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ヘルシンキ〜コラリ 目次


目次 (1) フィンランドの鉄道 Railway in Finland
ヘルシンキ〜コウヴォラ Helsinki - Kouvola
コウヴォラ Kouvola
コウヴォラ〜コトカ Kouvola - Kotka
コトカ Kotka
(2) コウヴォラ〜ピエクサマキ Kouvola - Pieksämäki
ピエクサマキ〜タンペレ Pieksämäki - Tampere
タンペレ〜コラリ Tampere - Kolari

フィンランドの鉄道 Railway in Finland


 ヨーロッパの鉄道路線図をEUを中心に見ると、フィンランドには孤立感がある。鉄道のあるEU各国で、EU内他国との国際旅客列車がないのは、フィンランドだけである。かつてはスウェーデンとの間に列車があったが、旅客輸送は1988年に廃止されている。人口の多いヘルシンキ(Helsinki)を中心とする南部は、海に囲まれており、ストックホルムやエストニアのタリンなどへ、もちろん通常は飛行機であろうが、船便で旅行する人も少なくないという。特にタリンはヘルシンキから船で日帰りできる時間距離にあり、エストニアの物価がフィンランドの半分程度ということもあり、ヘルシンキ市民が空のトランクケースを転がしてタリンへの船に乗り込む買い出し風景が普通に見られるらしい。

 そういう立地であるから、例えばヨーロッパ約30ヶ国に乗り放題のユーレールやインターレールのグローバルパスを手にして、ヨーロッパ中を鉄道中心に思い切り乗り回すような旅行をする場合、フィンランドはどうしても漏れてしまう。もっと狭い範囲の旅行でも、他の国を旅行したついでに足を延ばしてフィンランドに踏み入れるというチャンスもなかなかない。例えばスウェーデンだったら、デンマークのコペンハーゲンへ行ったついでにちょっとだけ寄った人も少なくないと思うが、フィンランドは鉄道旅行をする限り、そういう寄り方のしようがない。それゆえ、私自身もフィンランドはなかなか訪れる機会がなかった。前回は25年も前である。

 無論、他国のついでにちょっと、というような小さな国ではない。広いし、見る所も沢山ある魅力的な国である。そこで今回は、フィンランドだけを訪れることにして、その中でローカル線にも乗ってみることにした。

 スウェーデン北部やノルウェーも同様だが、人口密度の低い北欧では、鉄道の運転頻度は概して少なく、運行本数に関して言えば、超ローカル線が沢山ある。しかしそれらの多くが長距離特急列車であり、食堂車もついており、夜行もモダンな寝台車が長々とつながっていたりするので、列車の外見に関して言えば、ローカル線っぽくない。

 フィンランドに限って言うと、ヘルシンキ都市圏とヘルシンキ〜タンペレ(Tampere)間が例外で、あとは主要都市間でも1時間に1本が最大で、幹線系でももっと少ない線区が多い。とりわけヘルシンキから遠い北部では、もはや地域内ローカル輸送は成り立たないらしく、ヘルシンキとの長距離夜行列車だけしか来ない区間がある。具体的には北極圏内が全てそうで、北極圏手前にあるラップランドの最大都市ロヴァニエミ(Rovaniemi)まではいいのだが、その先は1日1本、ヘルシンキからの夜行だけが、北極圏に入ったケミヤルヴィ(Kemijarvi)という所まで行っている。もう一つ、ロヴァニエミの手前の町ケミ(Kemi)で分かれてスウェーデン国境近くを北上し、コラリ(Kolari)という所まで行く線はさらにすごくて、やはりヘルシンキからの夜行列車だけなのだが、運転本数は週に3往復しかない。終着コラリはフィンランド最北の鉄道駅である。北極圏内にある旅客駅は4駅だけで、ケミヤルヴィとその手前、コラリとその手前という風に、両線に2駅ずつある。

