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ルクセンブルクの盲腸線 目次


目次 (1) ルクセンブルクの鉄道
ノアツァンジュ〜リュムランジュ Noertzange - Rumelange
(2) ベッタンブール〜ヴォルメランジュ・レ・ミーヌ Bettembourg - Volmerange-les-Mines
エッシュ・シュル・アルゼット〜オドゥン・ル・ティッシュ Esch-sur-Alzette - Audun-le-Tiche
エッテルブルック〜ディーキルヒ Ettelbruck - Diekirch
(3) カウテンバッハ〜ヴィルツ Kautenbach - Wiltz
パラディソ Paradiso
カウテンバッハ Kautenbach

ルクセンブルクの鉄道


 ヨーロッパで鉄道のない国を面積が大きな順に挙げると、アイスランドが筆頭で、以下、キプロス、アンドラ、マルタ、サンマリノ、ヴァチカンの6ヶ国になる。鉄道のある国の中で一番小さいのはモナコで、次がリヒテンシュタインである。この2ヶ国は自国では鉄道を運営しておらず、モナコはフランス国鉄が、リヒテンシュタインはオーストリア国鉄が運行管理しており、それらの路線が国を貫通している。駅の数は、モナコが1つだけで、両隣の駅ともフランスである。リヒテンシュタインは3駅あって、スイスとオーストリアに挟まれて存在している。

 それらに次いで三番目に小さい国が、ここルクセンブルクである。小さいと言ってもリヒテンシュタインの16倍強の面積があるし、モナコやリヒテンシュタインと違って、自前の国鉄を持ち、国内の交通機関としてそれなりのシェアがあり、鉄道としての役割をしっかり果たしている。ルクセンブルクは、そういう国の中では欧州最小と思われる。

 ルクセンブルクの面積は2,586平方キロメートルである。これがどのぐらいかというと、日本の47都道府県を大きい順に並べた場合の、鳥取県(41位)と佐賀県(42位)の間になる。イメージ的には鳥取県が似ている。というのも、人口密度が近いからである。対する佐賀県の人口密度はこれらの倍近くある。鳥取県には旅客駅が73駅あり、ルクセンブルクには64駅ある。割と近いという感じはあると思う。

 ヨーロッパに何度も行っていて、かなり回っている人と話をしても、ルクセンブルクに行ったという人は多くない。広いヨーロッパの中では本当に狭い地域だし、国単位で旅行する必要もないから、行った国の数を増やすことに熱心な人でもなければ、無理に行くことはないかもしれない。

 加えて、ルクセンブルクが意外と行きづらい理由は、高速交通網からやや取り残された感があることである。大陸のど真ん中にある首都の割に、交通の要衝としての機能が弱い。高速鉄道にしても、ようやくパリからTGVが日に数本乗り入れるようになった程度だ。一番交流が深そうな隣国の首都ブリュッセルとの間は、IC特急が1時間に1本走っているが、3時間もかかるので、忙しいビジネスマンは飛行機を使うという。つまり、好んで寄らない限り、ヨーロッパ中を鉄道で回っていても、ルクセンブルクを通ったり、そこで乗り換えたりする機会には案外と恵まれない。

 しかしルクセンブルクは、そうして無視するには惜しい、魅力的な国だと思う。私は初めて訪問した2000年以来、 かれこれ5回ぐらい訪問し、各地を回ってみた。それでもこんなに小さな国なのに、まだまだ回り足りない思いを持っている。ベルギーも好きな国だが、かといってベルギーのおまけのように扱われると面白くない、というぐらいにはルクセンブルクを贔屓する気持ちも芽生えている。

 そんなわけで、またルクセンブルクにやってきた。今回は1日だけだが、ローカル線を楽しむ日にする。だが、この国のローカル線はどこかと考えるとなかなか難しい。乗って楽しく景色が良いという点では、ルクセンブルクとベルギーのリエージュを結ぶ線と、そこから派生するヴィルツへの支線であろう。ルクセンブルクの北半分を占める山間部の、人口密度が低い地域である。ルクセンブルクとリエージュの国境越え区間は2時間に1本しかなく、単線区間もあり、十分ローカル線だ。距離も長いし景色もいい。久しぶりに乗り通してみたい気持ちはある。

 反面、南部は概して人口密度が高く、かつては鉱工業で栄えた産業地帯が多い。ルクセンブルク市自体を除けば観光的にもあまり省みられない地域である。鉄道の運転本数も多く、基本的に1時間に1本以上の頻度を確保している。いずれも首都ルクセンブルクから放射状に伸びており、一部がドイツ、フランス、ベルギーへ直通している。

