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コーンウォールの盲腸線 目次


目次 (1) アバディーン Aberdeen
アバディーン〜ペンザンス Aberdeen - Penzance
(2) コーンウォールの鉄道 Railways in Cornwall
セント・アース〜セント・アイヴス St Erth - St Ives
トゥルーロ〜ファルマス・ドックス Truro - Falmouth Docks
(3) リスカード〜ルー Liskeard - Looe
ソルタッシュ Saltash
パー〜ニューキー Par - Newquay

アバディーン Aberdeen


 イギリスを多少知っている人なら、コーンウォール(Cornwall)というテーマの最初にどうしてアバディーン(Aberdeen)が出てくるのか、と怪訝に思うであろう。だが、それでピンと来た人がいるなら、その人は筋金入りの鉄道オタク・イギリス版に違いない。

 朝のアバディーン駅前

 今回の私は、日曜日にコーンウォールのローカル線を訪れるにあたり、金曜の晩、スコットランドはアバディーンの駅近くに宿を取った。

 アバディーンはスコットランド第三の都市で、北海油田の基地として重要な、またそれゆえに豊かな都市である。スコットランド北東部にあり、首都エディンバラ(Edinburgh)まで列車で2時間半の距離にある。北端の寂しい最果ての街を想像していくと、思いのほか賑やかで活気がある都会であることに驚かされる。

 今回、私がイングランド南西端のコーンウォールへ行くに際して、無理やりこのスケジュールを組んだ理由は、しごく単純である。日曜を除く毎日、アバディーンを朝8時20分に出るペンザンス(Penzance)行きの直通列車がある。これこそが、英国で最長距離・最長時間を走る列車なのである。日曜はダイヤが変わるので、そういう列車はないし、逆方向のペンザンス発アバディーン行きもない。終着ペンザンス着は21時42分なので、所要13時間22分、走行距離1245キロ、表定速度93.1キロ、途中停車駅数45駅。この列車はダイヤ編成の都合でいつ消え去るかわからないし、未来永劫、イギリスにこれ以上の長距離を走る列車が出現するとも思えないので、かねてから一度、全区間を乗ってみたいと思っていた。

 ゲール語併記のアバディーン駅名標

 どうしてこんな列車が走っているのか不思議に思う人もいるだろうが、もとよりこれだけの長距離区間に直通需要は皆無である。イギリスの鉄道は、大都市ロンドンを中心に放射状に幹線が各方面に伸びているが、ロンドンを通らずに、北東部と南西部を結ぶ線も、それなりに活況を呈している。そこを、クロスカントリー(Cross Country)という名の鉄道会社が、終日に渡り、概ね毎時1本程度、長距離列車を走らせている。それは、エディンバラからヨーク(York)、バーミンガム(Birmingham)、ブリストル(Bristol)を通ってプリマス(Plymouth)方面を結んでいる。その一部の列車がエディンバラより北へ、またプリマスより西へも延長して走る。その中でたまたま両側に最長の延長をされた列車が、この列車だというわけである。逆方向は、ペンザンス発だと最長でもダンディー(Dundee)までであり、アバディーン行きだとプリマスからになってしまう。偶然といえば偶然なので、ダイヤ編成の都合で改訂によってなくなる可能性も、そして再度復活する可能性もあるが、ともあれ今はこういう列車がある。しかも今は日が長い6月なので、全区間、明るいうちに乗り通すことができる。

 ペンザンスまでの全停車駅が表示される

 暑さ知らずの6月のスコットランドは爽やかで気持ち良い。今日は6月21日、夏至である。朝8時すぎのアバディーン駅は、パラパラと利用者がいる程度で、混雑とは無縁であった。スコットランド内の短距離列車に混じって、確かに8時20分発のペンザンス行きがある。停車駅案内は全駅が表示できず、3ページに渡るので、全部見るにはしばらく待っていないといけない。駅員が放送で、各停車駅をアナウンスしている。コーンウォール方面の小駅のどこに停まるかなど、アバディーン駅の利用者には何の関係もないと思うが、イギリス人も案外律儀であり、形式的でもある。

