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ボーデン〜ナルヴィク 目次


目次 (1) スカンジナヴィア最北駅への道 Way to Northernmost Station in Scandinavia
ボーデン〜イェリヴァレ Boden - Gällivare
イェリヴァレ〜キルナ Gällivare - Kiruna
(2) キルナ〜リクスグレンセン Kiruna - Riksgränsen
リクスグレンセン〜ナルヴィク Riksgränsen - Narvik
ナルヴィク Narvik

キルナ〜リクスグレンセン Kiruna - Riksgränsen


 キルナが近づくと、遠くに工場や中層のビルなどが見えてきて、知らなくても町が近づいたことが感じられる。右手から線路が合流してくると、大きな湖に沿った殺風景なところにあるキルナに、定刻より2分遅れで到着した。ここでまた2割程度の客が下車する。所定の停車時間は20分。

 産業都市キルナが近づく  殺風景なキルナに到着

 キルナは人口約2万。鉄鉱石を産する産業都市で、そのためにこの鉄道が開通したというほどのスウェーデン・ラップランドにおける中核都市である。しかしそういう人工都市だから、町並みは味気なく、また市街地も一度ならず移動しているらしい。駅が町外れの辺鄙なところにあるのもそのせいらしく、列車に接続して連絡バスは来ていたが、町の中心まで歩くと30分近くかかる。駅舎もボーデンやイェリヴァレの立派な木造駅舎と違い、仮設住宅のような素っ気無い建物で、それ以外に駅前には何もない。一つだけ倉庫のような建物が見える。その中にレンタカー会社があるらしいが、パッと見てもそれらしき看板もなく、これも知らなければわからない。鉄鉱石の町らしく、ホームには4人の工夫が線路を担いでいるモニュメントがあった。

 機関車付け替えの長時間停車  鉄の町を象徴するモニュメント

 列車はここで方向が変わるので、機関車の付け替えがある。今まで機関車の次の1輌目だったが、今度は最後尾になる。

 若干空いて定刻に発車。いよいよ最果てへの道の最終区間である。キルナの次は、アービスコ・アストラ(Abisko Östra)、日本語ではアービスコ東駅で、この間の駅間距離は97キロもあり、今回乗車区間で最長駅間距離である。後尾車になったので、さっそく最後部デッキに行って走り去る線路を眺める。客車列車のここはいい展望席なのだ。

 最後尾からの眺めは楽しい  北へ行くほどに山に残雪が増えてくる

 地図で見ても、このあたりには湖が多い。中でもキルナから25分ほどで右手に現れるのが、このあたりで最大のトーネ湖である。面積ではスウェーデン6位、琵琶湖の約半分だが、細長いので、結構長い時間、車窓に見え隠れし、味わえる。そのトーネ湖畔にあるリゾート地、アービスコは自然公園として名高く、冬もスキーやオーロラなどで客が押し寄せる所らしい。駅は、東駅の次にすぐ、アービスコ・ツリスト駅(Abisko Turiststation)もある。東駅は島式ホームで構内も広い交換駅、続くツリスト駅は単線片面ホームの駅だったが、この両駅でかなりの客が降りた。乗車は少なく、だいぶ空いた。ボーデンから一緒だった私の隣の窓側の客は、前の席と合わせて一家族3名であったが、彼らもアービスコ・ツリストで降りた。

 広い構内を持つアービスコ・アストラ駅  登山装備の客も多いアービスコ・ツリスト駅

 キルナからナルヴィクのうち、最初の一駅で既に半分以上の距離を走ってしまった。アービスコ東から終着ナルヴィクまでは、今度は76キロしか残っていないのに、途中駅が11もあり、この区間だけの平均駅間距離は6キロちょっとと、最果てのイメージに反する。特に国境の前後区間の駅間距離が短い。点々と観光客が訪れるスポットがあるからだろうが、昔は他の交通手段が限られており、特に冬など、鉄路が生命線だったので、乗降客が少ないだけの理由で安易に廃止しなかったのかもしれない。そしてこういう時代になり、人家も無いような自然の中の秘境の駅も、観光客やハイカーが利用するので廃止しない、ということだろうか。つまり、日常的に使っている住人がいるのだろうか、というような駅も多い。

