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トロンハイム〜モー・イ・ラーナ 目次


目次 (1) ノルウェーの鉄道 Railway in Norway
トロンハイム Trondheim
トロンハイム〜グロン Trondheim - Grong
(2) グロン〜モー・イ・ラーナ Grong - Mo i Rana
モー・イ・ラーナ Mo i Rana

ノルウェーの鉄道 Railway in Norway


 北欧、とりわけその北半分は、ヨーロッパの他地域とはスケールが違う。鉄道路線図にしても、ドイツあたりと同じ縮尺で描いたら、隙間だらけになってしまう。

 例えば関東地方の鉄道路線図を1ページに収めたとする。その余白のどこかに北海道の鉄道路線図を縮尺を変えて書き足すことも可能であろう。それを北海道を知らない関東の人が見ると、宗谷本線が青梅線や足尾線ぐらいの長さかと錯覚するかもしれない。それと同じで、北欧を漠然と考えていると、広さを見誤る恐れがある。

 人口密度が低く、地球の果てのような北欧も、良く知られているように、生活や文化の水準が高く、福祉が行き届いた先進国中の先進国が揃っている。そして物価水準も高い。こう言っては悪いが、物価の高さと旅行先としての面白さは必ずしも比例しているわけではないので、私はこれまで、北欧にはあまり足を踏み入れていなかった。

 それで今回、ノルウェーに行くと決めて、短い時間でどんな鉄道に乗れるか計画を立てて、広大な国土に改めて感じ入ったのだが、そうして時刻表を調べながら認識したことがある。鉄道のスピードが意外と遅いのである。結局、当たり前のことだが、量を運んでこそ採算に乗る、設備投資の大きな鉄道は、人口稀薄なエリアでは赤字必須である。いくら個人の所得水準が高い裕福な国でも、少ない人口の中で新たな高速鉄道の整備をするお金などは出せないのだという、当たり前のことに気づく。逆に言えば、限られた資本を福祉などに優先的に使った結果、鉄道インフラなどの整備には回っていない、とも言えるかと思う。

 ノルウェーの鉄道地図を見ていると、北極圏のナルヴィク(Narvik)にスウェーデン側からちょっと越境してくる、ロシアを除けば欧州最北の鉄道を別とすれば、西海岸側をひたすらと北上するボードー(Bodø)までの線が、まず一番に気になる。せっかくだから、これに乗りたい。だが、オスロから、トロンハイム経由でボードーまで、鉄道だと一日ではいけない。オスロを昼すぎに出てトロンハイムに夜に着いて、夜行に乗り変えて翌朝ボードーに着くか、オスロを夜行で出てトロンハイムに翌朝着いて、乗り継いでその日の夕方にボードーに着くか、どちらかである。

 距離を見ると、オスロからボードーまで1282キロ。近くはないが、東京から熊本までの在来線の実キロ1315キロと大体同じで、気が遠くなるような距離でもない。日本でも新幹線がない頃の東京〜熊本は、まさに一昼夜かけての長旅であったから、驚くには値しない。高速鉄道以前のごく平均的な鉄道のスピードだとは言えるだろう。そこに、人口密度の高い日本では新幹線が作れたが、ノルウェーでは、技術的に可能でも、採算面で現実的ではないだろう。石北本線や宗谷本線に新幹線を作るようなものだからだ。フィヨルドと山に挟まれた複雑な地形に沿って町や村が点在しているから、古い路線ほど、自然地形に忠実にカーヴを繰り返しながら線路が敷かれている。新線を作らずに高速化といってもおのずと限界があろう。

 そういう国に敷かれた鉄道だから、運転本数は概して少ない。運転本数では、オスロの都市近郊区間を除けば、ほぼ全てがローカル線と言って良い。他方で列車自体は、単行列車が行き交い、地元の短距離客がちょこちょこ乗り降りするようなタイプのローカル線とは違う。日本なら在来線長距離特急に相当するものであり、多くは食堂車なども連結している。

