欧州ローカル列車の旅 > 2016年 > フランス > コルシカ島の鉄道 (2)

コルシカ島の鉄道 目次


目次 (1) コルシカ島と鉄道 Corsica and Railway
アジャクシオ Ajaccio
アジャクシオ〜ポンテ・レクシア Ajaccio - Ponte Leccia
(2) カルヴィ〜ポンテ・レクシア Calvi - Ponte Leccia
ポンテ・レクシア〜バスティア Ponte Leccia - Bastia
バスティア Bastia
(3) エルバジョロ Erbajolo
ヴィッツァヴォーナ Vizzavona
ヴィヴァリオ Vivario

カルヴィ〜ポンテ・レクシア Calvi - Ponte Leccia


 日本では考えにくいが、冬至に近いこの時期、欧州には朝8時で暗い所が結構多い。昨日のパリがそれに近かった。だがパリからだいぶ南にあるコルシカでは、7時半には外もだいぶ明るくなっていた。8時ちょうどの列車に乗るべくホテルを出て駅へ向かう。季節外れの日曜の朝だから、どこもかしこもひっそりと静まり返っている。カルヴィの町をゆっくり歩く時間が取れなかったのは残念だが、1日2往復しかないのだから、短い期間で鉄道旅行をしようと思えば、何かしら犠牲にせざるを得ない。

 カルヴィの朝  カルヴィ駅前通り

 椰子の並木が続く、南国っぽい雰囲気のカルヴィ駅前通りは、なかなかいい雰囲気である。カルヴィ駅構内には旧型気動車が数本、留置されていた。もう廃車で二度と動かないのだろうか。まだ走れそうにも見えるのだが。

 カルヴィ駅舎  廃車と思われる旧型車

 このカルヴィ支線は、昨晩は日没後だったので、これからが実質の初乗車だ。とはいえ昨晩、暗闇をひたすら走った列車に乗っただけでも、多少は様子がわかった。特にイル・ルッスからカルヴィまでは、夜の灯りの下で、海浜リゾート地らしさが散見できた。

 昨晩同様、日曜朝の列車は見事にガラガラであった。乗客は数名。10名には満たないだろう。このカルヴィ支線は将来が心配である。本線だけ残してこちらは廃線、なんてことにならなければいいが。

 列車は定刻に発車した。列車ダイヤは超閑散だが、車窓は昨晩観察した限り、夜でもそこそこ何かしら見えていた。それも民家だけでなく、観光施設やホテル、レストラン、バーなどが、沿線、特に海辺に点在している。もとよりニースやカンヌなどとは比較にならない散在程度ではあるが、何もない所ではなく、夜でも海岸線に沿ってポツポツと小リゾートが続くエリアなのがわかった。

 発車5分で左手後方にカルヴィの町が海越しに望める

 カルヴィから3つ目に、テニス・クラブ(Tennis Club)という名前の駅がある。駅名にするほど凄い施設なのか、他に地名がないからなのか、とにかく駅前にテニスコートが数面あった。ちなみにテニスもクラブも、フランス語も英語と同じスペルだが、フランス語の普通名詞でテニス・クラブを言う場合は、Club de tennis となるので、この駅名は半ば英語化しているように思う。

 キャンプ場名らしい名前の駅を通過

 私服でコートを羽織った若い女の子がやってきて、笑顔で何か言う。何者かと思えば車掌だった。パスを見せると、やはり行先を聞く。リクエスト・ストップの駅が多いからだろう。

 その後も所々、地名ではなくキャンプ場やリゾート施設名と思われるような駅名もあり、駅前にホテルやバーがあったりする。GR20がつく駅名もあるが、これはコルシカ島を南北に縦走する177キロに及ぶハイキングコースのことである。しかし駅間には自然の荒々しい海岸が展開する所もあって、やはり沿線人口は少ない。高層マンションも無く、素朴な自然派向けリゾート地の趣である。

