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オーステンデ〜オイペン 目次


目次 オーステンデ Oostende
オーステンデ〜ブリュッセル Oostende - Bruxelles
ブリュッセル〜オイペン Bruxelles - Eupen
オイペン Eupen

オーステンデ Oostende


 色々な事情でしばらく欧州ローカル線の旅ができなかったので、とりあえずベルギーへとやってきた。だが率直に言うと、ベルギーはそれほどローカル線の魅力にあふれる国とは言えない。南部の一部を除くと国土も概ね平坦で、車窓風景も単調だ。列車ダイヤも大部分の路線で一時間に1〜2本の等時隔ダイヤが組まれており、面白味に欠ける。

 他方でこの国は、大国に挟まれた小国としての歴史にしても、小国ながら言語圏が分かれた複雑さにしても、欧州の他国と異なる特有な事情があり、なかなかに興味深い。そしてそんな国だからこそ選ばれたのか、公式ではないにしても、ブリュッセル(Bruxelles / Brussel)は欧州の首都として栄えている。

 どこを取り上げるか迷った挙句、ローカル列車と呼ぶには多少難があるが、国境を越えない国内完結列車としては最長距離を走る、北海沿いのオーステンデ(Oostende)からドイツ国境に近いオイペン(Eupen)までのIC列車に全区間乗車することにした。ICは欧州各地で走っているインターシティーであり、日本の感覚で言うと在来線特急列車に近い。それがローカル列車なのかと言われると若干苦しいが、ベルギーもイギリスからユーロスターが、フランスからTGVが、ドイツからICEが乗り入れてきており、さらにベルギーを貫通する国際高速列車タリスもある。これら高速列車の普及に連れ、従来からのICは、あちこちで乗るたびに、一段落ちのローカル急行の味わいが濃くなってきている気がする。まあそこまで難しく考えず、この列車でベルギーを端から端まで縦断し、小国なりの地域性をも感じてみたい。

 この列車は、単に国内最長距離というだけでなく、3つの言語圏をまたいで走る点に興味をそそられる。ベルギーがフランス語圏のワロン地方とオランダ語圏のフランデレン地方とに大きく分かれていることは良く知られているが、3つ目の言語圏であるドイツ語圏のことは、あまり知られていないと思う。しかしドイツ国境に近い、ベルギーの面積の2%強の地域は、ドイツ語が公用語であり、第一言語であり、住民の間で普通に話されているという。ドイツ国境に接した山間部であり、人口も少なく、人口密度も小さい。鉄道も僅かしか通っておらず、駅も2つしかない。その2駅のうち1つが、この最長距離列車の終着であるオイペンである。オイペンはベルギー・ドイツ語圏で最大の町であり、中心の町である。ドイツのアーヘン(Aachen)へと向かう幹線から1駅だけ、短い盲腸線がちょこっと分岐しており、その終着であるので、以前から鉄道路線図上での存在は知っていたのだが、そういった町であることは、最近まで知らなかった。

 そして個人的にも、中間区間は過去何度か乗っているが、オーステンデ側と、オイペンの最後の1駅は未乗車区間である。ベルギーの未乗車区間は他にも沢山あるが、とにかく未乗車区間も含むルートであること、それもこの列車を取り上げる動機の一つにはなった。

 オーステンデ駅  立派なオーステンデの駅舎

 今回はオイペン行きの東行き列車に乗ることにしたので、そうすると起点になる出発地は、オーステンデ。北海沿いにある港町で、かつてはイギリスからのフェリーが多数発着するベルギーの海の玄関でもあった。オーステンデも盲腸線の終着駅。よってこの列車は起点も終点も行き止まりの駅ということになる。こういう列車は日本にはあまりないと思う。かつて門司港発長崎行きの夜行列車があったのを思い出す。もっともオーステンデは厳密に言うと盲腸駅ではないかもしれない。というのも、鉄道路線図を見ると、海沿いに別の路線が描かれている。だがこれはベルギー国鉄ではなくて、海沿いを延々と2時間もかけて走るトラム路線なのである。こんな長距離のトラムも珍しい。

 オーステンデは人口7万の海浜都市である。オランダ語圏であり、オランダ語読みではそうなるが、英語ではオステンド、フランス語ではオスタンドが近い。ここに限らず、ベルギーの地名は、アルファベットでも仮名書きでも何通りもあることが多く、複雑極まりない。本稿でも、全て現地での第一言語に合わせると、逆に馴染みが薄い場合もあるので、そのあたりは主観と感覚で判断している場合があることをご了承願いたい。