 私はこれまで、デンマーク、スウェーデン、フィンランドは訪れたことがあるし、鉄道もそれなりに乗った。しかしノルウェーだけは初めてであった。あまり日数もないので、オスロからボードーまでの走破は諦めることにしたものの、行ける所までは行ってみたい。そこで、オスロから夜行で朝、トロンハイムに着き、ボードー行きに乗り換え、行けるところまで行って折り返し、その晩はトロンハイムに泊まることにした。そこは、モー・イ・ラーナ(Mo i Rana)という北極圏のすぐ手前にある小さな町である。小さな町と言っても、この沿線の町はどこも小さく、日本でいう市に相当するような人口の集積した都市は無い。その限りで言えば、主要駅の一つである。モー・イ・ラーナの滞在時間1時間14分も手頃だ。1時間以上も滞在するなら、もう少し先まで乗れるのではないか、そしてもう少し先まで乗れば北極圏に入れるではないか、と思いたくもなるが、残念ながら、モー・イ・ラーナの次の駅までは、1時間20分もかかる。その途中で反対列車と行き違ってしまうのである。

 切符はインターレールのノルウェー・パスを買っておいたが、ノルウェーの長距離列車は「予約を強く勧める」という注釈が出ている。強く勧める、ということは、予約無しで乗っても良いということではあろう。予約1回50クローネ(約850円)とお金もかかるので、何度も乗れば、それなりの金額になる。できれば節約したいところだが、少なくとも夜行列車は予約無しでは不安すぎる。そこでオスロ中央駅の窓口に列を作る。窓口の男性職員は親切で、こちらの聞きたいことを流暢な英語で的確に答えてくれた。それでわかったことは、トロンハイムで乗り換えてモー・イ・ラーナまで、2本の列車を乗り継いでも、予約料金は1回でOKということであった。しかも、トロンハイムから先は、ファーストクラスに相当する、コンフォート車の連結がある。夜行は残念ながら、普通車か寝台車の二者択一で、快適に旅行したい人は寝台に乗れということらしいが、この寝台がとてつもなく高い。欧州の他の国によくある簡易寝台クシェットも、ノルウェーにはない。予約料金は、普通車50クローネに対して、コンフォート車は90クローネ(約1,530円)で、その差は座席がゆったりしていることの他、コンフォート車はコーヒー・紅茶が自由に飲めるということであった。オスロの駅構内で買ったコーヒーが29クローネ(約493円)だったので、コーヒーを2回飲めば元が取れる計算になる。夜行明けで疲れているだろうし、そしてまた7時間近くも乗るので、ここは迷わずコンフォート車にした。すると、オスロ〜トロンハイムの夜行と両方合わせて90クローネで良くて、140クローネかかるわけではない。

 後日談のコメントになるが、この「予約を強く勧める」ノルウェーの長距離列車に、予約して乗った方がいいかどうか、という話をすると、実に微妙である。つまり、普通車には予約無しで乗っている人も結構いるようであった。ただ、大いに問題なのが、車内に予約された席かどうかの表示が一切ないことである。こういった鉄道のシステム近代化が結構遅れているのも意外だったが、ともかく予約の表示がないので、せっかく予約して乗っても、予約無しの人が平気で座っている。すみませんと言って変わってもらえばいいわけだし、そういう光景も結構見かけた。だが、例えば窓側の席を予約したが、窓側に既に座っている人がいれば、平気で通路側に座って済ませる人が多い。通路側まで予約で全て埋まるような混雑する列車であれば、最後、予約無しで乗れば立たなければならないが、そこまで混むことは少なそうであった。さらに問題は、駅の窓口の営業時間が短くて、予約をしたくてもできないことが、私の場合、多かった。乗車券と合わせてであれば、インターネットでも駅の券売機でもいつでも切符を買えて、その際に席も予約されるシステムのようである。しかし予約無しの切符を持っている人が、予約だけを追加しようとしても、駅の窓口でしかできない。実際、検札の際に「予約しているか」と聞かれて、「したかったが駅の窓口が閉まっていたので」と答えたら、車掌が苦笑しながら「それが問題なんだよね」と答えたこともあった。いずれにしても、自分が予約した席以外に座っていれば、常に他の客がやってきて席を移らないといけない可能性があるということだ。落ち着いて旅を楽しむなら、予約をして、きちんと予約した席に座っておくに越したことはない。


