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トリノ~アオスタ 目次


目次 (1) ヴァレ・ダオスタの鉄道 Railway in Valle d'Aosta
トリノ~イヴレア Torino - Ivrea
イヴレア~アオスタ Ivrea - Aosta
(2) アオスタ~プレ・サン・ディディエ Aosta - Pré Saint-Didier
普通列車 Treno Regionale

ヴァレ・ダオスタの鉄道 Railway in Valle d'Aosta


 日本の8割ほどの面積を有するイタリア共和国は、20の自治州(レジョーネ/Regione)からなる。単純計算では、自治州の平均面積は、日本の都道府県の平均面積の2倍弱。それなりに広域な行政区画である。中でもイタリア第四の都市トリノ(Torino)を有するピエモンテ州(Regione Piemonte)は、シチリア州(Regione Siciliana)に次いで二番目に大きく、北海道の3分の1弱、日本第二位である岩手県の1.66倍ほどの面積がある。

 そのピエモンテ州の北西端に、妙に小さな州がある。失礼ながら、何も知らなければ、ピエモンテ州に吸収合併されても良さそうに思える。それが、ヴァレ・ダオスタ州(Regione Valle d'Aosta)である。面積3,261平方キロは、20州で最も小さい。日本の47都道府県と比べると、大きい方から41位の鳥取県より少しだけ小さい。その鳥取県は、日本で人口が一番少ない都道府県で、57万人ほどだが、ヴァレ・ダオスタ州はそのまた4分の1の、僅か13万人。これもイタリア20州で最少であり、人口密度も20州で最も小さい。

 そんなことは意識せずに普通に地図や時刻表を見れば、広域的にはイタリア第四の都市、トリノの経済圏・文化圏に入ると思われる。実際にもトリノとのつながりが強い地域であり、トリノから州都アオスタ(Aosta)まで、鉄路が繋がり、直通列車が概ね1時間に1本の割で走っている。今回はこれに乗って、アオスタまで行ってみることにした。

 アオスタへの路線は、トリノの東の郊外キヴァッソ(Chivasso)という所から分岐する。路線としては、キヴァッソ~アオスタの99キロの線で、正式名ではないものの、アオスタ線と呼んでいいのはこの区間である。終点がヴァレ・ダオスタ州の州都かつ最大の街アオスタであるが、そうなったのはつい最近で、2015年までは、線路はさらに奥へ、プレ・サン・ディディエ(Pré Saint-Didier)という、多分ほとんど誰も聞いたことがないであろう山峡の村まで延びていた。

 キヴァッソ~アオスタ間のうち、最初の半分はトリノのあるピエモンテ州を走る。ヴァレ・ダオスタ州に入ってほどなく停まる最初の駅、ポン・サン・マルタン(Pont St. Martin)から終点アオスタまでがちょうど50キロで、現役の駅数は7つ。現在、ヴァレ・ダオスタ州の鉄道はこれが全てである。イタリアの他19州はどこも複数の鉄道路線があり、乗換駅がある。ヴァレ・ダオスタ州だけが特別に小さく、人口も少なく、鉄道もたったのこれだけしかない。

 ヴァレ・ダオスタ州は、フランスとスイスと国境を接する。つまり、イタリア・フランス・スイスの三国国境のイタリア側がヴァレ・ダオスタ州である。実際、アオスタから道路が国境を越えてどちら国にもつながっている。フランス国境は長いトンネルで、そこを抜けるとフランスの山岳リゾート、シャモニー・モン・ブラン(Chamonix-Mont-Blanc)である。4年前、そこを通ってフランスからスイスへ、山岳鉄道乗り継ぎの旅をしたのがまだ記憶に新しい。その時は8月上旬だったが、モンブランの山々には根雪が残っていた。この旅は9月だが、おそらくあの高い山の上の方の雪は万年雪であろう。今回は山の反対側だが、雪も見られるだろうか、そんなことも興味の対象になる旅である。

 ヴァレ・ダオスタ州がピエモンテ州に統合されず、独立している理由の一つが言語である。峠の向こうは、フランスはもちろん、スイスもフランス語圏である。険しいモンブランなどの山を隔てながらも文化的な接点があるらしく、古くからイタリア語とフランス語のバイリンガルになっている。つまりフランス語が普通に通じる。駅名・地名にも、イタリア語ではほとんど使われないアクセント記号が入り、読み方もフランス語読みが多い。そういった独自の伝統と文化があってこその独立州でもあるわけであろう。

