欧州ローカル列車の旅 > 2015年 > ベルギー > アルロン〜ディナン (1)

アルロン〜ディナン 目次


目次 (1) ロダンジュ Rodange
アチュ Athus
アルロン Arlon
(2) アルロン〜ベルトリ Arlon - Bertrix
ベルトリ Bertrix
ベルトリ〜ディナン Bertrix - Dinant
ディナン Dinant

ロダンジュ Rodange


 ほぼ全国に渡り等時隔ダイヤが実現しており、運転本数を見る限り、ローカル線らしいローカル線の少ないベルギー。だがそれでもやはり、皆無ではない。時刻表を細かく眺めていると、妙な路線があることに気づく。それは、ルクセンブルクとフランスとの三国国境に近いアルデンヌ(Ardennes)地方にあるローカル線である。単に本数が少ないだけでなく、一部区間は土日が完全に運休となる。それゆえ、土日を挟んだ旅行がメインの私にとって、乗りづらい線であり、何となしに気にはなりつつ、今日まで乗らずじまいであった。

 ブリュッセル(Bruxelles)とルクセンブルク(Luxembourg)の両首都を、ナミュール(Namur)経由で結ぶ幹線鉄道がある。ナミュールまでは比較的単調な平野部だが、ナミュールからルクセンブルクまではある程度は山の中を走る。ブリュッセルとルクセンブルクを結ぶIC特急は1時間に1本。点々と中小の町があり、ナミュールから先は、途中ベルギー内の6駅に停車する。最後の停車駅アルロン(Arlon)を出るとほどなく国境を越えてルクセンブルクに入る。そしてルクセンブルク国内の小駅は全て通過してルクセンブルクに至る。


European Rail Timetable Summer 2015 edition より引用

 他方、ナミュールで分かれてミューズ川に沿って南へ行く路線がある。それはほどなく観光地としても名高いディナン(Dinant)に至る。ブリュッセルからナミュールを経てディナンまでは、やはり直通のIC特急が1時間に1本走っている。この路線はディナンから先へも伸びているが、以遠はIC特急の運転はなく、ローカル列車だけになる。路線図を見ると、幹線の南のさほど遠くない所を並行して走っていて、ルクセンブルクへの代替路線としても使えそうに見える。現にそういう使い方もできないことはない。そして、本線とこの線とを結ぶ横の連絡線らしき路線も2本、描かれている。

 実態はどうかというと、この区間のうち、土日も含めて毎日列車が走っているのは、1つがディナンからベルトリ(Bertrix)を経てリブラモン(Libramont)まで、もう1つはリブラモンからベルトリを経てヴィルトン(Virton)までである。このローカル線群は、リブラモンが拠点駅の一つになっているようだ。運転本数はどちらも2時間に1本なので、リブラモン〜ベルトリ間は、1時間に1本である。

 そして平日に限り、リブラモンからベルトリを経てヴィルトンまでの線は、その先へも足を延ばし、アチュ(Athus)を通り、アルロンまで運転される。ヴィルトン〜アチュ〜アルロン間は、土日は全く運行されない。平日の運転本数はやはり2時間に1本であり、基本的にはリブラモンからアルロンまで通しで運転される。だから、アルロンの駅では、まっすぐリブラモンへ行く人が誤乗しないように、行先案内表示にはアチュ経由という注釈が掲載されている。

 アチュという駅は、土日完全運休区間の中ほどの、ルクセンブルク国境に最も近い所にある。アチュへは、ルクセンブルクから、ルクセンブルク国鉄が国境を越えて乗り入れてきている。アチュの次のロダンジュ(Rodange)は、もうルクセンブルクであるから、ルクセンブルク側から見れば、最後の一駅だけ国境を越えてベルギーのアチュへと足を延ばしているることになる。相互乗り入れではなく、ルクセンブルク国鉄の片乗り入れである。ルクセンブルク〜ロダンジュ〜アチュ間は、平日はほぼ終日、30分に1本、日曜も30分〜1時間に1本という高頻度運転がなされている。

 従ってアチュは、ベルギーにあるれっきとしたベルギー国鉄の駅であるにもかかわらず、土日はベルギー国鉄の列車が全く来なくて、ベルギーのどの駅にも行くことができず、ルクセンブルク国鉄の列車だけがやってくるという、変わった駅である。平日にしても、ベルギー国鉄よりルクセンブルク国鉄の方がずっと本数が多い。