 他の選択肢も色々考えたが、せっかくフィンランドへ行くなら、やはり週3往復しか列車の来ない最北の終着駅コラリを目指そうという結論に落ち着いた。と言っても、いざ実行に移そうとすれば、ヘルシンキを夜に出て翌朝コラリに着いたとして、コラリからヘルシンキへ戻る夜行列車が出るまで、一日をコラリで過ごすのか、という単純な問題にたちまち直面する。鉄道しか頭になければそうなってしまうのだが、調べれば調べるほど、コラリという所は実に何もない。どうしてこんな中途半端な所が終着駅になっているのかも、良くわからない。コラリでレンタカーでも借りられれば言うことないのだが、およそそのようなものが存在する所ではなさそうで、実際、ネットで検索しても、レンタカーはロヴァニエミで借りるようにと誘導されてしまった。それでもなお調べていくうちに、夜行列車の到着を受けて、コラリからさらに北へ向かう定期路線バスが2路線ほど、それも列車の運転日だけ走っていることがわかった。列車接続バスであるから、仮に列車が遅れても待ってくれそうだ。それならコラリからバスでさらに北へ行ってみよう。というより、それが実質唯一の選択肢と思われた。

 コラリにこだわりたいもう一つの理由は、列車種別である。このヘルシンキ発コラリ行き夜行列車は、種別がフィンランド語で"ピカユナ(Pikajuna)"、これは訳せばまさに「急行」なのである。フィンランドも日本同様、かつては沢山あった急行という種別の列車が、次々とIC特急などに格上げされ、今はたった2往復しか残っていない。このコラリ行きの他は、ヘルシンキ〜モスクワ間の国際夜行列車だけである。コラリ行きと似たような車輌で大半は同じ夜道を行くロヴァニエミ方面への夜行2往復がIC特急に格上げされたのに、コラリ行きだけが急行という名称で残っている。名称だけの話かもしれないが、それでもやはり、残り少なくなった急行列車に乗りたい。

 ヘルシンキからコラリへの夜行列車は、ヘルシンキ18時14分発で、コラリ着は8時48分。所要14時間34分の長い夜汽車である。私は長さは全然気にならないので、最初はヘルシンキから全区間、乗るつもりでいた。しかし、フィンランド国鉄のサイトで検索をかけると、ヘルシンキ19時04分発で乗り換え1回、という選択肢も出てくる。乗り換えは途中のタンペレで、要するにヘルシンキからタンペレまでは、高速の特急がずっと早いので、ヘルシンキを遅く出ても、タンペレでこの列車に追いついてくれて、乗り継げるのである。今のフィンランドでは、南部の比較的人口の多いエリアでは、高速新線こそないが、高速列車がかなり走っている。タンペレはヘルシンキから北へ187キロに位置するフィンランド第二の都市である。しかしコラリ行き夜行列車のスピードが遅いのは、車輌性能ではなく、途中ヘルシンキの近くで車運車輌連結のための長時間停車があるためらしい。フィンランドの夜行列車の多くには、自動車を運ぶ車輌がついている。ヘルシンキ市民が北部でホリデーを過ごす場合、長距離を運転するより、そして現地でレンタカーを借りるより、これを利用する方法が優れているのだ。長距離を運転していくには距離も半端でなく長いし、レンタカーは2〜3日の短期旅行ならともかく、彼らは1週間2週間の単位でホリデーを過ごし、一ヶ所でゆっくりする。そういう長期でレンタカーを借りると、中間の日には大して走らなくても関係なく、日数で計算され、とてつもない値段になってしまう。結果、こちらも安いとは言えないが、車を列車に載せていくのが一番良いわけで、そのような需要がそれなりに存在する。

 ヘルシンキ中央駅構内  ヘルシンキ中央駅ホーム

 人口密度の低いフィンランドの中では、首都ヘルシンキの人口が断然多いので、鉄道は当然、ヘルシンキと各地を結ぶ路線がメインになる。しかし鉄道路線図を見ると、ヘルシンキを通らない横の路線が思ったよりはある。タンペレも、そういう路線が左右に出ている分岐駅で、ヘルシンキから本線をまっすぐ行く以外に、ぐるりと迂回してタンペレへと着く手段が複数ある。別に一筆書き切符を買うわけではないので、それにこだわる必要もないのだが、それよりも運転本数の少ない路線とその接続を考慮すると、乗りつぶしもそううまくは行かないだろう。そう思いながら、時刻表を色々見ているうちに、ヘルシンキからタンペレまで、逆コの字型に回るルートが見つかった。それは、コウヴォラ(Kouvola)、ピエクサマキ(Pieksämäki)で乗り換えてタンペレへ行きつくルートで、乗りつぶしだけならば、ヘルシンキを14時14分に出れば、タンペレでコラリ行き夜行列車に乗り継げる。前の晩はヘルシンキに泊まることにしたので、結局私は、ヘルシンキをもっと早く出て、そのルート途中の盲腸線を一つ追加することにした。この盲腸線は、本当の意味でのローカル線らしい。他の線は本数は少なくても特急に相当する、座席指定もできるような列車である。やはり短編成で地元の人の短区間利用もちょこちょこ見られるようなローカル列車にも一つぐらいは乗りたい。それも含められるという、なかなか満足度の高いスケジュールができた。

