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ビャウィストク〜カウナス 目次


目次 (1) ポーランドとリトアニア
ビャウィストク Białystok
ビャウィストク〜スヴァウキ Białystok - Suwałki
(2) スヴァウキ〜シェシュトカイ Suwałki - Šeštokai
シェシュトカイ〜カウナス Šeštokai - Kaunas
カウナス Kaunas

ポーランドとリトアニア


 バルト三国は、言うまでもなく旧ソ連である。そして、それらの国境のほとんども、旧ソ連のどこかと接している。唯一の例外が、リトアニアとポーランドの国境である。その両国の首都であるワルシャワ(Warszawa)とヴィルニュス(Vilnius)を結ぶ列車は、一日1往復だけである。それも途中の国境駅などで乗り換えを要する。それでも首都間連絡列車だからか、昔からトーマス・クック時刻表の国際欄にも掲載されている。


 このうち、リトアニア側の列車については、最近まで、予約しないと乗れない列車を表す、四角にRの文字が入った記号がついていた。上の時刻表の左側がそれで、2011年から2012年にかけての冬期版である。国境駅からヴィルニュスまでの394/91001列車に、要予約マークがついている。だが、インターネットで探しても事前予約などは無理そうである。加えてバルト三国は、インターレールなどのヨーロッパ乗り放題の切符も使えない。そんな色々な状況から、旧ソ連の国々ではまだまだ、気ままに汽車に飛び乗るような鉄道自由旅行は難しいのだろうかと思っていた。

 しかし最近になって、時刻表にRマークがつかなくなった。上記時刻表の右側がそれで、これは、2012年夏期版の同じページである。ということは、混んでいようが何だろうが、当日駅で切符を買いさえすれば、乗れるようになったのだろうか。トーマス・クックの編集部が、長年つけていたRマークをわざわざ外したということは、何か確証のある動きがあってのことに違いない。短い休暇を使って汽車に乗りに行く身としては、情報も少なく、乗りたい列車に乗れないかもしれない所は、つい敬遠してしまうのだが、これは何となく、大丈夫そうだ。インターネットでこの鉄道に乗った人の旅行記などを日本語や英語で探しても、ほとんど出てこないので、多少は不安もあったが、思い切って出かけてみることにした。

 見てわかる通り、予約の要否以外にもいくつかの変化がある。それは、リトアニア側はカウナスでも乗り換えが必要になったことである。そして、ワルシャワ〜ヴィルニュスの所要時間は、45分も長くなっている。この区間の距離は575キロなので、日本で言えば東京から新幹線の実キロで、西明石の少し先までである。「のぞみ」なら3時間ほどで突っ走ってしまうが、そういう比較は意味のないことで、とにかく丸一日かかる。45分ばかり長くなろうがなるまいが、全区間を乗り通す人はほとんどいないであろう。ただ、乗り換え回数が増えて乗り継ぎ時間が長くなっただけならわかるが、純然たるポーランド国内区間でも、所要時間が増大しているのは、いささか気にならないこともない。

 乗ると決めた以上、計画当初は、せっかくだからワルシャワからヴィルニュスまで、一日かけて乗り通そうかと考えた。しかし、どのみち直通列車ではないし、何よりワルシャワの始発駅出発が朝7時10分というのがネックである。もうすぐ春分のこの時期なら夜も明けているのではとは思うが、そのような全線全区間乗車にばかりこだわる必要もない。要するに朝ぐらいゆっくりホテルで朝食を食べたいという気持ちが勝ったわけで、今回の旅では、この列車にビャウィストク(Białystok)から乗ってみることにした。そして国境駅シェシュトカイ(Šeštokai)で乗り換えて、リトアニア第二の都市カウナス(Kaunas)まで行く。カウナスでまた乗り換えればヴィルニュスにも明るいうちに着けるが、初めて訪れるリトアニアで、首都ヴィルニュスと並んで魅力のありそうな第二の都市カウナスを素通りするのは惜しい。

 左の時刻表は、カウナス駅の構内に掲示してあったものである。一日一往復のワルシャワ〜ヴィルニュス間の全停車駅と時刻が書かれている便利なものなので、今回はこれを時刻表として掲載しておく。