 意外にも列車は僅か4輌であった。前3輌がセカンドクラス(普通車)で、最後尾がファーストクラス(一等車)である。実は私は今日はファーストクラスなのである。13時間をあの狭い二等車でも、耐えられないわけではないが、やはりゆったりした座席と空いた車内で寛いで優雅な旅をしたい、という理由が一つ。だがもう一つの理由は、ファーストクラスが全然高くないのである。使う切符は、イギリスの鉄道に乗り放題の、ブリット・レール・パス。一日でこれだけの距離を乗るのであれば、どんなに早割の安い切符を買うよりも、これがずっとお得である。中でも1ヶ月のうち好きな2日間に乗れる、Flex-2daysというのは、どういうわけかファーストクラスが特に割安で、セカンドクラスが135ユーロのところ、ファーストクラスでも169ユーロしかしない。差額34ユーロは、1日あたり17ユーロ(約2,400円)。これだけを聞くと、17ユーロも勿体ないと思う人もいよう。だが、イギリスのファーストクラスの多くは、飲み物や軽食が無料サービスで、列車によっては本格的な食事まで無料で提供される。他方、イギリスは物価が高く、車内販売でサンドイッチとコーヒーを買うだけで、6ポンド(約1,050円)前後かかる。

 アバディーンで発車を待つペンザンス行き  発車前のファーストクラス車内

 参考までに、アバディーンからペンザンスまで、普通に切符を買うと、セカンドクラスが250ポンド(約43,800円)、ファーストクラスが515.50ポンド(約90,200円)である。列車限定のネット前売りだと、安いもので、セカンドクラスで110ポンド(約19,300円)ぐらいからあるようだ。なお、この距離の日本のJR本州三社の幹線普通運賃は、14,470円。日本は実際には特急料金が加わるが、それでもなお、イギリスが高い。もっともイギリスは昔から各種の割引切符があり、加えて今はネットの事前割が豊富にあるので、長距離列車に通常の普通運賃で乗っている人の割合は、日本と比べてもかなり低いであろう。
 (※乗車日の概算レート: 1ポンド=175円 1ユーロ=140円)

アバディーン〜ペンザンス Aberdeen - Penzance


 アバディーン8時20分、定刻に発車した。ファーストクラスの客は、他に2名。ビジネスマン風のおじさんと、上流階級の雰囲気が漂うおばあさん。このおばあさんは娘さんらしき人が車内まで見送りに来ていた。

 アバディーンからエディンバラまでは、この区間のローカル輸送がメインである。景色も良く、大半の区間で左側に海が見える。同じスコットランドでもハイランドとは大違いで、沿線人口も多いエリアだ。ダンディーというスコットランド第四の都市も通る。

 停車する各駅ごとに、そこそこの乗車があり、ダンディーは下車も多い。ファーストクラスも少しずつ席が埋まってくる。途中で乗ってきたお姉さんとおばさんの中間ぐらいの女性4人組が、予約してあったテーブル付きの4人ボックス席に座り、朝からお酒を飲み、元気に会話を始めた。大いに盛り上がっており、少しうるさくもあるが、文句を言うほどではないのだろう。他の乗客も気にしていない風である。イギリスのファーストクラスというと、階級社会の名残が今なお強いお国柄ゆえ、身分違いの私などが乗ったら白い目で見られるのでは、と、乗る前は思っていたのだが、昔はいざ知らず、今やそんなことは全くない。それなりに庶民的だし、ネット予約の普及で、うまくやれば普通車と大して変わらない金額でお得な旅ができる機会も増えた。その分、本物の上流階級の常連さんたちは、顔をしかめているかもしれないが。

 ダンディーを出るとこれから渡るテイ橋が見える

 この区間の見どころは、全般に緑豊かな自然と海、そして2つの長大橋梁である。その一つ目は、ダンディーの先で渡るテイ川(River Tay)にかかる、全長3,264メートルという巨大な、テイ鉄道橋(Tay Rail Bridge)である。川といっても実際は湾であり、海の上を低いところで渡る感じが良い。

 フォース橋からの眺め

 二つ目は、エディンバラの手前、ノース・クィーンズフェリー(North Queensferry)の先で渡る、フォース橋(Forth Bridge)である。長さは2,529メートルと、テイ橋より短いが、高いところから見下ろす眺めが絶景で、あえて言うなら瀬戸大橋を連想できる。

 フォース橋を渡るとエディンバラ郊外になる。エディンバラ空港の横を通り、市内第二の主要駅、ヘイマーケット(Haymarket)に停まる。エディンバラ市内の目的地によっては、この駅下車が便利なので、下車客が多い。今年開通したばかりのエディンバラ・トラムが車窓から見える。