 これというのも、この地域ではルクセンブルク市の求心力が高く、フランスやベルギーの国境付近の人も、仕事や買い物にルクセンブルク市へ行くことが多いからであろう。私は2年半ほど前に、フランス国内の駅でありながら、フランス国鉄が撤退し、ルクセンブルク国鉄だけの終着駅になっている、オドゥン・ル・ティッシュ という所を訪問した。そこもかつてはフランス国鉄も通っていたようだが、今はルクセンブルク国鉄だけの盲腸線終着駅になっている。ここベルギーのアチュも、この運転形態と本数から考えて、いずれベルギー国鉄は廃止されて、ルクセンブルク国鉄しか来ないベルギー国内の駅になってしまうのではないか。的外れかもしれないが、時刻表を見ていると何となくそんな気もして、早いうちに乗りにいってみたいと思っていた。

 今回の私はルクセンブルク市に連泊していたので、このベルギーのローカル線乗車は月曜にアルロンからスタートすることにした。その前日の日曜は、他に行きたい所も色々あったが、時間を取ってルクセンブルク側からアチュへと行ってみた。一種の下見を兼ねた乗り潰しである。

 ロダンジュの駅舎  ロダンジュ駅ホーム

 ルクセンブルク駅からは、アチュ行きが30分に1本出ている。但し日曜の午前中だけは1時間に1本になる。アチュの1つ手前にロダンジュという駅がある。ルクセンブルク駅では、ロダンジュ行きという列車も結構見かけるが、これは通る経路が違い、エッシュ・シュル・アルゼット(Esch-sur-Alzette)回りで、ロダンジュへはだいぶ遠回りになる。このロダンジュという駅は、フランスとベルギーとの3国国境に近く、そのあたりを複雑に線路が入り乱れているという、鉄道面で興味深い駅である。他方でロダンジュは、観光ガイドブックはもとより、観光向けではないルクセンブルクの各地の案内本やサイトを見ても、鉄道がらみを除けばまず登場しない町である。実際、行ってみても見所はありそうもない。普通の住宅地で、地元向けの特徴の薄い商店が並んでいて、工場や倉庫なども目立つ。実はかなり昔に、乗り潰しというほどではないが、国内乗り放題の切符で行ける所まで行ってみようという感じで行ったことがある。

 ルクセンブルクから日曜午前のアチュ行きに乗り、まずはロダンジュで降りてみる。経済的にも豊かでおしゃれなイメージもあるルクセンブルクという国ではあるが、ここロダンジュは、相変わらず垢抜けない。貧しい感じはないが、モダンに改装された建物もほとんどなく、特徴の薄い古びた街並みが続いている。駅はまあまあ大きい。乗客もパラパラとは見かけるが、これだけ沢山の列車がやってくるほどの需要はない。駅構内はそこそこ広く、かつては隣のペタンジュ(Petange)と合わせて、国境駅ならではの貨物ターミナルの役割も果たしていたのかと思われる。今はEU内の通関もないので、そういった機能もない。

 ロダンジュ駅のアチュ寄りにある踏切  ロダンジュ駅付近の街並み

 観光名所など皆無のロダンジュまで来たのだから、せめて行ってみたい所に、ルクセンブルク、フランス、ベルギーの三国国境がある。距離的には駅から徒歩圏なのだが、調べた限り、足を踏み入れられる場所ではないらしい。シェンゲンのような風光明媚な川の上というわけでもなく、殺伐とした工業地帯に囲まれた、小川の上のようである。


 ちなみに線路はロダンジュを出ると右へカーヴするのがベルギーへの線で、線路としては1キロ余り走ってから国境を越える。しかしロダンジュ駅から一般道路で最も近いベルギー国境は、徒歩5分もかからない所にある。

 他方、まっすぐより若干左にカーヴしていく路線は、ルクセンブルクからフランスに向かう。フランスに入って最初の駅が、ロンウィ(Longwy)で、ここもそれなりの規模の町であり、広域的にはルクセンブルクの商圏と思われる。フランス側の事情なのか、ロダンジュとロンウィの間は、これまた休日は列車が走らず、平日も朝夕を中心に僅かしか運転されないという、乗りづらい区間になっている。ロンウィまで行くと、フランス国内の列車が、少ない本数ながら、フランスの他地域へとつながっている。ロンウィに関しては、将来に渡って、フランス国鉄が撤退してルクセンブルク国鉄だけしか来ないような駅にはならないであろう。

 ペタンジュ駅舎  ペタンジュ駅

 ルクセンブルク国内は本数も多いので、ロダンジュから2駅戻り、ペタンジュへも行ってみる。ペタンジュは、ルクセンブルク内の路線2本が合流する所にある。地図にも大きく名前が出ている町なので、ロダンジュより賑やかな所ではないかと思ったのだが、駅付近は特に何もなかった。駅と離れた所に市街地があるのかもしれないが、駅付近に関しては、鉄道の町としての栄え方が大きかったからか、まだロダンジュの方が一応の商店街があって賑わっている。ペタンジュの駅の反対側は留置線が多数並んでいた。ここもかつて操車場機能があったのか、やはり通関のためだったのか、わからないが、今はあまり使われていないようであった。