 海沿いとはいえ山が迫り険しい地形も多い  朝日が差してきた

 夏場はそんなリゾート地の中で短距離移動に列車を使う旅行者や地元の人もいるのだろう。だからこそこれだけ沢山の駅があるのだろうが、12月の今は、ことごとく通過する。昨晩は人の気配を感じた海に面したレストランなども、早朝の今は人を見ない。人の姿と言えば、地元の人が犬を連れて散歩しているのを見かけた程度である。それにしても、列車のスピードも遅い上、駅付近では徐行するのだから、これが駅だというものぐらいは車窓から確認できるはずだが、そうではない駅がいくつもあった。駅名標一つないみたいで、ホームすらあるのかないのか、というような所もある。どこまで何もないのか、駅らしくないのか、停車してくれれば観察できるのだが、それもままならなかった。

 シエスタという名前の海辺の施設  日が昇るに連れ明るい雰囲気が増す沿線

 結局、昨晩同様、カルヴィ〜イル・ルッス間22キロにある15の途中駅にはどれ一つと停車せず、イル・ルッスに3分ほど早着した。ホームがやたら長い駅で、駅舎は前方かなり先の方にある。真っ先に降りていって駅舎へ向かったのが、さきほどの車掌で、他にはおばさんが1名下車、代わって5名ぐらい乗ってきた。

 イル・ルッスに到着  駅前が海のイル・ルッス

 フランス本土では、私の経験の限り、小駅でも発車時刻をきっちり守る。しかし昨日から見ていると、ここコルシカ鉄道では、小駅ではしばしば早発する。車掌が駅舎へ消えてしまったのは、もしかしてこの先はワンマンになるのかもしれない。であれば早発するかもしれないと思って、列車から出ないでいたのだが、結局は車掌が時間ギリギリに戻ってきて、彼女を乗せて定刻に発車した。彼女についていけば駅舎の写真ぐらい撮れたのだが、結果論である。

 いよいよ一日2往復の最閑散区間に入る。昨晩乗っているが、明るい時間では初乗りなので、改めて楽しみである。しばらくは海辺の散歩道に沿って走る。レストランなども見られ、リゾート地の雰囲気も濃い。しかしそれも長続きせず、湾を見下ろすように徐々に高度を上げていく。朝日が差している明るい冬の海というのは、冬だからこそ太陽のありがたみが一層感じられて、気持ちがいい。

 イル・ルッスを出ると海に沿って進む  徐々に高度を上げイル・ルッスを見下ろす

 イル・ルッスから2つ目の、ル・レジノ(Le Regino)を3分遅れで徐行通過。古い駅舎が健在である。もう海は遠ざかってしまったかと思ったが、カーヴの間に間に、また海が遠くに現れることがある。現れるたびに遠くなっていく。

 概ね無人地帯だが時たま山間集落がある  海が見えるたびに遠くなっていく

 イル・ルッスから4つ目に、PK 79 + 800 という妙な名前の駅がある。一体どんな駅かと両側の車窓に目を凝らしていたのだが、ついに発見できなかった。もちろん通過である。この駅名、結局、帰ってから意味がわかったのだが、バスティア起点で79キロ800メートル地点、ということなのである。人が住んだことがなくて、地名も無い山の中なのだろうか。そういう場所にある駅、ということは、ハイキング専用の乗降場かもしれない。

 車窓真横に見える建物がパラスカ駅舎  そのパラスカを徐行通過

 車窓に駅舎を備えた駅らしきものが見える。そして2分ほどでぐるりと大回りしてその駅を通過する。パラスカ(Palasca)という駅であった。昨日のヴィヴァリオと似た光景を見せてくれる。見せるためにあるわけではないが、車窓を楽しむ客からすれば、そういう風に楽しませてもらっている感じがする。

 パラスカから次のノヴェラ(Novella)までは、9.9キロだが、時刻表では17分もかかっている。勾配とカーヴがきついためかなと思ったが、特にこれまでとの違いも感じない。そのノヴェラには6分も早着。旧型車輌に合わせたゆとりダイヤなのかもしれない。停車し、ドアが開き、母子連れが乗ってきた。

 羊腸路線で手前や先の線路が何度も見える  停まってきたノヴェラ駅を背後に見送る

 ノヴェラから次のピエトラルバ(Pietralba)は、12.6キロ。コルシカ鉄道全体で最長の駅間距離である。すっかり標高も上がり、いよいよ海も見えなくなる。と、列車が突如、警笛を鳴らし、急ブレーキをかける。何か思えば親子と思われる2頭の牛が、列車の方角に走って逃げている。線路に入っていたのであろう。線路に直角に逃げればそんなに走る必要ないのだが、牛にはそれがわからないので、いつまでも線路に沿って逃げようとする。