 ヘイマーケットの先ですれちがったヴァージン・トレイン

 ヘイマーケットとエディンバラの間で、時刻表通り、ヴァージン・トレインの特急列車とすれ違った。この列車は、エディンバラ10時52分発の、バーミンガム経由ミルトン・キーンズ・セントラル(Milton Keynes Central)行きの特急列車である。あと一息のところで、ロンドンまで行かない、変な列車ではあるが、スピードは速く、幹線を快走する。それだけのことなら、特筆することではない。だが実は、アバディーンからペンザンスまで、鉄道で少しでも早く行くならば、乗り換えなしのこの列車に乗り続けるよりも、ヘイマーケットであの列車に乗り換え、そのあと、ヴォルヴァーハンプトン(Wolverhampton)とバーミンガム・ニュー・ストリート(Birmingham New Street)で乗り換えると、この列車より1本前のクロスカントリー・トレインに乗り継ぐことができ、ペンザンスにはこの列車よりも46分早い、20時56分に着けるのである。クロスカントリーは、ヨークとバーミンガムの間で最高速度設定が低めの区間を迂回して走るので、時間がかかるのである。

 10分停車のエディンバラ駅

 ヘイマーケットとエディンバラでほとんどのお客が下車する。パーティー女性4人組もエディンバラで降りた。エディンバラは10分も停車するので、何となく間延びしてしまう。代わって乗ってくる客は少なく、ファーストクラスの車内は閑散としてしまった。車掌も交替したので、また検札がある。律儀な日本と違って、車掌が乗客の行き先情報までは引き継がないから、この後も車掌が替わるたびに検札を受けることになる。

 そして、待ちに待った車内販売が乗ってきた。私はてっきり、始発のアバディーンからあるものと思って、朝食も食べず、何も買わずに乗っていたから、既に11時を回った今は、当然空腹だ。それでもゆったりしたシートに座ってのんびり景色を眺めていただけなので、特に苦痛ではなかった。ファーストクラスなので、コーヒー、水、スナック菓子などを無料でもらったが、サンドイッチは対象外らしく有料であった。去年、この区間でイースト・コーストのロンドン行きに乗った時は、フルコースディナーまで無料だった。あいにくの中途半端な時間でそんなものは食べられなかったのが残念だったが、ともあれファーストクラスの飲食サービスには、列車と運行会社によってかなり差がある。

 エディンバラからニューキャッスル(Newcastle)は、ちょうど200キロ。"国境"を感じる区間である。実際、スコットランドからイングランドへとボーダーを超えるわけだが、単にボーダーがあるだけでなく、旅客流動が少なそうなのが、列車ダイヤからも感じられて興味深い。エディンバラから少しの間は、近郊列車用の駅がいくつもあるが、長距離列車はそれらはことごとく通過する。短距離列車はスコットランド内で完結し、ボーダーを超えてイングランドへは行かない。スコットランド最後の駅、ダンバー(Dumber)も、ひなびた小さな駅で、ここすらローカル列車はほとんど来なくて、この列車を含む長距離列車の一部が停車してカバーしている。

 ベリックを出るとツィード川を渡る

 次のベリック・アポン・ツイード(Berwick upon Tweed)がイングランド北端の町で、そのちょっと北側に実際の境界線があるのだが、この一駅間は46キロもある。人家も稀な牧草地と海ばかりの寂しい所で、同じ海沿いでも、エディンバラ以北の方がずっと栄えている。しかもスコットランド側に原子力発電所がある。スコットランドとイングランドのボーダーは、気を付けていれば、右手車窓の線路際にそれを示す標識が見える。その写真を撮ろうとカメラを持って待ち構えていたが、列車が高速なので、とても無理であった。いずれにしても、ここはヨーロッパ大陸でもしばしば経験する、流動の少ない国境区間と同じ感覚を味わえる閑散区間である。

 北部イングランドを代表する都市、ニューキャッスルに近づくと、また近郊列車用の小駅が現れ、人家もやや増えてくるものの、市内に入るまでは、人口密度の低そうな所を走る。ニューキャッスルで、大半の乗客が入れ替わった。エディンバラより北からの客は、私以外はここまでで全員降りた。

 突如現れる重厚なニューキャッスルの街  エディンバラ以遠からの客はニューキャッスルまで

 ニューキャッスル以南も、次の駅までの距離が長く、長距離列車のみがカバーしている感がある。ニューキャッスルの都市規模からすると意外な気がするが、ともあれそんな路線なので、日本で言うと新幹線と在来線の中間のようだ。それは世界初の鉄道の起点、ダーリントン(Darlington)を経て、ヨークの近くまで続く。

