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ジュネーヴ〜マルティニー 目次


目次 (1) ジュネーヴ Genève
ジュネーヴ〜ベルギャルド Genève - Bellegarde
ベルギャルド〜エクス・レ・バン Bellegarde - Aix-les-Bains
エクス・レ・バン〜アヌシー Aix-les-Bains - Annecy
(2) アヌシー〜サン・ジェルヴェ・レ・バン Annecy - St-Gervais-les-Bains
サン・ジェルヴェ・レ・バン〜レ・ズッシュ St-Gervais-les-Bains - Les Houches
レ・ズッシュ〜ヴァロルシーヌ Les Houches - Vallorcine
ヴァロルシーヌ〜マルティニー Vallorcine - Martigny

アヌシー〜サン・ジェルヴェ・レ・バン
Annecy - St-Gervais-les-Bains


 次に乗る列車は、アヌシー12時15分発サン・ジェルヴェ・レ・バン行きである。正式にはサン・ジェルヴェ・レ・バン・ル・ファイエ(St-Gervais-les-Bains-le-Fayet)という長い名前になる。時刻表通りならもう出てしまった筈だが、本数の少ない列車同士、そんな意地悪はしないだろう。実際、隣のホームに上がれば、今度もまた同じような形式の2階建て3輌編成の電車が悠然と停車していた。

 そして、意外や意外、乗り換える人は少なく、今度はガラガラなのだ。乗ってきたリヨン発の列車で来た人のほとんどは、モン・ブランを目指しているわけではなく、ここで下車したようだ。正直、アヌシーがどんな所か殆ど知らずに来た自分が無知だっただけで、後で調べればアヌシーも有名な湖を有する観光都市であった。それでもモン・ブランの方が知名度は高いだろう。だから私は観光客の大半はモン・ブランを目指しているものと思い込んでいた。

 サン・ジェルヴェ・レ・バン行きは、ダイヤから9分遅れの12時24分、拍子抜けするぐらいのガラガラでアヌシーを発車した。これまで乗った3本の列車はTERと言っても快速で、日本の特急並みに通過駅も多く、走りっぷりも高速だった。対するここからは純然たる各駅停車であり、終着サン・ジェルヴェ・レ・バンまで途中9駅全部に停車しながら、85キロを1時間34分かけて走るので、表定速度は60キロを割る。車輌は同じでも、空いていることも相まって、ローカル線に乗り換えた気分になり、2階席にゆったりと腰を下ろすと、さきほどのいっときの憂鬱も吹っ飛び、気分が良くなる。

 アヌシー駅C番線に停車中の始発列車  プランジー駅手前の車窓

 アヌシーは思っていたより大きな都市で、最初しばらくは街中を走る。最初の停車駅プランジー(Pringy)も駅前はやや都市郊外風である。その先は農山村風景が広がってくる。山の緑が美しい。廃駅も見られるという、典型的なフランスの地方路線である。

 遠くに山を眺めつつの牧歌的風景が続く  グロワジー・トラン・ラ・ケール駅

 やがてぐるりと大カーヴを経て、右手から線路が寄り添ってきて、少し大きな駅、ラ・ロッシュ・シュル・フォロン(La-Roche-sur-Foron)に停車する。列車はここで方向を変えて、この先は今寄り添ってきた線路へと進む。方向変換のため、時刻表では11分の停車時間がある。こういう場合、定時運転で列車が空いていれば、一旦降りて駅前に出るぐらいは可能で、私はしばしばやるのだが、今日は遅れているので、ホームに降りるだけにしておく。


 ラ・ロッシュ・シュル・フォロンからは、先へ直進する線路もあるので、ここは分岐駅である。そして実はこのラ・ロッシュ・シュル・フォロンは、ジュネーヴにかなり近く、直線距離では25キロ程度しかない。そこを今日はぐるりと大回りして、既に165キロも鉄道に乗ってきた。用事があってこことジュネーヴを行き来する人で、私の今日のルートを使う人は皆無だろう。途中、バスを介せばずっと近い。最初に地図を見たときは、全区間鉄道で、きっと1時間ぐらいで行けるのだろうと思ったが駄目で、検索をかけた結果、今日のルートになった次第である。後から知ったのだが、現在、こことアンヌマス(Annemasse)という所の間が改良工事中で長期に渡りバス代行輸送中、そして国境を越えるアンヌマスとジュネーヴは来年、新線でつながる予定なのであった。アンヌマスは、スイス国境に接するフランスの街で、ジュネーヴ郊外のトラムの終点からアンヌマス駅までは4キロしか離れておらず、1時間弱で歩けるそうである。また、ベルギャルド〜アンヌマス〜エヴィアンの間は、フランス国鉄の国内路線が2時間に1本のローカル列車を走らせている。

