欧州ローカル列車の旅 > 2016年 > スペイン > アルメリア〜アルヘシラス (2)
目次 | (1) | アルメリア Almería |
アルメリア〜グラナダ Almería - Granada | ||
グラナダ〜アンテケラ Granada - Antaquera | ||
(2) | アンテケラ Antaquera | |
アンテケラ〜アルヘシラス Antaquera - Algeciras | ||
アルヘシラスと周辺 Algeciras and Neighbourhood |
バスはぐるりと回って線路を跨ぐ。跨線橋から鄙びた駅が見えた。これが昔からある在来線のアンテケラ駅で、アンテケラの町への玄関口である。
ひなびた風情のアンテケラ在来線駅 |
他方、高速新線の駅は、こことはかなり離れた、アンテケラ・サンタ・アナ(Antequera Santa Ana)で、そちらができて以来、間違えないようにということで、この駅を、アンテケラ・シウダッド(Antequera Ciudad)駅と呼ぶこともある。シウダッドは英語のシティーに当たるスペイン語である。
ところで私もこの時は、このアンテケラ・シウダッド駅から列車に乗り換えるのかと思っていた。アルメリアの切符売場でそう聞いたような気がするからであった。だがホームには列車も入っていないし、ここでバスを降りる人は少ない。一応運転手に「トレン、アルヘシラス?」と訊くと「プロッシマ」(次)ということであった。
行政上アンテケラの市に属する範囲には、鉄道の駅、それも単なる地元向けの小駅より大きな駅が3つある。昔からのアンテケラ駅(シウダッド)と、高速新線の開通に伴ってできた新しい駅、アンテケラ・サンタ・アナ、そしてもう一つがボバディージャ(Bobadilla)である。ボバディージャはかつては重要な鉄道ジャンクションであり、小さな集落ながら、鉄道を支える町として栄えてきた所である。
アンテケラ・サンタ・アナ駅は、高速新線開業に伴ってできた新しい駅で、野原の真ん中の何もない所にある。時々、アンテケラの街へ行く人が間違えてここで降りて愕然とするらしい。本当に駅前に店一軒、家一軒とない。新横浜や岐阜羽島もできたばかりの頃はそういう所だったらしいが、次第に発展していった。果たしてここは今後、町として開けていくのだろうか。
代行バスの終点は、やはりそのアンテケラ・サンタ・アナであった。立地はそんな場所だが、新しい駅だから設備はモダンで、駅入口に空港の安全検査のようなエックス線による手荷物検査の設備があり、駅に入る客は全員、荷物を通さなければならない。空港ほどは厳しくないのだが、それでもジャケットも脱いで通すようにと言われる。スペインは高速鉄道での列車テロ以来、高速鉄道の駅には順次こうした設備が設けられているようだが、私の限られた経験で言うと、多くの駅で、ローカル列車はその対象外であった。つまり、検査設備は駅自体の入口ではなく、高速列車のホームに入る手前に設けられていることが多いのである。だがここは、列車に乗らない客も含め、駅舎の入口で全員、荷物検査を受けるようになっている。切符のチェックはないから、列車に乗らない人でも荷物検査さえ受ければ駅構内にもホームにも入ることはできる。
アンテケラ・サンタ・アナの駅前 | アンテケラ・サンタ・アナ駅正面入口 |
そのモダンな駅舎内には、一角に切符売場がある他、結構大きなカフェテリアがあり、意外と多くの人で賑わっていた。私が乗る列車の発車までまだ10分ちょっとあるので、コーヒーでも頼もうかと思ったのだが、混んでいるので、ギリギリになりそうである。少し早めにホームに上がって写真を撮りたいので、諦めることにした。
駅舎に入るにはエックス線検査が必要 | 構内のカフェテリアは賑わっていた |
乗る列車は一番奥の7番線。その向こうは畑という、駅舎に一番遠いホームである。同じホームの反対側が5番線で、一つ手前のホームが4番線と6番線。日本の感覚からすると変な番線のつけ方である。
空港のように近代的で旅情に欠ける駅だが、それだけに、ホームからの眺めとの対比が面白い。本来はグラナダ始発でここでスイッチバックする筈の列車は、今はここが始発だから既に入線している。やはり全車指定席だから急いで乗る必要はなく、ゆっくりホームで写真を撮れるのは、それはそれで有難い。乗ってみればアルメリアからの列車に比べるとかなり乗客が多く、ざっと7割ぐらいの席が埋まっていた。私の隣は幸い、空席であった。アルメリア〜グラナダ間に比べると、観光客っぽい乗客が多い。