 だから、一見するとあまり面白くなさそうな南部だが、鉄道の路線図や時刻表をつぶさに見ていくと、鉄道趣味という点から興味をそそられる線区がいくつかある。


www.cfl.lu の CFL Carte より加工して引用

 その一つは平日の朝夕だけしか走らないという、乗り潰しマニアには厄介な盲腸線(行き止まりの線のこと)だ。ここは通勤輸送に特化していると思われる。次に、ルクセンブルク国鉄でありながら、終着駅だけがフランス領内という盲腸線である。行き止まりの終着駅がフランス国内にあって、フランス国鉄に連絡しているわけでもない。駅の管理も完全にルクセンブルク国鉄が担当していて、見た目はルクセンブルク国内の駅と変わらない。やってくるのも100%、ルクセンブルク国鉄の車輌である。そういう盲腸線が2本もあるのだ。

 そんな変わった線を含め、ルクセンブルクには全線10キロ未満の短い盲腸線が5路線ある。ちょっと乗ったと思ったらすぐ降りなければならず、ゆっくり汽車旅を味わうタイプの旅行とは異なるが、今回は1日かけて、これら5本の盲腸線に順に一通り乗ってみることにした。

ノアツァンジュ〜リュムランジュ Noertzange - Rumelange


 ルクセンブルク盲腸線巡りの最初は、ノアツァンジュ(Noertzange)から出ている3駅5.9キロの線である。この線は、他に比べて格段に乗りづらい。何しろ土日は全く運行されない。月〜金曜の朝に3往復、夕方に3.5往復、それが全てである。昼間に列車がないため、朝に乗るなら平日一番の行程に組み入れることになる。夜明けとともに起きて活動開始すれば別だが、普通に朝食付ホテルに泊まってちゃんと朝食を、と思えばこうなる。そのため、前の晩は、エッシュ・シュル・アルゼット(Esch-sur-Alzette)の駅近くのホテルに泊まった。

 朝のエッシュ・シュル・アルゼット駅付近  エッシュに到着するルクセンブルク行き通勤列車

 エッシュ・シュル・アルゼットはルクセンブルク第二の都市であり、かつては鉱工業で栄えた産業都市である。長いので、略してエッシュと呼ばれることがあるが、エッシュだけだと、ルクセンブルク北部の山あいの町、エッシュ・シュル・シュール(Esch-sur-Sure)との区別がつかないので、正確には長い正式名で言う必要がある。この街を中心としたルクセンブルク南部は、今日の経済的に豊かなルクセンブルクを築くにあたり、重要な役割を果たした産業地帯である。


CFL Horaire 60b Valable du 11.12.2011 au 08.12.2012 より引用

 今も貨車が側線に停まり、産業都市の面影を十分残す、重厚なエッシュ・シュル・アルゼット駅から、7時47分発のルクセンブルク行きに乗る。ルクセンブルク市への通勤客で混む時間と思われ、乗客も結構いるが、混雑とはほど遠い。ここでの乗車が多いが、それでも乗ってみると空席は沢山あり、ゆったり座って通勤できる。エッシュの街を抜ければ緑豊かな牧草地も広がるが、駅付近は住宅地になっている。7分乗って、2駅目のノアツァンジュで下車、ここからも通勤客が多少乗り込むが、人数は少ない。降りたのは私の他に一人だけのようであった。

 ノアツァンジュの駅舎とリュムランジュ行き列車  ノアツァンジュ駅前は普通の住宅地

 さて、本日の盲腸線巡りの最初の起点駅にやってきた。駅は改修工事を終えたばかりという感じの真新しい相対ホームの駅で、そのためか、駅名標や行き先案内版などが全くない。これからつけるのであろうか。日本と違って改札がないので、ホームからいきなり道路に降りられる。店一軒とない普通の住宅地の中の駅である。そのエッシュ寄り下りホームの先に切り欠きホームがあり、そこに短い2輌編成の電車が停まっていた。その線路の先が左にカーヴしている。案内表示がなくても、これなら間違いようがない。これが8時10分発のリュムランジュ(Rumelange)行きで、朝の3往復の3度目の往路になる。乗客は誰もいない。

 左がリュムランジュへの支線、右がエッシュへの本線  接続するルクセンブルク発の列車が到着

 8時06分にルクセンブルクからの下り列車が着いた。ルクセンブルク方向と接続を取っているのであろう。多少は乗り換えてくる客がいるかと思ったが、一人もいなかった。よって乗客は私一人だけで、8時10分、列車は定刻に発車した。