 アヌシー発9分遅れの列車は、ここに7分遅れで着き、11分の停車時間を8分に短縮し、遅れを4分に縮めて13時03分に発車した。乗客は多少入れ替わったが、相変わらずガラガラである。

 駅前に人家が多いボンヌヴィル駅  豊かな農村を思わせるマリニエ駅

 進行方向は変わったが、方角はこれまでとほぼ同じでさらに東へと向かう。その先は車窓から見る限り、折からの夏晴れの天候も相まって、明るく豊かそうな農村地帯が続く。家々も豪邸が多い。駅は古びた所が多く、単線化された駅、駅員のいる交換駅など、単線電化の亜幹線クラスの平均的な姿である。そんな中で、クリューズ(Cluses)という駅は、田舎駅に不釣合いなデザインも斬新な新しい跨線橋があった。最近の日本なら珍しくないが、フランスの地方ローカル線でこういう設備を見ることは少ない。

 駅自体はモダンなクリューズ駅  マグラン駅からの岩山風景

 マグラン(Magland)あたりまで来ると、線路に険しい岩山が迫り、前方左手にはかなりの雪を残した山々が見えてくる。8月であれだけなら、恐らく万年雪であろう。モン・ブランが迫ってきたとの実感が湧いてきた。

 そうして列車はすっかり遅れを取り戻し、13時49分、ピッタリ定刻に、終着サン・ジェルヴェ・レ・バンに着いた。

サン・ジェルヴェ・レ・バン〜レ・ズッシュ
St-Gervais-les-Bains - Les Houches


 サン・ジェルヴェ・レ・バンは、アヌシーとは違い、小さな町である。駅の標高は581メートル。標準軌鉄道はここで終わりで、この先はメートルゲージの狭軌山岳鉄道になるという、線路界の駅である。着いたホームの反対側に、一目でそれとわかる赤い小型の電車が停まっている。同じホームで乗り換えできるように配慮されている、というよりも、それが可能なコンパクトな構造と列車本数なのであろう。次に乗るのは、14時05分発ヴァロルシーヌ(Vallorcine)行きで、全線34.1キロを86分かけて走るので、表定速度は23.8キロという、超鈍足鉄道である。第三軌条方式なので、架線はない。

 サン・ジェルヴェ・レ・バンには定刻に到着  サン・ジェルヴェ・レ・バン駅舎

 心配だった混雑も、問題なさそうだ。今の列車から乗り換える人と、ここから乗る人を合わせても、余裕で座れる。しかし、8月の日曜日にしてそういう状態では、普段はどれだけ空いているのだろうかと心配にもなる。それでも世界に誇る一級観光地の登山鉄道、簡単に廃止されることはないであろう、と思いたい。

 混雑の心配もないので、駅前へも出てみる。実は駅前からモン・ブランに登るトラム式の観光鉄道も出ていて、観光客に本格的に人気があるのはそちららしいのだが、この時は気にしていなかった。

 サン・ジェルヴェ・レ・バン駅前風景  折り返し列車が到着

 ホームへ戻る。停車中の列車が、14時05分発のヴァロルシーヌ行きなのかどうかがわからない。他の乗客も迷っているようで、それでも乗り込んでしまった客もいるのだが、やがて駅員に追い出されていた。

 14時ちょうど、ヴァロルシーヌ方面から小型3輌編成の赤い電車がやってきた。停車中の回送列車と同じ線路に入ってくる。こういう場合、日本ならば一時停止してからゆっくり慎重に入線してくるが、ここは普通の速度で進入してきて数メートルの間を空けて停まった。降りてきた人はさほど多くない。乗り込むのも同じぐらいの人数で、余裕でボックス席に一人で座ることができた。

