぐる。1972年完成のモーゼル橋(Moseltalbrücke)で、高速道路である。景観をぶち壊してはいるが、既に半世紀を経ているせいか、風景にそれなりに馴染んでいるようにも思える。

 モーゼル川を渡る高速道路の橋  ゴンドルフ駅から対岸に見えるブドウ畑

 各駅とも例外なく、ホームからモーゼル川が見える。快速でさっと通り過ぎても川の景色は楽しめるが、各駅停車だとそういう駅に一つ一つ停まってくれる。そうすると今度は、ここで降りてみたい、と思ってしまうし、この区間はどの駅で降りてもいい景色が楽しめそうであった。

 川の眺めがいいレフメン駅ホーム  緩やかに蛇行するモーゼルに沿って走る

 カッテネス(Kattenes)という小さな駅を出ると、対岸にアルケン(Alken)という村と教会の塔、そしてその丘の上にあるトゥラント城(Burg Thurant)というのが見える。それらがブドウ畑に囲まれており、一枚の絵になっている。そんな景色を見ながら列車はそれなりの速度で快走するが、駅間距離も短いので、すぐ減速する。だから快速より沿岸や対岸の景色をゆっくりと眺められる。

 対岸の村とトゥラント城を眺める  ルーフ駅ホームから見える対岸の村

 ルーフ(Löf)という駅は、快速通過駅だが、割と大きな集落で、かなりの客が降りて空いた。橋も架かっていて、対岸にもそれなりの集落があり、ホテルも見える。この時点で列車の遅れは2分増幅し、23分遅れであった。

 そうやって川沿いの小さな駅にちょこちょこと停まりながら、少し大きな駅、コッヘムに着く。コブレンツから3つ目の快速停車駅である。2面3線構造で、モーゼル側のコブレンツ行きホームが駅舎のある1番線、こちらトリアー方面は、本線が2番線で、当列車は待避線である4番線に入った。日本なら3番線だが、ドイツの番線の付け方は良くわからない。

 駅前がブドウ畑のハッツェンポート  コッヘムは退避ホームに着いた

 ここも時刻表では1分停車の筈だが、なかなか発車しない。やがて車掌がドイツ語で何か放送する。もちろん私にはわからないが、ほどなく反対ホームに快速列車が入ってきた。こちらが23分も遅れており、後続の快速に追いつかれるので、ここで退避したわけだ。車掌は「この列車が遅れているため、ここで快速を先に通しますので、快速停車駅へお急ぎの方はお乗り換え下さい」とでも言ったのだろう。実際、何名かがこの列車を降りてそそくさと乗り換えていった。その様子をドアのあたりに立って眺めていた私に、中東系の家族連れのおじさんが、あの列車は何だかわかるかと英語で質問する。私もその時は即答できるほど状況を理解していなかったのだが、どこまで行くのかと聞こうと思ったところで、あちらのドアが閉まった。お互い顔を見合わせて苦笑する。


 快速も3分ほど遅れていたが、とにかく先に発車して前方に見えるトンネルの方へ消えていく。入れ違いに1番ホームにコブレンツ行き普通列車も入ってきた。こちらは結局、定刻より32分遅れでコッヘムを発車した。

 コッヘムまでモーゼル川の流れに忠実に沿ってきた線路だが、コッヘムから上流はモーゼル川が激しく蛇行するようになる。流石に線路も付き合えないということで、コッヘムから次のエディガー・エラー(Ediger-Eller)までの間は、長さ4.2キロのカイザー・ウィルヘルム(Kaiser-Wilhelm)隧道で短絡する。このトンネルは1879年に開通してから1988年までの一世紀余りもの期間、ドイツ最長の鉄道トンネルであった。この一駅は5キロ弱だが、仮にトンネルを掘らず、下流区間のように川に忠実に沿って線路を敷くと、25キロにもなるという。道路の方は、細い山道はあるが、メインの車ルートは今も川に沿った道で、グーグル・マップでこの両駅間の車での移動を調べると、山道経由で17.9キロ22分、川沿いルートで23.2キロ24分と出る。