隣の5番線に、同型の3輌の列車が入線し、客を降ろす。14時35分着のアルヘシラス発と思われるが、少し遅れている。あちらは本来はグラナダ行きだが、乗客はここで降ろされて、バスに乗り換えとなる。
一番遠いホームは軌間の狭い高速鉄道 | 軌間変換の脇を通過 |
発車すると間もなく、高速新線との間に小さな車庫のようなものが見える。恐らくこの中にあるのだと思うが、ここが軌間可変装置である。そのあたりまでが駅構内で、それを過ぎれば徐々に高速新線と離れていく。
アンテケラ・サンタ・アナを出ればほどなく、さきほどバスが立ち寄ったアンテケラ・シウダッド駅からの在来線が合流してくる。そちらが昔からずっと存在する線であり、今乗っているのは、在来線ではあるが、高速新線への接続用に新たに敷かれた線路である。そしてその合流駅がボバディージャで、次の停車駅である。この一駅間は近い。アンテケラの3駅の中ではシウダッド駅だけがかなり離れている。
ボバディージャは私にとって懐かしい駅である。もう17年も前になるが、初めてスペインを訪れた時、バルセロナからマラガ行きの夜行列車に乗り、朝のボバディージャで乗り換えて、アルヘシラスまで行った。時間があったので駅前に出てみたが、鄙びた寒村という印象が強く残った。その時は日没後にバルセロナ空港に着いて、いきなり夜行列車に乗ったため、朝のボバディージャが私にとって最初に出会うスペインの風景と言って良かった。何とも遠い所へ来てしまったな、との実感が湧いてきたのを覚えている。
だがそれでも高速新線が無かった当時のボバディージャは、鉄道のジャンクションとして今より重要な駅であり、本数も乗換客も多かった。今、高速鉄道の乗換駅がアンテケラ・サンタ・アナとなったため、ボバディージャはますます寂れてしまったに違いない。実際、広い構内を持て余しているようにも見える。土地がないわけでもなさそうだし、どうしてここボバディージャに高速新線の駅も作らなかったのだろう。併設しようとすれば前後が急カーヴになるのはわかるが、それなら高速新線は直角に立体交差させる方法だってあるだろう。まあ、そういう事が思いつかないはずはないが、実現に及ばなかった何らかの理由があるのだろう。とはいえ各線とも本数が少ないのに、それらがさらに二つの閑散とした駅に分かれて発着するという現状は、接続面で利便性に犠牲が大きいように思える。いずれにせよ、スペインはドイツやフランスなどと違い、高速新線の軌間が在来線と異なるという悩みを持つ点で、日本と一緒である。但し幅は日本と逆で、在来線が広軌で、高速新線が標準軌。フランスからのTGVなどが直通できるようにしたわけだが、果たしてそれを優先して複数軌間をあちこちに整備するほどの意義と需要があったのだろうか。答えは一つではないだろうが、スペインの鉄道は、そういった独特の問題をこれからも抱え続けると思われる。
ボバディージャ駅 | 手前をマラガ方面が分岐、向こうに高速新線も見える |
ボバディージャを出ると、左へマラガへの単線電化の在来線が分かれていく。遠く向こうには高速新線の高架も見える。それらが視界から消えれば、あとは純然たる盲腸区間に入る。この先は分岐路線も何もない。そしてこちらは非電化。終着アルヘシラスまで176キロ。高速新線の建設が相次ぐスペインにおいて、昔から変わっていない在来線風景が味わえる区間である。途中、ロンダ(Ronda)という小都市がある。運転本数は、ボバディージャ〜ロンダが1日6往復、その先は1日5往復。かつてはもっとあったが、極限まで減らしながらも路線を維持している感じがする。
駅員もいるそこそこ立派なカンピヨス駅 | この区間随一の主要駅ロンダ |
その先、ロンダへの沿線は、アルメリア方面の荒涼とした風景とは違い、緑の豊かな農山村であった。あちらに比べてもまだ人が住んでいそうな所が多い。駅もそこそこ立派で、各駅に駅員がいる。この列車はこの区間では一日1本だけの、全駅停車列車である。つまり、いくつかの駅は一日1往復しか列車が停まらない。その一つで、リクエスト・ストップという自動アナウンスもあった、セテニル(Setenil)に停車する。驚いたことに、駅員がいた。そして若い女性が1名下車した。母親と思われる人が車で迎えに来ている。折角停車するので一番近い駅に迎えに来てもらったのだろう。もしこの駅に停車しないのなら、前後の別の駅で出迎えただけかもしれない。いずれにしても、駅から徒歩圏だけを相手にしていたのでは、もはや駅として機能は果たせないであろう。
