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ヴェンティミリア〜クネオ 目次


目次 (1) ヴェンティミリア〜ブレイユ・シュル・ロワイヤ Ventimiglia - Breil-sur-Roya
ブレイユ・シュル・ロワイヤ〜タンド Breil-sur-Roya - Tende
タンド〜クネオ Tende - Cuneo
(2) クネオ Cuneo
リモーネ Limone
ヴェンティミリア Ventimiglia

クネオ Cuneo


 最後の最後にまたトンネルが現れ、都会らしい景色が現れるわけでもなく、中途半端な田舎の風景が続いたまま、大きな駅に着いたかな、と思うと、そこがもう終着のクネオであった。しかし駅はそこそこ大きい。反対ホームには、トリノ行きの客車列車が停車している。こちらの列車に比べれば、ずっと幹線の列車らしく見える。

 終着クネオのホーム反対にトリノ行き列車  クネオ駅構内

 私は今回のこの旅を、地中海側からスタートしたので、開けた海沿いから山奥へ、という視点で見ていた。そうするとクネオは終点であり、山奥の街ということになる。だが着いてみれば明らかに、ここは地中海とは別世界の、内陸の都市であった。広域的にはイタリア第4の都市、トリノの経済圏・文化圏に属する。こちら側の視点から見れば、ヴェンティミリアこそ峠の向こうにある海辺の田舎なのかもしれない。立派な駅前風景だけを見ても、クネオにはそういった別世界のアイデンティティーがあった。

 重厚なクネオ駅舎  クネオ駅前の噴水

 駅舎も巨大で荘厳なものであった。そして駅前に出ると、広い駅前広場には噴水があり、その向こうにはビルも立ち並んでいた。賑やかとまでは言えないが、何も知らずに着いても、結構大きな街らしい、と感じられる駅と駅前である。

 駅前広場は中学生か高校生ぐらいの子たちで埋め尽くされている。遠足か何かだろうか。イタリア人の若い子が集団でいると、何とはなしに日本とは別種の賑やかさがあり、時に閉口させられることもあるが、それでいて良くみるとそれなりの秩序は保たれていることにも気づく。そして、日本の同年代の子に比べれば、概してませている。

 重みとモダンさの両方を感じる駅付近の町並み  遠く雪山を望むクネオの街

 さて、私は今日はニースまで戻らないといけないので、クネオには最長でも48分しかいられない。今の列車の折り返しだと思うが、14時13分発のヴェンティミリア行きがある。まだ日も高い時間ではあるが、このルートでリモーネ以遠へ行くなら、これが最終列車なのである。ただ、これに乗り遅れると今日中にニースに行けないというわけではなく、ぐるりと大回りをすれば鉄道で行く方法はいくつかあるらしい。

 クネオに到着するリモーネ行き3輌の電車  クネオで帰宅する学生が大勢乗り込む

 そして、14時13分発の僅か22分前の13時51分に、途中のリモーネまで行く列車がある。国境を越える列車は一日2往復しかない超閑散路線とはいえ、リモーネ〜クネオ間は、クネオの都市圏近郊輸送区間に入るらしく、その2往復と別に、区間列車が一日10往復あるので、合計12往復、1〜2時間に1本の列車が走るという、それなりの利便性が保たれているのである。

 時刻表を見ると、リモーネで折り返す列車は、割と綺麗な等間隔で、朝夕1時間毎、日中2時間毎に運転されている。ヴェンティミリアまで直通する列車も、そのサイクルに組み入れられているものもあるが、フランスを通るため、調整がうまくいかない場合もあるのだろう。昼間の中途半端な時間帯の13時51分と14時13分に、わずか22分間隔でリモーネ方面への列車が続けて出るとは無駄な気もするが、今日の私には有難い。クネオの滞在時間が22分長くても短くても、どのみち本格的な町の見物は無理なので、13時51分のリモーネ行きで、リモーネまで乗っていくことにした。

 ヴェルナンテで下車していく通学生

 この列車はクネオより北にあるフォッサノ(Fossano)という所が始発である。行きの列車と一見良く似た車輌だが、電車の3輌編成である。ローカル線に見えるが、リモーネまでのイタリア国内区間は電化されているのである。この列車にはクネオの学生の通学列車の役割があるようで、さきほど駅前にたむろしていた学生の多くが、この列車に乗ったようである。遠足でも何でもなく、あれが毎日のことなのだろうか。だが一般の乗客もパラパラとは見られる。日本だとローカル線になればなるほど、ほとんど高校生の貸切列車かと思えるほどに、一般の乗客を見かけないことがあるが、ここはそこまでには至っていない。

 気動車に比べると上り勾配に強い電車だから、快適に進んでいく。最初は賑やかだったが、各駅で学生を降ろしていく。特にリモーネの手前のロビランテとヴェルナンテで大勢の学生が降りて空いてしまう。終着リモーネまで乗った人は少なかった。