 だが駅員が乗り込んできて、フランス語の肉声で乗客に何かを伝えている。きょとんとしていると、次に英語でも説明してくれる。線路に問題が生じたので途中区間がバス代行になるということであった。また、自治体職員なのか、乗客一人一人にアンケート用紙を配っているおじさんがいる。英語版もちゃんと用意されている。他にもいくつかの言語で作られているらしく、一人一人の客に言語を確認しつつ、紙と鉛筆を配っていた。項目は、どこにでもあるような、年齢性別国籍や旅行目的などの他、この線までの交通手段とか鉄道を選んだ理由とか、結構多くあるのだが、これは鉄道の将来を検討するための実地調査であること疑いない。天下の観光大国フランスのモン・ブラン観光鉄道を、簡単に廃線にはしないだろうが、夏のピークでこの乗客数というのを見れば、放っておけない状況なのかもしれない。あるいは自治体への払い下げとか民営化への布石だろうか。というのも、この狭軌登山鉄道も、れっきとしたSNCFの一般路線なのだ。スイスだと狭軌登山鉄道の多くがスイス国鉄と別運営なのに対して、フランスの鉄道は、都市の地下鉄・トラムやコルシカ島以外はほとんどがSNCFの経営であり、組織が巨大だ。日本の旧国鉄みたいで、経営改善が遅れているとも言える。そして、マクロン大統領が改革を言い出してから、反発した組合がストライキを頻繁にやっているのがまさに今年である。

 列車は定刻に発車。アンケートを書きながらチラチラと車窓の景色を眺める。これまでとうって変わって鈍足の狭軌山岳鉄道で、さっそく勾配を登り始めた。徐々に下界の景色が広がってゆく。スイスではあちこちで山岳鉄道に乗ったけれど、フランスのは初めてかも、と一瞬思ったが、ちょうど1年前、セルダーニュ線に乗ったことを失念していた。さらにはコルシカ島の鉄道も狭軌であった。スイスやオーストリアほどの密度ではないものの、フランスも広い国だけに、メートルゲージの狭軌鉄道は他にもいくつかある。そういう観点から次に訪れるところを探すのも楽しいなと思う。

 列車は空いていた  人家も少ないセルヴォ駅

 天気も良く、列車も空いていたのは有難かったが、一部バス代行は乗り潰しの点からは残念だ。全線完乗でも目指していれば、腹が立つ所だろう。だが最近の私は、一部区間がバスになることで、違う角度からの風景もみられるので、むしろ有難いと思うことが多くなった。線路と道路がほぼ並行している区間でも、列車からとバスからとでは、印象が全く異なることも少なくない。

 時刻表になかったヴィアドゥ・サント・マリーに停車  進むに連れて眺望が広がる

 全駅全停車駅の時刻が載ったものを検索で調べて持ってきたつもりだが、それに無い駅があった。リクエスト・ストップの停留所である。通過するところもあれば、停車して観光客らしいハイカーなどが乗ってくる駅もある。帰宅後もう一度、フランス国鉄のサイトで時刻表検索しても、これらの駅は存在しないかの如く、出てこなかった。


 そうして僅か26分の乗車で、レ・ズッシュ(Les Houches)。標高980メートルまで上がってきた。ここからバス代行である。楽しい電車で、もっと乗っていたいが、こういう駅で降ろされるからこそ見られる山の景色も撮れる写真もある、と思うことにしておく。

 レ・ズッシュで代行バスに乗り換え  レ・ズッシュ駅前から見る山々

 駅前にはバスが2台、待機していた。しかし乗客数を見て1台で全部運ぶらしく、2台目のバスには乗れない。駅前の写真などを撮っていた私は最後の方になったが、それでも何とか窓側の席に座れた。

レ・ズッシュ〜ヴァロルシーヌ Les Houches - Vallorcine


 レ・ズッシュからバス代行区間が終わるシャモニー・モン・ブラン(Chamonix-Mont-Blanc)までは、僅か7.3キロだが、途中には駅が5つもある。鉄道だと所要15分で、加えてシャモニー・モン・ブランでの停車時間が6分あるのだが、果たして道路を21分で走れるのだろうか。そもそもバスがここを出るまでに5分以上かかっている。バスは山岳リゾートらしき所を進むが、観光シーズンだからか、車が多く、そんなにスムーズには進めないし、駅前に立ち寄るために道路を大回りする所もある。そうしてほぼ駅前かそれに近い所に停まりつつ進んだのだが、シャモニー・エギーユ・デュ・ミディ(Shamonix-Aiguille-du-Midi)と思われる所は車窓からは駅が見えず、中規模なバスターミナルのようなところで客を乗降させていた。そこは回りも賑やかで、ホテルや土産物屋も並んでいる。まさに観光地のど真ん中に来た。こういう景色は鉄道からではほぼ見られない。