 ちなみに、20年ほど前の、バルト三国が独立したばかりの頃の時刻表を見ると、ワルシャワからヴィルニュスへの列車はこのルートではなく、当時のロシア、今のベラルーシを経由している。地図で見れば明らかだが、ビャウィストクからヴィルニュスへは、その方が断然距離が短い。言い換えると、今のこのカウナス経由は、右往左往とでも表現したくなるように、右へ左へと方向を変えながら、だいぶ遠回りしている。20年前はこれらの国々では、まだ飛行機が身近な乗り物ではなかったはずで、今よりも鉄道の需要はずっと大きかったはずである。ワルシャワ〜ヴィルニュスの直通列車だけでも4往復もある。但し、距離が今よりだいぶ短いにもかかわらず、国境審査の停車時間などもあるせいか、今よりさらに所要時間が長いのだから恐れ入る。それでもきっと、今よりはるかに多くの長距離客に利用されていたに違いない。

 ショパン博物館 (ワルシャワ)

 前日の昼に空路ワルシャワ入りした私は、ワルシャワではショパン博物館などを訪れた。そして日没後の急行列車で約3時間かけてビャウィストクへと移動し、ビャウィストクのホテルに泊まった。ワルシャワからビャウィストクまでを明るいうちに乗ろうかとも思ったのだが、ポーランドはヨーロッパ標準時の中ではかなり東に寄っているから、夜明けは早いが日没も早い。それをしようとすると、ワルシャワでほとんど何もできないのである。汽車旅は好きだし、初めての区間はできるだけ昼間に乗りたいとは思うが、汽車に乗る以外のことに興味がないわけでもないので、今回はさほど迷わず、こんなプランが出来上がった。

ビャウィストク Białystok


 ビャウィストクは、このルートを意識するまで、聞いたこともない地名であったが、ポーランドの中ではそれなりの規模の街で、人口は30万弱。東欧ポーランドの中でも最も東にある主要都市である。ベラルーシなどの旧ソ連国境にも近く、ポーランド西部とは民族や宗教の特性も異なる。後背地は農業や林業が盛んなエリアで、逆に言えば未開地が多い。内陸の都市だから、寒暖の差が大きく、暑い夏と寒い冬を持つ。3月の今もまだピリッとする寒さで、残雪も多く、どことなく北海道の札幌以東の内陸部に印象が似ている。

 中心部はそこそこ賑やかで、ホテルもレストランも沢山あった。人口30万といえば結構大きな都市と言っていいと思うが、市内交通はもっぱらバスの役割でトラムもない。鉄道は中長距離輸送が中心のようで、しかも鉄道駅は市街地と2キロほど離れている。

 大きな広場のある一角  正面に見えるのがローマン・カトリック教会

 前日は日没後であったし、東欧はタクシーが安いので、駅から市街地のホテルまでタクシーで行ってしまった。普通の人なら当たり前かもしれないが、私は滅多なことではタクシーを使わない。翌朝、ホテルをチェックアウトする際に、駅までの道を聞いたら、普通はタクシーで行くのだがと言いながら教えてくれたので、やはり私が普通でないのだろう。しかし、荷物も軽いし天気も良い。こんな時に初めて来た街を歩かない手はないだろう。

 セント・ニコラス・ポーランド正教会  市街地側から駅へ行くために渡る跨線橋

 ビャウィストク駅が変わっているのは、駅舎が市街地の反対側にあることである。一般にこの規模の鉄道駅は構内が広く、駅や線路の反対側に行くのが大変である。だから、いくら市街地と駅が離れていても、駅の表口は市街地の側にあるのが普通だ。しかしここはそうではない。市街地から駅へ向かう場合、市街地を抜けてだいぶ町外れに来たなと思うあたりで、歩道橋のようなものが木の間に見えてくる。これが駅構内の上にかかる長い跨線橋で、歩行者はこれを渡って駅舎のある側へ出て、そこから駅舎に入り、ホームに入らなければならない。インターネットのグーグル・マップでは、そのあたりがわかりづらい。日没後に初めて降りた駅では、市街地がどの方向かを見定めるのが難しく、それも昨晩タクシーを使った理由であった。そうでなければ、夜の街でも危険な所でない限り、歩いた方が楽しい。