 オーステンデ駅舎の内部  オーステンデ駅前のバス乗り場

 オーステンデ駅は盲腸線の終着駅とはいえ、至って立派で大きな駅で、列車本数も多く、一見してローカル線の駅ではない。とりわけ駅舎は巨大である。フェリーで着く大量の乗客が一挙に押し寄せるのを捌くためかもしれない。だが駅舎内はガランとしていた。窓口は沢山あるが、開いているのは2つだけで、あとは自動券売機がパラパラあるが、どこにも行列はできていない。英仏海峡トンネルができて、鉄道の国際旅客がそちらに移り、今ここで切符を買う人は、国内の短〜中距離客ばかりなのだろう。自動券売機は駅舎の外にもあるし、ホームには駅舎を通らずに外から直接行けるから、今やこの荘厳な駅舎の中に用事がある人は少ない。

 クストトラムのオーステンデ駅  クストトラムは日中毎時4本の運転

 トラムの駅へ行ってみる。国鉄駅から歩いて2分程度で近いものの、目の前で乗り換えという利便性はない。路面電車というよりは軽便鉄道に近く、東急世田谷線とか広電宮島線のイメージが近いかと思う。簡易な低いホームがあり、自動券売機があり、乗客がパラパラと電車を待っていた。運転間隔は15分。全長68キロで世界最長のトラムだという。英語でコスタル・トラム(Coastal Tram)と言うが、オランダ語ではクストトラム(Kusttram)となる。ほぼ全線、海沿いを走り、点々と町がある。その多くが海浜リゾート都市となっているようで、夏はとりわけ賑わうそうだ。

 海浜リゾートとしてのオーステンデ  機関車が後ろにつくオイペン行きIC列車

 オーステンデに限らず、こういう海浜リゾート都市には金持ちのセカンドハウスも多い。海岸の眺望のよい所が高層マンションで埋め尽くされている。そういうマンションの住人に見下ろされるように海水浴場があるので、そういった所でのホリデーを嫌う人もまた多いらしい。また、そうして近代的な高層マンションが林立した結果、どこも似たような景観になってしまっている。イギリスのブライトンもスペインのマラガも、似たようなものかもしれない。いずれにしても、緯度が高く冬の気候が悪い所の多い欧州では、そういうリゾート需要が今も旺盛だが、日本人が観光に行っても、意外と殺伐とした印象を受けることが多い。それよりは内陸の歴史のある古い街を歩く方が何倍も心が落ち着くことが多い。


 私も、オーステンデに長居するよりは、早く列車に乗りたくなった。オイペン行きのIC特急は1時間に1本あって、毎時40分に発車する。もう1時間ぐらいオーステンデの町を歩こうかとも思ったが、そういったわけで13時40分発に乗ることにした。列車は実に12輌編成。中間に1等車2輌を挟んでいるが、2等車も10輌ある。客車列車で、到着したまま、最後尾の車止め側に電気機関車がついている。先頭客車にも運転台があるので、機関車の付け替えは必要ない。


オーステンデ〜ブリュッセル Oostende - Bruxelles


 編成が長いせいか、列車はガラガラであった。私は後ろから4輌目あたりに乗ってみた。オーステンデは頭端式の駅なので、前の方はもっと空いているだろうが、私の乗ったあたりは真ん中に近いので、多分途中では一番混むあたりではないかと思う。空いていそうな先頭車もいいが、どれぐらい賑わっている列車なのかを知るなら、このあたりが適切かと思ったわけである。いずれにしても始発からなので、好きな席に座れる。オーステンデ発車はピッタリ定刻。

 オーステンデ発車時の車内  ブリュージュ到着のオランダ語表示

 最初の停車駅は、ベルギーきっての観光都市の一つでもある、ブリュージュ(Bruges)。だがブリュージュとはフランス語読みであり、オランダ語読みでは、ブルッヘ(Brugge)あたりが近い。このあたりは完全なオランダ語圏である。オーステンデからブリュージュは、22キロの立派な複線電化である。盲腸区間であるが、毎時1本のこの列車の他にも色々な列車が乗り入れており、本数は多い。沿線風景は単調で平坦だ。

 そのブリュージュは高架駅で、ホームは人垣であった。観光客がどっと車内になだれ込んできて、たちまち満席になった。乗客の言語も様々だが、私の周囲はグループ旅行者なのか、イギリス英語ばかりであった。英仏海峡トンネルを使えば、ロンドンあたりからは楽々日帰り観光圏である。週末1泊ぐらいでの身軽な旅行者が多いのかもしれない。反対ホームに姉妹列車であるオイペン発オーステンデ行きが、ほぼ同時に入ってきた。あちらは到着前からガラガラである。