 この区間は概ね国道と並行している  山小屋風の小駅ロクタショッカ

 日も殆ど出ない冬の悪天候の時の厳しさなど、想像を絶するものがあるが、今日は8月終わりにしても暖かい方らしく、午後の太陽が輝いており、時間が経過して慣れてきたこともあり、そんな北の果てまで来ていることを忘れそうな、長閑な気分になる。とは言っても駅間にはほとんど人家も山小屋もなく、風景は湿地、湖、荒れ地、森林など、人の手が入っていない大自然が続く。駅はどこも乗降客、特に下車が多少あり、駅付近に立派なホテルがある所もあるが、素朴な山小屋風の建物の方が多い。雨が降り始めた単線の小駅ロクタショッカ(Låktatjåkka)は、駅舎も山小屋風で、周囲に何もない所だが、登山装備の女の子が一人で下車していった。この駅の発車は16時19分。時刻表より実に9分も早発している。

 雨上がりのヴァッシヤウレで後方に虹  後ろの駅舎が巨大なヴァッシヤウレ

 にわか雨が強くなる中をちょこっと走れば、交換駅のヴァッシヤウレ(Vassijaure)はすぐである。雨はすぐ止み、後方に虹が出てきた。貨物列車との交換もあり、時間調整で10分も停まり、定刻発車。そうとわかっていれば少し外を散歩したかったが、前の駅を9分も早発しているので、置いていかれる不安が先に立ち、車内から写真を撮るだけにしている。同じようにデッキあたりから写真を撮る客は何人もいる。この駅は実はスウェーデン最北駅である。このあたりは線路がほぼ東西に走っており、この駅が2つ先の国境駅よりほんの僅かながら緯度が高い。ノルウェーはEUに加盟していないので、EU最北駅でもある。

 こんな清流を何度となく渡る  駅前が山小屋風の宿カッテリヨック

 次のカッテリヨック(Katterjåkk)もまた近い。こんな奥地まで来て、ちょこっと走ってはすぐ停まるのが妙な感じもする。ここは単線の停留所だが、時間調整で定刻まで長く停車。かなりの余裕ダイヤである。駅前にある綺麗な山小屋は、ステーションと書いてあるので、最初はこれが駅舎だと思ったが、そうではなく、「観光ステーション」つまり一種の山小屋を兼ねたような施設らしかった。


リクスグレンセン〜ナルヴィク Riksgränsen - Narvik


 リクスグレンセン(Riksgränsen)は、スウェーデン最後の国境駅である。駅の標高523メートルで、この旅で最高地点にある駅でもある。線路は続いているとはいえ、鉄鉱石線という名前もノルウェー側では使われないので、鉄鉱石線の終点もここ、ないし国境地点らしい。またノルウェーは、シェンゲン協定にこそ加盟しているので、人間の行き来は自由だが、EUの関税協定に入っていないので、スウェーデン(EU)とノルウェーの間には、税関検査があるはずなのである。

 そういう国境駅だから大きな構内を持つ駅ではと予想していたが、意外にも単線で片面ホームだけの駅であった。先頭部は駅を覆うスノーシェルターの中であり、私の乗っている最後部あたりのホームは板張りであった。駅からやや下方に湖があり、湖畔に風格のある山小屋風の大きなホテルがあり、車も沢山停まっている。周囲も点々と山小屋風の建物があり、通ってきたいくつかの何も無い駅に比べれば、色々なものがあり、人も住んでいそうな所である。

 単線の国境駅リクスグレンセン  駅から見るリクスグレンセン

 リクスグレンセンと、ノルウェーに入った次のビョルンフィエル(Bjørnfjell)との間は、国境越え区間なのに、駅間距離がわずか2キロ。厳密に言うと、2.14キロあり、スウェーデン側が650メートル、ノルウェー側は1.5キロほどだそうだ。その部分はスノーシェルタートンネルで、車窓風景での国境越えが味わえないので、私は最後尾に行ってみた。国境部分は両国の国旗などが描かれ、灯りで照らされており、スピードも遅いので、気を付けていれば車内にいても気づくようにはなっていた。そしてトンネルを出れば、ほどなくノルウェー側最初の駅、ビョルンフィエルである。この国境越えの一駅は、徒歩でも難なく行きつけるらしい。どちらの駅にも税関職員などおらず、車内での検査もないし、シェルターのせいで様子は伺えなかったものの、国道の方も果たして税関など、あるのだろうか。結局はほぼフリーパス状態で、稀に抜き打ちで検査する程度なのかもしれない。旬な話題として、英国がEUを合意なき離脱になっても、南北アイルランド間の国境管理も、この程度でいいのであれば、何とかなりそうな気がしてきた。

 シェルター内で灯りに照らされた国境  トンネルを抜けたノルウェー側最後尾

 ボーデンから北上するに連れ少しずつ空いてくる一方だった列車だが、ビョルンフィエルで大量に乗ってきた。まるで国境越え現象だが、これは今日だけの偶然だろう。高校生グループのハイキング帰りなのである。全車指定席のはずだが、指定席を確保しているとは思えず、空席を探して分散し、右往左往し、少しの間、騒がしくなったが、大体落ち着き、それでもまだ余席がある。地元ナルヴィクの子たちなのだろうし、山を歩いてきた後だろうから、車窓風景には誰も興味を示さず、おしゃべりしたり、スマホゲームなどに興じている子が多い。騒ぐ子はおらず、マナーは上出来であった。