 跨線橋から見た駅構内  駅前に保存SLと店になっている客車

 駅舎は大きく立派で、駅前広場も広い。あちこちにあるように、小さな小型蒸気機関車が駅前に保存されているのだが、ただ保存されているのではなく、後ろに小さな客車がついていて、それがフードスナックのような売店になっている。これは古い客車の保存ではなく、後から作られたものだと思うが、ともあれ、こういう保存の仕方もあるなと思う。多分この方が、鉄道に興味のない一般市民にも、何となく親しみを持ってもらえるだろう。

 ビャウィストク駅舎  駅の切符売り場

 まだ自動券売機はなく、切符を買う客は窓口に並んで買う。私も今回は切符を買わなければならない。東欧の主要駅では、切符売場に長い列ができているのを何度か見ているので、それもあって少し早めに来たが、各窓口とも先客は2名程度で、回転も早く、カウナスまでの国際乗車券を難なく買うことができた。


 ビャウィストクからカウナスまでは、287キロある。日本のJR在来線だと、東京〜二川ないし大阪〜藤生の距離である。運賃は、72.33ズウォティ。今、1ズウォティはほぼ30円なので、2,170円ということになる。JR本州3社の幹線なら4,940円だから、半額以下だ。0.33の端数がついているのは、リトアニアの区間の運賃を為替換算したために生じたのかもしれない。今、ポーランドでも、10グロシュ(1ズウォティ=100グロシュ)より小さな単位は、日常ではあまり使われていない。なお乗車券の有効期間は1ヶ月ある。途中下車も自由な、普通乗車券である。多分そういうチケットだろうとは想像していたが、万が一、当日限りのチケットが出てきたら困るので、一応、カウナスまでにしておいた。これなら明日乗る分も含めて、ヴィルニュスまで買っておけば良かったわけだが、もともと安いし、通しで買うことでどれほど安くなるのかわからない。多分ほとんど変わらないのではないかと思う。


 ビャウィストク10時22分発のシェシュトカイ行きは、ワルシャワから既に3時間かけてここまで走ってきた長距離列車である。電気機関車に客車7輌という古典的な汽車らしい汽車の姿で、ビャウィストクの3番ホームにほぼ定刻に入線してきた。ここで12分停車する。ホームでこの列車を待つ人はそれほど多くない。降りる客の方がずっと多いから好きな座席に座れるかなと思ったが、後ろ3輌はここで切り離すのであった。前4輌だけがシェシュトカイ行きで、最後尾が一等車になる。二等車はコンパートメント車1輌と普通の座席車が2輌であった。コンパートメントは日本にはほとんどなく、西欧でも徐々に減っており、旅の味わいも深いが、意外と景色が見にくい欠点もある。それなりに客もいるので、私は座席車を選んだ。2人ずつ並んで座る方式で、方向転換はできない。半分が前向き、半分が後ろ向きの固定座席で、集団見合いと反対向きの構造である。3人以上のグループで旅するには不向きな車輌だが、そういうグループこそコンパートメントの方に乗ればいいだろう。

ビャウィストク〜スヴァウキ Białystok - Suwałki


 ビャウィストクから2駅目41キロのソクウカ(Sokółka)までは、進路を北東に取る。ビャウィストクを出て5分ほど走ると市街地が途切れ、森の中を行くようになる。単調だが、綺麗に雪化粧された冬の晴天の森の中を走るのは、味わい深い。ただ景色は変化に乏しく、時おり民家が現れる程度で、山も川もない。速度は時速70〜80キロぐらいだろうか。それでも各駅停車ではなく、長距離急行のような位置づけらしく、途中の小駅は通過する。

 ビャウィストクを出ると雪原が広がる

 20分走って最初の停車駅、また20分走ってソクウカとなる。ソクウカは一応の町で、十数名程度の下車があった。

 ソクウカは分岐駅で、まっすぐ行くとベラルーシである。ここまでは、ワルシャワからベラルーシへの国際列車も走っている。我がシェシュトカイ行きは、ソクウカを出ると左へカーヴして北へと進路を取る。ベラルーシに比べるとリトアニアはまだまだ先なので、ビャウィストクのあたりでも、リトアニアとの日常交流は深くないが、ベラルーシの方が交流が強いらしい。リトアニアへの国際列車が一日1本なのに対して、ベラルーシへは国境手前で乗り換えになるが、毎日2本ある。その分岐地点の線路と線路の間は、石炭の山であった。