 リクエスト・ストップ駅のタコナ駅前をバスで通る  バスからの景色は立派なホテル等も多い

 そして代行バスの終点、シャモニー・モン・ブラン駅前には、15時ちょうどに着いた。列車だと14時48分着、14時54分発なので、6分ぐらいだから待ってくれているのではと思ったが、残念ながらそうではなかった。調べてきたところ、1時間に1本なので、だいぶ待ち時間が生じるのだが、駅の掲示を見ればその間に15時24分発というのがある。つまり30分に1本という高頻度運転なのだ。バス代行ゆえの臨時ダイヤかと思ったが、そうではなく定期列車であった。これぐらいの本数があるなら、列車は列車で定刻に動かす方がいいだろう。単線なので、代行バスの遅れに合わせて列車も遅らせたら、混乱も大きいだろう。

 シャモニー・モン・ブランは、モン・ブラン観光の拠点の一つらしく、そこそこ立派な駅で、駅前もホテルやレストランなどが多く、人で賑わっていた。そして、ここから列車に乗る人が案外多いようである。それでも今思えば、もう少し駅付近を歩き回れば良かったのだが、ダイヤ乱れの心配と混雑の両方が気になったし、20分後の列車ももう入線していて乗れるということだったので、私は早々と乗り込んでしまった。やはり3輌編成である。

 代行バスの終点シャモニー・モン・ブラン  シャモニー・モン・ブラン駅前

 後でダイヤを調べると、この列車は通常ダイヤでは、少し手前の、今日のバス代行区間の途中にあった、レ・ボソン(Les Bosson)という所が始発である。通常1時間に1本の全線運転の列車だけなのだが、夕方の混む時間だけ区間運転列車が増発されるのであった。

 今日は全列車が折り返すシャモニー・モン・ブラン駅  ヴァロルシーヌ行きはそこそこの乗車率

 定刻15時24分に発車。席の6割は埋まっていた。時間帯からも、観光や山歩きなどを終えて移動する感じのグループ客が大多数であった。ただ、沿線に住んでいる人もそれなりにいるので、観光客ではなさそうな客も若干は見られる。箱根登山鉄道と同様である。オフシーズンの地元率が高い時はどんな感じだろう。もう一度そんな時に訪れてみたいと思う。

 シャモニー・モン・ブランから先はさらに高度を上げていく区間なのだが、バスで見たあたりと同じく、リゾート地として発展しているようで、建物が結構あり、駅からプールが見える所もあり、駅前にビル建築工事のクレーンが立っている所もあった。もとより一部なのだろうが、旅の慣れと疲れも出てくるタイミングも相まって、そこまでの感動はなかった。しかも駅ごとに観光客などが乗ってきて、段々と混んできた。

 レ・ティーネの駅ホームと駅前  アルジェンティエール駅からの眺め

 モントロック・ル・プラネ(Montroc-le-Planet)は、標高1365メートル。本日の旅で最高地点にある駅で、日本の野辺山より少しだけ高い。そして列車はやや長いトンネルに入る。その中に、路線の最高地点がある。標高は1386メートルで、これも小海線の最高地点より少しだけ高い。出ると明らかに下っており、あと一つ駅に停まる。その次が終着ヴァロルシーヌである。

 ヴァロルシーヌは、今回の旅まで全く聞いたこともない地名で、どんな所か想像もつなかったが、素朴な高原避暑地という感じのところであった。駅近くには一般民家風の家はほとんどなく、大きな山小屋のようなアパートのようなものが何軒もある。いくつかはホテルかもしれない。きっと冬は雪深いだろうから、それに備えた造りの、ローカル色もあるアパートであり、都市のアパートとは違って風情もある。