リモーネ Limone


 標高が1000メートルちょっとという高地にあるリモーネは、山間の静かな村であった。統計では人口も年々減っていて過疎化が進んでいるようである。それでも寂れた貧しい山間の村ではない。むしろヴェンティミリアやクネオと比べても、気品高き高原リゾート、といった雰囲気が濃く漂っている。私の限られたイタリア旅行の経験から言っても、イタリア北部の山峡の小さな町や村には、こういった高級感のある所が多い。都市となると、ミラノのような大都市にせよ、ヴェローナなどの中都市にせよ、高級一筋ではいかない、種々雑多なものが交じり合う。いやもしかしたらリモーネにも貧しい地域があるのかもしれない。だが少なくとも、駅を出てこの小さな集落を一巡する限り、いい意味での豊かさと長閑さとが感じられた。

 一休みに入ったカフェ  冬はスキーリゾートと言えば納得

 あまり時間はないが、駅周辺の集落は規模が小さく、簡単に一巡することができたばかりか、余裕すらできたので、開いていたカフェに入ってイタリアならではのエスプレッソを一気にグビっとやってきた。そのカフェも商売っけもなくおっとりしていて、カウンターのマダムと地元のお客がのんびりと言葉を交わしていた。旅行に適する5月とはいえ、観光シーズンではないから、人々ものんびり過ごしているのかもしれない。ちなみに冬はスキーリゾートとして賑わうらしい。

 冬に備えてか立派な家が多いリモーネ  リモーネはポー川水系の最上流地域

 平和で豊かそうな、いい所で、こんな所で数日ゆっくりできたら、と思うような村であった。もっとも私自身は、この瞬間そんな風に思っても、もし実際にここで数日のんびりする機会があれば、じっとしていられない性格なので、たちまち汽車に乗ってどこかへ出かけてしまうとは思うが。

 さすがに24分は慌しく、もう少し留まりたいリモーネだが、列車の到着4分前には駅へ戻った。列車を待つ人は2人いた。駅自体は山間のローカル駅としては十分に大きい。駅舎内に真新しい自動券売機も設置されているので、今もそれなりの乗降客はあるのだろう。駅舎内にバル(Bar)、英語でいうバーの跡があったが、営業していなかった。駅自体も昔はもっとずっと人が多かったのであろう。

 リモーネ駅舎  リモーネに到着するヴェンティミリア行き

 そして今度は定刻に、3輌ユニットを2編成つないだ、6輌の気動車がやってきた。行きに乗った同じ編成に違いない。列車は往路よりさらに空いていて、左右どちらでも好きなボックスに座ることができた。

 サン・ダルマ・ドゥ・タンドで下車した初老のご婦人

 空いていたので、景色に合わせて左右の席を移動しながら、行き以上に景色を堪能することができた。途中での乗降客は少なかった。観光客の多い時期はまた変わるのだろうが、普段はクネオとヴェンティミリアの全区間通しの利用客が一番多いと思われる。いくつものループを経て地中海へとひたすら下っていく車窓は、行きと同じとはいえ、飽きることなく、楽しめた。明日にでももう一往復乗ってみたいぐらいの、線形と車窓風景を堪能できる線であった。

 フランスに入った主要駅の、ブレイユ・シュル・ロワイヤは、やはり乗降客が少なかった。ニースへの路線が動いていれば、乗り換え客もいるのかもしれないが、バス代行なので、ニース方面への客もヴェンティミリア経由を選ぶのだろう。

 ヴェンティミリアに到着

 ブレイユ・シュル・ロワイヤからの一日2往復区間は、往路同様、乗降客などいないのかと思ったが、アイローレで若い女性が一人下車した。この本数の路線を苦労して使いこなしている地元の人なのだろうか。

 実は、この区間が一日2往復という運転本数になったのは、ごく最近である。少し前の時刻表を見ると、ヴェンティミリア〜クネオ間には、10往復ぐらいの列車があり、一部が北はトリノへ、南はヴェンティミリアから東へ、サンレモの先まで、直通運転をしていた。ファーストクラスを連結した長距離列車も走っていた。その当時から、ブレイユ・シュル・ロワイヤとニースの間は6往復の支線扱いであった。そこを、フランスより経済危機の影響の大きかったイタリアのトレニタリアが、乗車率の悪さなどで近年大整理をしたのではと想像される。よってブレイユ・シュル・ロワイヤでは、以前と逆にニース方面の方が相対的に便利になってしまったわけだが、その路線も災害で運休中である。その代替ルートとなるこの区間も、この通り閑散としている。将来が心配な国際ローカル線である。


ヴェンティミリア Ventimiglia


 そしてヴェンティミリアに戻ってきた。行きは時間がなく、駅前だけしか見なかったので、今度は町を歩いてみた。

 イタリアもフランスも広い国で、地域性も多様である。私はまだまだ、そのほんの一部しか知らない。だがそれでも、もし目隠しをされていきなりこの街に連れてこられて、ここはフランスかイタリアか、と聞かれたら、即座にイタリアと答えられたのではないかと思う。国境都市だからフランスの影響も強いのではと思うが、言葉で説明はしづらいが、イタリアの都市らしい、雑然さと美しさが共存している街であった。