 オーソドックスながら落ち着く2000系の車内

 発車するとすぐ本線から分かれる。さきほどホームで手持ち無沙汰にしていた黒人の車掌さんが回ってくるが、私がどういう乗客かはお見通しのようで、切符は見ない。この車輌は2000系で、新車が増えつつある今もルクセンブルク国鉄の主力車輌と思われ、この日もこの後何度も乗ることになる。どちらかというと旧型車だが、まだまだ十分使える、オーソドックスながらいい車輌だと思う。乗客の大部分は乗車時間30分以下と思われるのに、デッキ付き2ドアのクロスシート車を使っているのが素晴らしい。

 閑静な住宅地で、周囲に農地も目立つノアツァンジュから分岐する本数の少ない支線だから、どんな田舎に分け入っていくのかと思うかもしれないが、しばらく走るとむしろ家が増えてきて賑やかになってくる。そして間もなく、最初の停車駅、カイル(Kayl)である。

 立派な赤い駅舎が印象的なカイル  駅前はなかなか賑やか

 乗降客はいないが、かつては賑わったのか、大きな赤い駅舎がある立派な駅である。駅前もなかなか賑やかで、道路は交通量が多いし、バス停も見える。商店や事務所もあり、4階建て程度のアパートがひしめいている。

 新しい案内板もあるテタンジュ  側線に貨物列車が停まっているテタンジュ

 そんな所を道路に沿って走ると、次のテタンジュ(Tetange)は近い。テタンジュも古くからの駅舎があり、駅前はカイルほどではないが、やはり建物が並んでいて賑わいを感じる。そしてホームの反対側を見れば側線があり、貨物列車が停まっている。このあたり、かつては炭鉱が多かった地域だが、今はないはずである。それでも今も貨物列車が走っている。どちらかというと、そちらがメインで、旅客輸送はついでに残しているだけなのかもしれない。

 終着リュムランジュ駅・テタンジュ側から撮影  リュムランジュ駅・車止めの側から撮影

 次が終点リュムランジュである。どこかからか貨物用の支線みたいなのが合流してきて、数本の線路が集まった所にある終着駅である。貨物も含め、ここが終点で、線路は先へは延びていない。車止めがあって、その脇に駅舎がある。旅客用ホームは片面だけだが、かなり長い。6輌ぐらいの列車は問題なく止まれそうである。

 リュムランジュ駅の車止めと出口  駅舎は簡素で小ぢんまりしている

 駅舎は途中の2駅よりもむしろ小さく簡素だ。そこはかとない終着駅の旅情も感じる。車の乗り入れできない小さな駅前広場もある。


 折り返しの発車までは15分しかない。これを逃がすと次は夕方の列車まで8時間以上待たねばならないので、乗り遅れるわけにいかないが、来てみれば、当然ではあろうが、駅のすぐそばにバス停があり、それなりに運行されているようであった。駅付近を歩いてみると、なかなか賑やかな町で、オフィスも商店もカフェもパブもいくつもある。人も結構歩いている。ルクセンブルクへは楽々通勤圏だし、産業地帯なので、ある程度は通勤目的地にもなりそうなぐらいの町である。

 適度に活気のあるリュムランジュの町  新しいアパートもあれば教会もある

 この町で一番の観光施設は、鉱山博物館だそうだ。お城や大聖堂などの史跡に比べると、少々特殊な興味分野だと思うが、私はむしろこういったものを見学したい気持ちはある。それも含めてもう少し町を歩いてみたかったが、15分後の列車に乗るため、急ぎ足で駅付近を回って駅へ戻った。次に来る時はこんな無理をせず、片道はバスを使い、鉱山博物館見学を含め、この町で数時間をゆっくり過ごしてみたいと思った。

 朝の列車はこの沿線からルクセンブルク方面へ出かける人のためにあるに違いない。だから、来る時は回送同然でも、戻る列車には大勢乗るのだろう。そう思って駅へ戻ってきたが、リュムランジュからの客は私の他に僅かの2名であった。途中駅からの乗車も、テタンジュで1名、カイルで2名だけであった。

 ベッタンブールに着いたリュムランジュからの列車

 この列車はルクセンブルクまで直通する。夕方の列車までの8時間、車輌をノアツァンジュの切り欠きホームに留置しておくこともできそうだが、一旦ルクセンブルクまで持って行くようで、結果的に直通サービスにもなっている。リュムランジュからルクセンブルクまで、乗り換えなしで25分というのは便利だ。それでいてこれしか利用者がいないのは、何とも寂しい限りで、この路線の先行きに不安を感じる。

 私もノアツァンジュでは降りず、そのまま乗り、次のベッタンブール(Bettembourg)まで行く。ベッタンブールは利用者も多い主要駅だが、ルクセンブルクへは3分前に本線の列車が出たばかりなので、この列車での乗降客は少ない。降りたのは私だけで、ここから数名を乗せて、ルクセンブルクへと走り去っていった。



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