 ゴンドラが見えるヴァロルシーヌに到着  歴史と風格も感じるヴァロルシーヌ駅

 駅前広場には市が立っていた。観光客向けのガラクタ市のようである。その先に清流が流れている。その橋まで行って両側を眺めれば、ある程度はどんな所かがわかる。駅の先にはゴンドラが動いており、山の上へと観光客を運んでいた。冬はスキー客で賑わうのだろう。

 ヴァロルシーヌ駅前のガラクタ市と駅舎  駅前の橋からの眺め

 本来なら1時間に1本同士の山岳鉄道が、ここで13分で接続するのだが、今日はそうならず、30分間隔の間の列車で来てしまったので、ここで43分の待ち時間がある。駅構内に古びた食堂があった。今日はちゃんとした昼食をしてなく、お菓子などでつないできたので、ここで何か食べておこうと思って入ったのだが、サンドイッチなどは全て終わりで、チップスしかできないということだった。さすがにチップスだけを大量に出されても、全部食べるのは無理だったが、ひとまず腹ごしらえをしておく。そんなこんなで今回の旅は、最初のベルギャルドを除くと駅前より遠くへの町歩きが全くできていない。先の予定もあって、ゆっくりできないスケジュールを組んでしまったのを少し後悔する。

ヴァロルシーヌ〜マルティニー Vallorcine - Martigny


 本日の最終ランナーは、ヴァロルシーヌ16時44分発のマルティニー行きで、やはりメートルゲージの狭軌山岳鉄道3輌編成である。最初の予定では15時44分発であったが、結局1時間遅れてしまった。考えてみれば、今日は最初の客車列車を除くと全て3輌編成の電車であった。もちろん標準軌二階建てと狭軌小型車輌では定員には大きな差はあるが。

 私が乗ってきた30分後の、不通区間がなければサン・ジェルヴェ・レ・バン始発のはずの、シャモニー・モン・ブランからの列車が、定刻16時31分に着き、客を吐き出す。代行バスが接続していないせいか、私が乗ってきた列車よりだいぶ空いている。続いてホームの反対側に、マルティニーからここまでの列車が、定刻16時33分に到着する。2本の列車からの乗り継ぎ客と、ここからの乗車客もある程度いるのだろう、そこそこの乗車率とはなったが、今度も満席にまではならない。今度は全区間20.9キロを52分で走るので、表定速度は24.1キロ。スピードはさきほどの線とほぼ同じである。実際、両鉄道は似ている。似ているだけでなく、直通運転も可能で、今回調べたところ、全列車ヴァロルシーヌ乗り換えのようだが、少し古い時刻表を見れば直通列車もあるように書かれている。

 ヴァロルシーヌはフランス最後の国境駅でもある。駅近くのホテルには、何故かEUとスイスの国旗がたなびいている建物があったのだが、駅周辺も含め、フランスであり、スイス国境はまだ2キロちょっとある。最初の駅、ル・シャトラール・フロンティエール(Le Châtelard-Frontière)が、スイスに入ってすぐの駅だが、駅間距離は2.8キロある。

 マルティニーからの折り返し列車が到着  フランス最後の民家か

 ヴァロルシーヌを出るとほどなく、にわかにリゾートの雰囲気が消え、寂しい山間部になった。列車はゆっくりと東へ進む。並行する道路も交通量は少ない。そして線路がまず道路を、続いて小さな渓流の上を跨ぐ。その川が国境で、スイスに入る。そして間もなく、スイス最初の駅、ル・シャトラール・フロンティエールに停まる。交換設備もあるスイス側の国境駅で、山小屋風の駅舎もある。駅付近に多少の建物もあり、乗ってくる人もいる。

 道路の右を流れている渓流が国境  国境駅ル・シャトラール・フロンティエール

 これは後で知ったのだが、この駅は第三軌条方式と架線方式の切替駅である。つまり、スイス区間は国境部分の数百メートルを除き、架線集電方式なので、この電車は両方から集電できる車輌なのだそうだ。きっと停車中にパンタグラフを上げたのだろうが、乗車時はそんな知識は何もなく、意識もしていなかったので気づかなかった。開通当初からずっとそうだったわけではなく、マルティニー側から徐々に、第三軌条式を架線式に切り替えてきたそうで、ここまでの切替が完成したのは1996年だそうだ。フランス側はそういう計画がないらしい。