トロンハイム Trondheim


 オスロ22時56分発の座席夜行列車は、金曜の晩ということもあってか、結構な乗車率で、隣席にも一晩中乗客がいた。そこで一晩を過ごし、疲れと眠さを引きずって着いた朝6時50分のトロンハイム・セントラル(Trondheim Sentral)は、夜もすっかり明けて朝日が昇り始めていた。秋分まであと10日ほど、という時期なので、1時間の夏時間を考慮すれば、朝7時前に夜が明けるのは辻褄が合うが、いずれにしても、いいタイミングに着いたと思う。朝が弱い人間にとっての夜行列車の旅の一つのメリットは、こういった早朝風景との出会いである。

 オスロからの夜行でトロンハイム到着  朝7時のトロンハイム駅前

 ボードー行きの列車は既にホームに入っていたが、席も予約してあるので、48分の乗換え時間を使って早朝の町を急ぎ足で歩き回ってみた。駅はニデルヴァ(Nidelva)という川のほとりにあり、駅前すぐ、橋がある。それを渡ると間もなく市の中心部に入る。

 トロンハイム駅付近の街並み  駅の反対側から見たボードー行き列車

 表通りは小ざっぱりと綺麗にまとまった近代都市である。早朝ゆえ店も全て閉まっているし、歩いている人も少ないが、夜行で着いたと思われる旅行者や、駅へ向かう人がパラパラと見られる。

 列車はディーゼル機関車を先頭に、客車を5輌つないでいた。前2輌が普通の座席車で、3輌目は食堂車、4輌目は子供が遊ぶスペースなどが備わった普通車、そして最後尾が一等車に相当するコンフォート車であった。指定された私の4番席は、その最後尾の進行右側の窓側席である。すぐ後ろがデッキで、そこに立つと、去りゆく後方風景が見られるという、良い場所であるが、海の見える左側窓側の1番席がより良いかもしれない。いずれにしても、乗車率は3割程度と、空いている。

 ボードーからの夜行列車が隣のホームに到着  一等に相当するコンフォート車

 発車の少し前に、隣のホーム3番線に客車列車が入ってきた。一目見て、これはボードーからの夜行列車であるとわかるのだが、その列車のトロンハイム着は、時刻表では7時47分となっており、この列車の発車より後のはずである。本来のダイヤであれば、発車して少ししてすれ違うか列車交換するべきであるが、ともかく早着している。意外と大雑把なダイヤと運用をしているようだ。数えてみると、座席車4輌と寝台車2輌であった。私がオスロからトロンハイムまで乗ってきた夜行は、座席車4輌と寝台車3輌で、1輌だけ長い。都市の規模からすれば、もっと大差があってよさそうだが、恐らく日本同様、主要都市間は夜行列車以外の選択肢が広くなっており、相対的に列車の需要が下がっているのであろう。それでも私が乗ってきたオスロからの夜行が満員だった割には、ボードーからの列車は見るからに空いている。だがこれは、金曜の夜発、土曜の朝着、という曜日のせいでもあろう。一般に大きな都市から地方へ向かう方角が混む曜日だからだ。

トロンハイム〜グロン Trondheim - Grong


 トロンハイムを定刻に発車した。しばらくはトロンハイムの町を走り、小駅を頻繁に通過する。寂しい北国の町を想像してきたし、もとよりオスロと比べれば断然小さいが、それでも思ったより都市圏が外まで広がっている。線路は単線で、片面ホームだけの簡素な駅と、交換設備のある駅が交互ぐらいに現れる。間もなく左手に海が広がる。早速最後尾デッキに行ってみる。ガラスが汚れていて綺麗な写真が撮れないのが残念だが、ここから走り去る光景を見るのは楽しい。

