欧州ローカル列車の旅 > 2015年 > ベルギー > アルロン〜ディナン (2)
目次 | (1) | ロダンジュ Rodange |
アチュ Athus | ||
アルロン Arlon | ||
(2) | アルロン〜ベルトリ Arlon - Bertrix | |
ベルトリ Bertrix | ||
ベルトリ〜ディナン Bertrix - Dinant | ||
ディナン Dinant |
小雨模様のアルロンを定刻に発車し、しばらくはルクセンブルク方面への本線に並行する。そうして3分ほど走ると、やおらカーヴを描いて本線と徐々に離れて右へ進む。単線である。沿線は田舎とはいえ、パラパラと人家もある。これといった山も川もなく平凡な農村地帯である。
アルロン発車後の車内 | メッサンシー駅 |
最初の停車駅、メッサンシー(Messancy)は、単線でホームと駅舎がある。古くから駅をやってますよ、という感じの駅前集落があり、人家も多い。2名ほど乗ってきた。
次が昨日下見に来たアチュで、アチュが近づくと線路が広がり、多数の留置線が現れる。そこに哀れ、廃車になった吊り掛け式の旧型電車が沢山留置されていた。
アチュではこの列車が本屋の側の1番線に停まった。昨日はルクセンブルクの電車が1番線に発着していたが、今日は隣ホームの2番線にルクセンブルクからの折り返し電車が停まっている。
アルロンとメッサンシーからの客は恐らく全員、といっても数名だが、ここで下車、または乗り換えた。替わって同じ程度の数名が乗ってくる。月曜の昼前で、客が少ない時間とはいえ、空きすぎている。3輌もの新型電車も輸送力を持て余して張り合いが無いことであろう。
アチュを出ると、昨日眺めたコンテナ基地を左に見ながら、右へとカーヴ。コンテナ基地の向こうにロダンジュ方面の線路が分かれていく。そして間もなく、ロダンジュからアチュを通らずヴィルトン方面へ短絡する線路とフランスのロンウィ方面からの短絡線が左から合流してくる。前者は平日朝夕のみ旅客列車も走っているが、後者は貨物のみである。なかなかややこしい。
昨日来たアチュ駅 | 駅舎立入禁止のオバンジュ駅 |
それらが落ち着いて普通の複線になると、間もなくオバンジュ(Aubange)に着く。ここも駅前にある程度の人家が見られる集落である。乗降各1名。日本のローカル線と違うのは、乗客に若い人が多いことである。中年もいるが、お年寄りほとんど見ない。
オバンジュを出ると、牧草地が広がる。そこを複線電化のローカル線は快走し、間もなくダイヤ通り、反対列車とすれ違った。平日2時間に1本、土日運休、という閑散路線のはずだが、アチュからは複線なのである。アチュにコンテナのターミナルがあったし、3つの国の国境あたりは線路が複雑に入り組んでいるから、この路線も旅客よりは貨物のために存続しているのではないか。そう思って乗っているのだが、今のところ、貨物列車とは一度もすれ違っていない。
次のアランジ(Halanzy)は、乗降ゼロ。やはり立派な駅舎があり、駅付近にはちゃんと人家があり、駅も駅前も小綺麗に整備されている。だから風景には特に寂れゆくローカル線の寂寥感も感じられない。旅としては誠に張り合いのない平凡な路線である。駅前の駐車場に車が6台ほど停まっていたから、きっとパーク・アンド・ライド利用の通勤客がいるのだろう。
割と近代的なアランジ駅 | 主要駅ヴィルトン |
次がヴィルトン。構内も広い、やや大きな駅である。土日は完全運休となるのはここまでで、ヴィルトンから先は、土日も含め、列車が走っている。そういう境界の駅であるから、町も一応の規模があるらしい。しかしまだここは、最寄りの主要都市というと、地域の行政の中心であるアルロンかルクセンブルクで、ナミュールなどはそれより遠い。にもかかわらず、ここからナミュール方面だけ土日も列車が走っているのは、より広域の、首都ブリュッセルにつながる路線だから、そういった中距離の需要が見られるのかもしれない。
ヴィルトン駅の構内踏切 | ヴィルトン駅の駅舎と反対側 |
列車はここで16分も停車する。列車はガラガラだし、雨も止んでいるので、ちょっと駅前にでも出てみればよかったと、途中で気づいて後悔しながら車内で待つ。多少大きな駅ではあるが、構内踏切があり、駅舎と反対側は錆びた側線が並ぶという、昔の主要駅がそのまま寂れた風情である。停車しているうちに、外からほのかに製紙工場独特のにおいがしてきた。