 世界初の鉄道が通ったダーリントン  本線から分かれるヨークは5分停車

 ヨークは大都市ではないが、鉄道の要衝であり、鉄道博物館でも知られる。その博物館は到着手前右側にあり、ベランダのようなお立ち台がある。ヨーク駅に発着する本物の列車を眺められる場所である。数名がそこに出ていたが、中に一人、中年のおじさんが立派な一眼レフカメラでこの列車を熱心に撮影していた。

 昼下がりののんびりしたシェフィールド駅

 ヨークでロンドンへの本線と分かれて、リーズ(Leeds)へ向かう。リーズからは、シェフィールド(Sheffield)、ダービー(Derby)を経てバーミンガムへと、内陸部の都市をいくつも縫って行く。ローカル線ではないものの、中都市を右往左往して立ち寄りながら進むので、これまでの一直線に南下、という感じとは変わる。しかも内陸のそれなりに商工業が発展した都市をいくつも通るので、風景はこれまでより詰まらなくなる。駅間は長閑な牧草地も広がるが、長続きせず、すぐ住宅や工場など、色々なものが現れる。路線もかなり複雑に入り組んでいる。イギリスの地理にそこそこ詳しい人でも、このあたりは鉄道路線図を持って乗らないと、どこをどう通っているか、わからなくなるだろう。そんな所なので、ファーストクラスの客もまた増えてきた。セカンドクラスでは1駅15分を乗ってすぐ降りる客もいるだろうが、ファーストクラスだとそういう客はほとんどおらず、1〜2時間程度の乗車が多い。アバディーン以来、ずっと定刻だったが、リーズの先ぐらいから、過密ダイヤの複雑な路線を縫って走るせいか、少しずつ遅れてきた。

 ロンドンに次ぐ巨大都市がないイギリスだが、第二の都市はどこかというと、マンチェスターやバーミンガムがそれにあたる。そのバーミンガムは、典型的な産業都市で、都市としての人気は薄い。それを象徴するかのように、薄暗い雰囲気が悪評の中心駅、バーミンガム・ニュー・ストリートに停まる。ここを始終着とする便利な列車が多いせいか、通り抜けるこの列車では、ここでの乗降客は案外少なかった。8分の停車時間を短縮し、遅れを取り戻して定刻に発車。

 バーミンガムからしばらくは、運河に沿って近郊区間を行く。1分に1つぐらい、電車区間の小駅を通過していく。それが果て、ウスターソースで知られるウスター(Wocester)方面への近郊路線と分かれると、一転、駅がなくなり、田舎になる。しばらく走り、チェルトナム・スパ(Cheltenham Spa)に停まると、ファーストクラスの客の半分近くが下車した。偶然かもしれないが、ここは豊かな街なのだろうか、なんて思う。

 活気のある夕方のチェルトナム・スパ駅  ブリストル・テンプル・ミーズ駅

 とりとめのない田舎を走り、このあたりの主要都市の一つ、グロスター(Gloucester)は、街を遠くに眺めながらも、スイッチバックになるので、この列車は立ち寄らず、短絡線で通り過ぎる。次はブリストル・パークウェイ(Bristol Parkway)。イギリスで駅名にパークウェイが入る駅は、大体、郊外にある新しめの駅で、パーク・アンド・ライドが発達している。2月に来た時は、水害のためここで降ろされ、代行バスに乗り換えてエクセターへ向かった。僅か4ヶ月前の話だが、当時は冬の大雨の時期、今は日の長い夏の晴天なので、全く違う世界にいるようだ。そのあたりからまたノロノロ運転が続き、列車は再び遅れだした。ブリストルの中心は、次のブリストル・テンプル・ミーズ(Bristol Temple Meads)駅である。重厚な主要駅で、乗客もかなり入れ替わった。

 ブリストルからエクセター(Exeter)へは、南西へ向かう。海から遠くはないが、海は見えない。平坦な農村地帯で、悪い景色ではないが、アバディーンから10時間となり、さすがにイギリスのこういった景色にも飽きてくる頃である。ここを私は4ヶ月前の水害時に一部区間に乗った。一部はバス代行で乗れなかった。その時、車窓から一面水に浸かった牧草地を多く見たので、まだ記憶も新しい。トーントン(Taunton)の手前でロンドンからの幹線と合流するが、2月はそのあたりも一面、湖のようだった。今は乾いた牧草地が広がっており、午後の太陽を浴びている。