 イタリアの駅で良く見かける線路横断標識もここは三ヶ国語

 人口密度最少の州で、大きな都市もない国境の山岳地帯、と聞けば、商工業に乏しく農牧業が主体で観光業が加わった程度の、経済的に遅れた田舎ではないか、と最初は想像する。しかし、ヴァレ・ダオスタ州の一人当たりGDPは、ここ数年、イタリア20州で2位と3位の間を行ったり来たりしている。2位争いの相手はミラノを有するロンバルディア州で、トリノのあるピエモンテ州はそれらよりはるかに下なのである。面積や人口といったデータからではわからない何かがある、豊かな田舎らしい。

 今回も事前に時刻表を調べ、日本製の無料ダイヤグラム作成ソフト"OuDia"を使って乗車日(日曜)のダイヤグラムを組んでみた。ダイヤは月~土と日曜で異なり、日曜はやや本数が少なく、特に普通列車の本数に差があるのだが、トリノ~アオスタ直通快速の1時間間隔は、どちらも概ね維持されている。


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 ダイヤで赤線にしたのが、トリノ~アオスタ直通快速で、そちらがメインであり、各駅停車に当たる黒線の区間列車は本数がずっと少ないことがわかる。この線もまたあちこちで見られるように、利用者の少ない駅が段階的に廃止されてきているようで、そのため、イヴレア(Ivrea)以北では快速と各駅停車の差があまりなくなっている。快速らしいのは、キヴァッソ~イヴレア間だけで、この間は快速は全列車ともノンストップで、途中6駅は全て通過する。それを補完する普通列車は、平日は14往復あるが、日曜は6往復しかない。ここが平日と日曜のダイヤの一番大きな違いと言っていい。

 今回は前日晩にトリノ入りし、駅近くのホテルに2泊し、間の日を身軽でのアオスタ日帰り訪問の日と決めた。そうすると時間的にも余裕がある。アオスタですぐ折り返して戻るだけならば4時間ちょっとなので半日コースだが、当然、色々寄り道はしてみたい。それでも朝ぐらいはゆっくりしたいと思うものの、毎時25分発のトリノ発アオスタ行きが、何故か10時台だけ欠けている。これは平日ダイヤも同様である。さすがに11時25分は遅いので、9時25分に乗るべく、9時過ぎにトリノ・ポルタ・ヌオヴァ(Torino Porta Nuova)駅へやってきた。頭端式の風格ある大きなターミナル駅である。

 まずは自動券売機で切符を買う。事前にネットで買うことも可能だが、値段は一緒だし、ネットで買うと、A4サイズ印刷用の添付ファイルで送られてくるので、どうにも味気ない。切符らしい切符が欲しいので、駅で買おうと思って、少し早めに来たのである。もう一つ理由があって、事前にネットで買う場合、指定席などのないローカル列車でも、乗る列車を特定しないといけない。アオスタまで通しの切符を買っても気ままに途中下車はできないらしい。その点、駅で買う切符も同じなのかがわからない。しかし自動券売機でアオスタという駅名を入れてみると、ネット同様、列車の発車時刻、アオスタ到着時刻、列車番号などがずらりと出て来て、列車を選ばないといけない。9時25分発を選んで買うと、時刻と列車番号が指定された切符が出てきた。画面を英語にして買ったからか、QRコードの下にきちんと英語の注意書きがあり、指定された列車に限り有効、とある。途中下車したらそれまでで、下車前途無効なのである。もともと行きはアオスタまで一気に行くつもりではいたが、時間に余裕があるので、気が変わって途中どこかでふらりと下車、という可能性も考えていたのだが、切符を見たら駄目である。こういう点ではレールパスは便利だなと思う。

 トリノからアオスタまでは127キロあり、運賃は9.65ユーロ。当日はかなり円安の日であったが、日本のクレジットカードで買ったら1,427円で引き落とされていた。イタリアは西欧先進国の中では比較的交通費が安くて有難い。日本のJR本州3社幹線の場合で2,310円区間に該当する距離である。


トリノ~イヴレア Torino - Ivrea


 アオスタ線の起点はキヴァッソだが、快速列車にあたるレギオナレ・ヴェローチェ(Regionale Veloce)は、全てトリノの中央駅である、トリノ・ポルタ・ヌオヴァ駅から発車する。トリノはイタリア第4の都市であり、トリノ・ポルタ・ヌオヴァはイタリアでは、ローマ・テルミニ(Roma Termini)、ミラノ・チェントラーレ(Milano Centrale)に次いで三番目に乗降客が多い駅だという。ガッシリした重厚な駅舎を有する、欧州主要都市の昔ながらの頭端式ターミナルだが、中は現代らしく、またイタリアらしく、おしゃれでモダンな雰囲気の店もいくつも見かけた。