停車中にポチポチと乗客が増えてきた。駅舎から構内踏切を通ってこの列車に乗ってくる。午後にかかる時間帯のせいもあるかもしれないが、土日運休区間と違って、ここから先の方がもともと乗客も多いのだろう。
フロランヴィル駅 | ベルトリ到着時の車内 |
時間が来て定刻に発車。この先もまた平凡な景色の中を淡々と快走する。毎日運行の区間に入ったが、駅間距離は長くなる。ベルトリまで、49キロの間、途中駅は、フロランヴィル(Florenville)一つだけである。景色も単調で、トンネルが一つあったが、概ね平坦な農村地帯で、荒地も多い。フロランヴィルも、町の中心と離れた寂しい駅だが、ここで中学生ぐらいの団体がどっと乗ってきて一気に座席が埋まった。彼らはベルトリで下車せず、そのままリブラモンまで乗る。騒がず、マナーの良い生徒たちであった。
ベルトリでは、一般客の半分ぐらいが入れ替わる。ローカル線同士ではあるが、路線が分岐する鉄道の要衝である。やはりガイドブックなどには登場しない、地味な田舎町で、調べてきたところによれば、駅から町の中心までは、1キロぐらい離れている。
どんよりとはしているが、幸い、アルロンで降っていた雨は止んでいて、しばらく大丈夫そうである。1時間弱の待ち時間があるので、乗ってきた電車がリブラモン方面へ発車するのを見届けてから、駅を出て歩いてみた。
ベルトリを後にするリブラモン行き | ベルトリ駅舎 |
駅と中心部が離れている小さな町では、駅前に何もない所も多い。だがベルトリは鉄道の要衝として栄えたからだろうか、場末感はあるが、一応、駅前にもいくつかの商店がある。しかし閉店した店も目立ち、鉄道主流の時代を過ぎて寂れつつある感じは否めない。
ベルトリ駅前 | 踏切から。左がディナン、右がリブラモン方向 |
駅近くの踏切に立ち寄ってみる。踏切に立つと、右側が駅で、今はそれより先の方から乗ってきた。左側は線路が2つに分岐していくところが見える。左の線がこれから乗る予定のディナン方面、右の線がリブラモンへの線で、どちらも立派な複線電化だ。
駅と中心を結ぶ淡々とした道 | 町の中心にはカフェやパブも多い |
そこから道路に戻ると、ゆるいカーヴの後はまっすぐな一本道で、淡々と家並みが続いている。店だったり住宅だったりするが、ほとんど途切れておらず、人もそれなりに住んでいる町であることがわかる。立ち止まって写真を撮ったりもしながらなので、たっぷり15分はかかっただろうか、ようやく少し賑やかになり、多少はおしゃれで綺麗な店も現れると、町の中心の広場に行き着いた。飲食店もいくつも開いていて、人も歩いている。これでも昔より寂れているのかもしれないが、マーケットタウンとしての機能はしっかりと保たれているようであった。
同じ道を引き返し、また淡々と歩いて駅へ戻る。計画段階では、ここは退屈そうなところだから、雨なら駅の待合室で1時間、パソコンでも開いていようかと思っていたが、見所などなくても、どんなところでも一度は歩いてみるものだと改めて思った。つまりはそれなりに面白いウォーキングで、時間もあっという間に潰れた1時間であった。
町の中心の広場 | リブラモン発の列車がやってきた |
ホームには先に、ディナン方面から来たリブラモン行きが入っている。続いて、次に私が乗る、リブラモンから来るディナン経由ナミュール行きがやってきた。どちらもここでスイッチバックをするから、入るホームによるが、同時の到着と同時の出発の両方はできない。乗り換える客もいないし、複線区間だから、列車交換でもない。こういう行き違いは何と言うのだろう。どうせなら、私が乗ってきた、ヴィルトン・アチュ方面とも接続を図って、3方向の乗り換えができるようなダイヤにできないだろうか、と考えてしまう。それができていないおかげで、私も1時間の町歩きができたのではあるが。
かくしてディナン経由ナミュール行き普通電車の客となる。乗客はパラパラと見られる。全部でざっと15人前後だろうか。
電車は新型2輌編成。どうやら旧型車は完全に廃止になってしまったらしい。あるいは朝夕の輸送力列車にまだ残っているかもしれないが、そうだとしても次に来るときには無いであろう。当たり前にどこでも走っていた数年前に、もっと乗っておけば良かったと、毎度ながら後悔する。
実はこの区間は2度目の乗車である。平野部に比べれば起伏もあり、風光明媚なのかもしれないが、強い印象が残るような景色はなく、田舎を淡々と走るだけと言ってよい。