 ブリュージュ駅(午前中に撮影)  ゲント駅ホーム(午前中に撮影)

 ブリュージュの次がゲント(Gent)、またはヘント。時刻表での所要時間は23分なのだが、途中、工事による徐行区間や、そのためと思われる臨時の単線区間があり、のろのろになったり停まったりして、ゲントには14分も遅れて着いた。オーステンデやブリュージュより人口の多い主要都市だが、ブリュージュとは対照的に乗降客が少ない。日曜の午後ゆえ、完全に観光列車と化しているようで、観光色の薄い駅での利用者は少ないというわけだろう。それにしてもブリュージュが観光地としてここまで人気があるとは思わなかった。行ったことがないので、一度行ってみようと思うが、この混雑を見てしまうと尻込みしたい気持ちも出てくる。行くなら冬の平日あたりを狙うべきか。

 ゲント駅舎(午前中に撮影)

 ゲントの次は、もうブリュッセルである。ゲントまでは普通列車しか停まらない小駅をいくつも通過したが、ゲントからブリュッセル南(Bruxelles Midi / Brussel Zuid)駅までの52キロは、高速新線の如きで、通過駅が一つもない。これは戦前の1932年に完成した、その当時の高速新線である。しかしトーマスクックの鉄道路線図を見ると、TGVやタリスの通るような赤線の高速新線としては描かれていない。そして、ではこれが高速新線ならば、在来線はどこかと思って地図を見ても、定かではない。実際には在来線に当たる、これより古い路線もあるが、一見わからないほどにくねっている。ゲントとブリュッセルの直通客は念頭になく、途中のローカル輸送に専念しているようだ。この高速新線は、その在来線を2度跨いでいる。それ以外にも2つの路線を跨ぐ。中でも2つ目に跨いだ線は、単線非電化であり、ベルギーの、それもブリュッセルにそんな遠くない所にこういうローカル線があるのかと思わせる風情があった。今度乗ってみたい。

 そんな立派な複線電化の路線を淡々と走るが、列車はさきほどの遅れを引きずったままである。車内を賑やかにしている観光客は、そんな事にはお構いなしのようである。そうしてブリュッセル南駅が近づくと、右手から別の路線が合流してきた。しかし車窓風景が都会っぽくなったのは、南駅にかなり近づいてからであった。

 車内の「間もなくブリュッセル南駅」という電光表示が、仏蘭2ヶ国語で交互に表示される。島国で単一言語の日本ですら、最近は英語との2ヶ国語表示は当たり前で、中韓も含め4ヶ国語の表示すら見られる。だから、日本などとは比較にならぬほど昔から国際化しており、欧州の首都でもあるベルギーで、2ヶ国語表示など、当たり前と思う人も多いかもしれない。だがそうではない所がこの国の面白さでもあり、悩ましさでもある。こんなに小さな国なのに、言語圏がはっきり分かれていて、2ヶ国語が併記されるのは首都ブリュッセルだけなのである。駅や町の標識も、ブリュッセルを除けばもっぱら、フランス語圏はフランス語だけ、オランダ語圏はオランダ語だけのことが多い。動いている列車内のこの表示ですらそうで、ブリュッセルを除けば、次の駅は、とか、間もなく〜に到着、といった単語も含め、オランダ語圏はオランダ語だけで、フランス語圏はフランス語だけで、表示されるのである。それは以前から知っていたことなので、今日の一つの関心事は、それではドイツ語圏の終着オイペンでは、何語が表示されるのだろう、ということである。

 ブリュッセル南駅の駅前(前日に撮影)  ブリュッセル南駅ホーム(前日に撮影)

そのブリュッセル南駅には、15分遅れで着いた。南駅は、ユーロスターやタリスなどの高速列車のターミナルであり、実質的にブリュッセル最大の主要駅と言える。だからかどうか、イギリス人のグループもここで皆、下車した。日曜の午後ゆえ、このままここでユーロスターに乗り換えてイギリスへ帰る人もそれなりにいるに違いない。そうではない他の乗客もほとんどここで降り、車内は一気に空いてしまった。代わって乗ってくる人数ははるかに少なく、今度は用務客風の地元のベルギー人っぽい人が多い。


ブリュッセル〜オイペン Bruxelles - Eupen


 南駅から中央駅(Bruxelles Central / Brussel Centraal)を経て北駅(Bruxelles Nord / Brussel Noord)までの間は、ブリュッセルの、そしてベルギーの鉄道の大動脈である。三複線ぐらいで、各地から集まってきた路線が市内を貫通している。

 ブリュッセル中央駅(前々日に撮影)  ブリュッセル中央駅(前々日に撮影)