列車はロンダに近づく。この区間では随一の町であり、見どころも多い。観光旅行者風の外国人の多くがここで下車していった。対する乗車は少なく、少し空いた。
ロンダの先は勾配稼ぎのカーヴから雄大な景色が | 一日1往復だけ停車のアリアテ駅 |
地図で見ると、ロンダから、2つ目のベナオハン・モンテハケ(Benaojan Montejaque)にかけて、線路が見事なS字カーヴを描いている。勾配緩和のためであろう。そのカーヴの途中にあるのが、やはり一日1往復しか列車が停まらない、アリアテ(Arriate)である。最近整備されたと思われる小綺麗なホームで、設備だけは都市近郊のような駅であった。ここは乗降客がなかったようである。
いかにもベテランそうな車掌さんが検札に来た | 長閑さただようヒメラ・デ・リバル駅 |
ベナオハン・モンテハケでは、マドリード行き特急列車と行き違いのため、数分停まる。あちらの特急は通過。その列車が遅れてきたため、こちらも5分遅れて発車する。
そこからは平均10分ごとぐらいに駅がある。各駅とも交換設備があり、駅員がいて、駅前も店やバーや住宅があったりする。人家もない寂しい所にある駅ではない。そういう利用の見込めない駅は思い切って廃止したものと思われる。
スペイン風駅舎のコルテス・デ・ラ・フロンテラ | 日本にもありそうな渓谷に沿う |
コルテス・デ・ラ・フロンテラ(Cortes de la Frontera)という駅で、また列車交換がある。一日5往復しかない路線にしては頻繁な交換だが、本数が少ないながらも、マドリード行きとグラナダ行きは別系統という考えなのか、30分程度の間隔で続行しているのである。そして何と、ここで交換するこのグラナダ行きが、ロンダ、ボバディージャ方面への最終列車で、アルヘシラス発15時30分。信じ難いほどの早じまいだ。そこを出るとしばし山岳地帯を走り、日本ではむしろ珍しくない風景だが、渓流に沿う区間が続いた。
秋のような景色のガウチン駅 | 山地と平地の境界のようなヒメナ・デ・ラ・フロンテラ |
当列車3つ目の、一日1往復だけ停車という、サン・パブロ(San Pablo)駅では、レジャー帰りのような家族連れが乗ってきた。駅もそこそこ立派で、駅前も何もない所ではない。
ヒメナ・デ・ラ・フロンテラ(Jimena de la Frontera)は、山地と平地の境界のような駅である。平地に降りてきた所の駅で、この先、風景はいくらか平凡になった。
そして、ボバディージャ〜アルヘシラス間ではロンダとここしかない、全列車停車駅である、サン・ロケ・ラ・リネア(San Roque-La Linea)に着く。ここで乗客の大半が下車してしまい、列車はガラガラになってしまった。
大半の客が下車したサン・ロケ・ラ・リネア | 雑然たる郊外の風景が続く |
サン・ロケ・ラ・リネアというのは、2つの地名を並べた駅名である。一つがサン・ロケで、もう一つがラ・リネア。後者は正式には、ラ・リネア・デ・ラ・コンセプシオン(La Línea de la Concepción)という長い名前の町であるが、一般には略してラ・リネアで通っている。だがそのどちらの町も、この駅から近いとは言えない。少なくとも、近い方のサン・ロケも徒歩圏ではない。しかもこの駅からそれらの町へ行くバスの便もないようである。これらの町へのバスはアルヘシラスから出ている。にもかかわらずこの駅での大量の下車は、どういうことであろう。下車客は観光客と地元の人が半々ぐらいかと思われた。駅前にはツアーバスやタクシーが何台も停まっていたので、それらを利用してどこかへ行く旅行者が多く下車したということだろうか。そして地元の人は出迎えまたはパーク・アンド・ライドなのかもしれない。距離的に言えば、サン・ロケやラ・リネア、そしてジブラルタル(Gibraltar)へも、この駅が最寄りではある。