 列車の警笛に驚いて逃げ出す牛2頭  遠く雪山を望む

 山深く、森が鬱蒼として視界の利かない所が多いが、その合間に見えた高い山は、雪を被っていた。そんな大自然の中の1時間余りの最閑散区間の旅も終わりに近づいてきた。揺れが激しいので、乗り物に弱い人は酔いそうなのは難点だが、是非乗車をお勧めしたい路線である。最後は平坦になり、バスティアからの線路が寄り添ってくれば、ポンテ・レクシアである。

 このカルヴィ支線は、途中に23もの駅があるが、一往復して停車したのはイル・ルッス以外では今朝のノヴェラだけで、あとは全て通過であった。土曜と日曜だったので、平日は日常的な利用者がいる駅もあるのかもしれないが、観光客やハイキング客しか利用しないような駅も多そうである。


ポンテ・レクシア〜バスティア Ponte Leccia - Bastia


 昨晩、日没後に乗り換えた、ポンテ・レクシア。今日は明るく太陽が輝いているので、印象はかなり異なる。今日は乗り換えのない直通列車だが、ここでバスティア発アジャクシオ行きの列車と行き違うので、停車時間がある。それが来るまでは遅れていても発車する心配もないから、ちょっとホームに降りて駅風景などを撮影する。

 駅ホームから険しい山々を遠望できる  アジャクシオ行きが少し遅れて到着

 ホームから見る駅周辺は、山里という言葉がピッタリで、まとまった商店街などはないが、全く何もない所でもない。主要道路も駅前を通っている。

 バスティア発アジャクシオ行きは、10分近く遅れてやってきた。この列車からの乗り換え客なのか、数名がその列車に乗車。入れ違いでこちらも発車する。この列車はここで進行方向が変わる。

 乗ってきたカルヴィへの線路が左へ去る  まだ山間のポンテ・ノヴ駅

 ポンテ・レクシアから3つ目のカザモッツァ(Casamozza)までは、まだ本数の少ない山間区間で、駅間距離も長い。こちらから行けば、海抜の低い平地にあるカザモッツァまで、下って行くことになる。人口密度の低い山間部には違いないが、これまで乗ってきたイル・ルッスからの区間やコルテ以南の本線に比べてしまうと、やや平凡な景色である。もし初訪問のコルシカ鉄道がバスティアからのスタートであったならば、この区間でもかなり感動したのではと思うが、それ以上の区間を乗った後だと、そうはならない。仕方ないことである。

 そうして平地に下りてきて、にわかに人家やそれ以外の建物も増えてくれば、カザモッツァ。バスティア都市圏区間の終端駅である。50年前まではここからまっすぐ海沿いを南下するもう一つの線があった。バスティアからそちらが一直線で、ここからポンテ・レクシアへの線はこの駅で分岐して曲がっていく線形であるが、そちらだけが残り、まっすぐ南下する線が廃止されている恰好である。

 カザモッツァの海側は、無機質な工場か何かの壁で、何も見えないが、これは車輌基地なのであった。山側は緑に囲まれた郊外の住宅地の風情である。ここで行き違う反対列車は1日2本のうち朝のカルヴィ行きだから、いわば姉妹列車である。見たところやはりガラガラで、10名程度しか乗っていない。

 カザモッツァで姉妹列車と行き違い  カザモッツァは緑濃い郊外の印象

 カザモッツァからバスティアまでは、21キロの区間に途中16もの駅があるので、平均駅間距離は1.2キロという短さである。そして、アジャクシオ都市圏に比べても多くの区間列車が運転されている。途中の16駅は全てリクエスト・ストップで、そのうち半分の8駅に停車した。交換設備のあるちゃんとした駅でも、乗降客がなければ徐行通過で、他方、ホームも駅名標も何もないような所でも乗降を扱っていた。単線の停留場でも、いかにも新しいホームと待合所が設置されている所が少数あったし、EUプロジェクトの看板もあったので、この区間は今、EU資金にも助けられつつ徐々にちゃんとしたホームなどを整備している所かと思われる。駅周辺もアジャクシオ側よりは賑やかな所が多かった。少なくとも、アジャクシオ側が、都市圏輸送の役割があるのだろうかと思うような閑散区間だったのに比べれば、鉄道が都市圏輸送の一躍を担っている感じはあり、やりようによっては、まだ乗客も増やせるのではないかと思われる。