 トリノ・ポルタ・ヌオヴァ駅外観  トリノ・ポルタ・ヌオヴァ駅構内

 発車15分前だが、目指すアオスタ行きは、既に7番線に入線しており、乗車もできる。車輌は2019年導入の赤い新車で、スイスのシュタッドラー・レール社製BTR813系である。お客が乗れて座席のある車輌は3輌だが、1輌目と2輌目の間に短い電源車がついており、電源車内も乗客の通り抜けができる構造である。この車輌は電化区間ではパンタグラフ集電ができ、非電化区間も自力走行できる。専門用語では、EDMU(Electro-diesel multiple unit)ともBMU(bi-mode multiple unit)とも呼ばれ、蓄電池車ともまた少し違うらしい。

 ミラノ方面への幹線であるキヴァッソまでは当然、電化区間だが、分岐した先、アオスタ線は、キヴァッソからイヴレアまでが単線電化、そしてイヴレアからアオスタまでは、かつて延びていたそれ以遠も含め、単線非電化なのである。この車輌が導入されるまでは、ダイヤが色々変遷したものの、イヴレアで乗り換えを要することが多かったらしい。


 日曜朝に都市から田舎へ向かう列車だからか、ガラガラで、一輌目に乗ってみたが、楽にボックス席に座れた。数えてみると座席定員は56名、そこに7~8人の客が乗っている。イタリアはコロナ初期の被害が大きかった国だからか、今も公共交通機関ではマスク着用が義務で、空いていてもほとんどの人が真面目につけている。

 9時27分、定刻2分遅れで静かに発車。南下して沢山の線路をかき分けるように進むと徐々に右カーヴが始まる。そしてトンネルに入ってしまう。トンネル内で別の路線と合流し、そのまましばらく進むと、次の停車駅であり、トリノ第二の利用者数を誇るもう一つのターミナル、トリノ・ポルタ・スザ(Torino Porta Susa)に着く。このトリノの両駅間は、直線距離では1.5キロ程度で、地下鉄もつながり、歩いても大した距離ではないが、鉄道での距離は5キロもあり、時刻表を見るとどの列車も8~9分を要している。

 トリノ・ポルタ・スザでそれなりに客が乗ってきて、乗車率3割強となった。発車するとその先もしばらくトンネルで、なかなか抜けない。これは長さ13キロのトリノ地下トンネル(Passante ferroviario di Torino)で、2012年に全通した。部分完成時代の2009年からディーゼル車の地下乗り入れは禁止となり、非電化のアオスタ方面で使われていた気動車がトリノへ乗り入れできなくなった。それを解消するのが今のこのEDMU車というわけである。

 路線も幹線、車輌も最新型なだけあり、列車はかなりの高速で飛ばす。地下駅を一つ通過、地上へ出ると、そこは郊外の中層アパートが目立つ風景となる。セッティモ(Settimo)という駅で複々線が終わり、ミラノへの高速新線が分岐していく。そのあたりから徐々にアパートより一戸建ての住宅が増え、空き地や農地が段々増えるという、典型的な大都市郊外のパターンになる。そしてスピードが落ち、左手から今から進入するアオスタへの単線が合流してくると分岐駅キヴァッソに停車する。トリノ・ポルタ・スザとキヴァッソの間だけを取ると、平均速度100キロ。新宿から国立、分倍河原、柿生の距離をノンストップで14分と聞けば、ずいぶん速い気がするが、京都~高槻がノンストップの新快速が、やや距離が短いものの、ほぼ同じ速度である。

 地下駅のトリノ・ポルタ・スザ駅(前日撮影)  アオスタ線起点のキヴァッソ駅

 キヴァッソは、結局今回は帰路も下車できなかったので、実際に町を見たわけではないが、車窓から見る限り、特に面白そうな所ではなかった。構内は適度に広いが、錆びた線路も多いという、今の時代、あちこちで見かける分岐駅である。高速新線に見放されたことで、運行上の重要度が下がったのかもしれない。それでもトリノとここの間は、他にもミラノ~トリノ間の快速列車などがあり、利便性は良い。環境の良い郊外に住んでトリノへ通うには、良い所かもしれない。若干下車客があり、同じぐらいの人数が乗ってくる。方向が変わるので、4分の停車で発車。