 既に乗る予定の全ての列車も決まっているので、前日、空路ヘルシンキに着いた私は、さっそくヘルシンキ中央駅の切符売場へ行った。フィンランドの鉄道予約システムは、3年前に行ったノルウェーと似ているようで、オンライン予約が進んでいるものの、インターレールなどの周遊券を持っている場合、座席指定や寝台だけをネットで買うことはできない。だから駅の窓口に行かないといけない。8月中旬の北欧はもう夏休みは終わりらしいが、それでも欧州全体ではまだ夏休みの所も多いし、何しろ週3本しかないコラリ行きの運転日で、しかも週末である。そんな直前に寝台や指定が取れるのか、と最初は心配し、ちょくちょくとフィンランド国鉄のサイトでチェックしていたのだが、どの列車も寝台を含め、発車直前まで空席は十分にあるようであった。

 中央駅の切符売場は広い一室で窓口がいくつも開いており、整理券方式であった。待ち時間は意外と長い。やっと自分の番が回ってきたので、さっそく中年女性の係員にインターレールパスとメモを見せ、まずは寝台料金を尋ね、次にその他の列車の指定席を取るべきかも聞いてみる。前に似たようなシステムと思われるノルウェーに行った時に、指定を取らずに乗って席を変わらないといけなかったりした経験からである。寝台については、一番安い3段寝台のコンパートメントが40.20ユーロであった。ちなみに座席でも指定に20ユーロぐらいかかるらしい。乗車券込みの値段をネットで調べた時は、座席指定と寝台では70ユーロほどの差があったので、寝台料金もそれぐらいするのかと思っていただけに、この安さは嬉しい誤算であった。この国で40ユーロではホテルにもなかなか泊まれない。その他の昼間の列車については、私のメモを一瞥し、これらはどの列車も混んでいないから、指定を取らずに乗って問題ない、というあっさりした答えであった。


ヘルシンキ〜コウヴォラ Helsinki - Kouvola


 一昼夜かけて寄り道しながらヘルシンキから最北駅への旅、その第一ランナーは、金曜の朝、ヘルシンキ10時19分発のヨエンスー(Joensuu)行きIC特急である。電気機関車の後ろに二階建て客車が7輌もつながっている。前日、切符売場で指定など必要ないと言われた通り、乗車率は15%程度と、ガラガラであった。座席分のコンセントがあり、Wi-fiも完備の、モダンな客車である。終着ヨエンスーは、知名度は高くないものの、中東部の湖畔にある学園都市で、フィンランドでもかなり東にあって、ロシア国境にも近い。ちなみにヨエンスーからさらに先へのローカル線で2つ目の駅、ウイマハルユ(Uimaharju)が、フィンランド最東端の旅客駅になる。


 列車は定刻に静かに発車した。しばらくは複々線区間で、日本でいう国電と列車線とがそれぞれ複線で、列車線の方は一部の駅だけにホームがある。提示した時刻表では原則として通過駅も全て掲載したが、ヘルシンキ近郊の国電区間のみ、短距離の通勤電車だけの駅は省いた。東京で言えば、東海道本線の特急に乗ったとして、新橋や戸塚などを通過駅として掲示しているが、有楽町や東神奈川は掲載していない、という感じにご理解いただきたい。それに該当するのはケラヴァ(Kerava)までである。

 ヘルシンキの次の駅パシラ  必要な設備の揃っている座席

 ヘルシンキは半島の南端に突き出たような都市で、これ以上南へは線路も敷けないという感じの立地である。よって駅は南に向いた頭端式であり、全ての列車が北へ向かう。沢山の線路とともに4分走ると、最初の駅、パシラ(Pasila)である。ほぼ全列車の停車駅で、他線からの乗り換え客も含め、結構乗ってきた。

 パシラを出ると、トゥルク(Turku)方面の線路が分岐し、国電だけの駅をいくつか通過して、次にティックリラ(Tikkurila)に停まる。ここは空港が立地する町、ヴァーター(Vaataa)の中心駅である。かつては空港の最寄り駅でもあったが、2年前に空港ビル直下を経てぐるりとヘルシンキ中央駅まで一周する新線ができたところである。実は昨日、空港からその線に乗ってここを通ってきたばかりである。ティックリラでも結構乗車があって、やっと4割ぐらいの乗車率になった。