 荒れた廃駅舎のあるエディガー・エラー  二度目のモーゼル川を渡る

 エディガー・エラーを出ると間もなく、モーゼル川本流をほぼ直角に渡る。渡るとほどなくニーフ(Neef)という駅で、右岸にある最初の駅である。二ーフから次のブライまでは、湾曲激しいエリアにあって、ほぼまっすぐ流れる区間であり、これまでと逆の右手車窓にモーゼル川を見ながら、列車はブライに着く。33分遅れであった。


ブライ~トラベン・トラーバッハ Bullay - Traben-Trarbach


 ブライは、コブレンツとトリアー郊外イーラング(Ehrang)との間、105キロに及ぶ区間で唯一、分岐路線がある駅である。その路線はトラベン・トラーバッハというモーゼル川沿いの町まで13キロ、途中2駅というローカル盲腸線である。モーゼル川沿いには他にも鉄道の通らない小さな町が点在しているが、ここだけは昔から支線が維持されている。しかも、走らせる以上は1時間に1本の利便性を確保するのがドイツのやり方の基本で、ここもその例に漏れない。

 33分遅れでブライ着  ブライ駅付近

 ヨーロピアン・レールマップでも、コブレンツからここまでの本線とともに景勝路線に色付けされているし、そんな終着駅のトラベン・トラーバッハとは、どんな所だろうか。鉄道路線図を見るたびに気になっていた。この支線の存在ゆえ、今回このテーマを取り上げたと言って過言ではない。

 そのトラベン・トラーバッハ行きは、定刻であれば、12分の待ち合わせで乗り継げるのだが、33分も遅れては無理で、1時間後の列車に乗ることになる。ブライ~トラベン・トラーバッハ間のダイヤを見ると、上下とも快速ではなく普通列車と接続を取ったダイヤになっていることがわかる。さきほどコッヘムで追い抜かれた快速はほぼ定刻運転であったが、あれに乗り継いでもどのみちここブライでの接続はなかったわけだ。そして、コッヘムで見たコブレンツ行き普通列車は、ほぼ定刻だったので、あの列車はブライでトラベン・トラーバッハへの客を降ろし、トラベン・トラーバッハからの客を拾っている筈である。

 7番線に停車中のトラベン・トラーバッハ行き  コブレンツ行き普通列車が隣ホームに入線

 遅れたのも仕方ないし、1時間遅れると後が困るようなスケジュールでもないので、ブライの村をざっと歩いてみる。駅周辺は静かな住宅地であったが、民家に混じって小売店や飲食店、宿泊施設などが点在していた。

 そうして駅へ戻ると、2輌編成の気動車が行き止まりホームに入線していた。駅前は寂しいものの、駅舎やバス乗り場のある表口に接した、日本なら0番線に当たる行き止まりホームの7番線に停車している。白が基調で青いラインを入れ、ドアは黄色という、なかなかいい配色である。そして車体には、モーゼルワイン鉄道(Moselweinbahn)と書いてある。この13キロの路線は、公式にもそういう名前で観光プロモーション等もされていることは、後から知った。

 ほどなく隣の島式ホームにコブレンツ行き普通列車が定刻でやってきた。他の列車は概ね定刻運転のようである。結局私が乗ってきた列車だけが大きく遅れていたわけで、コブレンツを1時間後に出ても同じだったわけだ。それでもおかげでブライの村を散歩できたのだから、良しとしたい。

 13時38分発トラベン・トラーバッハ行き気動車はブライを定刻に発車した。ガラガラで、乗客は2輌合わせて10人弱と思われる。単行運転可能な気動車なのに、何故2輌もつないでいるのだろう。

 本線と違って初乗車の路線だが、実際はブライを出ると本線に合流し、しばらくは本線をトリアー方面に走る。間もなくドッペルストック橋(Doppelstockbrücke)で、コブレンツ以来三度目のモーゼル川を渡る。この橋は二階建てで、下が道路、上が鉄道なので、瀬戸大橋と逆で、鉄道からの眺めが良い。検索すると、周囲の丘から橋を見下ろす鉄道写真がいくつもヒットする。全長314メートルと、さほど長くないが、1878年完成の、ドイツで最初のダブルデッカー鉄橋だそうだ。