 今通ったところを左に見つつ、徐々に右カーヴで本線と分かれ、単線電化のアオスタ線の旅が始まった。といっても風景は特にどうということもない。ほどなく高速新線の下をくぐり、単線なりにスピードが上がる。しかしそれも2~3分で、最初の通過駅、モンタナロ(Montanaro)が近づくと、スピードを落とす。そして停まった。キヴァッソからイヴレアは、快速は全てノンストップで、途中の6駅には停車しない。だが単線だから当然、列車交換の運転停車はある。この列車もこのあたりで上り快速と行き違う筈だが、事前にダイヤグラムを作っている時、ここモンタナロではなく、その次のロダーロ(Rodallo)で交換、と予想していたので、ハズレである。私の予想は、上り列車が先にロダーロに着いて運転停車していて、この列車が通過する、というものであった。しかし実際は、この列車がここモンタナロで5分も停車するのであった。この5分もの運転停車が長すぎて現実的ではないと考えたのが、私のロダーロ交換を予想した理由である。5分も停めるなら、キヴァッソの発車時刻をもう少し遅らせた方がいいように思うのだが。いずれにせよ、反対列車が高速で走り去り、こちらも発車。

 行き違いで5分も停まったモンタナロ  カンディア・カナヴェーゼ駅(帰路に撮影)

 モンタナロからイヴレアまでは、途中5駅を全てさしてスピードも落とさずに通過し、快調に走った。メルセナスコ(Mercenasco)のみ単線で、あとはどこも交換駅で、古くて大きな駅舎が残っている。キヴァッソ寄りほど駅周辺に人家が多く、駅前集落という感じの所もあり、駅間は概して閑散としていた。農地から林へ、荒れ地へ、と変化はあったが、これといった特徴もなく、格別のことはなかった。このキヴァッソ~イヴレア間の各駅停車は、平日は14往復あり、日中1時間に1本と、住宅地への利便性をそれなりに確保しているが、日曜は6往復しかない。他方のトリノ~アオスタの快速は、平日も休日もあまり本数の差がない。キヴァッソ~イヴレアの途中駅は、利用者が住人主体で通勤通学などの生活需要がほとんどなので、日曜は大幅減便しているのだろう。

 イヴレアでは3割ほどの客が下車。ここからの乗車は少なく、車内は空いて、何となくのんびりムードとなった。

 下車客が多いイヴレア  イヴレア駅ホーム

 イヴレアは人口2.5万、トリノを州都とするピエモンテ州に属する小都市である。古代より人が住みつき、アオスタからアルプスを越えてフランスへの街道筋の宿場町として発展し、古城も古い建物も残り、観光客も訪れる町である。かつてタイプライターのメーカーとして世界に名を知られたオリヴェッティの発祥の地で、今も本社所在地だという。いまどきタイプライターのメーカーなど、生き残れないのではと思うが、幾度かの困難を乗り越え、今もコンピュータ系の企業として存続している。そして、オリヴェッティを核として20世紀に様々な技術を生んだ町として、世界産業遺産に指定されている。


イヴレア~アオスタ Ivrea - Aosta


 イヴレアを出ると間もなく、ポー川の支流、ドーラ・バルテア川(Dora Baltea)を渡る。線路はここから先は、概ねこの川沿いに遡っていく。鉄橋の前方右手あたりがイヴレアの中心地で、中層のビルなども目立つが、線路の方は川を渡ると短いトンネルに入ってしまう。

 イヴレアからアオスタまでは、途中に駅が7つある。かつてはもっと多かったが、利用の少ない駅を徐々に廃止ないし信号場化していって、今のようになっているようだ。快速も普通もあまり変わらず、この列車は7駅中2駅を通過。これら2駅はほとんどの列車が通過する。とりわけ最初の通過駅、ボルゴフランコ(Borgofranco)は気の毒な駅で、日曜は普通も含め全く停車せず、平日も申し訳程度に数本が停まるだけである。どんな所だろうと目を凝らしていたが、立派な駅舎のある交換駅で、周辺にそれなりに人家もある普通の駅であった。後で調べたところ、2020年冬のダイヤ改正で列車が全く停まらなくなり、住民の強烈な不満によって、次の改訂で申し訳程度に停車列車を復活させたということだ。他方、イヴレアからこの駅前を通って、次のポン・サン・マルタンまでの区間は、バスが充実している。それでも、トリノなどに日常的に出かける地元の人にとって、列車が停まらなくなることは大問題であろう。