 ティックリラからもう一つ国電の駅を通過すると、新しい空港線が高架となって左へ分岐していく。しかしこちらはまだ複々線で、もうしばらく国電と併走する。走っている列車線の方も、まだタンペレ方面とこれから行くコウヴォラ方面との両方の列車が走るので、列車密度はかなりある。それでもこの程度の本数だと、日本ならば複線でやりくりしている所も多いだろう。景色の方はだいぶ郊外となり、たまに住宅やその他の建物が見えるものの、広々とした草原も目立ってきた。国電の駅前も、古くからの町というところもあれば、いかにも新開地という開発途上風な駅もあった。その国電もヘルシンキから29キロのケラヴァまでである。

 ケラヴァは国電区間つまり複々線の終わりであり、列車線もここがタンペレ方面とコウヴォラ方面との分岐駅であるから、日本の首都圏なら大宮みたいな位置付けである。ただ、IC特急はここには停車しない。ケラヴァの先では、タンペレ方面が直進で、こちらが右に分岐する感じになる。こちらのこの区間は2006年に開通した短絡線で、それ以前はタンペレ方面へさらに行ったリーヒマキ(Riihimäki)から分岐していた。短絡線によって距離は26キロも短くなり、短絡線の終点ラフティ(Lahti)がヘルシンキと50分で結ばれるようになった。それ以前の時刻表を見ると、ヘルシンキ〜ラフティは最速列車で1時間22分、大半の列車が1時間半かかっている。短絡線によって特急列車が走らなくなった、リーヒマキとラフティの間は、現在、その区間だけを折り返す普通列車が1時間に1本、走っている。なお、このケラヴァ〜ラフティ間は、新線ということもあり、フィンランドで唯一、最高速度が220キロに設定されている。

 ラフティ駅  コウヴォラ到着前の二階席

 そのようにヘルシンキに近い所では、鉄道への投資も色々と見られるが、ラフティを過ぎれば昔から変わらない在来線である。それでも平坦な区間なので線形は良く、車輌の改造によってかなりの高速運転が可能になっている。広軌であるのも高速運転に有利に違いない。景色は至って単調である。


コウヴォラ Kouvola


 コウヴォラは、事前にちょっと調べた限りでは、さほど特徴のなさそうな町と思われた。だから、ヘルシンキの出発を遅くして、ここは乗り換えだけでも良かったのだが、一つぐらいはそういう垢抜けない平凡な街並みも見ておきたい。ある国の著名な都市や観光地だけを訪問して、どこも綺麗で素晴らしいという一面的な印象だけを持って終わるのは、それはそれで幸せな旅行で文句はないが、もう少しその国の素顔も知りたい。コウヴォラを1時間歩くだけで知り尽くせるほど甘いテーマではないが、全く行かないよりはいいだろう。

 コウヴォラは、鉄道ジャンクションとして開けた町である。古代中世からの歴史はさほどないけれど、鉄道開通以降、栄えた時代からそれなりに時間も経過して、良く言えばレトロ感が出てきているが、悪く言えば古びてきている。そういう町は今、世界中至るところにあるだろう。日本なら岩見沢や新見などが頭に浮かぶ。

 コウヴォラに到着したヨエンスー行きIC特急  ややレトロ感も漂う質朴な駅舎内

 そうしてスマホの地図などで検索しているうちに、駅のすぐそばに鉄道博物館があることがわかった。鉄道ジャンクションの町だけあって、鉄道に関する何かがある。しかしさらに調べると、ごく小さな模型中心の博物館で、個人経営らしい。

 コウヴォラ駅舎  駅付近の平凡なストリート

 駅と市街地は近い。つまり駅前一帯が中心部になっていて、やや古びたショッピングセンターなどもある。人は歩いているが、平日だからか、高齢者が目立つ。ヘルシンキは若者も観光客も大勢いて、活気があったので、やはり別世界である。古びた感じの所もあるが、風情も何もない近代的な中層のビルが建て並んだオフィス街もある。もとより面白い所だとは言えない。