 ペタンジュ駅裏手  ペタンジュ駅前は住宅地

 次のルクセンブルク発アチュ行きに、ペタンジュから乗ってみる。今朝からずっと、1輌でも十分そうな乗客数だが、この列車も2階建て3輌編成の豪華な新車が使われている。当然、ガラガラである。


アチュ Athus


 ロダンジュを出てしばらくは沢山の線路をかき分けるようにして走る。その右側の複線がアチュ方面で、左側はフランスのロンウィへの複線である。それらが徐々に分かれて行くあたりは、まだルクセンブルクだが、殺伐とした工業地帯の風情である。やがておもむろに右へカーヴすると、ベルギーに入る。線路左手にはコンテナが山積みになっている。ここは三国国境地帯を利用したコンテナ基地だそうだ。重工業を失ったアチュの、それに代わる産業の一つらしい。

 コンテナの山の向こうから、ヴィルトン方面からのベルギー国鉄の複線が合流してくる。そしてほどなくアチュに着く。鉄道の線路配置とか国境とか、そういう事に興味を持って乗らない限り、何の面白みも無い線で、あっけなく着いてしまった。

 アチュ駅の駅舎  アチュの裏口が市街地側で跨線橋がある

 アチュは中規模の駅で、ベルギー国鉄の古い仕様の駅名標があった。そうだろうとは思っていたが、完全にベルギーの駅であった。古びた大きな駅舎が残っているが、中は閉鎖されており、待合室も含めて入れない。無人駅で、ホームにベルギー国鉄の券売機が一台ある。ここはベルギーだが、ここまではルクセンブルク国内乗り放題の切符でも乗れる。アチュの人も、鉄道で出かけるとすれば、ベルギー国内の路線よりは、ルクセンブルクへの線を使う機会がはるかに多いに違いない。にもかかわらず、このベルギー国鉄の券売機は、ベルギー国内の駅までの切符しか買えず、ルクセンブルク国内の乗り放題切符はもとより、隣のロダンジュやルクセンブルクまでの片道切符も買えないのであった。せっかく国境にこだわらずに利便性優先で他国の鉄道が乗り入れているのに、切符に関しては何とも融通がきかないことになっている。


 駅本屋の側は、一応整備された駅前広場があり、バス停もある。今の列車から降りた人が数名、バスを待っている。だがそれだけで、商店もなく、広場の先は普通の住宅である。駅前広場と反対側の間は、屋根のない跨線橋で結ばれている。それは間にある島式ホームの上も横切っているのだが、そのホームへは降りられない。島式ホームへは、本屋のあるホームから、構内踏切で結ばれている。その跨線橋を渡り、殺風景な裏口から細い道を少し行くと、そちら側がアチュの市街地であった。

 活気はないが、寂れきってもいない。今日は日曜だから、開いている店は少ないが、平日は店もちゃんと開いていそうで、少なくともシャッター通りと化してはいない。日曜の今日も多少は人が歩いている。垢抜けない街だが、常連の地元民向けの店ばかりだから、これでいいのだろう。

 アチュ駅からコンテナ基地方面を望む  アチュ駅構内の側線群

 駅前にもこの中心部にもバス停があって、いくつもの路線がある。明日乗る予定の鉄道路線の並行路線と思われるバスもあるようで、アルロン、ヴィルトンなどの行先も見られた。

 アチュ市街地  アチュ駅付近の標識には2つの博物館も

 後で調べると、アチュは1970年代まで、製鉄・鉄鋼業が栄えていたらしい。それらが国際価格競争に晒されて立ちゆかなくなるという先進国ならではの運命によって衰退し、以後、町も地域一帯とともに大いに寂れたそうだ。人口急減期は失業者の増加や治安の悪化など、色々な問題があったが、それから数十年を経て低位安定しているのが今の状況らしい。ただ、新たに街に活気をもたらすほどの産業誘致などはできていない。良く言えば古びて落ち着いた今の街並みも、そういった歴史的経緯に起因するらしい。

 観光客など一人も来ないのでは、と思いたくなるような所だが、それでも何らかのものはある。駅近くの跨線橋には、割と新しい、2つの博物館への標識があった。一つが Musee l'univers des pompiers、もう一つが Musee Athus et l'acier で、この場では何の博物館なのかわからなかったので、後で調べると、前者が消防士博物館、後者がアチュと鉄鋼の博物館であった。消防士博物館は鉄鋼産業と直接の関係はなさそうだが、かつての鉄鋼会社の建物を使って博物館にしたそうだ。それにしても、どれほどの見学者がいるのだろうと思う。