ガラガラの列車内  ブライの先で渡る鉄橋からの眺め

 鉄橋を渡ると459メートルの短いトンネルがあり、出ると車窓左手にモーゼル川が現れる。仮にこの短いトンネルを掘らず、モーゼルの流れに忠実に迂回すると、13キロもの距離がある。ここから700メートル余りは、地形や土壌の関係か、山肌に直接線路を敷かず、斜面高架橋になっている。それが緩やかなカーブによって車窓からも観察できる、沿線最大の雄大な景色ではないかと思う。但しここまではトリアーへの本線でもあり、この支線に乗らなくても同じ景色は見られる。

 高架橋が終わってほどなく、ポイントを渡る音がし、トリアーへの本線が右手に分かれていく。ここがピュンデリッヒ(Pünderich)信号場で、かつては駅だったそうだ。ピュンデリッヒはモーゼル川対岸の集落名で、かつてはフェリーで連絡していたらしい。やっと単線非電化の支線に入ったわけだが、そこから最初の駅、ライル(Reil)は近い。またライルにはモーゼル川を渡る橋もあるので、ここライルがピュンデリッヒへの最寄り駅で、かろうじて徒歩圏内と言える。ライルでは2名下車客があった。

 通ってきた斜面高架橋を振り返って眺める  ライル駅

 ライルから次のクーフェニヒ(Kövenig)までも、モーゼル川左岸を川にピッタリ沿って行く眺めの良い区間であった。ただ、ブライ側の方が高い所から川を見下ろすことができ、徐々に高度が下がってくる。クーフェニヒは下車客はなかったが、何とここから1名乗車があった。

 ライル~クフェニヒ間の長閑な風景  クーフェニヒ駅

 最後の一駅間はこれまでに比べると、川との間にさえぎる建物なども多く、あまり眺めは良くなかった。それでもモーゼル川を満喫できる魅力的なローカル線には違いない。僅か18分の乗車とはいかにも物足りないが、あっけなく終着、トラベン・トラーバッハに着いた。列車は5分の滞留で折り返すので、乗る人が10名以上ホームで待っていた。

 トラベン・トラーバッハに到着  トラベン・トラーバッハは単線の簡素な終着駅

 トラベン・トラーバッハは、駅の手前が複線で、一方の線路は錆びていた。機関車付け替えか非常用の線路らしく、長らく使われていないようである。駅自体は単線で、ホームなどの設備は小綺麗なので、割と最近に再整備されたと思われる。駅舎もなく、開放的であった。

 モーゼル川に架かる道路橋  モーゼル対岸から町を望む

 列車は1時間毎にあるので、5分で折り返す列車を見送ってからの1時間で、町を歩いてみた。著名な観光名所があるわけではないが、夏の土曜でもあり、そこそこ観光客が来ており、飲食店もパラパラとあった。駅から徒歩5分ちょっとで、モーゼル川を渡る橋がある。モーゼル川によって袋小路のようになったトラベン・トラーバッハの町から南へ脱出する貴重なルートであり、バスも歩行者も通るが、さほどの交通量でもなかった。


 トラベン・トラーバッハはざっと街歩きをするなら1時間がちょうど手頃であった。15時01分発でブライへ戻る。乗客は行きより少し多く、15名程度であった。


ブライ~トリアー Bullay - Trier


 モーゼル川沿いの鉄道、という意味では、目的は終わったし、本稿のタイトルもトラベン・トラーバッハまでとしたのだが、ブライに戻ってもまだ夏の日は高い。そこで、鈍行での完乗という意味も兼ねて、接続する次の普通列車でトリアーまで行ってみる。本来はコブレンツ~ブライの2時間後に乗る予定だったが、遅れのため、3時間後の列車になる。今度は3分程度の僅かな遅れで、やはり同じ近郊型4輌の赤い電車でやってきた。