 ヨーロッパでは、主要都市の中央駅というと、頭端式のターミナル駅を想像する。だがここブリュッセル中央駅は途中駅風の地下駅で、この駅始発・終着の列車もないと思う。だが立地は街の中心であり、グラン・プラスなど、都心部の観光地への最寄り駅でもある。だからここも乗客がかなり入れ替わる。

 ブリュッセル北駅(翌日に撮影)

 中央駅を出てしばらくすると、再び地上へ出て高架になり、今度は北駅に着く。北駅まで来るとブリュッセルもだいぶ場末という感じではあるが、乗り換え路線も多いので、ここで結構乗車があり、7割余りの乗車率となった。私の隣には、はっきり言って汚らしいお爺さんが座った。汚らしいだけでなく、悪臭がする。見るとシャツの内側の襟などが大いに汚れている。1週間ぐらい、着替えもしてなければシャワーも浴びていないのだろう。

 北駅を出て沢山の線路の中を走るが、そのあたりから先はお洒落な繁華街などとは程遠く、殺伐とした風景が続く。線路があちこちに分かれていき、その一つに空港線もある。それらが落ち着き、速度も速くなれば、やや落ち着いた郊外の雰囲気になり、緑も増えてくる。20分余り走ると、次の停車駅である、ルーヴェン(Leuven)。それなりに大きな町で、学園都市としても知られる。

 オランダ語圏のルーヴェン駅

 ホームにこの列車の発車案内の電光掲示板がある。リュイク(Luik)経由オイペンと出ている。リュイクとは、リエージュ(Liège)のオランダ語綴りである。リエージュはベルギーのフランス語圏を代表する主要都市で、次の停車駅である。国際的にも、日本語でも、リエージュとして知られているのに対して、リュイクではオランダ語圏の人ぐらいしかわからない。けれどもここルーヴェンはオランダ語圏なので、駅の表示もオランダ語だけなのである。駅に貼ってある時刻表なども、どこを探しても、リエージュとは書いていない。そういう国だというのにも私は慣れたが、初めての頃は大いに戸惑ったものだった。

 ルーヴェンから次のリエージュにかけては、タリス用の高速新線がある。この列車は高速列車ではないが、在来線ではなく新線を通る。日本の新幹線と違って、在来線と線路幅が同じで乗り入れができるので、少しずつ部分的に高速化ができるし、昔からある市街地の駅にも容易に乗り入れられるから、その点では便利だし、何より建設費を抑えられる。いずれにしても、ルーヴェンからリエージュの1駅73キロを32分で走破するので、この区間だけの表定速度は137キロにもなる。風景は単調な農村地帯で、時々真っ黄色な菜の花畑が目を引く程度だ。

 ルーヴェンの13分遅れをそのまま引きずって、13分遅れでリエージュ・ギユマン(Liège-Guillemins)に着いた。隣の臭い老人を始め、半分以上はここで降りた。この駅はスペインの著名な建築家が設計したことで有名な、デザイン的にも構造的にもユニークな駅である。それでいて色々な所から駅に出入りできるのは、改札口を作る必要のないヨーロッパだからで、日本で同じことは無理だが、ともあれこんな話題性のある駅も時にはいいだろう。だがどの駅もこんな姿であれば、それはそれで旅が疲れそうな気もする。

 リエージュ・ギユマン駅ホーム  リエージュ・ギユマン駅外観(後刻撮影)

 リエージュを出ると、ミューズ川を渡る。フランスからベルギーを経てオランダへ流れ、北海にそそぐ川で、オランダでは名をマース川と変える。マーストリヒト(Maastricht)のマースである。ベルギー国内では、ディナン(Dinant)が最上流の町で、そこからナミュール(Namur)を経てリエージュへと流れてきている。そういう大河に沿った交流が深いのか、ここリエージュとマーストリヒトの間には、国際ローカル列車が毎時1本走っていて、結構利用されている。オランダとベルギーなど、かなり昔から国境審査などないし、言語だって一緒なのだから交流も密だろうと思うかもしれないが、意外にも、オランダとベルギーを結んで国境を超える鉄道路線は3本しかない。しかもそのうち2本は、首都同士を結んで海に近い側を走る在来線と高速新線で、それ以外というと、ここしかないのである。

 リエージュ・ギユマン駅通路(後刻撮影)  次はウェルケンラートというフランス語表示

 リエージュを過ぎるとようやく起伏が出てきて、徐々に山の中に入っていく感じとなる。最初の通過駅アングル―(Angleur)を過ぎると、また高速新線が分かれていくが、今度はこちらは在来線に入る。ここからドイツ国境まで、トーマスクックの路線図でもこの在来線は景勝路線の黄緑色に塗られている。