サン・ロケ・ラ・リネアの先のジブラルタル遠望 | アルヘシラスが近づいても荒涼とした風景も |
サン・ロケ・ラ・リネアからの最終区間は、これまでの田舎と違って、やや都市郊外らしい風景が増える。雑然とした商工業地帯もあり、綺麗な風景を期待する旅行者にはもはや魅力がないが、左手遠くには、イギリス領であるジブラルタルの岩山が見え隠れする。ラ・リネアは、そのジブラルタルへのスペイン側の入口となる国境都市であり、あの岩山の麓に位置する筈である。
そして最後の途中駅であり、5駅ある一日1往復だけ列車が停まる駅の一つ、ロス・バリオス(Los Barrios)に停車する。ここも都市郊外で、駅周辺には人家もパラパラ見られ、遠くないところを走る道路にはバスもありそうである。しかし駅はこれまで見た中で最も荒れ果てていた。都市周辺でバスが頻繁にある地域なので、むしろ真っ先に地元からも見捨てられてしまった感じがする。人家が多くても、次にどこか廃駅になるとすれば、ここかもしれない。
そんな所を最後の快走という感じで進み、にわかに建物が増えてくれば、終着アルヘシラス、3分ほど遅れての到着であった。
アルヘシラスは人口12万弱、アンダルシアでは中規模の都市である。人口規模はアルメリアとほぼ同等で、鉄道が盲腸終着駅である点、港湾都市である点なども似ている。
終着アルヘシラスに3分程度の遅れで到着 | アルヘシラス駅舎 |
だが、駅周辺の街並みが醸し出す雰囲気はかなり異なる。ここはより産業都市のイメージが強く、スペイン人の間での一般的な評判はあまりよろしくないようである。駅前の道をブラブラと5分も歩けば、海に突き当たる。そこがアルヘシラス港で、モロッコのタンジール(Tanger)や、モロッコにくっついたアフリカ大陸にあるスペイン領、セウタ(Ceuta)へのフェリーが出ている。駅と港の間は、いかにも殺伐とした感じで、安ホテルなどが並んでいるが、廃墟も多い。時代に取り残された寂れ感たっぷりで、ましてや雰囲気のいいレストランなどは全く見当たらない。
何かのオフィスになっている旧駅舎(翌日撮影) | かつて港まで通じていたという線路の切れ目 |
駅舎は新しい小綺麗な建物になっていて、線路の行き止まりの先にドンと構えていた。ここは昔から終着駅だが、以前の駅舎は横にあって、線路がさらに先へ、引込み線として港まで伸びていた。その駅舎も残っていたが、駅構内側からは入れない。今は鉄道と関係なさそうな企業のオフィスか何かに使われているようであった。現駅舎の横に1本だけ線路が少し先まで錆びながらも残っている。それの写真を道路から撮っていたら、犬を連れた中年のおじさんが立ち止まって、カタコトの英語を交えたスペイン語で、この線路がかつては港まで伸びていたのだということを熱心に説明してくれる。
再度駅を見学に行く。私が乗ってきた列車の後にも、到着列車はあるが、ここを出る列車は、15時30分発のグラナダ行きが最終である。よって駅は見事にガランとしている。アルメリアと違ってバスターミナルが併設ではないので、鉄道駅としての機能だけである。それでも駅の窓口が一つ開いていて駅員が手持ち無沙汰に座っていた。列車は全て指定席だから、前売りの切符を買いに来る客がたまにあるのだろうか。
アルヘシラス駅付近のうらぶれた眺め | 駅から少し離れた市街地の夜 |
バスターミナルも鉄道駅から徒歩3分程度で、遠くはない。当然、列車よりはるかに利用者も多いが、こちらも古いままで、レトロ感たっぷりであった。
そんな街ではあるが、駅から少し西へ歩いた市街地の方は結構な賑わいで、おしゃれな店もそこそこあった。まあ12万もの人口があれば当然であろう。国際フェリーを含めた交通の結節点というのがこの街の昔からの役割であるから、当然、ホテルは多い。供給過多なようで、その分、値段は安い。安くても、こんな街で1泊するのは気が滅入るという人もいるかもしれないが、先入観を捨てればそこまで悪い所でもない。夜まで色々な所を歩き回ってみたが、治安も特に問題なさそうである。