 ブライに停留する気動車  トリアー行き普通列車が到着

 列車はやはり乗車率2割程度だろうか、空いていて、ボックス席を楽に確保できた。ブライからしばらくは、さきほどの支線と同じ線路を走るので、さきほど眺めた絶景をもう一度見ることになる。このブライを出てから支線が分岐するまでの区間は、モーゼル川沿線の鉄道全ての中でも最高の景色ではないかと思う。

 やがてポイントを渡る音がして、単線非電化のトラベン・トラーバッハ線が左へ分かれていくと、こちらは緩やかな右カーヴでモーゼル川とも徐々に離れていく。そこから先、トリアーに近づくまでは、一転して平凡な車窓風景になる。

 駅名標が割れているザーンタル  駅舎の壁画が見事なシュヴァイヒ

 駅も、モーゼル沿いの各駅と違い、記憶に残るような個性はなく、平凡に見える。何もない所にある駅もあれば、駅前に綺麗な店があったりもして、それぞれの個性はあるのだろうが、どこにでもありそうな田舎の駅前風景であった。

 トリアーが近づくと段々人家が増え、騒音対策のため、壁が築かれて景色が見えない所が増えてきた。ケルン(Köln)からの長距離ローカル線が合流するイーラングは、構内の広い昔ながらの古びた駅であった。周辺はもうトリアー郊外の住宅地である。

 乗降客も多かったイーラング・オルト  最後に4度目のモーゼル川を渡る

 最後の途中駅、ファルツェル(Pfalzel)を出るとすぐ、これまでずっと見えなかったモーゼル川をほぼ直角に渡る。コブレンツから数えて4つ目の橋である。100キロ遡ってきても、川幅は広く、下流と変わらず滔々と流れている。そしてビルなどが増えてトリアー市街地に入り、ほぼ定刻、列車はトリアー中央駅に到着した。乗っていた時は、駅ごとに混んでくるというほどの実感はなかったが、列車から降りた客は、中距離客よりトリアー近郊の短距離利用者の方が多いようであった。

 トリアーの駅舎は、2012年に降りた時も、2015年に降りた時も、一部工事中で絵にならなかった。その前回から早くも7年、流石に今度も工事中ということはなく、夏の昼下がりの駅と駅前はどことなく長閑な雰囲気であった。

 身軽な短距離客が結構降りたトリアー  トリアー駅前

 現地を訪れている時は考えなかったのだが、戻って撮った写真を見ていると、つい三江線を思い出した。川原を作らず滔々と流れる大河、欧州では珍しくないが、日本では北海道を除くと江の川ぐらいで、その江の川の流れに沿ってゆったり走っていたローカル線である。

 三江線・江津本町~千金間 (2016年)

 2018年に廃止されてしまったが、廃止前の時刻表を見ると、全線108.1キロ、最速列車が3時間28分で走破しているので、その列車で表定速度31.2キロ。途中駅33駅、平均駅間距離3.18キロであった。他方のこちら、コブレンツ~トリアー間も、ほぼ等距離の111.6キロであり、上記時刻表にある昼間の西行き普通列車は1時間54分で走破しており、表定速度は58.7キロである。途中駅25駅、平均駅間距離4.29キロという数字も、そこまで大きく違わない。もちろん沿線人口や流動の太さなど、様々な違いはあるが、それをおいても決定的な違いは、三江線のスピードの遅さである。標準軌複線電化と狭軌単線非電化の違いもあるし、簡単に比べることはできないが、それでももし三江線がこのモーゼル線ぐらいのスピードで走ってくれれば、廃止になるほど乗客は減らなかったかもしれない。これは三江線に限らず、日本と欧州のローカル線を乗り比べてしばしば感じることで、今さらながら、日本の鉄道が明治の最初に狭軌を選択したことが、その後の運命を決定してしまったように思われてならない。



欧州ローカル列車の旅:コブレンツ~トラベン・トラーバッハ *完* 訪問日:2023年7月15日(土)


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