 古びた安っぽい飲食店も多い  鉄道博物館の入口

 駅付近は割とあっさりだが一回りしてしまったので、やはり鉄道博物館に行ってみる。入口を入るとそこは小さなカフェになっている。お客は誰もいないが、ご婦人が二人、雑談していて、その一人に5ユーロの入場料を払い、さらに中へ入ると、その奥が小さな博物館であった。鉄道模型の他、古い切符や鉄道員の制服、その他コレクションが並べてあるが、フィンランドのものばかりでなく、ドイツの数年前の時刻表の隣に中国の切符があったりして、雑然感たっぷりである。お客は2人の子供を連れた家族連れが一組だけ。展示物をざっと眺めていると、初老のおじさんがやってきて話しかけてくる。その人がまさにここのオーナーであり、これは彼の趣味コレクションなのであった。そうするとこれがあなたのビジネスと趣味の両方なのですね、と聞くと、いや趣味だけだ、金のかかる趣味だ、とやや苦笑ぎみに答える。もとより5ユーロの入場料を取ったところで、その収入だけで食べていける筈はないだろうが、模型が好きで、その他の収集品はおまけだろうから、きっと毎日模型に接することができて幸せなのだろう。

 大好きな人が作った感じが満点の模型  古い切符のコレクションなども展示

 5ユーロの価値云々を言っても仕方ないような所ではあったが、おかげで時間を潰すことはできた。次に乗る列車の時刻も迫ってきた。最後に駅付近をもう一回り歩きながら、駅へ戻った。


コウヴォラ〜コトカ Kouvola - Kotka


 本日第二ランナーは、コウヴォラ12時53分発の、コトカ・サタマ(Kotka Satama)行き普通列車。フィンランドでは、ヘルシンキ近郊の国電区間を除くと、純然たる普通ローカル列車があるのは、ほとんどがこういった支線格の路線である。実際、コウヴォラでこの2輌編成の古そうな電車に乗り込んでみれば、やはりこれぞ本当の意味でのローカル列車であり、指定席が取れて食堂車までついた列車は、いくら本数が少なくても、ちょっとローカル列車とは違うのではないか、という気持ちになったのは偽らざる心境ではある。

 コウヴォラ駅で発車を待つコトカ・サタマ行き

 この線は内陸のコウヴォラと港町コトカ(Kotka)を結ぶ全長52キロの路線である。運転本数は1日6往復だけだが、電化はされている。終着駅は、コトカ・サタマ。サタマとはフィンランド語で港という意味で、英語ならポートである。実際、フィンランド国鉄のサイトで言語に英語を選択して検索すれば、コトカ・ポート(Kotka Port)という駅名で出てくる。日本語ならコトカ港と言っていい。一つ手前がコトカ駅で、そこがコトカの中心に近いものの、両駅間は0.8キロしかないので、後で歩いてみようと思う。いずれにしても、行きは終点のコトカ・サタマまで乗る。

 コウヴォラから3つ目のタヴァスティラ(Tavastila)までは、駅間が長く、一駅平均12キロ10分というところである。その先はコトカの町が近づくからか、3〜4分ごとに駅がある。こういう駅の配置からも、コトカは結構大きな町だろうと想像できる。

 乗客数は2輌で20人弱だろうか。平日日中の典型的なローカル線の風情である。風景はこれまでと大差なく、コウヴォラの街をあっという間に抜けてしまい、その後は森林の中を淡々と走り出す。

 10分走って最初の無人駅、ミリコスキ(Myllykoski)。駅舎も無いが、狭い島式ホームがあり、交換はできる。痛んだ駅名標が侘しい。若者が一人下車した。それにしても、他国でも例が結構あるが、こういう鈍行だけの盲腸ローカル線などは駅間距離が短くて、幹線は駅間距離がえらく長い。そして幹線を走るのも特急並みの長距離列車のみである。言い換えると、新幹線を通して並行在来線を廃止したのと同じ結果である。どうして本線には普通列車を走らせないのか、それに相当するこういう駅がないのか、と思ってしまう。

 最初の駅ミリコスキ  貨物列車が停まるインケロイネン

 また8分ほど淡々と森の中を走って着いた次のインケロイネン(Inkeroinen)は、手前に製紙工場があり、その匂いのする構内の広い交換駅で、木材を積んだ貨物列車が停まっていた。下車も4名と多いが、町らしい町がありそうなところには見えない。