 いきなり海が見える車窓  単線非電化のトロンハイム郊外を行く

 ホメルヴィク(Hommelvik)という、駅前にアパートがいくつかみられる駅を通過すると、山の中でもないのに、唐突に長いトンネルに入った。それは次のヘル(Hell)までの一駅間の大部分であった。地図を見ると線路は海岸沿いに曲がりくねりながら敷かれていることになっているので、多分最近できた短絡線なのであろう。このあたりでもそういった鉄道への投資は行われているらしい。

 ところで、無料のコーヒー・紅茶がつくはずの、コンフォート車であるが、一向に車掌も車内販売もやってこない。だが通路向かいの席のカップルは、二人ともそれらしきコーヒーを手にしている。ギリギリに乗ったから、ひょっとしてもらい損ねたのだろうか。トロンハイム駅の売店で、クロワッサンなどを買っておいたので、そろそろコーヒーをもらって朝食にしたい。

 その謎は他の客を見ていて解けた。この車輌の中ほどに、その設備があり、セルフサービスなのであった。お金を入れなくてもコップを置いてボタンを押せば、カプチーノやエスプレッソなど、色々なコーヒーが選べるのである。その気になれば、人の目を盗みながら普通車からやってきて、ただでもらうことも不可能ではないだろうが、成熟した豊かなノルウェーにそんな人はいないという前提で、こういう設備が設けられているのだろう。

 ヘルは、構内の広い分岐駅だが、寂しい所で、近郊列車の時刻表を見れば、リクエスト・ストップの扱いになっている。ここで分かれ、国境を越えてスウェーデンへ行く路線は1日2往復しかないローカル線で、北欧有数のマイナーな国境越え路線と思われる。それが朝の光の中で、寂しげに分岐していくさまは、なかなかの風情である。今度乗ってみたいと思う。

 かつてはあちらの方が幹線格だったのか、単に地形の関係か、わからないが、東へまっすぐ進むあちらに対して、こちらは左へほぼ90度カーヴしながら水量豊かな川を鉄橋で渡る。

 ほどなく右手に空港の管制塔が近づくと、単線で片面ホームだけの、ヴァーネス(Vænes)に着く。トロンハイムを出て最初の停車駅である。別名トロンハイム空港駅で、その通り、空港ターミナルに隣接した便利な駅である。トロンハイム程度の都市であれば、もっと空港を市街地の近くに作ることもできたのではと思うが、ノルウェーはここに限らず、空港と街とが遠い所が多い。環境意識が高いこととも関連があるのだろうか。いずれにしても、その不便さを補うかのごとく、こうして鉄道連絡がなされている。駅の完成は1994年だそうだ。前の普通車からは下車した人が結構いたようだ。駅は工事中で味わいも何もなかったし、隣接して有名なチェーンホテルがあり、ローカル線の旅の中では別格のスポットではある。まだ朝早いせいか、ここからコンフォート車へ乗ってきた人は1人だけであった。

 寂しい分岐駅ヘル  空港に隣接したヴァーネス駅

 ヴァーネスの次は、またちょこっと走ってすぐ着いた、ステュアダル(Stjordal)という駅で、交換設備もあり、線路の両側にホームがあった。ここでしばらく停車する。平日だと反対列車との行き違いがあるのだが、土曜の今日は反対列車の本数が半減し、平日なら交換するはずの列車も運休でやってこない。

 ステュアダルを発車  フィヨルドの見えるラングステイン信号場で停車

 ステュアダルを過ぎれば、家はパラパラと見かけるものの、だいぶ田舎の景色になる。トロンハイム広域都市圏を脱出したということだろうか。それでもまだ区間列車が走る区間なので、時々小さな駅を通過する。左手下方に湾が見える。しばらくして、右側通行で複線区間に入って停車した。しばらく停まると、2輌の列車と行き違う。ラングステイン(Langstein)という信号場のようであるが、この地名、ドイツ系に見える。ノルウェー語の知識は何も持たずに来たが、ドイツ語が比較的近いのかなと思うことが多い。