 ベラルーシ方面と分岐するソクウカ  ソクウカの駅舎は巨大

 ソクウカからもさして速度は落ちず、昔ながらの汽車らしい速度で淡々と雪で真っ白の平原を行く。車内も静かだが、時々携帯電話が鳴る。こんな人家もない平原地帯でも電波が来ているのかと思う。若い人は本を読んだりパソコンを開いたりしているが、お年寄りは何もせずに座っているだけの人が多い。雪で覆われた平原を見ていると、冬の道東あたりを走っているような錯覚を覚える。

 駅から人家も見えないドンブロヴァ・ビャウォストツカ

 30分無停車で淡々と走って次に停まるのが、ドンブロヴァ・ビャウォストツカ(Dąbrowa Białostock)である。ソクウカから先は本数も少なく、この列車がその貴重な1本であるから、寂しい駅だったが、数名が下車した。何もない所かと思ったら、発車後ほどなく左側に村が見えた。小さな村にしては立派な教会もあった。

 地図を見ると、ドンブロヴァ・ビャウォストツカから今度は北西に進路を取り、カーヴが多くなる。次のアウグストゥフ(Augustów)まで28分。ビャウィストクからアウグストゥフまでは、車なら一直線の国道があるので、距離だけでも鉄道は不利だ。まして所要時間では比較にならないだろう。ただ、東欧では運賃の安さで鉄道の競争力が残っているようだ。

 やはり沿線は森か平原で変わり映えしない。けれども今日は天気も良いので、こんな単調な景色でも、日常を忘れて景色をボーッと眺めながらのんびり汽車旅をするのは良いものである。

 立派な給水塔が残るアウグストゥフ

 次のアウグストゥフでも、十名ぐらいが下車した。ここも一応の村で、駅の先には大規模な貯木場があった。木材産業で栄えている所のようで、そう思って見るせいか、軒数は少ないながら、大きく堂々とした木造家屋が多い。

 アウグストゥフから再びほぼ真北へと向かう。次がスヴァウキ(Suwałki)で、このあたりでは大きな町になる。この区間は、ワルシャワからの当列車以外に、ビャウィストクからスヴァウキまでの区間列車が一日3往復ある。乗っている客に遠距離旅行風の人は少ないので、この調子だと残った客のほとんどがスヴァウキで降りてしまい、国境を越える客は僅かなのだろうか、それとも結構いるのだろうか、景色の変化が乏しい分、そんな事が気になってきた。

 スヴァウキ到着前の車内  スヴァウキではほとんどの客が下車する

 案の定といおうか、スヴァウキではほとんどの客が席を立った。スヴァウキは、この地方では大きな、人口7万弱の都市である。ビャウィストクあたりに比べると雪もだいぶ深く、もう3月中旬だというのに、ホームには積まれた雪がかなり残っている。このあたりはポーランドで最も積雪日数が多い地方だという。

 いずこも同じといえばそうだが、スヴァウキも、レンガ造りの立派な駅舎があった。車社会になる前は、きっと鉄道と駅がずっと賑わっていたに違いない。今、ここを発車する列車は、ビャウィストク行きが一日3本、ビャウィストク経由ワルシャワ行きが一日1本、そしてこのシェシュトカイ行きが一日1本、それが全てである。

 残雪深いスヴァウキ駅  スヴァウキ駅舎

 スヴァウキは分岐路線のない途中駅だが、どん詰まりのスイッチバック駅で、列車は方向転換する。その機関車の付け替えもあって、12分の停車時間がある。険しい地形でもないのに、どうしてこういう構造なのだろう。昔は線路がもっとあちこちに伸びていたのだろうか。そうだとすれば、石北本線の遠軽と同じ境遇の駅である。

 スヴァウキの駅前  方向転換のため機関車の付け替えがある

 私はこの停車時間を利用して、何か昼食を入手できないかと思って駅前に出た。しかし駅は街外れにあるようで、少し歩いてみたが、店など何もなかった。ここと比べると、同じ街外れの駅でもビャウィストクが大都会に思える。ビャウィストクなら駅で食糧の入手は容易そうであった。時間もあったのに、それをしなかったのは迂闊であった。それでもホテルで普段よりボリュームのある朝食をしっかり食べてきたので、あと数時間は大丈夫そうだ。



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