 エクセター・セント・デイヴィッツ駅  水害から復旧したドーリッシュ付近を行く

 2月に来たばかりのエクセター・セント・デイヴィッツ(Exeter St Davids)に着く。ここでファーストクラスの客は全員降りてしまい、私一人になってしまった。ここからニュートン・アボット(Newton Abbot)までの、ドーリッシュ(Dawlish)付近は、左手にエクス湾が間近に迫る景勝区間だ。それゆえ、2月の水害で2ヶ月にも渡り不通になってしまった。主要幹線だから突貫工事で無事復旧させたらしい。今は何事もなかったように、穏やかな海を見ながら快走する。対岸にエクスマス(Exmouth)の町が見える。

 もうファーストクラスは最後まで一人かと思ったら、ニュートン・アボットで一人乗ってきた。そろそろ夕飯時なので、車内サービスのスタッフに聞くと、乗務はプリマスまでだそうで、その先は車内販売も何もないという。何かホットフードはあるかと聞くと、パニーニができるという。親切な人で、どこまで行くのか聞くので、ペンザンスだと答えると、それは長旅だから、プリマス到着の直前に持ってきてくれるということだった。しばらく消えてしまったので、心配したが、ちゃんとプリマス到着の5分前に、パニーニだけでなく、余りものではあろうが、紙袋にいっぱい、ペットボトルの水やジュース、クリスプス、ショートブレッドなどを入れて持ってきてくれた。サンドイッチ類は有料だと思ったので値段を聞くと、ファーストクラスだから全て無料だそうだ。

 プリマスに着いた。セカンドクラスからはかなりの人が下車する。しかしコーンウォール最寄りの主要都市だから、ここから乗る人も結構いて、ファーストクラスにもまた3名ほど乗ってきた。イギリスは随分あちこちに行ったことがある私も、ここから先は未乗車区間になる。つまりコーンウォールは初めて訪れる。2月に行こうとして駄目になったので、縁がないのかなと思ったが、ようやく踏み入れることができると思えば、少しわくわくする。

 乗客が大勢入れ替わったプリマス  ロイヤル・アルバート橋からの眺め

 プリマスはデヴォン州(County Devon)の西はずれに位置する。コーンウォールとの境界は、プリマスから10分余り走って渡る、テイマー川(River Tamar)である。川に架かるのが、単線のロイヤル・アルバート橋(Royal Albert Bridge)で、ここも橋からの眺めが素晴らしい。渡ってすぐ、ソルタッシュ(Saltash)という駅がある。この列車は通過するが、ホームには大きく、ようこそコーンウォールへ、という看板が出ている。

 プリマスから22分で、コーンウォール最初の停車駅、リスカード(Liskeard)に着く。ここから列車は各駅停車となり、コーンウォール各地の大小の町々に丹念に停まりながら、少しずつ客を降ろしていく。

 ロストウィズィエルで降りてゆく中年夫婦  ファルマスへの支線が接続するトゥルーロ

 コーンウォールの州庁所在地トゥルーロ(Truro)は、下車が多く、反対ホームに停まっていたファルマス・ドックス(Falmouth Docks)への支線に乗り換える人も結構いた。この線には明日乗る予定をしている。

 下車客が目立ったカンボーン  21時半のヘイル付近で夏の長い日が暮れる

 21時を過ぎると、夏至の長い太陽もようやく赤みを帯び、夕方の気配が濃くなってきた。初めてのコーンウォール本線からの景色は、全般に長閑な農村地帯だが、案外起伏が多く、絶景ではないが、飽きなかった。イングランドの最果てかもしれないが、気候も温暖で、自然も豊かな、ある意味、住みやすい所かもしれない。もちろん、見かけ上はそうでも、現実は他地域より州民所得が低く、そして日本ほどではないにせよ、過疎化・高齢化という問題もあるようだ。イングランドの果てなので、企業誘致などと言っても簡単ではなさそうで、経済活性化の切り札は、さらなる観光開発とされているらしい。

 終着ペンザンスには定刻に到着  夕暮れのペンザンス漁港

 気がつけばファーストクラスの客も途中で降りて、また私一人になっていた。途中で最大10分遅れたが、ペンザンスには時刻表通り、1分とたがわず、21時42分、定刻に着いた。セカンドクラスの3輌からこの終着駅に降り立った人は、10名に満たなかった。13時間22分の汽車旅は、案外あっけなく終わった。

 ペンザンスはもともと漁港で、今は観光の拠点として重要らしい。駅周辺にもホテルやレストランがいくつもある。さすがにシーフードを売りにした店が多い。太陽は沈んでしまったが、まだ十分明るいこの港町を、海に沿って歩き、予約してあるホテルへと向かった。


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