 信号場を出てからは内陸の農村風景となる。パラパラと人家も見られる。人跡未踏の地とは違って、人口密度は低いものの、人が入り込んだ歴史は長いと察せられる風景が続く。そうしているうちに、次の停車駅、9時02分着のレヴァンゲル(Levanger)に着いた。一つ手前の停車駅ステュアダルから、46分もかかっている。黄色い駅舎が印象的で、駅付近はちょっとした市街地を形成しており、多少の乗降客もあった。構内には何本もの引き込み線があるが、列車は全くいない。かつては貨物でも扱っていたのであろうか。

 黄色い駅舎が印象的なレヴァンゲル 高緯度の割に緑豊かな穏やかな風景が続く

 レヴァンゲルからは、13分で、次の停車駅ヴァ―ダル(Verdal)。ここはちょっとだけ内陸に入った集落で、駅前に3階建てのアパートなどがあって、いくらか都市郊外といったところか。ショッピングセンターやホテルもほぼ駅前にあって、駅前がコンパクトに開けている感じであった。

 スパルブ(Sparbu)という駅を通過する。ホームに人が何人も立っていて、列車を待っている。と思ったら、その先に、マエレ(Maere)という信号場があり、またも停車。しばらく待つと、2輌の近郊用ディーゼル列車が走り去っていった。区間列車が通過し、長距離急行に当たるはずのこちらの列車が毎回信号場に停まって反対列車を待つことになっている。ここには長距離列車を優先して時間短縮を図ろうという発想はないらしい。それをしたところで、乗客を増やす効果には結びつかないのだろう。

 信号場の次が、スタインチャール(Steinkjer)。湾が平地に広がってそこそこの規模の町並みが見られる所で、トロンハイムからは126キロの距離になる。ここまでがトロンハイムの近郊区間であり、区間列車はここが終着である。その区間列車用の行き止まりホームがあり、今はドアが閉まっているものの、さきほど交換したのと同じ2輌の近郊用ディーゼルカーが停まっていた。

 ここではこの列車とは入れ替わりに上り貨物列車が発車していった。駅前にオフィスビルもあり、モダンな印象もある。駅前風景だけを見れば降りたい所ではない。ここはフィヨルドの奥の奥で、この先しばらくは海が見えなくなるはずだ。

マエレ信号場でトロンハイム行きをやり過ごす トロンハイム近郊区間の北限スタインチャール

 スタインチャールから、フィヨルドと分かれて内陸に入る。そして、旅客列車が一日3往復しか走らない、超閑散区間になる。うち1往復は夜行なので、昼間の列車は簡単に言えば午前と午後に一往復ずつだけである。右手にいくつも湖が現れる。静かな湖面は鏡のように陸の風景を映し出しているが、今日は少し靄がかっていた。

 次のヨルスタッド(Jorstad)はリクエスト・ストップで、列車は通過した。おとぎ話に出てくるようなコテージが森の中に散在する所であった。

 立派な木造駅舎のスナーサ駅

 スナーサ(Snåsa)は、湖に沿ってまとまって人家も見られる集落であった。若い女性が二人ほど降りたようで、一人は歩いて出て行った。もう一人は車でおばさんが迎えに来ていた。実はこの次のグロンで朝の反対列車と行き違うため、ここスナーサで降りて折り返すというのも、今回の旅行の計画段階で案としてあった。だから、スナーサがどんな所かは、事前にネットで少し調べてあった。結論としては、格別の特徴も無い平凡な小集落のようであった。

 スナーサの次のアグレ(Agle)は信号場で、かつては駅だったのかと思わせる所であるが、人家も稀な森の中であった。アグレの先で羊を見かけた。その先は森が多く、絶景は開けない。続いて、地図には駅名が残っているフォルモフォス(Formofoss)と思われる所を通過。交換設備も残り、駅前に家もいくつかあるが、駅舎は駅名標もない。恐らくある時点で駅から信号場へと格下げされたのであろう。

 そんな所を列車はひたすら淡々と北上する。次は中核駅の一つ、グロン(Grong)である。その手前で左から錆びた線路が合流してきた。地図には載っているものの、だいぶ昔に廃線になっているらしい、短い支線である。こんな人口密度の低い所でああいう支線が生き残る方が奇跡なのだろうが、初めて来る所であっても、錆びた線路を見ると反射的に、走っている頃に乗りたかったと思ってしまう。


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