 ヴェンティミリア中心部遠景  ロワイヤ川の河口付近

 駅と町の中心は近かった。結構な商店が並び、人通りも多い。他方で駅前通りをまっすぐ歩き、5分もすると、ロワイヤ川に突き当たり、歩行者専用の橋がかかっている。川はそのすぐ先で地中海へと注いでいる。ロワイヤ川は、タンドの奥からずっと線路に沿って流れてきた川だが、ここイタリアではロワイヤとは発音せず、ロイア(Roia)川と言うらしい。ともあれ、今しがた往復してきた路線の分水嶺より南を沿っていた、今日の旅と縁の深い川の、その河口部をこうして難なく見られたのは、旅の締めくくりとして上出来である。

 長閑なヴェンティミリアの海辺にて  ヴェンティミリアの古い街並み

 人口密度が高く、周囲にもニース、モナコ、マントン、サンレモなど、中規模以上の都市が並ぶ地中海沿岸のこのエリアにあって、ヴェンティミリアは、鉄道の要衝であり国境駅ではあるが、街としては大きい方ではない。国境都市ならではの買い物などの賑わいも、特になさそうである。フランスとイタリアでは税率も似たようなものだし、ガソリンもフランスの方が若干安いようなので、国境特需が街を潤していることもなさそうだ。その分、ニースやモナコのような所と比べると、庶民的で気さくな街という感じがあり、私の場合は、それはそれでホッとするのも率直な所であった。

 駅へ戻る。この駅で本数が一番多いのは、モナコ、ニース方面への路線で、日中30分に1本のSNCFの近郊列車がここで折り返している。次の駅はもうフランスである。イタリア側も、サンレモを経てジェノヴァ方面へは、地中海岸に点々と都市があり、人口の集積もあるので、そこそこは走っているものの、本数はやや少ない。

 ヴェンティミリア駅舎と駅前  ヴェンティミリア駅ホーム

 そういうフランスとの行き来が強そうな駅ではあるが、れっきとしたイタリアの駅なので、駅構内の自動券売機はトレニタリアのロゴがあるイタリア用であり、イタリア国内の行き先しか買えない。クネオへの路線は、途中はフランスを通るが、全区間をイタリアの賃率で運賃計算されるらしいので、私も行きのクネオまでの切符は、自動券売機で難なく買えた。窓口には行列ができていたので、念の為と思って自動券売機でニースまでを買おうとしたが、やはり駄目であった。そうすると、クネオまでは買えても、手前のフランス国内のブレイユ・シュル・ロワイヤや、タンドまでは買えないということだろうか。試してみたかったが、後ろに人が並んだので、やめて窓口の列に加わり、駅員からニースまでの切符を買った。

 途中下車が自由などころか改札口すらないのだから、それならばなぜ、クネオでヴェンティミリア経由ニースまでを買わなかったのか、と思う人がいるかもしれない。その理由は簡単で、分けて買った方が安くなるからである。ただ、想像であって、実際にクネオでニースまでを通しで買うといくらなのかは、インターネットで調べてもわからなかった。イタリアとフランスでは、イタリアの方がキロ当たりの基本運賃はだいぶ安い。国境をまたぐ国際乗車券は、基本的にはそれぞれの国の賃率が適用される。しかし、ヴェンティミリアからクネオまでのタンド線は、途中かなりの区間をフランス国内を走るにもかかわらず、イタリアの駅同士で発着する場合は、全区間、イタリアの賃率が適用される、ということを読んだからである。つまり、クネオからヴェンティミリアまでの切符なら、通過するフランス領内区間も含め、全区間が安いイタリアの賃率で計算されるのである。しかし、クネオからヴェンティミリア経由でフランスまでの切符を買うと、タンド線のフランス領内区間が、フランスの賃率で計算されてしまうのだそうだ。

 ヴェンティミリアからクネオは、96キロもあるのに、8.20ユーロである。行きにヴェンティミリアで買っても、帰りにクネオで買っても、もちろん同額であった。しかしヴェンティミリアからニースまでは、33キロしかないのに、7.50ユーロもする。こちらは大部分がフランスである。フランスの高い賃率だとこういう普通運賃になるのである。タンド線の96キロのうち、フランス部分を走るのは、45〜46キロぐらいと思われる。

 実際、今これを書きながら、SNCFのサイトで検索してみると、この線のフランス国内最長区間であるブレイユ・シュル・ロワイヤからヴィエヴォラまで、36キロで7.70ユーロと出た。前後にイタリアを加えた96キロで8.20ユーロなので、50セントしか違わない。こういった運賃検索も、各国とも国内であれば、大体どこでも検索できるようになってきたが、国を跨ぐ場合、長距離の特急などはだいぶネットで調べて買えるようになってきたものの、ローカル列車はまだまだ難しい。いずれにしても、私の切符の買い方が正解だったと信じておき、この章を終わることにしたい。



欧州ローカル列車の旅:ヴェンティミリア〜クネオ *完* 訪問日:2014年5月12日(月)


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