 その後は、リクエスト・ストップの駅もあるが、全ての駅に停車した。駅ごとに行楽帰り風の客が少しずつ乗ってきて、段々と混んできた。右手に険しい谷を見下ろすところもある。急カーヴが多く、もとよりスピードは出ないが、山岳鉄道の味わい深い。

 そこそこの民家があるフィノー駅  のんびりムードの車内

 サルヴァン(Salvan)という駅を出て2分、急カーヴを過ぎると左手に下界の大パノラマが広がる。サルヴァンから次のヴェルネイヤーズ・MC(Vernayaz MC)の間は、この線の中では2ヶ所ある、最長である3.4キロの駅間距離がある。しかしもう一つの3.4キロの区間は所要7分なのに、こちらは11分かかっている。これは、この区間で一気にあの谷へと降りていくからである。勾配もすごい。サルヴァンの標高が934メートル、ヴェルネイヤーズMCが461メートルなので、単純計算では平均勾配は実に139パーミルということになる。そこをソロリソロリとカーヴを繰り返しつつ進み、どんどんと下界が迫ってくるさまは圧巻であった。谷を走る国鉄の線路も見えてくる。逆方向も面白そうだが、山から谷へ下りるのも迫力満点である。これだけの勾配はもちろん普通の粘着レールでは無理で、この区間のうち2.4キロは、地上と車輌の歯車を組み合わせて走るラック式となっている。最急勾配は200パーミルだそうだ。ちなみに粘着レール区間の最急勾配は70パーミルとのことである。

 サルヴァン発車4分後の車窓パノラマ  サルヴァンから10分で国鉄線路が迫る

 そしてすっかり下界に下りればヴェルネイヤーズMC駅に着く。MCは、この鉄道のもともとの名称である、マルティニー・シャトラール鉄道の略称である。MCが足されている理由は、1キロほど離れた所に、国鉄のヴェルネイヤーズ駅もあるからだ。

 ヴェルネイヤーズMCを出た列車は、人が変わったように高速で走った。といっても狭軌なので、恐らくせいぜい70キロぐらいだろうが、それでも今までが遅かっただけに、速く感じる。ヴェルネヤーズMCから終着マルティニーまでは、平野部で、国鉄もほぼ並行している。こちらには途中に駅が一つあるが、国鉄側にはない。


 そして定刻に1分の遅れで17時37分、終着マルティニーに着いた。結果的にはひどい混雑もなく、楽しい山岳鉄道乗り継ぎ旅であった。

 マルティニー駅舎  マルティニーに停車中の乗ってきた列車

 マルティニーは、さほど大きな町ではないが、この鉄道との乗り換え機能もあるため、スイス国鉄の快速が全部停車する。駅舎はなかなか風情ある建物だが、中にサンドイッチ屋のサブウェイが入っていた。山岳鉄道がさらりと道路に面して停車している。改札もないので、駅に簡単に出入りできて、すぐ乗れるのはいい。

 スイス国鉄ブリーク行きIR快速が到着

 ほどなく国鉄の長いホームに、17時43分発のIR快速列車ブリーク行きが、堂々9輌の長い編成で入線してきた。この列車はジュネーヴを16時12分に発車し、途中5つの駅に停まり、1時間30分かけてここに至っている。私の今日のジュネーヴ発は9時22分。ベルギャルドで寄り道をしない最初の計画でも、ジュネーヴ発9時49分である。レマン湖の北岸と南岸とでは、交通事情がさほどに異なる。南岸ルートでもきっと、日やダイヤ次第で、もっと速いルートもあるだろう。市電やバスを乗り継げば距離もずっと短縮できた。いずれそういうルートを探してまた乗ってみたいとは思うが、今日の旅はこれはこれで、変化にも富んだ、充実した一日であった。最近の日本で、江ノ電や箱根登山鉄道などがピーク時には乗り切れないほど混む話などを聞くと、比較しては悪いが、欧州の有名どころの鉄道の旅は、まだまだ恵まれているなと思えてくる。これからも夏のピークを敬遠せず、夏ならではの鉄道旅行を楽しんでみたいと改めて思わせてくれた旅でもあった。



欧州ローカル列車の旅:ジュネーヴ〜マルティニー *完* 訪問日:2018年8月5日(日)


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