 ノルウェー最初の駅ビョルンフィエル  ソステルベク駅

 対照的に外来の旅行者にとっては、ここからが車窓風景の白眉であり、立ち上がってカメラを構える人も多い。既に国境手前から下り坂で、ビョルンフィエルの標高が514メートル。ノルウェーに入ると地形が険しくなり、海辺の町ナルヴィクまで、カーヴを繰り返しながらどんどんと下っていく。しかも、キルナからリクスグレンセンまでは概ね国道沿いだったが、国境あたりからナルヴィクまでは、国道と大きく離れた所を通る。

 ソステルベク(Søsterbekk)駅の赤い小さな駅舎に駅名標がかかっており、駅名の下に小さく、h.o.h. 457 と書いてある。駅の標高である。これを見てふと、5年前にノルウェーの鉄道に乗った時を思い出した。あの時もフィヨルド沿いの各駅には大体、この表示があった。そういえばスウェーデン側では全く見かけなかった。単に鉄道会社のやり方の違いかもしれないが、山とフィヨルドの国ノルウェーの国民は、国土に平地も多いスウェーデン人よりも、自分がいる場所の標高を気にするのかもしれない。

 ソステルベク付近の神秘的な景観  荒涼感のあるカッテラト駅

 ソステルベクあたりまでは高原、湿原という感じの風景だったが、次第に深い谷を見下ろし、大きなカーヴを繰り返すようになる。そして次のカッテラト(Katterat)に着く。立派な駅舎は改修工事中だったが、人家もない険しい所にあり、単線でカーヴしたホームを持つ、絵になる駅であった。そしてこの駅は、ホーム最前方まで行くと、フィヨルドが見下ろせるのである。停車時間は1分程度だが、前方からホームへ下りて写真を撮っている人がいる。車掌さんもそこにいるので、断れば大丈夫で、私も実際、帰路にそれをした。というより、ドアから写真を撮ろうとしていたら、車掌さんが、2分あるから降りてもいいよと言ってくれたのである。このあたりは人にもよろうが、概して大らかなので、迷惑をかけない範囲でやってみるといい。

 フィヨルド端を見下ろせるカッテラト駅(翌日撮影)  フィヨルドに流れ込む川と谷を見下ろす

 カッテラトから次のロンバク(Rombak)までの9キロは、フィヨルド最奥地の様子を高い所から見下ろせる絶景区間である。カッテラトを出ると、最初は深い谷間を流れる川がはるか下方に見える。フィヨルドに流れ込む川である。そして3分ほどで、車窓右手下方にフィヨルドの先端が現れる。細い滝がいくつもフィヨルドに落ちている。斜め前方を見れば、ナルヴィク方面に広がる細いフィヨルドが、カーヴによって幾重にも変化し、そして段々と標高を下げていく。

 フィヨルドの先端が下方に現れる  前方のナルヴィク方向

 ロンバクは、半分ぐらいまで下がってフィヨルドの幅もやや広がった所にある。駅前や駅周辺は車窓から見る限り、駅舎以外に建物は見当たらず、海まで下りられるのか、未舗装の細道が来ているだけである。あとで調べると公道ではなく、車の乗り入れは事前許可が必要らしい。そんな駅でも、ハイカー風の下車客があった。


 ナルヴィクまであと20分。何とも名残り惜しい旅の最後である。ロンバクとナルヴィクの中間には、ストラウムスネス(Straumsnes)という駅があるのだが、この列車は通過である。時刻表を見ると、この後の下り最終列車のみが0時57分という遅い時間に停車するが、上りは全く停まらないらしく、そもそも上りの時刻表には駅名の記載もない。ネットで調べると、ここは停車列車がなくなった駅という記述もあるのだが、最新のスウェーデン国鉄時刻表の方が正しいことは正しいだろう。いずれにしても風前の灯火のような駅と思われる。どんな駅かと思えば、ロンバクからフィヨルドを見下ろしながら、さらにだいぶ降りてきた所に、きちんとした交換駅として存在しているちゃんとした駅であった。周囲もロンバクほどの秘境感もなく、人家も見えた。想像だが、夜の最終列車はどちらにせよ車で出迎える人が多いので、ナルヴィクよりいくらかこちらの方が行きやすい人がいるとか、そういった事情だろうか。完全廃止してデータベースからも削除してしまうと復活も容易でないので、一応停車列車を残している、といった程度の駅は、他の国でも時々事例がある。