最初の駅、パリザウル(paliseul)は、緑濃いところで、駅前に商店はある。その駅前でキャンプをしているかのような青少年グループがいる。夏休みならではの光景だが、あいにくまた雨脚が強くなってきた。私がベルトリを歩いている間だけ止んでいたのだから、幸運と言えばそうである。
次がカールスブール(Carlsbourg)。有名なビールのブランドを思わせる、おやっと思う駅名だし、ここはビール王国ベルギーだが、もとより無関係であろう。スペルも若干異なるし、あちらはデンマークのビール会社である。この駅は人家も少ない寂しい農村地帯にある駅であった。乗降客もいなかったように思う。
駅前がキャンプ場のようなパリザウル | 寂しいカールスブール駅 |
このあたりは駅間距離が比較的短く、ちょこちょこと停まる。グレード(Graide)は、一応小さな教会のある集落で、次のジュディン(Gedinne)は駅前に廃商店がある寂れた駅であった。それでも数名の客が乗ってきた。
ジュディンからは駅間距離が長くなり、途中はこれまでより豊かな感じの畑作地帯になった。晴れていたら気持ちいいだろう。その次のボラン(Beauraing)は駅前が開けており、10名以上の乗車がある。段々と活気が出てきた。
集落の大きなボラン駅 | 行楽地駅風のウイエ |
ボランの先でようやく貨物列車とすれ違った。この本数なら単線でやっていけそうだが、きっと昔はもっと輸送量があったのだろう。わざわざ単線化する必要もないからそのまま複線でやっている、そんな線らしい。日本ならば、室蘭本線の沼ノ端〜岩見沢間のような感じだろうか。
ボランは少し大きな町だったが、また森林の多いエリアに入る。次のウイエ(Houyet)は、広い構内を持つが、森林公園の中にあるような行楽駅の風情であった。そして、あいにくの雨だが、レジャー帰りという感じの客が数名乗ってくる。駅を出ると右手の渓谷に沿ってキャンプ場があり、テントがいくつも張られていた。その先、線路は単線となり、岩をくりぬいただけというトンネルに入る。出ればまた複線に戻った。
次のジャンドロン・セル(Gendron-Celles)も、手前にキャンプ場がある、ローカルな行楽向けの駅という感じであった。車窓から見る限り、一般の民家はない。
キャンプ場の中にあるジャンドロン・セル | アンスレム駅 |
乗客は段々増えているのだが、進むに連れて、むしろそういった森と渓谷が見られる良い景色になってきて、それまでよりは車窓も楽しめるようになってくる。最後の駅、アンスレム(Anseremme)も、駅自体は一応の住宅に囲まれていたが、少し離れて渓谷がある、行楽に使えそうな駅であった。
このあたりの渓谷は、ミューズ川の支流で、それはディナンで本流に合流する。この線がミューズ川本流に出合うのはディナンのすぐ手前で、ここで長い鉄橋を渡る。そこからディナンまで、数分だが、ミューズ川本流の堂々たる流れを見せてくれる。ここがこの線で唯一の絶景車窓と言えるだろう。
そしてディナンに着いた。この列車はここが終着駅ではなく、このまま本数の多い区間に入り、ナミュールまで行くが、私はディナンで下車する。この後の予定があるからだが、ローカル線の旅としては、ここで一区切りつけて差し支えないであろう。
ディナン駅 | ディナン駅 |
私がディナンで下車するのは、今回が二度目である。ブリュッセルからの直通IC列車の終着駅ではあるが、駅はさほど大きくない。狭い土地に何とか作った感じがする。二面三線構造で、折り返し可能な途中駅風の構造である。駅舎も格別の味わいのない、機能本位のものである。
ディナンは観光地としての知名度は高い。ミューズ川のベルギー最上流の町で、それが渓流をなしており、川に沿って古い教会や雰囲気の良い家並みが並んでいる。都市としては小規模だが、明るく開けた感じで活気も感じる。だがあいにく雨が強くなってきた。ここは前回も雨だった。晴れていればさぞ気持ち良い散歩ができそうだが、雨に煙る川の風情は、それはそれで似合っているような気もする。
ディナンの大聖堂と岩山 | ミューズ川に沿って開けたディナンの町 |
ミューズ川は、ディナンからナミュール、リエージュ(Liège)へと流れ下り、オランダへ入るとマース川と名前を変え、マーストリヒト(Maastricht)を通り、最後は北海へと流れ出る。他方、ここより上流は、川に沿って道路があり、フランスのジベ(Givet)という町に至る。そのディナンとジベの間は、ベルギーのバス会社が1〜2時間に1本と、まあまあの本数を走らせている。1時間あまり、ディナンの町を歩いた後、私はそのバスでジベへと向かった。