 ウェルケンラート駅名標  ウェルケンラート駅

 小さな駅がいくつもあるが、この列車の停車駅は、ヴェルヴィエ・セントラル(Vervier Central)とウェルケンラート(Welkenraedt)だけである。どちらも下車客ばかりの駅で、ウェルケンラートまで来るとすっかりガラガラになった。ウェルケンラートからまっすぐ行けば、国境を越えてドイツのアーヘンへとつながる。そのウェルケンラートは、フランス語圏だが、徒歩圏内にドイツ語圏があるぐらいにドイツ語圏にも近い。そして実際、ここで下車した地元の中年夫婦がドイツ語で会話をしていた。ウェルケンラートという地名は、どう見てもフランス語のスペルには見えない。だがフランス語圏なので、車内の案内表示でもフランス語で到着案内が出る。


オイペン Eupen


 ウェルケンラートを発車すると、間もなく直進してドイツへ向かう複線の本線から右へ分岐して、いよいよ最後の盲腸区間に入り、単線になる。長編成の列車であることを忘れさえすれば、すっかりローカル線のムードである。だがそれに浸る時間も僅かで、若干人家が増えてきたかと思うと、おもむろに終着駅、オイペンに到着した。18分ほど遅れている。オイペン到着前の車内の電光表示はフランス語であった。

 オイペン到着案内はフランス語  オイペン駅に到着

 ガラガラではあったが、12輌もの長さがあるので、合計すれば50人ぐらいは降りてきただろうか。それに出迎えの人、折り返しの列車に乗る人などもいて、駅はひとときの賑わいを見せる。ホームは12輌が停まれてなお余裕もある長さであり、線路はその先にもつながっているように見える。

 オイペン駅のヴェルケンラート寄り  オイペン駅の駅名標

 ベルギーのドイツ語圏、などという特別な感慨を持たなければ、特に変わったところはない、普通の中規模な駅である。駅舎も特に何の変哲もない適度に新しそうなものであった。

 終着オイペンの線路の先  オイペン駅舎

 駅にある発車時刻表は、注釈を見るとドイツ語になっていた。駅の入口にある案内板はドイツ語とフランス語の2ヶ国語。そして駅を出れば、道路標識などは、概ねドイツ語で、時にフランス語が混じる程度である。紛れもなくベルギーのドイツ語圏という稀少価値のあるエリアにやってきた。子供じみた感慨だが、わくわくしてくる。


 いずこも同じで、駅前が中心の繁華街ということはなく、何となく場末の雰囲気である。そこでさっそく、中心部とおぼしき方角へと歩いてみた。それなりに住宅が並んでいて、店やバーもある。日曜の夕方だから、バーのテラスでビールを飲んでいる男たちがいて、カメラを構えている私に向かって陽気に手を振る。田舎町の気さくさも感じる。

 ドイツ語が多いオイペンの表示  オイペン駅付近の街並み

 中心部は狭い通りの両側にそれなりの店が並んでいる。やはりドイツ語表示が大半であり、言葉が良くわかる人ほど、ドイツの町にでもいるように感じるであろう。ローカルなお祭りが行われており、人が溢れていて活気があった。この程度のことで断言はできないが、ベルギーのドイツ語圏を代表する中心都市としての求心力を、しっかり備えている町らしく感じられる。そしてそこに集まっている人たちからは、やはりドイツ語らしき言語が最も多く聞かれる。だがフランス語もそこそこ聞こえてきた。有名観光地ではないから、ブリュージュのように英語ばかりということはない。それどころか、英語圏の人かと思しき人はついぞ見かけなかった。

 桜咲くオイペン  オイペン中心部

 別に国境審査があるわけでもないのだし、国境を超えると途端に言語が変わる必要もないわけだが、それでもやはり、ここがドイツではなくベルギーであることに、不思議さを感じる。ふと、住民の間にドイツ編入運動などはないのだろうかと思う。だがそれを言い出せば、ベルギー自体がフランス語圏とオランダ語圏の2つの国に分裂しなければならないかもしれない。何はともあれ、難しいことを考えずに、ベルギーのドイツ語圏の町でゆっくりできたのは面白かった。多分、オーステンデでゆっくり時間を取るよりは、これが正解だっただろう。持ち歩いてはいないが、後でベルギーの日本語のガイドブック2冊を見てみた。オーステンデはどちらにも一応載っていたが、オイペンの情報は皆無であった。



欧州ローカル列車の旅:オーステンデ〜オイペン *完* 訪問日:2015年4月26日(日)


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