 荒れ果てた感じのタヴァスティラ  黄色い駅舎が印象的なキミ

 どこまでがホームかもわからないような、荒れ果てた無人駅、タヴァスティラでは、1名だけ下車。既に37キロを走ってきて、コトカの町はずれまで来たようだ。ここからコトカまでは4駅で14キロと、ヘルシンキ以外のフィンランドでは駅間距離が随分短い。

 キミ(Kymi)はかつては独立した自治体だったが、今はコトカに併合された町である。そのキミ駅でも木材を積んだ貨物列車と交換。どうやら貨物列車がかなり多いようで、電化されているのもそのためと思われる。旅客列車など、貨物のオマケに動かしているだけなのかもしれない。

 国道が並行するキミンリナ駅  片面ホームだが引込み線が多いパイメンポルティ

 キミンリナ(Kyminlinna)が近づくと、道路が並行するようになり、にわかにモダンな風景になる。キミンリナは駅と道路しかないような駅ではあったが、数名下車。そして次のパイメンポルティ(Paimenportti)を出れば、線路も道路も一緒に橋を渡り、コトカの中心がある島へと渡る。そういう海峡にかかる風情を期待していたが、あまりそれっぽい雰囲気もない。既にそのあたりから、操車場のように線路が沢山あるから、橋を渡るという景色ではないのだ。そして気がついたらもうコトカ駅へ向けてのカーヴを描いていた。曲がりきった所にある重厚な駅がコトカ。ここで乗っていた大半の人が降りると、車内はガラガラになった。

 左手に海が現れ、右手は線路が沢山広がる。車窓風景からではコトカの市街地の様子はわからない。そんなところをトロトロと少しだけ走ると、駅らしくもないところにゆるりと停車。そこがコトカ・サタマであった。


コトカ Kotka


 コトカ・サタマは、ホームが道路の歩道を兼ねたような簡素な終着駅であった。貨物用なのか、線路はまだ先へ続いているので、行き止まりの終端駅といった風情もない。駅舎もなく、ホームにガラス張りの待合所があるだけである。車道を渡ると反対側はすぐ海である。その海も殺風景で、格別の眺めではない。

 終着のコトカ・サタマ駅  サタマ駅の向かいはすぐ港湾

 ここでの折り返し発車までの停車時間は45分。あらかじめ調べたところによると、少々急ぎ足になるが、何とか反対側の海まで行って戻ってコトカ駅から乗れるのではないかと思われる。そこで駅の観察もそこそこに、内陸へと歩を進めることにする。

 駅の先から見るコトカ・サタマ駅  コトカの中心部

 コトカは本土と橋でつながった小さな島である。その島の内側にあるサタマ駅から、外側にあるマリーナなどのある港まで、内陸を突っ切る道路があり、距離も1キロ程度である。やや殺伐感のある内側と比べ、マリーナの側は風光明媚かと想像される。その中間が市街地である。来る前は平坦かと思っていたが、結構な坂を上がった高台に市街地はあった。感動的な街並みというほどではないが、コウヴォラに比べれば北欧的に絵になる家並みやビルも多い。

 ゆるい坂をサミットまで上ると、前方に反対側の海とマリーナが見えてくる。本当に狭い、海に囲まれた町なのである。マリーナはホリデー用のモーターボートがぎっしりと詰まっていた。周囲はそこそこ小綺麗に整っており、もう少し天気が良ければきっとゆっくり気持ちよく散策できるであろう、そんな感じの所であった。

 ボートでぎっしりのマリーナ  コトカ駅舎

 時間もないのでざっと見て、少し違う道をまた市街地を越えて、コトカ駅の方へ戻る。線路を陸橋で越えて、少し歩くと、赤レンガのコトカ駅が現れた。発車5分前であった。歴史もありそうな重厚な駅舎ではあるが、いずこも同じで、省力化が進んだローカル線の駅は、施錠されていて、中に入ることはできない。

 駅舎の横を通ってホーム側に行けば、意外にも列車を待っている人が30人ほどいる。大きな荷物を持った人も少なくない。金曜も午後になって人の動きが活発になってきたようだ。設備としては自動券売機が一台あるだけである。


 ほぼ時間通り、先ほどの列車がコトカ・サタマからやってきた。サタマからは回送同然のガラガラ状態で到着したが、ここコトカ駅でボックス2名ぐらいまで席が埋まる。途中、交換する貨物列車の遅れからか、少し遅れたが、各駅で少しずつ客を拾い、最後は8割近い乗車率という盛況で、コウヴォラへと戻ってきた。


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