セッティモ・タヴァニャスコ信号場(帰路に撮影)  イヴレア行きと行き違ったポン・サン・マルタン

 ボルゴフランコと次のポン・サン・マルタンの間には、セッティモ・タヴァニャスコ(Settimo Tavagnasco)という、これもかつて駅だった信号場がある。こちらも似た運命で、見ると駅周辺にそこそこの人家もあるのだが、信号場に格下げになって久しいらしい。ホーム、駅舎は残っており、駅名標もついたままである。列車ダイヤを作成した時、日中1時間間隔の上下列車の多くが両駅の中間で行き違っているので、ネットで調べて信号場の存在を確認し、そこもかつて駅だったことまで調べることができた。一昔前まで、こういったローカルな事は現地に行ってイタリア語ができないと、簡単にはわからなかったものだ。

 風景の方はとりたてて絶景ではないが、駅間は緑豊かで、両側に山が段々と迫ってくる。そんな所にこれまでより若干大きな集落が現れると、ポン・サン・マルタンに着き、数名が下車した。ここで上り普通列車と行き違う。行政的にはここがヴァレ・ダオスタ州の玄関口に当たる町で、駅の少し手前にピエモンテ州との境界がある。

 小綺麗なポン・サン・マルタン駅(帰路に撮影)  停車列車の少ないドナス駅(帰路に撮影)

 ポン・サン・マルタンの次の主要駅はヴェレス(Verres)で、その間に2つの小駅がある。平日ダイヤでは、トリノ直通快速は両駅とも全て通過だが、日曜ダイヤでは、そのうちオーヌ・バール(Hone-Bard)には全列車が停車している。ドナス(Donnas)は単線化されたものの、立派な駅舎があり、周辺に人家もそこそこあった。対するオーヌ・バールは、岩山が迫った寂しい所で、人家も少ない。日曜だけ停車ということは、著名観光地でもあるのか、ハイキング用なのか、良くわからないが、この列車では乗降客も無かったようである。

 ドナス付近から見えるドーラ・バルテア川  岩山が迫るオーヌ・バール駅

 ヴェレスは少し大きな集落にある立派な駅で、まだ20分以上あるのに、反対ホームにはトリノ行きを待っているらしい人がのんびり座っていた。駅数ではアオスタまであと3駅だが、ここから駅間距離が長くなり、どこも10キロ以上ある。当然信号場もあって、その一つ、モンジョヴェ(Montjovet)は、やはりかつて駅だったことのわかる大きな駅舎が残っていたが、駅名標は外されていた。

 ヴェレス駅  モンジョヴェ付近の車窓

 ヴェレスを出ると、両側に山が迫ってきて、いくつかのトンネルもあり、落石覆いもあった。日本の山岳路線に似てきた。

 シャティヨン・サン・ヴァンサン(Chatillon-Saint Vincent)で、キヴァッソ以来3度目の反対列車行き違いがある。この駅も立派な交換駅で、駅前に小綺麗なホテルがあり、下車客も10人ぐらいいた。町と反対側は、ドーラ・バルテラ川の対岸の山の上に中世の城が聳えている。このアオスタの谷には、こういった山城がいくつも残り、マイナーながら観光資源にもなっているようだ。

 ホームから城が見えるシャティヨン駅  ニュス付近の明るい風景

 シャティヨン・サン・ヴァンサンから先は、さらに山奥に入っていくかと思ったが、車窓右手は広々とした谷が広がり、穏やかで明るい風景になった。視界が開け、角度によって、列車の進行前方には雪の残る高い山も見える。そんな所に点々と小さな集落があり、廃駅がある。最後の途中駅ニュス(Nus)も、そんな開けた集落の駅で、ここも10名弱の下車客がいた。

 列車は最後まで気持ち良く快走する。ただ、イヴレアからアオスタはほぼ全区間、道路が並行し、車に抜かれることも結構あった。それでもイヴレア~アオスタの表定速度が時速67キロ。もともとの線形が良い上、小駅を廃止して停車駅を絞ったから出せる数字であり、スピード面では合格であろう。乗り心地も良く快適であった。絶景路線と呼ぶほどではないが、全般的に風景の水準は高く、快適で、もっと乗っていたくなるような列車であった。


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