 だいぶ高度が下がったストラウムスネスを通過  ホロガランド吊り橋を間近に望む

 線路は引き続き高度を下げつつ、フィヨルドを見ながら最後の道を進む。ナルヴィクが近づけば、町の気配もしてくる。昨年開通したばかりの、フィヨルドを渡る新しい吊り橋、ホロガランド橋(Hålogaland Bridge)が目の前に迫ってきた。この橋が間近に見えるあたりが、線路の最北端になる。ここから線路はやや左へ、つまりいくぶん南方向へカーヴをし、ナルヴィクへと向かう。ナルヴィクは駅としては最北であるが、稚内と違い、線路の最北ではない。橋のあたりに駅を作ればこちらが最北駅になるのだが、そんな可能性はないであろう。

 ちなみにこのホロガランド橋は、中国企業が受注して建設された。これによって、ナルヴィクからリクスグレンセンまでの主要国道ルートはこの橋経由となった。フィヨルド対岸を行くので、鉄道と並行していない。また、ナルヴィクの街外れすぐの所にあった小さなナルヴィク空港は、この橋の開通と引き換えに廃港となり、この橋経由で西へ50キロ以上離れた大きな空港に機能が統合されたという。


ナルヴィク Narvik


 ロンバクをほぼ定刻に発車したはずなのに、終着ナルヴィクには17時46分、時刻表より9分遅れで着いた。時刻表の作り方がいい加減なのか、機関士の個性が出てしまうのか、はたまた自然条件その他によるのかわからないが、途中、随分早着したと思ったら遅れたり、駅によっては時刻表より早く出てしまったりと、大雑把であった。

 線路は3キロ先の港まで続いているので、駅は一見、終着駅風ではなく、駅自体も複数列車の発着が可能である。だが、使われているのは本屋前の片面ホームだけである。かなりの客が吐き出され、出迎えの人などもいて、駅はしばしの賑わいをみせる。ついに最北の駅にやってきたな、と思うが、最果て感はなく、明るく活気ある印象である。

 終着ナルヴィクには9分遅れで到着  折り返しのため機関車付け替え

 到着した列車は折り返し18時17分発キルナ行きとなるので、さっそく機関車が切り離され、付け替えの作業が始まっている。この列車はキルナまでの最終、といっても一日僅か3本しかないその3本目なのだが、キルナから先の夜行への連絡もないので、さすがに利用者は少なそうである。キルナ着21時39分。日の長い季節なら途中でハイキング帰りの人も乗りそうだが、冬などどんな人が利用するのだろう。

 ハイキング帰りの元気な高校生  ナルヴィク駅舎

 ナルヴィクは市内人口1.5万、郊外を含め2万弱の人が住む、北極圏内の主要都市の一つである。ずいぶん北にそれなりの街があるものだと感心するが、ノルウェーの北極圏内には、これより人口の多い町が3つほどある。緯度は高いが不凍港を擁するだけに、交通や交易の要衝であり、産業もあるようだ。そして海流の関係で高緯度の割に気温が高く、1月の平均気温マイナス4.4度は、北緯43度の札幌市とほぼ同じで、旭川市よりも高い。ちなみに内陸のキルナなどの方がずっと気温が低い。とはいえ冬はほぼ真っ暗な日が続くので、そんな季節の人々の生活は、やはり想像を絶するものがある。観光産業は、北欧北部全体に白夜やオーロラなどの入り込みは多いが、ナルヴィク市内自体には特に著名な観光名所はない。歩いた感じも普通の近代的な町である。


 その晩はナルヴィクに1泊し、翌朝10時52分発の列車で引き返すまで、夕方と朝の町を歩いてみたが、町には人も少なく、店も多いとは言えず、成熟した落ち着きは感じたが、都会のような活気は全くなかった。物価はスウェーデンと比べてだいぶ高い。5年前に感じた印象そのものである。

 近代的なビルもある市街地  海に面した静かな住宅地

 ついにロシア以外の欧州で最北の鉄道に乗り、こんな北の果てまで来てしまったという、一つの感慨はある。しかしこの季節の旅は、誠に快適で、何の苦労もなく、あっけなくたどりついてしまったというのが実感でもある。妙な比較だが、学生時代に初めて稚内に着いた時の方が、むしろ最果て感を強く感じたと思う。地球が狭くなったのか、自分が経験を積んだのか、その両方ではあろうが、それでもとても楽しかった。季節を変えて、あと2度か3度乗ってみたいぐらいである。



欧州ローカル列車の旅:ボーデン〜ナルヴィク *完* 訪問日:2019年8月31日(土)


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