以上で目的であった鉄道旅行は終わりだが、翌日、3つの場所を訪問したのでオマケで少し記しておく。ある英文の鉄道旅行ガイド本では、今乗ってきた路線の旅は、汚い町アルヘシラスではなく、サン・ロケを起点にするのがいい、と紹介されている。そのサン・ロケの町へはアルヘシラスから頻繁にバスが出ているので、まずはそこへ行ってみることにした。最終目的地はジブラルタルであり、ジブラルタルに行くには、その手前のラ・リネアまでバスで行けばいい。ラ・リネアへもアルヘシラスから頻繁にバスがある。そしてサン・ロケとラ・リネアの間にもやはりバスがちゃんと走っていることもわかったので、翌日はアルヘシラス→サン・ロケ→ラ・リネアという順にバス移動した。昔はこういう事も来てみないとなかなかわからなかったのだが、今はネットで事前の下調べも大体ついている。それでもバスターミナルで実際の様子を確認しておくとより安心感がある。
サン・ロケは、海に近いエリアは工業地帯だが、丘の上にある旧市街は、風情ある白壁の家々が並ぶ、思った以上に情緒溢れるいい所で、世界遺産に推薦してあげたいほどの町であった。高台なので、地中海とジブラルタルを見下ろせる場所もある。アルヘシラスを避けてこの町を基点にしてロンダ方面へ鉄道で移動、というのは、美しさと情緒を求める旅のルートとしては正解ではあるが、問題はサン・ロケから駅までの交通である。歩くには遠すぎるし、バスもなさそうである。大した距離ではないので、ここに1泊して、翌日はタクシーで駅へ行けということだろうか。
サン・ロケの旧市街は白壁の美しい落ち着いた町 | サン・ロケからラ・リネアとジブラルタルを望む |
1時間半ほどをサン・ロケで過ごして、次にラ・リネア行きのバスに乗る。20分ほどでラ・リネアのバスターミナルに着く。ここもアルヘシラス同様、古びたバスターミナルで、ガランとしていたが、ジブラルタルへの国境へは歩いて5分もかからない。その国境エリアには色々な店が並んでいて、両替所などもあり、ここが国境都市としての機能を持っていることが良くわかる。サン・ロケとは対照的で、町並みに古都の風情などは皆無だが、近隣の他の町とは異なる独特の雰囲気がある。
ラ・リネアは不思議な国境都市 | スペインの国境で背後が英領ジブラルタル |
そして英領ジブラルタルへ。ラ・リネアとの間に公共交通機関は無く、この国境を越える方法は、車か徒歩である。車が無い旅行者はラ・リネアまでバスて来て、歩いてスペインの出国審査を受け、続いてジブラルタルの入国審査を受ける。実は17年前にも来たことがあるのだが、その頃と比べてもちゃんとした出入国審査の施設ができていた。だがパスポートもほとんど見ず、簡単に通れてしまう。そしてジブラルタルに入ればイギリス風の赤いバスがある。市街地まで歩いても15分程度だが、ジブラルタル内だけのバス路線が8路線あって、そこそこの本数が運行されている。ジブラルタルの通貨は英国ポンドと等価の、ジブラルタル・ポンド。イングランド銀行のポンドもそのまま使える。半分イギリス風の街並みがありながらも、スペインっぽくもある、不思議な「欧州最後の植民地」である。鉄道は全くなく、鉄道旅行とは関係ないので、これ以上の詳細は省略するが、面白い所だと思うので、アルヘシラスまでの鉄道旅行とセットで訪問をお勧めしたい。
ジブラルタル市街地 | ジブラルタルのマリーナと岩山の夕景 |
今回のアンダルシア訪問の総括としては、この後、ジブラルタルからマラガへバスで移動した部分も含め、そこそこ広くて人口も少なくないこのエリアで、鉄道の役割がかなり限定的であることを実感する旅であった。スペインでは、高速新線ができれば役割の近い並行在来線は廃止される可能性がある。廃止というよりは置き換えと言っても良い。そして、それ以外の路線は一応、少ない本数なりに、今後も概ね維持されていくようには思える。しかし他方で、鉄道がないままに人口が急増したエリアも、バスと自家用車で日常交通は賄えているように見える。それに、日本に比べれば地域の鉄道維持へのこだわりもはるかに低そうである。本数だけを見ればローカル線でも、急行列車としての車輌と乗り心地、スピードをもって、何とか今後も維持するのではないか。そうしていく上で重要なスピードの維持に関しては、もともとスペインは広軌である点、有利である。日本の在来線は正反対で、線形の悪い古いローカル線のスピードアップは車輌の更新だけでは限度がある。感情的にはこれ以上の鉄道廃止は避けて欲しいものの、車社会が隅々まで進展し、人口も減少へ向かう日本の地方の鉄道は、スペイン並みかそれ以下になってもおかしくはない。そんな事を考えさせられた旅であった。