 終着バスティアの一つ手前が、ルピノ(Lupino)という駅で、停車して数名を降ろす。もう市街地のはずれで住宅が多い。ルピノからの最後の一駅は、ほとんどトンネルであった。それを出た所はもうバスティアの構内である。


バスティア Bastia


 終着バスティアは、行き止まりの頭端式ホームが2面3線という、構造的にはアジャクシオと良く似た駅であった。しかし、アジャクシオやカルヴィには、鉄道の規模に相応の感じのいい駅舎があったのに、ここバスティアは、そうではなかった。恐らく最近まで駅舎だったと思われる建物が封鎖されていて、切符売場は仮設っぽいプレハブ小屋が設けられている。駅のすぐ横が屋根付き有料駐車場であり、遠目には駐車場の方が目立ち、その横についでに駅があるかの如くになっている。駅前広場らしいものもない。改札口のない欧州式だから、アジャクシオやカルヴィも、駅舎を通らず直接ホームに入って列車に乗ることはできる。しかしやはり都市の終着駅なのだし、ちゃんとした駅舎があって、その中に切符売場などの窓口があるという駅らしい貫禄が欲しいものである。今現在、ちょっと残念なバスティア駅であるが、最近まで駅舎だったと思われる立入禁止の建物が、これから何かに変わるのかもしれない。

 終着バスティアに到着  横が駐車場という味気ない立地

 バスティアの滞在時間は4時間半。見所などの予備知識もほとんどなくやってきてしまったが、ざっと駅付近を一回りした限り、アジャクシオほど面白くない。すぐそこが海ではあるが、フェリー乗り場などの港湾地帯になっており、アジャクシオのように市街地間近に美しいビーチがあるわけでもない。

 赤い廃車レールバスの後ろに現役車輌4編成  違う場所に旧型気動車が数輌留置されていた

 駅横からちょっと坂を上がると、車輌基地を見下ろせる所に出る。そこにはこれまで乗ったのと同じ2輌ユニットの新型気動車が4編成、綺麗に並んでいた。奥の方には旧型車が数輌、並んでいた。古いものの、完全廃車にはなっていないようにも見える。自分の作った平日ダイヤを参考に、ざっと数えると、コルシカ鉄道の最低必要車輌数は、予備を考慮しなければ、平日ダイヤで11編成となるようである。日曜の今日は本数が減っているから、4編成もここで休んでいられるが、平日の朝夕などは、もしかするとこれらを総動員しても足りず、まだ旧型車もバスティア都市圏の区間列車などに使われているのかもしれない。

 バスティアはアジャクシオに次ぐ第二の都市だそうだが、駅付近を歩いた感じは、こちらの方がむしろ大きな町に見える。クリスマスに近い12月の日曜だからか、港に近い公園では、青空マーケットが開かれていて、市民で賑わっていた。その横には小型のスケートリンクが設けられ、子供たちが遊んでいる。旅行者らしき人はあまり見かけない。平和な市民生活が営まれているのを強烈に感じる。

 バスティアの駅付近  バスティア中心部

 4時間半をこの街で過ごすのは、ちょっと長すぎる気がするので、そのうち1時間余りで、また列車に乗ってくることにする。12時25分発のカザモッツァ行きがあるので、それに乗って、近郊を往復してくるわけである。列車は終着カザモッツァで7分停留して折り返し、13時30分にバスティアへ戻ってくる。だからどこか途中駅で降りてみようというわけだが、どこを選ぶかが難題である。さきほど車窓から見た限り、是非降りてみたいような駅もなかった。とりあえず、発車時刻が迫ってきたので、駅へと戻り、停車中の列車に乗り込む。



コルシカ島の鉄道 (1) ヘ戻る     コルシカ島の鉄道 (3) へ進む