アルロン Arlon


 翌日の月曜日は、雨模様であったが、まずはルクセンブルク10時09分発のブリュッセル・ミディ(Bruxelles-Midi)行きIC特急でスタートする。数年前は昔風の客車だったが、今回は二階建て新車4輌であった。やはり客車で、先頭に電気機関車が付いている。こんな新しい客車を導入したということは、ベルギー国鉄は今後も客車列車を残していくのだろう。それはそれで嬉しい。

 相対ホーム一面だけの近郊の住宅地駅をいくつか通過し、ルクセンブルク最後の駅、クラインベッティンゲン(Kleinbettingen)も通過。ここは国境駅だからか、構内が広い。そして国境を越えると最初の駅が、ベルギーのアルロンである。ICだと1駅20分で、あっという間に着いてしまうが、ここまでの片道乗車券が、10.80ユーロ。一つ手前のルクセンブルク国内だけなら、往復だろうが他線やバスにも乗ろうが、ルクセンブルク中を1日中乗り放題で4ユーロである。そちらが破格の安さではあるのだが、前日にそういう切符でルクセンブルク中を回っていた後だけに、実に高く感じる。

 アルロンは、ベルギーのリュクサンブール州(La province de Luxembourg)の州都である。州都でありながら、国境間際の、州の中でも南東の端にある。リュクサンブールとは、ルクセンブルクのフランス語読みで、スペルも全く一緒だが、ベルギーの一地方であり、もとよりルクセンブルク大公国とは異なる。異なるが、無関係ではなく、実質は1つにつながっている。ベルギーのリュクサンブール州は、ルクセンブルク語を話す人も少数ながら存在するという、ルクセンブルク国と関係も深い地域なのである。

 アルロン駅舎  渋さたっぷりのアルロン駅前

 普通ならまずゆっくり駅を観察するのだが、乗ってきたIC特急がここで5分も停まる。見れば駅の先に跨線橋があり、5分もあれば歩いてたどり着けそうである。そこでまずは急ぎ足で跨線橋まで行き、乗ってきた列車の発車を見届ける(写真下)。


 国境駅かつ分岐駅だから、構内は広い。小雨に煙った天候の日だから余計かもしれないが、何気に寂しい感じもあるし、町は州都の割には寂れている気がする。州都と知らずに見れば、先入観かもしれないが、国境都市の寂れ方が出ているような気がしないでもない。

 それから少し駅周辺を歩いてみる。古びた商店がいくつかあり、バーやカフェもあるが、垢抜けておらず、昔からの雰囲気を引きずっている。昨日のアチュとも似ている。立派なカトリック教会はあったが、地元の信者のためで、観光客など来ないのであろう。だが、人が去ってシャッター通りと化した過疎の町ではない。パラパラと人が歩いており、店は概ね営業している。

 アルロン駅付近と大聖堂  アチュ経由と本線経由のリブラモン行きがある

 小雨だし、短時間で回れそうな見所もなさそうなので、少し早めに駅へ戻る。この駅は、ブリュッセル〜ルクセンブルク間のIC特急が上下とも1時間に1本、停車するのに対して、それ以外の普通列車は影が薄い。けれどもこの時間はそういった普通列車が3本、続いて出る。私の乗るベルトリ経由リブラモン行きが3本目なので、他の2本の発車を見届ける。いずれもここアルロンが始発である。最初に出るのは、10時59分発本線経由のリブラモン行きで、2輌。見事な空気輸送で、乗客は1人だけであった。続いて11時07分発ルクセンブルク行き普通。こちらは3輌編成で、そのうち1輌がファーストクラスである。ファーストクラスには誰も乗っておらず、セカンドクラス2輌に10名ぐらいの客がいた。これが一番賑わっている。通勤圏内の距離に、他に都市らしい都市もないので当然だが、やはりここはルクセンブルク市の求心力が強いエリアである。それで10名だけかと思うだろうが、ルクセンブルクへ行く人は、ノンストップのIC特急を選んで乗る人が多いから、鈍行は空いているのだろう。

 乗客1人だけの先発の本線経由リブラモン行き  ルクセンブルク行きと並ぶアチュ経由リブラモン行き

 そして私の乗る、11時14分発アチュ回りリブラモン行きは、セカンドクラスだけだが3輌編成と、長い。乗客は5名ぐらいであるから、やはり見事にガラガラと言える。ベルギーと言えばつい最近までどこに行っても古めかしい吊り掛けモーターの唸り高らかな旧型電車が走っていた。2年前にもまだ結構見かけた。ところが今回は、ベルギーきってのローカル線と思われるこの線区にも、新型電車が導入されていた。毎度のコメントだが、普段の利用者にとっては良いことに違いない。だが私には残念で仕方ない。最近あちこちでめっきり減ったので、ベルギーのこのあたりならまだ乗れるかも、という淡い期待もあって、今回ここを選んだというのも、動機として多少はあった。



メッス〜トリアー へ戻る    アルロン〜ディナン (2) へ進む